『SGYで、走り抜け青春! 1〜4』 ... ジャンル:お笑い お笑い
作者:しぇいく                

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―1―


 新しい学校。
 わたしは地獄の一年を過ごし、そんなこんなで三度目の『一年生』という称号を得た。
 高校一年生。
 これから、愛と青春が溢れる普通の高校生活を送れると思ったのに…
 あの一言で、これからの高校生活がすべて一転したようだった。


『おめでとう。瀬野麻子はSGYへの入部を許可された』

 
 始まり、始まり。





 入学式が終わって、慣れない生活が二週間続いた。さすがに去年の一年間とは違いまた先輩という存在もでてくるし、なにより勉強のスピードが速い。
 わたしが入った高校は地元でも有名な名門校、星雲高校、略さず星雲。入った理由は…進路とかそういうことではなく、ただたんに家から一番近いというのが一の理由。話は変わるが、
 
 話が少し変わるが、星雲にはわたしの大っっ嫌いな兄貴がいる。

 星雲の次に家から近いところの高校は片道一時間。
 一方星雲は片道三十分。…兄貴は嫌いだが、体力つかってまで別の高校には行きたくない。
 やはり名門というだけあって頭がよくなければいけなかったのだが、わたしは頭が良いほうだった。ので、「入れるぞ!」と塾と学校の先生の両方に太鼓判をおされたのでここでちょうどいいなと思い入った高校だった。一言でいうと適当、というべきだろうか?

 こんなわたしだからこそ、平穏を望んでいた。だけど…。
 彼女たちに会ってから、そんな切なる願いは神様にも届きもしなかったようだ。

 彼女たちと会ったのは屋上だった。
 無駄にでかいこの高校の中を知りたくてうろついていたら屋上にたどりついていた。そんな時に彼女たちと出会ったのであった。
 屋上にいる何人かは、友人と話し込んでいたり、走り回っている人もいるぐらいだった。そんな人たちをボーッとみていた時、ツンツン、と指で背中をつつかれた。
 ふりむくと、わたしより背の低く髪の長い子と、隣には背の高い子がわたしを見ていた。
 …誰だ?二人を見てすぐに思った事だった。

「ねぇねぇ! 瀬野麻子さん、だよね?」
 笑顔を絶やさない彼女は(笑顔ちゃんでいいや)たしかにわたしの名前を言った。わたしは笑顔ちゃんに『そうだけど』、とそっけなく答えると笑顔ちゃんはその答えを聞いてにっこりと笑顔で後ろの子に笑顔を向けた。
「よかったね優ちゃん! 本人だよ〜。写真が二年前のだから本当に見つけられるか心配だったけどすぐ見つかってよかったね!」
 …写真?どういうことだ?
「ほら、これ!」
 ニコニコ笑いながら笑顔ちゃんの言う写真を見せてもらう。

 写真は二年前のスポーツ大会の写真で、わたしが水筒のコップを持っている写真だ隣には無理矢理入った兄貴がいる。この写真はアルバムに入っていたはず。
 写真家でいそがしい父がわざわざ撮ってくれた(兄貴と写っているが)お気に入りの写真だ。だがその写真にはわたしの顔を囲むように赤ペンで丸がついていた。(何故か兄貴に赤ペンがつかないように綺麗に囲まれている)
「…なんで持ってんの?」
「その話は後だ」
 いきなり話に割り込んできたのはハスキーボイス。(この人はハスキーさんでいいや。)笑顔ちゃんの隣に立っていた子だった。
 ハスキーさんはかっこいいの部類に入るタイプっぽい。足長いし、顔だちが男っぽいし、声もハスキーボイス。髪は肩につくかつかないかだけど、制服着てるから女って直感でわかる。
「単刀直入に言おう。わたしたちは瀬野を部に勧誘しに来た」
「部?」
 この学校は学問だけではなく部活も盛んな学校だ。時々クラスの子が勧誘されているのを見たことがあるが、まさか自分に来るとは。
「わたしめんどうなことは極力避けるほうなんだ。だから部になんて入るってことは悪いけど…」
「断れないぞ」
 “ごめんなさい”という前に言われてしまった。
「部に入ろうが入らないが人の勝手でしょ?強制はないでしょ」
「“普通の部”ならそうだろうな」
「…はい?」
 どんどん意味がわからなくなってきた。
「普通じゃないってどういうこと?」
 とうぜんの疑問を彼女たちにぶつける。ハスキーさんはわたしの前に人差し指を出した。

