『終焉へのオーケストラ  〜終焉〜』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ニラ                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142
 
もしも、僕の手元にナイフがあれば…

喜んで僕は使う。

皆の注目で心を満たすために…

僕は世界の指揮者(コンダクター)だから…

終わらせるのも僕の自由…

第壱話「運命」

 バイオリン、ピアノ、ホルン、トランペット等の楽器の音色が競うかのように大きく響き、そしてそれは大きな会場へと響いていく。その大きな会場にはいっぱいに敷き詰められた顔の数々。女性と男性、そして子供などが入り混じり、皆、食い入るようにこちらを見ている。その先にいるのは演奏者に顔を向けて棒を必死で振っている18歳の少年「胡桃 翔太」である。その少年は、指揮者と言うオーケストラで重要な役目についている。彼がこの楽曲をひっぱて行くようなものだからである。今奏でているのは「運命」で、ヴェートーヴェンが作曲した物である。この曲は誰でも知っている曲であるが、彼が指揮を執ればまったく違う雰囲気の曲へと変貌を遂げる。毎回その「普通とは違うメロディ」を始め、今では人気の指揮者へと変貌を遂げていた。「まさに、彼は編曲の天才指揮者」と呼ばれることも少々あった。
 
 彼はその激しい動きを止めて、棒を上で止める。すると同時にピタッと音も止む。そして拍手喝采。そのとき、誰もが涙を流し、天才指揮者とまで呼ばれる彼の指揮する曲に感動していた。ありがとうございましたとでも言うかのごとく、深々とお辞儀をし、そのまま垂れ幕が下りていく。
「よ!! 変え曲の名人!!」
 バイオリンを引いていた男性「藤間勝也」は笑いをこぼしながら翔太の片をぽんと叩く。すると、翔太もぽんと叩き返す。
「つうかさ、普通だったら曲のリズムを変えたりなんてする奴はいねぇよなぁ…」
 毎度の事ながら、勝也は感心する。それから腕を抱えてウンウンと頷く。
「天才なんて呼ばれてるけど・・僕のは常識から言うと、ただ音楽家の曲を雰囲気を変えてるだけだから、天才じゃないし、指揮者から言えば、常識知らずと言っても良いくらいだよ」
 翔太は綺麗な済んだまだ声変わりのしていない雰囲気の声で返答する。まあな、と勝也は頷いた」。
「でもさぁ、毎回毎回歓声と注目をかっさらっていくのは悔しいなぁ」
 二人の会話を聞きながら勝田に向けていたのはホルンを吹いている「猪野修平」で、翔太が来る前までは「天才のホルン吹き」と呼ばれていたらしく、それで悔しがっているのである。
「お前も注目のスポットライト当ててもらえて気分爽快だろ?」
「う…うん」
 少し戸惑ってから翔太は苦笑いで返す。そしてしばらく黙り込む。
――本当は、満足感が無いんだ…何かしたいとか思うけど、それが何なのかも…
 翔太は指揮棒を丁重に箱にしまい、かばんに放り込む。そして、会場を出て行く。正面玄関ではおばさん系のファンが待ち受けているので、隠れて様子を見てから裏口へと回る。裏口は関係者専用なので、待っているわけは無い。
がちゃり…
予想を超えた展開だった。裏口では翔太を待つファン達が駆け寄り、翔太にべたべたと触ってくる。地獄であった。訳も分からないのに、ファンがべたべたと触ってきて、そして、気色の悪い感触を残していく。
「下がってください!!」
 警備員は翔太の上に飛び乗るファン達を退かしに入る。しかし、その必要は無かった。すぐに悲鳴が聞こえて、ファンはさがった。翔太はその光景を見て、ゾクゾクした。
 目の前には太った感じのおばさんが一人、血だらけで這い蹲っている。「翔太…君」とうめき声を上げて、血だらけの手で顔をなでる。そして、朽ちた。警備員の一人は電話で救急車を呼ぶ。もう一人はパニックのファン達を鎮めにかかる。最後の一人は放心状態の翔太を部屋へと運ぶ。
――これだ!! これが僕の求めていた満足感だ!!
 翔太は血だらけのファンのおばさんを見てやっと分かった。自分はスリルを求めていたのだと・・・・。


