『○○実行班 1』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:花楠                

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<1>

いつもと何も変わらない風景。
コンビニから出てきた咲宮悠は、そこに嫌な気配を感じていた。
「や…やめて下さい…っ」
コンビニの裏の方から泣きそうな声が聞こえた。
近くを通るついでにちらっと覗いてみると、中学生ぐらいの女が男3人に絡まれていた。
男のうちの1人が必死に抵抗する腕を壁に押し付けた。
女は既に抵抗を諦め、俯いて涙を流していた。
綺麗な雫がポタポタと落ち、コンクリートに模様をつける。
そんな涙も今からこの男達によって汚されていくのだ。
別に自分には関係無いし、助けるつもりはない。悠はそういう性格だ。
ただ、この男達の嬉しそうな笑い声は耳障りだと感じていた。

「はぁ〜いお兄さん達、女の子をいじめるなんていい趣味してるねぇ♪」
突然聞こえた声。ひょっこりと出てきた男4人組。
長身の眼鏡、整った顔の金髪、目つきの悪い黒髪、女みたいな顔したチビ。
コンビニ裏はあっという間に男だらけになった。
「貴方達…死にますか?」
長身眼鏡が鋭い目つきで男3人を睨んだ。
男達は汚れかけた女をその場に捨て、長身眼鏡を睨み返した。
ふぅ、と溜息をついて、金髪が前へ出た。
よく見ると奴らが身に付けている物は高級ブランド品ばかりだ。
特に長身眼鏡と黒髪はそれらをさらりと着こなしていた。
「『○○実行班』…知らないなら覚えろ。お前らをボコボコにする奴らのことだ」
○○実行班…
その名に聞き覚えは無かった。
だが、それに過剰反応した奴らが居た。
女に絡んでいた3人全員だ。
「おい、ヤベェぞ、逃げろ!!」
男3人はそれぞれ別々の方向へと逃げていった。
○○実行班とやらはそれを追う気は無いらしい。
名前を聞いただけで逃げるような腰抜けなんて追う気にもならないのか。
どっちにしろ、俺には関係の無いことだった。
こうして考えると、自分に関係無いことばかりがぐるぐる巡っている。
ふと、その中心に立っているような気がしたが、今はこっそりと覗いているだけだ。

金髪がもう一度深い溜息をついて、こっちへ向かってきた。
「…で、そこの傍観者」
明らかに自分のことだ。
背後には壁。改めて逃げ道が無いことに気付く。
走って逃げるか?きっと追ってこないだろう。
でも、腰抜けにはなりたくない。
覗いているだけの時点で既に腰抜けなのかもしれないが、逃げるのは気が引けた。
あいつらと一緒にはなりたくない。どこかでそんな気持ちが浮かんだが、それはすぐに消えた。
暫く迷ってから金髪の方へ歩み寄った。
長身眼鏡が鼻で笑った気がしたが、俺には関係無い。
金髪は悠に向かってにっこりと笑った。
気持ち悪いほどの笑顔。吐き気がする。
間近で見ると思ったより綺麗な肌に、その笑顔はどうも不釣り合いな気がした。
「お前もこの○○実行班に入らないか?」
「嫌」
いきなりの誘いを即答で断った。
そんな得体の知れない奴らに関わる気は無い。
それに人助けなんて面倒なことは大嫌いだ。
それを率先して実行する奴ら…まったく、綺麗事ばかりの世の中にはうんざりする。
それに、人助けなんて、○○実行班なんて…
「俺には関係無い」
長身眼鏡が笑った。やっぱりさっきのも笑っていたのか?
女顔のチビも高い声で笑った。
「何それ?アンタの口癖?」
甲高い笑い声にキンキンする耳を押さえた。高音が頭に響いている。
やがてその笑い声も消え、悠は落ち着いてから考えた。