「まず1つ。この部は学校側に認められていない、というか存在を知られていない」
 人差し指を追うように彼女の中指が立った。
「2つ、この部は人の勝手で入ってもらっちゃ困る部だ。部の人間が適応者を見つけていれる」
 次に薬指が立つ。
「3つ、学校側には認められていないのに生徒会などには認められている」
 そして小指が立った。
「4つ、勧誘された者はいやでも入らなくてはならない。入らなければ…」
 最後の親指が立った。
「5つ、生徒からの風当たりが強くなるということだ」
「…妙におそろしい部ね」
 この約束事のような“普通ではない部”の話を聞いてある意味青ざめる。笑顔ちゃんがまたまた笑顔でわたしを見ながら言う。
「そんで、君は合格したんだよ」
「合格? 試験なんか受けた記憶なんて無いけど」
 そう言うとハスキーさんがわたしに握手を求めるように手を出した。そして、さっきまで無表情に近かった彼女がわたしに初めて見せた笑顔で言った。

「おめでとう。瀬野麻子はSGYに入部することを許可された」

「…SGY?略称?ってか、さっきハスキーさんが言ったあやしい部に?わたしが?」
「その通り…っていうかハスキーさんって誰だ」
「ちょっとまって、整理させて」
 わたしは自分の中に入り込む。…わたし、瀬野麻子は学校側に知られていないのに生徒側には知られているあやしい部に無理矢理入れようとする刺客が現れた。このハスキーさんと笑顔ちゃんだ。彼女たちはわたしから…。

 わたしの解析プログラムから出された答え。

“わたしから平穏な生活を奪いとろうとしている”

 解析プログラムで答えをだし、二人を見る。
「…ハスキーさん、笑顔ちゃん」
「変な名前をつけるな」
 わたしはこれほどにない満面の笑顔を見せているだろう。
「さいなら!」
 そのままわたしは屋上から逃げだそうと走った。
 後ろのほうで二人がなにかを叫んでいるのが聞こえる。
 ほかの生徒から冷たくされても、わたしは平穏を求めているんだ!!!!
 いや、生徒から冷たくされる事も平穏にはならないが…ああ、もうどうでもいい!
 わたしはあの二人からこのまま逃げられると思ったが、さっきまでかろやかに走っていたのにつながっていたひもにひっぱられたように止まった。誰かに腕をつかまれていたのだ。

「逃げちゃだ〜め、だよ。麻子ちゃぁん」

 わたしの腕をつかんだこの声の主はさっき二人に見せたわたしの笑顔に負けないぐらいの笑顔を見せていた。わたしはその顔を見たとたん憎しみを込めて言った。
「…兄貴、離せ」
「駄目に決まってるだろうが。ちゃ〜んと、部には入りましょうね」
「え、何で知って…」
 兄貴に聞こうとしたら、さっきの二人が追いついてきてしまった。
「瀬野待て…って部長!」
「部長だぁ!」
 二人は捕まっているわたしと捕まえている兄をみて言う。…部長?
「部長って…まさか…」
 おそるおそるもう一度兄貴の顔を見る。兄貴はまだ笑顔で

「そのま・さ・か」
 ハートマークがつきそうなキモイ言い方で兄貴は言った。

 頭の中が真っ白になる。わたしの口から発せられたのは絶叫。

「…な…なにぃぃぃぃぃ!!!」
 むなしくこの叫び声は学校中に響いた。


―2―


「まったく。逃げるなんてけしからん!」
「優ちゃん、言い方が年寄りくさ〜い」
 怒り気味のハスキーさん…もとい、上野優(見た目と性格と名が一致しないのは気のせいか…?)といつも笑顔の笑顔ちゃん、木本早苗はわたしを間に挟みながら言いあう。

