『俺の恋愛論』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:渚                

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『あなたのこと、世界で一番愛してる。他の何かを全部犠牲にしても、あなたの近くにいる』




「…バッカみたい……」
真由は気だるそうにいった。ベットの上にひじをつき、ぼんやりとテレビを見つめている。俺も右ならえ。陳腐なラブストーリー。恋人同士が抱き合って、彼女が彼の腕の中で泣いている。俺がシャワーを浴びている間に服を着たらしく、朝からきていた白いブラウス姿になっていた。まだ熱気が体から出て行かない俺は上半身は裸だ。俺が歩いていくと、真由は少し動いて俺に場所を空けた。真由にぶつからないように気をつけてベットにもぐりこむ。
「俺らもあれしよっか?」
「いやよ。光司がそんな人だったら、あたし、もうゼッタイあんたと寝ない」
「冗談だって。第一、真由ゼッタイ泣いたりしねぇし」
「だって、光司はあたしのこと泣かせたりしないでしょ?」
真っ赤にルージュを引いた唇でにっこりと笑い、俺の裸の胸に顔をうずめる。真由からはいつも、ほんのりいいにおいがする。
「いや、俺が泣かされる側だし」
「あら、あたしがひどい女みたいな言い方するのね」
「そうだろ?昨日までは向こうの彼氏にこんな風に色目使ってたんだろ?」
真由は何も言わない。自分の茶色い髪をくるくると指に巻きつけている。そのままの姿勢で、真由は俺を見上げた。
「ま、おねだりぐらいはね。バック買ってもらっちゃった」
「おねだり?ブラウスのボタン3つはずしてチラ見せとか?あ、ちょっと奮発してキスとか」
「ま、チラ見せぐらいわねー。女に生まれたからには、それをいかさなきゃ」
真由はけらけらと笑った。
「でも、キスはしない」
「へー、なんで?」
「昨日会ったのさぁ、健ちゃんなんだよね」
俺はちょっと呆れて真由を見た。真由の男は、俺を入れて、ざっと5人ほどだろうか。
「健ちゃんは思いっきり貢がせるためだけの男?だから人として男として、全然魅力感じないんだよね。できれば関わりたくない人ってカンジ。生理的に受け付けないんだよね、あーいう人。だからキスもできないし、手つなぐのだっていや」
「そんなに嫌なら別れれば?一人ぐらい別れても支障ないだろ」
「うん、だからもう別れてきた」
何の感情の揺れもなく、さらりと真由は言った。俺も別に何も感じない。
俺と真由の関係は恋人とは言い難い。まあ、いわゆる「夜のオトモダチ」ってヤツだ。
「貢がせる男なら前田がいるし」
「誰だっけ、そいつ」
「あれよ、お父さんが大手の社長って言う29歳」
「貢がせるなら年下のほうが使いやすいんじゃないのか?」
「甘いなー、光司。年上に貢がせるのって、最高に気持ちいいよ?」
「そいつは生理的に受け付けんのか?」
「ううん、ムリ。あーいう馬鹿な大人が一番嫌い」
こてんと横になった真由に覆いかぶさり、キスをする。絡みつくようなキス。こういうのをするときは、なんとなく気が滅入ってるときだ。
こう見えても、俺たちはまだ高3だ。これぐらいの年になれば、社会って物が見えてくる。どれだけ馬鹿げたものか。意地汚い大人たちが、自らの欲のためにうごめいている。俺たちは失望した。俺も真由も、少なからず大人に振り回されて生きてきた。俺は幼い頃に両親が離婚し、母から虐待を受け、結局親戚の間をたらいまわし。結局俺を押し付けられたのは顔も知らない人。俺と養父母がどういう血縁関係なのかも知らないまま大きくなった。高校に入ったときに自立した。今はホストをしていて、自分ひとりで生きていける。真由はよく知らないが、どうやら、中学生のときに父親とその同僚たちに輸姦されたらしい。上役の機嫌をとるために真由を売ったのだ。そのときに家を飛び出し、今は俺の家に住んでいる。それまでどうやって生きてきたのか知らないが、俺と出会ったときの真由はすでに大人を軽蔑する目をしていた。俺と同じ。今はまあ、「女を生かす仕事」をしている。当然、高校なんか行ってない。
大人たちに失望した。自分の身を守るために周りを売る、薄汚い生き物。失望するとともに知った、汚い手を使わないと、この汚い世界では生きていけないのだと。
「前田って人さ、すっごいキモいんだよ。『真由ちゃんのこと愛してるよ、結婚して、きっと幸せにする』だってさ。何勝手に結婚することにしてんの、ってカンジ」
「愛してる、ねぇ。俺らとはちょっとずれてる人だな」
「ほーんと。でも、まあ結婚してもいいかなぁ」
「マジで?真由の本命はその前だってヤツなの?」
「まっさか。だって、経済的にはアイツが一番だもん」
「あのなぁ、結婚と付き合うのではちょっと違うぜ」