第弐話「第一楽章」

 翔太は自宅のドアをギイ、と開けて、部屋を見渡す。部屋は清潔な雰囲気を漂わし、南側についている窓からは落ちていく夕日が綺麗にはっきりと写されている。部屋は一部屋のマンションだが、以外に広いので窮屈には感じずにすむ。部屋の真ん中には小さな小ぶりの丸テーブルがあり、その上には朝片付け忘れたせいで干からびた食パンがある。それを退かすと、上に来ている厚めのジャンパーを脱ぎ、左に持っていた白いビニル袋を机の上に置き、中を広げる。中に入っているのは赤い手袋と、百円ライター。そして、油の入った大き目のビール瓶が入っている。
「準備はOKだ…後は、ターゲットをを絞るだけ…」
 翔太は窓から下を覗いて見る。翔太の部屋は四階で、下を見ればくらりとするほど高い。しかし、広範囲が見やすいので、翔太にとってはナイスポジションだった。
――知り合いとか、そう言う人じゃなくて、知らない人だ…
 頭でそう考える。すでに頭の中では作戦の準備は出来ているらしい。そして、四階の窓から一人の女性をロックオンする。黒髪はさらりとしていて、冷たい風で綺麗になびいている。彼女はマンションを過ぎて、マンション裏の森林地帯へと入っていく。
「よし、行こう」
 手に手袋をはめて、小さめのリュックサックにビール瓶と百円ライターそして、鞘が付いている果物ナイフを入れる。翔太はドアを飛び出し、階段を駆け下りる。もちろん、ジャンパーを深く着込み、自分が誰かを悟られにくくする。マンションから出る。そして、怪しくない程度に一直線に森林へと
向かう。あの女性のスピードなら、走れば追いつくだろう。
 案の定、女性は一人で舗装された土道を歩いている。それを虎が獲物を狙うような目で翔太は見つめる。気づかれないようにリュックサックからナイフを出し、握り締めて、走り出す。それに気づき女性は後ろを向いて悲鳴を上げようとする。しかし、瞬間的に翔太は手で口を押さえて、ナイフで女性の左の背中を突き刺す。女性は小さく「ヒッ」と声を出し、心臓を貫かれたので死亡する。
――ついにやってしまった…
 翔太は冷や汗をかきつつ、目の前で半目を開けている女性を見て驚く。しかし、あせりながら油をかけて、百円ライターをかちりと付ける。すると、油をかけたのと、ウール素材のものを着ていたため、一瞬火が走り、そして燃え出す。それを見て、大体燃えたらすぐさま火を持ってきた水で消し、ナイフで不器用に分解する。そして、手、足、胴体と、無残な姿へと変化した。
「後は、これをばら撒けば…」
 一パーツごとに森の各箇所へと捨てて、集まらないようにする。そして、最後の手だけをリュックへと入れる、生暖かかったので、一瞬吐き気を催したが、我慢し、そして、マンションのごみ置き場へと向かう。
 ごみ置き場には黒い袋があり、隠すのには持って来いだった。時間的にも人がいないので、黒いゴミ袋の積んである奥のほうに手のパーツを隠す。
「これで見つかるのは時間の問題だ」
 翔太は裏へと周り、マンションの階段に行き、そして、思う。
――これで自分の希望がかなうはず…