「さっそく本題に入ろうか。麻子」
 折りたたむ事ができる勉強机並の大きさのテーブルを挟みながら兄貴、瀬野誠はいつもの笑顔でわたしを見ている。
「まず、この部についてはなしそうか」
「この部は学校側に存在を知られていない。だが生徒側には存在を知られている」
「そうそう、よく覚えてたな。確かにこの部は学校側には知られていない。だから部室ならぬ編集室はこんなふうに隠れた場所にある」
 今わたしたちがいる部屋は、隠れた屋上の倉庫部屋。階段の踊り場から入れて、ドアは大きめの掃除ロッカーによって隠されている。掃除ロッカーの壁につく側は無く、すぐにドアが見える。
 なのでロッカーを開けてその中に入り、倉庫部屋のドアを開けると入れるという形になっている。屋上を掃除する人なんて誰もいないので誰もロッカーを開ける事はないそうだ。
 それに、この部屋の存在を知っている生徒も少ないという。
 中は意外に広めで、奥に兄貴が使っているらしい机があり少しスペースを開けて学校用の机が8つ置いてあり、2つずつ向かい合ってならんでいる。
 7つだけはノートパソコンや小物などが置いてあるが、一つだけなにも置かれていない机がある。
 ドアの付近にはコーヒーメーカーが置いてあるし、反対側には寝袋がつんであったりもする(しかも8つ分)

「で?」
「?」
「さっさとこの部はなにをするのか、その目的を教えろ。」
 わたしが言うと兄貴はさっきまで椅子に沈んでいたがちゃんと机に座り直す。
「この部の名はSGY。S(星雲)G(極秘)Y(闇情報部)だ」
「…別に略さ無くても…」
「細かい事は気にしない」
 妙な略称なのでわたしが突っ込みをいれるが兄は気にしていないようだ。
「ぼくたちは学校側には秘密で生徒に情報を流している」
「なんでわざわざそんなことをしなければいけないの?新聞部として情報を発信すればいいじゃない。」
 普通のことだ。なぜわざわざこんな倉庫部屋に秘密基地ならぬ部屋を作らなければいけない?
「もともとこの学校にも新聞部はあったけど…それでは駄目だった」
「どうして?」
「新聞の内容を学校側が検討し、訂正を重ねてやっと掲示板に貼っていたんだ」
「それの何が悪いの?」
 兄貴は苦笑したように笑った。

「それでは本当に伝えたい事が伝えられていない気がしたんだよ」

 この部の先代は元は新聞部だったそうだ。
 でも学校側からいろいろと横から新聞の内容についてグチグチと言われていた。
 自分たちは自分たちの記事で伝えたい…。そして新聞部を無くし、生徒側だけにしか情報を与えない部…『SGY』を作り上げそうだ。
「なんか青春ってかんじ」
「まぁ、そうだな。昔、学校側は新聞部の記事を保護者に見せていてな。変なこと書かれたらおせっかいな保護者様がいろいろ言ってくるから新聞部にグチグチ言ったんだろう。」
 『ふ〜ん…』と言い、間を空けてから兄貴に言った。
「で、なんでわたしを勧誘したの?SGYは兄弟を自動的に入れるようになっているの?」
「そんなことは無いさ。ホント、ささいな理由さ」
 何、と聞くと兄貴は笑顔で言った。


「メンバーが足りないから」

「へ〜…ってふざけんな!」
 ツッコむしか無い。


「しかたないだろうが!前のメンバーが1人、転校しちゃったんだから!」
「1人抜けたって記事書けるだろうが!」
「SGYは1人ぬけたらやる気が出ません!」
「そんなの心の持ち様だろうが!」
 わたしが手当たり次第にある物(鉛筆立て、イス、etc…)を投げまくり、兄貴は避けたり防御しながら兄妹喧嘩を始めだした。話を聞いていた2人はとっくに壁際に避難していた。早苗ちゃんは変わらず笑顔。(普通笑えるか…?)そして優さんは呆然と見ている。
「頼むから入ってよ〜」
「やだ、っていうかわたしに何ができるのさ!記事なんて書いた事ないし、何も出来ないよ。それに平穏な生活は譲れません」
「大丈夫!僕の妹だし」
「サラッと自分は凄いって言っているようなもんだよ、それ」
 ちょうど手に持っていたぬいぐるみをボスッと兄貴の顔に当てる。兄貴は顔にのったぬいぐるみを取り、わたしの顔の前に近づけた。
「そういうことは入部してから決めるんだよ〜。何やらせるかとか〜」
「裏声で言うなよ。…ということは、そこの2人も何するか決まってないの?」
「もちろんだよ、モーニング。入部して、そこでちょっと簡単なテストをして決めるんだ」
「麻子だからモーニング?わかりづらい…」

