『頭だけじゃなくて 【読みきり】』 ... ジャンル:ショート*2 ショート*2
作者:影舞踊                

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 あなたのことが大好き
 でも、あなたはいつも微笑んでいるだけ
 私の気持ちを察してくれているの?
 でも、微笑だけじゃ分からない
 甘いあなたへ
 私は今日卒業します







 冬の寒さも少し和らいできた。去年は逆の立場で、だからなんとも思わなかった。会えなくなる先輩には、少しだけ寂しい思いがしたけど、その時だけ。だって卒業すれば同じ高校に行くんだもの。あなたと会えなくなるのとは随分違う。寂しいのはその時だけ。そんな風に割り切れたらどんなにいいだろう。
 卒業したら、あなたと会うにはこの校門をくぐって、知ってる後輩や知らない後輩に頭を下げて、先生に見つかったら言い訳をして……。私はめんどくさいことは嫌い。あなたのことは好きだけど、そんなことをしてまで会おうとは思わない。それにきっと会っちゃいけない気がする。あなたにも迷惑がかかると思うし、何より会ってしまったら私は再びあなたに入り浸りになってしまいそうだから。

 初めて会ったのは入学してから一ヶ月経った頃だった。ようやくクラスにも馴染めてきて、小学校とは違う感じの中学校にも慣れてき始めた時だった。教室は賑やかで、友達も楽しくて、授業はちょっと難しい時もあったけど、学校という存在が私の中で大きくなってきた時。あなたは突然私の前に現われて、私の心を奪っていった。
 きっとお腹がすいてたんだ。私はそう思うことにした。友達と一緒に売店に行った時、あなたを見つけた。優しそうに微笑んで、今まで見たことがなかったあなたに、私はその時既に惹かれていたのに。
 でもすぐに知った。あなたの横には、隣にはふさわしい彼女がいることに。彼女とあなたは本当にぴったりだった。いつもの様に売店にいるあなたに会いに行くと、彼女がいた。私が入学する前からあなたの隣にいたんだよね。あなたと知り合ってからまだ一ヶ月も経ってなかった。もちろん話したことなんてなかったし、そういう関係じゃない。それなのに、私はそれが少し辛かった。私はそんなこと知らなかったから。誰も教えてくれなかったから。
 あなたの隣には彼女がいる。きっとかけがえのない存在であるはずの、少なくとも私はそう思う。あなたと彼女は本当にお似合いで、私の辛い気持ちなんてすぐに消えた。あなたと彼女が一緒にいるほうが私は幸せだったから。妬む気持ちなんてさらさら起こらなかった。それどころか感謝したい気持ちだ。だってあなたをそんなにうまく支えられるのはきっと彼女しかいないから。すごくバランスの取れたカップルだった。二人の姿を見つければ自然と笑顔になる自分がいた。

 二年生。あなたと会って一年経って、少しだけ私もあなたと進展した。勉強で私がイライラしてる時、部活で疲れて倒れそうな時、告白した人に彼女がいた時。あなたと彼女は私を優しく慰めてくれた。ゆっくりゆっくり、私はあなた達がくれるものをかみくだすように体に押し入れた。あなた達二人のことが本当に好きになった。それから友達との談笑の時、あなたのことが話題に上がるようにもなった。「私は『あなた』が好き」私は公然と友達の前では言い放つ。あなたには彼女がいるのに。だけど私はそれを否定しなかった。本当のことだから。
 たまには会えないときもあった。いつものように売店に行っても、そこにはあなたはいなくて、彼女だけがいたり。そんな時は無性に彼女が憎くなった。どうして彼と一緒じゃないの? あなた一人だけいても。彼女が悪いわけじゃない。きっとそんなことを言ったら、私はあなたに嫌われるかもしれないね。あなたに一番合うのは彼女。そんなこと分かっていたのに、あなたがいないだけで私はこんなにも荒れてしまう。
 私だけがあなたを好きなわけじゃない。それも分かってた。もちろん私があなたを一番好きだという自信はあるけれど。あなたの隣には彼女。そう理解してもいるけれど。あなたは愛されてた。男子からも慕われていたし、女子の中でも人気だった(私の友達にも数人いた)。そういうのは当たり前で、あなたがいかに愛されているかを示しているもので。……でも、あなたが他の人といるのを見ると、悔しい気持ちがこみ上げてくるのも事実。
 独占欲。
 そんな気持ちを持つなんて思ってもいなかった。私はいつの間にか、あなたのことを支配したい。私だけのものであって欲しい。そんな気持ちを持つようになっていた。その気持ちは本物で、強かった。でも淡かった。それはいけないことであるし、私にそんな権利はない。大人なようで子供。中学二年生としての気持ちはそれほど強くもなく、また無鉄砲な自分を冷静にしようとする冷めた心も持っていた。