第参話「解けぬ鎖」

 気が付けば朝だった。どうやら机の上にうつ伏せで寝ていたらしい。と翔太は思い、くあっと背伸びをすると洗面所へと向かう。鏡を見てみると、目には大きなクマがこしらえてあり、少しみっともない感じである。今日が仕事の日ではなくて良かったと本当に思える。昨日のことも、きっと夢だった。きっと、自分はいやな夢を見ていたんだ。そう思う。
「さてと…、朝飯でも食うかな…」
 翔太は丸テーブルの上に置かれているパン袋からパンを一枚取り出して、台所にあるオーブントースターに入れて、スイッチを入れた。そして、冷蔵庫の中身を拝見し、何とかハムとマヨネーズを入手する。そして、それを出したときにちょうど良くパンが飛び出し、見事なダイビングで孤を描きながら用意してあった皿に乗る。
 翔太は丸テーブルの前に座ると、パンをかじりながらテレビのチャンネルをいじる。テレビはパチンと付き、ニュース番組が映る。天気予報だった。しかし、そんなにいい天気ではないということだけ聞き、チャンネルを変えていく。そこで、ひとつの番組を見つけ、釘付けになる。
『今入ってきたニュースです。今日、午前十時頃に〜県〜町のマンションのゴミ捨て場から焼けた腕が発見されました。しかし、焼けてしまっているために捜査は困難に陥りそうです。』
――違った…、夢なんかじゃ無かった…
 翔太は食べかけのパンをとりおとす。あと少しでも遅く起きていれば知らずに住んだのに、と翔太は落ち込む。
 時間がたつごとに外が騒がしくなってくる。きっとマスコミが嗅ぎ付け、そして、有る事無いことを雑誌に書くためだろう。そう思い、翔太はもう一度寝る事にする。翔太は早速ベッドに入り込む。
「大丈夫、きっと捕まらない…」
 しかし、ついにはしきりにドアのベルが鳴るようになる。最初は一時間に四・五回、しかし、今では一分に6回ぐらいはなっている。たまりかねた翔太は乱暴にドアを開ける。すると、マイクが大量に部屋へと押し寄せてくる。
「あの有名コンダクターの胡桃翔太さんですよね? 知ってましたか?マンションのゴミ捨て場に死体があったってこと?」
「いえ、さっきテレビで見たのですが、こんな近くであんなことが起こってたなんて全く知りませんでした…」
 少し戸惑いながらだが、マスコミの者達はそれで納得したのか、瞬時にマンションを後にしていく。次々と翔太の扉の前を通り過ぎていく。バタムと扉を閉めると、ふうっと息を吐く。ばれなかった。良かった。と翔太は思う。そして、もう一眠りをしようとした時に、突然電話がかかってきた。
「もしもし、胡桃ですが?」
『俺だ、勝也だ…』
 親友の勝也からだった。しかし、その声はわくわくした様な声である。
「何だ? 少し疲れてるから、切るぞ?」
『…昨日の女の人、残りの部分はどこにあるのかな?』
 翔太の胸が高鳴りする。いや、まさか、そんな…。と翔太は心の中で言い続け、そして、冷静になって言い返す。
「昨日のって何?」
『俺見てたんだ…。お前が女を後ろからぐさりと刺すところをな…』
「…何が目的だ?」
『とりあえず、明日女を殺した所で会おうじゃないか』
 そして、ブツリと電話は切れる。たった一度の殺人だった。しかし、その鎖は、連鎖的につながり始めたのに翔太は気づく。そして、明日のことが心配になり始める。
――ゆするきだ…
 翔太は確実にそう思う。親友の心の中に自分を「親友」と思っている心はもう無い。今あるのは「殺人者」からどこまで搾り取れるかという考えだけだろう。もう、こうなれば、最後の手はあれしかなかった。
「もう一度、今日中に考えるしかないな…」
 そして、翔太は買出しに出かけていった。

第四話「殺人と言う炎」

 まず手始めに向かったのはドラッグストア。そこで、睡眠薬を三箱、そして、百円ショップにてライターを買う。最後に帰りにミネラルウォーターを二本買う。
 家に帰ると、早速予定をまとめ、明日の準備へと取り掛かる。まずは、二つ買ったミネラルウォーターのキャップを開けて、睡眠薬を粉にした物を入れていく。水は少しばかり抜いておくことにする。そして、キャップを閉めて、良く振り混ぜる。そして、キッチンにある油を取り出し、ビール瓶に入れ替えていく。最後には油は空になった。そして、準備を済ませると、それをリュックに詰めて、寝ることにする。
「明日、二度目の殺人か…成功すると良いけど…」
 睡眠薬は一箱分でも全部飲めば危険である。翔太はそれを聞き、閃いたのであった。その日は、なぜか、明日の予定でわくわくして眠れなかった。何故か、最初の殺人を犯したときには罪悪感だけしか残らなかったのに、今では大きな高揚感がふつふつと沸いて出てきていた。