 わたしは額に手を置いて考えこんだ。入っても入らなくても、結局普通の生活は送れないな…。しかたない。

「わかったよ。入ってあげる」
「ホント!」
「ただし、ホントに何も出来なかったら退部するし、毎日顔を出せ、とかいうのは無しよ」
 兄貴はわたしの言葉なんか聞こえてなくて、『やったなシェパード!!』と言いながら、うさぎのぬいぐるみといっしょに踊っている。
「まったく…この兄貴は」
「まぁとにかく」
 気付くと、2人がわたしの近くに立っていた。
「よろしくな、麻子」
「よろしくね〜」
 笑顔な2人にわたしは―ただただこれからの生活が予想できないことを恐ろしく思いながら―あいまいな笑みを見せた。


―3―


 兄貴がコーヒーを一気に飲んで、一息をついて言った。
「そろそろテストでもしよっかぁ」
「…テスト?」
 わたしがSGYに入部して3日経った日だった。



 入部してみたが、SGYはほとんど活動をしていなかった。ほとんどこの部屋でインターネットしたり、コーヒーを中毒になりそうなぐらいまで飲んでいるぐらいだった。
「もうそんな時期っスか。部長」
「…また面倒なことを起こさないで下さいね」
 そう言ったのは、兄貴と同学年で、SGYのメンバー。最初に言ったのはスポーツ刈りの佐々木国弘先輩。そして、眼鏡をあげながら言ったのは志麻里美先輩だ。同学年でも部長だから敬語なんだなぁ…。
「そろそろ動かないと、みんなカフェイン中毒になっちゃうよ」
 兄妹でも同じことは考えるんだ…。でも、兄貴のほうがわたしたちよりコーヒーを飲んでいることに気付いていない。
「んじゃ、1年たちこっち来て」
 わたしたち3人はイスをガタガタ動かし、兄貴の前に立った。

「君たちには情報でも集めてきてもらおうか」
「情報?」
 コーヒーカップに残った一滴を舌に垂らす。
「そ。この学校に関係することならなんでもいい。とにかく記事になることができればこっちのもんだし」
 兄貴は自分専用のコーヒーメーカーのスイッチを押す。
「自力?」
「モチロン自力。あ、でも困った時は聞いてきてね。手伝わないけど」
 ゴポゴポとコーヒーメーカーが音をたてる。兄貴は机の上に3つのバッチを落とした。バッチはくるくると机の上を回りながら動きをゆっくりと止めた。
「これはなんですか?」
 早苗ちゃんがバッチを取りながら不思議そうに聞いた。優さんもバッチを取る。
「…S…?」
 優さんはバッチにでかく書かれた『S』という字を見ながらつぶやいた。
「これは、SGYのバッチ。これを生徒に見せたらたぶん話をしてもらえると思うよ。先生とかには見せちゃダメだよ」
「今の1年生にわかるの?」
「ん〜…知らない子もいるかもしれないね。でも、たぶん大丈夫だとは思うよ」
 わたしはSGYのバッチをちらりと見て、胸ポケットに入れた。


「情報、ねぇ…」
 部室を出て、わたしはつぶやいた。入学したばかりなのに、噂やらなんやらをそう知っているわけではない。
「どうしよっか、麻子ちゃん」
「これを乗り越えなくちゃなんにもならないぞ」
 いきなり聞こえた声に驚いて振り向くと、2人がいつのまにか来ていた。
「いつのまに…」
「まぁまぁ気にせずに!一緒にがんばろうね」
「一緒に?協力し合っていいの?」
 そう言うと優さんが得意げな笑顔で言った。
「“3人でやるな”とは誰も言ってないだろ?」
「そうそう。3人で3つ、情報を見つければいい話だし」
 この2人が、心強い仲間に見えた。