「まあね。でも、結婚ってただのステップアップでしょ?『彼女』から『妻』になるだけじゃん。もし結婚しても、今の彼とは付き合うの続けるもん。あ、もちろん光司ともね」
本気の恋をしたのなんか、いつのことだろう。真由を抱き寄せながら思う。誰か一人のためにすべてをささげて「愛してる」といって……そんな恋は多分、もうできない。別にできなくてもいいと思う。ドラマは今佳境らしく、女が泣いている。
『恋はゲームとは違う。一度ゲームオーバーになったら、もうコンティニューはできない』
「コンティニュー、ねぇ……」
真由が軽蔑したようにつぶやいた。
「馬鹿よねぇ。コンティニューなんかする必要ないのに。ゲームオーバーになったらそれで終わり。お姫様を助けるために魔王と戦って、もし負ければ、主人公は生き返らないわ。死んで生まれ変わるの」
「コンティニューじゃなくて、リセットってことだな」
「そう。主人公はもう、お姫様を助ける必要なんかないの。お姫様のことは忘れて、まったく違う人生を送るの」
ゲームオーバーになれば、そこで終わり。電源を切れば、もう何も残らない。すべてをリセットして、また違う恋をする。前までの恋に執着しない。執着することができない。壊れそうな関係を修復する気になれない。終わりはいつか来る。それがどんな形でも、抵抗せずに受け入れる。それが俺たちの恋愛論。
「でもやっぱり、結婚するのはなんかたるいなぁ」
「なんで?いいじゃん、今までとちょっと生活変わるだけじゃん」
「だってサ、結婚したら、今よりは束縛されるでしょ?それがなんかねー」
「まあな。それに、結婚したら寝ようって誘ってくるかもよ?」
「げぇ、それはムリー。あたし最近、光司としか寝れない体質になってきてるもん。やっぱ、あたしの本命は光司だなー」
「そりゃどうも」
「あ、信用してないでしょ」
「当たり前だ。全部の男にそういってんだろ?」
「あはは、まあね。でも、ほんとに光司が本命なんだよ」
「ま、どっちでもいいんだけどな」
「まあね。そんなことに固執する気ないし」
真由はリモコンでテレビの電源を切った。抱き合っている男女の姿が消える。
別に真由を失っても気にならない。というか、はじめから恋人じゃない気がする。住むところがないからうちにおいてやり、せっかくいるんだから、という理由で一緒に寝る、ただそれだけのこと。真由がここを出て行ってもいい。別に、真由じゃないといけない理由はないのだ。真由だって、今付き合ってる男の中にはいないだけで、一緒に寝る男は捜せばいくらでもいるだろう。
ベットに顔をうずめ、眠そうな顔をしている真由に声をかけた。
「真由、シャワー浴びてこいよ」
「んー、そうしたいとこなんだけど、あたし今からちょっと行かなきゃいけないんだよね」
「仕事?」
「いや、彼んとこ」
「こんな時間にか」
「なんか、『真由がいないと生きていけない』とか訳わかんないことほざくヤツがいてさ。もう3日もあってないってしつこくメールしてくるからさ。ちょっと今から行ってくる」
真由はごそごそとベットから出た。ついでも俺も出て、キスする。今日の終わり。
「どうせ暇だし、一人で余韻に浸ってるよ」
「あれ、なにそれ、純愛?夜の電車で一人彼氏のにおい?」
「やめてよ、そんなんじゃないって」
「わかってる。てか、そんな女だったらこっから追い出してるって」
「ふふ。じゃあ、行ってくる。たぶん明日の夕方ぐらいに帰ってくるから」
「ん」
真由は手を振って家を出て行った。
純愛。ほんとの愛。
くだらない。どうしてもそう思ってしまう。そんなのは、自分たちとは違う次元の人間が考えることだと思う。だが、真由は最近、少しそういう風になってきていると思う。固執しているのだ、俺に。彼女のキスに本気さが垣間見える。本命だという真由の目に必死さがあった。二人でいる時間を大切にしたいと、体中が語っていた。真由も自分とは違うんだ。最近、そう思うようになった。でも、だからって真由を家から追い出そうとは思わない。真由がそうしたいなら、ここにいればいい。でも、俺は真由を愛したりしない。いくらむこうがその気でも、真由はただ寝るだけの女。
俺は、俺の恋愛論に忠実に生きる。

2005/01/17(Mon)00:01:46 公開 /
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■作者からのメッセージ
んー…ここまで思い切った話を書いたのは初めてです^^;あ、私は別に純愛物を軽蔑してるとか、そんなことはないですよ!?純愛物も大好きです。
なんかすごい短いですね;申し訳ないです…。
ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました。

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