 次の日、翔太は時間通り起きた。そして、手早く準備をする。あらかじめニュースを見ると、最高気温はなんと25度。幸運に恵まれたと思えるほどの温度である。そして、着替えると時間を見てから、部屋を飛び出す。今は朝の4時。ウォーキングに来ている人以外はいないだろう。もし見つかっても、殺せば良いことだ。
 翔太はにやりと笑いながら、森へとかけていく。左手にあるものは、指揮棒。そして、それを走りながら四拍子を振り続けている。既に翔太の中では、殺害の曲が流れているのだろう。
「題『親友殺し』、指揮は私、胡桃がさせていただきます」
 心の中で高笑いしながら、まるで舞台に立っているかのように深くお辞儀をする。そして、曲が始まる。
 現実では、森に着き、目の前にはしてやったりといいたそうな『元』親友の藤間がいる。
「来たか…それにしても熱いな…おい、『殺人犯』よぉ、飲みもんくれないか?」
 いきなり来た偶然の事。そして、おもむろにリュックからミネラルウォーターを取り出して、差し出す。
「昨日飲んだものだが、残っているから…、これで勘弁してくれないかな?」
 翔太は必死で口止めしてもらおうと顔にしわを寄せる。藤間はにやりと笑い、ペットボトルをぶん取ると、すべてを一気に飲み干す。そして、「ありえねぇよ」と笑う。
――成功!!
 翔太は藤間に見られない様に笑い顔を隠す。心の中では曲は終盤を迎えていた
「俺は、お前を親友なんて思ったことは無い。むしろうざかったんだよぉ!!」
 藤間は近づくと、翔太の腹に拳をぶつける。翔太は腹を抱えて苦しがる。藤間は両手で「十」と指を作る。
「何だ…? それは」
 ゲホゲホと咳き込みながら翔太は答える。それを聞いて藤間は笑いながら「十億」と言う。
「そんなに持ってる訳無いだろ…」
「あれれ? 言ってもいいのかなぁ?」
「…分かった」
 翔太は効き始める時間帯を知っていた。曲は遂にあと四楽章で終わる。
「良いな…って、あれ? 急に目がくらくらと…」
 足取りも重く、藤間は息苦しくなってくる。そして、心の中で「まさか」と思い翔太を見る。翔太はそこに、勝ち誇ったような目で見下している。
「まさか、簡単に飲んでくれるとは思っていなかった…。さっきのミネラルウォーターには睡眠薬が三箱分入ってる。死ぬのには打って付だね?」
「この…野郎…」
 ばたりとその場に倒れる藤間。そして、その藤間に持ってきた油を注ぐ。そして油の池に浮かんでいる藤間を見て、ライターの火力を最大にし、そして投げ捨てる。
 眠っている藤間は腕、足とゆっくりと燃え上がり、そして、焼け爛れていく。睡眠薬三箱分。それは、恐ろしいと今実感する。しかし、背中がぶるぶると震えて、寒くなる感じがする。
――気持ちよすぎて…腰が抜けそうだ…
 既に、曲は終わり、静かにまくが降ろされていく。そして、そのときにはもう既に翔太は「指揮者」ではなく、「快楽殺人者」という心が芽生えていた。翔太は火を消さずに、その場をくすくすと笑いながら去っていった。そして、燃え盛る藤間の死体は、最後には炭となり、見分けも付かなくなった。
 まだ殺したり無い…。その言葉は翔太の心にしっかりと居座っていた。