「やっぱり、最高学年に聞くのが一番!」
 やってきたのは1階の3年生の教室前廊下。少し、3年生からの視線を感じる。わたしは2人の真ん中に入り、小声で言った。
「SGYがそんなこと聞いていいの?情報部なのに。っていうか、他学年の階に行って良いわけ?」
「まぁ…ゆるしてもらえるだろう」
 しらっと言う優さんに『誰に…』と聞こうとしたら、ドンッ、という軽い音がした。音がするほうを見ると、早苗ちゃんの前には背の高い男子の先輩が。早苗ちゃんとはだいぶ身長差があり、早苗ちゃんは見上げる形でその先輩を見ていた。
「あ、ごめんなさい。大丈夫、ですか?」
「あ、まぁ…」
 先輩がそう言うと、早苗ちゃんは表情が少しずつかわいいものになり…。
「よかったぁ!」
 ま、まぶしい!なんか笑顔がまぶしいよ!
「優さん…ま、まぶしいものが…」
「早苗の人を狙う笑顔は、見ないほうがいい」
 ひ、人を狙う!?確かに、ぶつかった男子の先輩はどこか顔が赤らんでいる。
「…ぶりっ子?」
「あれは素だ」
 マジですかい…やっかいな子だなぁ…。ん?わたしは優さんの腕をくんだ。細めで折れてしまいそうなぐらい細い腕だということに気付いた。ちょっとうらやましい。
「優さん…何だか、わたしの視界の脇に茶色の固まりが…」
 あ、黒も混ざっている。でも、直視できない。優さんはそっちを確かめる気も無さそうで、どんどんギャラリーを集めている早苗ちゃんのほうを見ながら言った。
「病気なら眼科に行った方がいい。ゴキブリならさっさと退治してこい」
「あ、いや。眼科にお世話になったことないし、それほど黒光りしているわけでも…」
 わたしは耐え切れなくなり、その茶色の固まりを見てみると…3年の女子だ。髪を染めているから、集まると茶色の固まりだ。その目は…。
「隊長、大変です。彼女たちは獲物を狙う目をしています」
「誰が隊長だ」
「しかも、隊長を狙っているようです」
 優さんが少し、目を見開いた。冷や汗をかいているみたいだ。
「…目を合わせるな」
 ザッザッザッという音がして、止まった。わたしも冷や汗をかきながら小さく言った。
「もう合っちゃいました」
 そう、目の前には集団が。後ろにも、集団がわたしたちを囲んでいる。後ろを見られないけど、少なくても5人以上はいる。
「あんた、1年?」
 この集団のリーダーっぽい女子が、優さんに言った。…名門校なのに、こんな人たちがいていいのか!?すごいガラが悪いよ!
「どうするんですか、隊長!」
「黙って見ていろ」
 小声でボソボソッと言うと、優さんは軽く表情をほころばせ、わたしの腕をゆっくりと解いて一歩前に出た。
「はい、わたしたちは1年生です」
「なら、なんでここにいるのよ。何か用なの?」
 さっきのリーダーっぽい人が言った。優さんは右手で―とっても指が長くて白くて綺麗な手で―その人の右手―マニキュアとかがバリバリについていて、ちょっと黒ずんでいる手―を取り、初めてわたしに見せた時の笑顔で言った。

「あなたのような美しい方に会う為にですが…何か?」
 
 わたしの顔は、今真っ青だろう。当たり前だ。普通そんな事を言う女子がどこにいるんだ。これじゃあ、3年生の女子のみなさんを挑発しているとしかいいようがない。わたしは優さんの左腕を抱きしめるような形で組んだ。
「優さん、何言ってるの! 普通に『SGYです』って言えばいいことじゃんか!」
「悪い。バッチ忘れた」
 わたしはゆっくりと手を取られた先輩を見てみた。怒っているだろうな…と思ったが、それは予想外の表情。
「あ…そんなこといわれても…」
「いえいえ、先輩はとても美しい。見惚れてしまいました」
 それは、乙女の表情。ときめいているとしか言いようが無い。周りの女子の方達も表情は赤らんでいてときめいている。わたしは、ゆっくりと後ろへ退いていた。

「どうしよう…この人達…」
 3年生を誘惑させている2人を見て、思わずつぶやいた。
 笑顔がかわいい小動物っぽい早苗ちゃん。笑顔がかっこよくて、女子でもときめいちゃう優さん。本当の仕事を忘れてもらっちゃ困るんだけど…。
 トントン。
「ねえ、君」
「はい!」
 いきなり肩をたたかれ、わたしは叫び声のような返事をしてしまった。ふりむくと、2人組みの男子の先輩がいた。男子の先輩達はわたしを見てひそひそと言った。
「ほら、やっぱり…」
「そうだな…でもまだ…」
 言い合うとわたしの肩を叩いた男子の先輩(名札に山田って書いてある)が言った。
「君さ、瀬野の妹?」
「え…はい。そうですけど…」
 わたしと兄貴はよく似ている、と言われる。そんなに似ているのか…と思っても自分ではわからない。
「やっぱし、あの瀬野誠の妹だ」
「ああ、あの瀬野誠な」
 『あの』を強調して言われるほど、兄貴はいったい何をしたんだ…。
「そんで、瀬野妹。君は何しに来たんだ?」
「あんな友達引き連れてさ」
 ハッと2人を見ると、すごい人数のギャラリーが2人に集まっている。
 やばい、なんとかしないと……そうだ!わたしは胸ポケットからバッチを取り出し、先輩2人がすこし後ろに下がるぐらいにまで顔の近くにバッチを見せた。そして、このギャラリー全体に聞こえるように叫んだ。