 三年生になって、変わらないあなたはいつも私が望むままにいてくれた。変わらず優しく微笑んで、その甘い匂いはいつも私を惹きつける。あなたには学校でしか会えない。それ以外の場所で会いたいと思っても、あなたにその気持ちが届くはずもなく、また直接あなたにそんなことを言う勇気もない。
 あなたは冷たいときもあれば温かいときもある。そのどちらの表情も私は好きだった。あなたが見せるから。温かい人が好き、冷たい人が好き。私は本当は温かい人が好き。冷たい人の視線は、私を嫌っているように感じる。冷たい人と手をつなぐと、力が入ってしまう。怖いのだ。ただ、そんな風にしか接することができないその人が怖く、悲しい気持ちになる。だから私は温か人が好き。
 でもあなたは違う。あなたはあなた。あなたが冷たくても私は気にしない。あなたがもしかしたら私を嫌いでも、私があなたを好きだから。一方通行で構わない。それに、あなたが温かい時は本当に温かいから。だから冷たい時のあなたも、私は好きでいられる。

 今日は卒業式。いろんなことがあった。私があなたを好きということはいろんな人が知っているかもしれない。傍から見れば当然だけど、あなたにはきっと届いていない。私の思いにあなたが答えてくれることはない。あなたが私を好きといってくれることもない。それでもあなたを好きなのは、どうしようもないことだから。彼女と一緒にいるあなた、私の欲望を満たすために私はあなたを呼びます。何度も、何度も。あなたに会えるのは今日で最後になると思うから。
 冷たい体育館の空気は心地よい緊張感で包まれて、卒業式のプログラムは徐々に進んでいきます。あなたはもちろんそんな場所にいない。こんなところで私達を見守るようなことはしない。ただ黙って、きっといつものように売店で時間を潰しているんだろうね。
 卒業証書の授与が始まる。一人一人の名前が呼ばれ、クラスの代表がみんなの分を貰いに行く。独特の空気が流れ、静かな音楽が少しばかりの温かさを持ってくる。春も近い。色々な思い出はよみがえってくるが、あなたとの思い出はそれだけじゃない。体が覚えているから。純粋な思い出なんかより、ずっと濃い記憶として。
 卒業証書の授与が終わって、校長先生のお話。もうほとんど聞いてなく、所々でさめざめと泣く声、嗚咽が聞こえる。今までの三年間。人それぞれにあった楽しさ、苦しさ、ほろ苦さ、恥ずかしさ、痛み。成長の証となったそれらを噛み締めて、きっと彼らは振り返る。経験できたこと、できなかったこと。それら全ての上に自分が成り立っている。それら全ての上で他人と関わっている。
 私もみんなと同じ。そんなことを思い出せば、少しだけ涙も流れた。もちろんあなたのこともその一部。いいえ、一部なんかじゃない。あなたは私にとって、私の中学校の生活にとってかけがえのない存在だったといえる。だから今日、私は今まで以上にあなたを求めます。あなたが私の生活から消えてしまっても、あなたの残り香で満たされるように。
 卒業式が終わり、ホームルームも終わる。私は一直線にあなたの元へと向かって駆け出す。いつもいつも、お昼休みにはあなたに会いに行った売店へ。お弁当は持ってこなかった。そのほうがあなたは喜ぶから。そのほうが私も喜ぶから。そうすればあなたに会えるから。
 私があなたを好きなこと、伝えて私は卒業します。いつも以上に、最後だから。私は強くあなたを求めます。

「おじさん」
 私は言います。自己満足のために。




「練乳アンパン五個とミックス牛乳!」





2005/03/16(Wed)14:01:17 公開 / 影舞踊
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■作者からのメッセージ
グダグダ感は拭えません。
久しぶりに落ち着き(オチ付き←巧くないぞ)、ショートでも書いてみようかと書いたのがこの作品。
ショートは書いていないと本当に分からなくなってしまいます。連載もだけど(笑 連載の設定とかは微妙に考え付くんですが、「読みきりの設定が全く思い浮かばない病」になりました、はい。(単なるネタ切れじゃん
卒業シーズンということで書いてみたのですが、全然あれです。違う方向ですね(笑
読んでくれた方には本当に感謝します。(適当にスルーしてやってください(笑
いつものように、
感想・批評等頂ければ幸いです。
といいたいのですが、これはいかんですね。激しく非難してやってください。でないとまたこういうの書くかもしれませんぞ(マテコラ

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