第伍話「集まり行く演奏者」

 たった二人の殺人。それでも、その殺し方によって、民間人には十分な恐怖を与えていた。
――焼死体――
 焦げたその匂いは、どんな者でも胸が悪くなるほどの物である。これ以上人を殺されては、警官もマスコミによって散々な衝撃が走るだろう。テレビでは「すぐに捜査を開始します!!」と言っておいた。しかし、それも時間の問題だ。いつ、捜査についての問題が来てもおかしくは無い。
「だが、これは明らかに素人の犯罪だ!! もっと調べれば確実にぼろが出る!! 捕まえるのも時間の問題だ」
 会議室中に響く大きな声。その声の主は声のとおりの男だった。寝不足で作られた目のクマに、ぼさぼさになっている黒い髪。服は古びた茶のコートを着ている。
 彼は―川儀信也―と言う。警視庁の中でもかなり位の高い者である。しかし、最近では新しい波、つまりは若者が入ってきたことによって、だんだんと押し流されている。しかし、彼が行った捜査はほぼ百パーセントの確立で犯罪者確保。と言う結果を残してきている。今回も彼が捜査一課に導入されたのであった。しかし、彼にとって、これほどまでに難しいものは無かった。最初の殺人は女性。しかし、周りの中に殺意の生じる関係は無かった。二人目は、オーケストラの一楽団で有名指揮者「胡桃 翔太」の所属している場所である。彼らを事情聴取したが、これと言って悪い噂も無し、逆に「いい奴だった」と泣きじゃくる者も多数いた。遂には自殺までしかけたものもいた。
 そして、二つの殺人は、必ず見ているものがいなかった。まるで、人間の時間を操り、誰もいない時間を作り出しているかのように、誰一人として現場を目撃したものはいなかった。しかも、女性の死因はナイフ。だが、その証拠品が出たことは無い。おそらく、まだ犯人が持っていると思われたが、二度目は睡眠薬を使って、殺害だった。ナイフなどの痕跡は一つも無い。犯人の可能性もある者も絞れず、八方塞となっていた。
「川儀さん!! 何とか絞ってみました!!」
「でかした!! だが、推測だろう?」
「はい…」
 突然喜びの笑みを浮かべて入ってきた男は、川儀の言葉によって、落ち込む。その状態の男が持っていた封筒をかすめると、中に入っている写真を見てみた。
「まさか…、こいつが入っているとはな…」
 写真は五枚。その中には、確かに「胡桃 翔太」と書かれた写真があった。それを見て、川
儀はにやりと皮肉を込めた笑みを浮かべた。


「くしゅっ!!」
「大丈夫か?」
「ああ、誰かが噂してたみたい」
「はは、毎日くしゃみしなくちゃいけないじゃないか」
 翔太が言った言葉を、「長居慶太」はいやみを込めた言葉で返す。翔太は「何だと!!」と笑いながら突っ込みを入れる。それを楽団の団長「水野幸平」が、小声で「本番が始まるんだ!! 気を引き締めろ」と叫ぶ。それを「はい」と二人は返事をして返した。
――今度は誰にするか…、身近な奴だとばれそうだな…また知らない奴にしなくちゃな
 翔太の頭の中では、既に人殺しの計画は順調に練られていた。それと共に、今日のオーケストラで目標も探すつもりであった。
 楽屋の扉が開き、「時間です」と声をかけた。翔太は指揮棒を、長居はヴァイオリンを、水野はトランペットをそれぞれ持つと、大勢で廊下を歩き、そして舞台へと入っていく。舞台はうす暗くなっていて、そこから見ることは出来ない。というか、指揮者は客に背中を向けている状態である。その為、ターゲットをロックオンするチャンスは最後のみであった。
 オーケストラが始まった。翔太は棒を激しく振る。共に、音楽が付いてくる。それはだんだんと絡み合い、一つの音楽を織り成していく。そして、フォルテ(強く)、ピアノ(弱く)や、クレッシェンド(だんだん強く)等、様々な色合いで曲を我流に飾っていく。だんだんと完成を見せる「曲」と言う絵は、鮮やかに、そして大胆になっていく。そして、曲が「ジャン!!」と鳴り、そして響き止んだ。完成した。
 最後に、お辞儀をする。そして大きな拍手と共に、明るくなっていく。
――さあ、今度は誰を殺そうか…
 そして、一人の女性に目を付ける。彼女は、金髪の綺麗な長髪。そして、うっすらと赤みを帯びた綺麗な顔立ちをしている。彼女こそが、「殺人」と言う華麗で美しい「曲」にぴったりだと判断する。既に、いくつかの殺人方法は考えてあった。どれも素人が考えるようなものである。しかし、それがいいのである。それによって、警官達は「簡単に終わるな」と考え、そして余裕と考え、操作が鈍くなる。そのうちに、だんだんと焦っていき、遂には時効…。翔太の考えはそれであった。しかし、誰にも見られてはいけない。そして、証拠も取らせない。繋がりも何にも無いことを証明する。