「聞いて下さい! わたしたちは、SGYです!」


―4―


 さっきまでギャラリーの声が廊下中に響いていたのに、わたしの一言でその声が一気にしぼんだ。よし、もう一回…。
「わたしたちは、SGむぐっ!」
 いきなり、誰かに口を塞がれた。しかも、2つの手によって。その手は小さな手と、白くてほっそりした手。
「何、大声で叫んでいるんだ!」
「麻子ちゃんが叫ぶなんて、意外〜」
「あんた達がどんどん暴走しているのを止めるために叫ぶしかなかったんだよ!」
 もう泣きたい。この人達、ある意味強力な個性があるよ。そういえばSGYって…変人が多いの?兄貴を筆頭に。そしたら…わたしも…?
「そんなの嫌だ! 変人はこの人達だけで十分だ!」
「誰のことを変人って言ってるんだ?」
 わたしは優さんを人差し指で指した。
「早苗は違うのか、早苗は」
「早苗ちゃんはかわいいから変人じゃない!」
「わ〜い、変人じゃな〜い!」
 勝手に話し込んでいるわたしたちを周りの先輩たちは呆然と見ている。

「早苗だって変人に近いぞ。こいつは磁石のごとく男子を集める」
「ひどい! 自分が変人って言われたから怒ってる〜」
 舌を出しながら早苗ちゃんは言う。優さんがムッとした顔になる。
「自分だって女子を集めてるじゃない」
「わたしは磁石になったり、ならなかったりするだけだ」
 結局集めることができるんですね。
「意味がわかんないよ、優ちゃん」
 わたしもわからないよ、優さん。
「あ、あのぉ…」
 背後から声が聞こえ、わたし達は振り向く。そこには小柄で眼鏡を掛けた…たぶん3年生の人だと思う。制服のスカートの丈がしっかり膝についている。見た目通り、真面目ってことがわかる。
「SGYの新メンバーさんですね? 生徒会長が呼んでいるので…ついてきてください」
 わたしたちに有無を言わせずに彼女は歩き始めた。…生徒会長のお呼びなので、わたしたちは目で合図を送り合って、黙って彼女についていくことにした。

「では、こちらでお待ちになっていてください」
 わたしたちが連れてこられたところは生徒会室。イスに座らされたわたしたちは、生徒会長を待つことになった。
「…なんで呼ばれるの? わたしたち」
 早苗ちゃんは目の前に置かれた缶のオレンジジュースを飲んだ。(生徒会の人が用意してくれたみたいだ。)
「2人が騒ぎを起こしたからじゃない?」
 わたしはまだ開けていなかった缶の蓋を開けた。炭酸のようにプシュッという音はしない。
「なんだ、まるで怒られるような言い方だな」
 優さんが缶を手で遊びながら言った。明らかに彼女たちが起こしたんだろう…あれは。
「さすがに大騒ぎしすぎだよ。先生が出てこなかったのが奇跡なぐらい」
 わたしは言い、ジュースを一口飲んだ。優さんは頬を少し掻いて言った。
「あれは正当防衛だ」
「正当防衛ならなんでもしていいってわけじゃないでしょうが!」
 優さんとわたしはにらみ合い、早苗ちゃんは静かにジュースを飲んでいた。

「生徒会長が来たようです」
 案内してくれた先輩が言った。彼女はドアへ近付き、ゆっくり開けた。そして、ドアから大股で足が出てきた。
「ごめんなさいねぇ。待たせちゃって」
 思ったよりは軽い声。けど、どこかで聞いたような…。生徒会長はわたしたちの前に置いてある大きめのイスを引き、座った。
「あ」
 思い出した。生徒会長、いや彼女は…。彼女は手にあごをのせ、にっこりと微笑んだ。

「ようこそ、生徒会へ」

「…里美先輩?」





2005/03/13(Sun)15:43:03 公開 / しぇいく
■この作品の著作権はしぇいくさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
3話と4話を更新。ちょっとごちゃまぜになってしまった…かな。
登場人物も少し増えました。しばらくは3人で行動が多いかもしれません。
感想や指摘、ありがとうございました。言われた点を気をつけて書かせて頂きます。
それでは、次回をお楽しみに。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。