口癖…
確かに口癖になっていたかもしれない。
世の中では自分に関係無いことばかりが起こり、勝手に進んだり退いたりしている。
ニュースなんて特に面白くない。
火事、強盗、詐欺、殺人…どれも自分に関係無い奴が起こした自分には関係無い話だ。
それはいいことではあるが、そこには無関心な自分がいた。
関心を持てない。
何に対しても冷めている。
だけど反対に心のどこかでは求めていたのかもしれない。
関心が持てること、熱中できること、楽しめること……
何かあるはずだ。
でも、今の自分ではそれを見つけることは不可能だった。

「変わりたかった…」
悠はポツンと呟いた。
今まで、心配してくれた人は沢山いた。
親身になって相談に乗ってくれようとした人もいた。
有難いことだが、何を相談していいのか、何が辛いのか、何もわからなかった。
相談したいことなんて無かった。
辛いことなんて無かった。
俺はただ、変わりたかったんだ。

「俺達に自分を変える手伝いをさせろと?」
金髪が偉そうに、そして面倒臭そうに放った。
悠は溢れた気持ちを整理しながらゆっくりと首を横に振った。
「…わからない。でも、お前には何かを感じる」
金髪から放たれる独特のオーラ。
高級ブランドのせいか?それとも金髪の…
いや、違う。もっと別の、確実な何かを感じる。
俺が探し求めていたモノ……
「人のことジロジロ見てんじゃねーよ。気持ち悪ィな」
金髪にキッと睨まれた。
あぁ、これだ。
この感じ…
ふと気がつき、緩みきっていた頬を元に戻した。
どう動こうか迷って、金髪の髪をくしゃっと撫でてからコンビニ裏から去った。

後悔した。
指が震えた。
綺麗な髪。
さらさらとした触り心地。
思わず振り返った。
そこから動けなくなった。
ずっと求めていたモノがやっと見つかった。
ここで見捨てるのは勿体無い。
変わるんだろ?
だったら躊躇っている場合じゃない。

「…入るよ。入ってやるよ、その○○実行班とやらに」
金髪の顔が綻んだ。
「良かった…お前は一目見て気に入ったからどうしても手に入れたかったんだ」

『可愛い女の子を助ける』
後でその活動内容を聞いて物凄く後悔した。
大体あの時は感情的になっていて、もっと冷静ならこんな班になんて入らなかったはずだ。
変わりたいとか言っといて、落ち着いてから考えてみると本当に変わりたいのかどうかわからない。
自分のことなのにわからないというのはおかしいだろうか。
でも、本当にわからない。
あの時の自分は自分じゃないもう一人の自分だったんじゃないかというくだらない考えさえ浮かぶ。
いや、本当にもう一人の自分だったのかもしれない。それぐらい不思議な感覚だった。

金髪の名前は椿総司。
似合わないな、と思った。
アイツを花に例えるなら、椿より薔薇だ。
自信満々に咲き誇る赤には、身に付けているゴールドのアクセサリーがよく似合う。
そういえばメンバーは基本的に下の名前で呼び合うらしい。
悠も全員に対して下の名前で呼ぶことにした。
他のメンバーの名前と電話番号も教えてもらった。
長身眼鏡は桜川遙。
あの綺麗な感じにピッタリな名前だと思った。
目つきの悪い黒髪は水谷直希。
呼んでも大半は無視なので極力話し掛けないようにしている。
遙とは「ハル」「ナオ」と呼び合っていて、普段冷たい直希も遙に対しては優しい。
きっと幼馴染か何かなのだろう。
女みたいな顔したチビは磐田満。
悠のことを「悠ちゃん」と呼んでくるが、明らかに甘えたような声が少し気に入らない。
総司に何故か「磐田」と呼ばれている。
○○実行班なんてただの仲良しグループだと思っていたが、そこに好き嫌いはあるのだろうか。

今日一日で、沢山のモノと出会った。
今までの自分に欠けていたモノが何なのか、ぼんやりと見えてきた気がした。
勿論それは気のせいに過ぎない。
全てはこれから起こる出来事のささやかな前兆だった。

2005/04/02(Sat)15:00:27 公開 / 花楠
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■作者からのメッセージ
ずっと探していたものを見つけた悠。
初めて物事に関心を持てた。
「俺には関係無い」
この口癖が消える日は来るのか――
感想待ってます。

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