「君、ちょっと今夜付き合ってくれないか?」
「え?」
 女性は翔太の言葉に驚く。それもそうだ。全国の女性が夢中になっている者が、今日、自分に声をかけたのだから。
「はい!! 喜んで!!」
 そして、時間を決めると、一言だけ言っておいた。
「いいかい? でも、誰にも見つからないように、そして言わないようにこの場所で集合だいいね?」
 そう言い、真っ赤に赤面する彼女を見送ると、にやりと笑う。その笑顔は、確実に人をだませた喜びによる笑顔である。手元にあるのはライターと、ナイフ。十分だ。と思える。後は油を何処かで買えばOKだ。
 そして、翔太はすっかり暗くなった道に消えていった。

「お兄ちゃん!! 今日帰るの遅くなる」
 笑顔を兄「水野幸平」に向けて言う。「分かった」と、水野は笑顔で答え返す。
「遅くなるなよ? 真央…、今日は俺が飯を久々に作ってやるからな」
「うん!!」
 そして、真央は兄に背中を向けて、走り去っていく。会場は少しづつ、静けさが広がってくる。赤いじゅうたんが敷かれた廊下も、舞台も、どこも全て暗くなっていく。水野は会場を出ると、ふいに翔太のことを考える
――あいつ、藤間がいなくなって元気を無くしてないかな? 犯人を自分で捕まえようとするのではないか…
「明後日くらいにあいつんちにでも行ってやるか」
 水野は考えた結果、そう回答し、鼻歌を歌いながら背伸びをし、そして会場を後にしていった。

第六話「失敗から逃亡へ…」

 目の前には持っているナイフでずたずたにし、血を噴出している女性が横たわっている。それを、見たものが凍りつくような不敵な笑顔で見る翔太がいる。そして、油をいつもどおりかけて、最大火力にしたライターを放つ。ちりちりと燃える炎は、一瞬にして悪魔となり、横たわる女性を喰らって行く。だんだんと肉の焼けるにおいがあたりに立ち込めてくる。翔太はその匂いさえも、今では「良い香りだ」と思うようになっていた。

 数時間前…。

「翔太さんは、何でここを選んだんですか?」
 女性ー水野真央ーは尋ねる。しかし、翔太は答えずに、笑顔を返している。もちろん、彼女が水野の妹だということは、翔太は知らない。そして、「こっちへ来てくれる? 見せたいものがあるんだ」
 と森の奥へと誘導していく。もちろん、真央は頷いて、ゆっくりとこちらについてきた。
 緑の生い茂る森林は、夜月が照らす深く暗い世界へと姿を変え、不気味さを放っていた。それをキョロキョロと少し真央は怖がっている。そして、翔太に少し近づいて、恐怖感を少し和らげる。
 ――大丈夫、翔太さんが守ってくれるはず…。と真央は考えていた。そう考えると、少しばかり元気が出るのだった。数分すると、翔太は足を止めた。そして、「ここでいいかな?」と言葉を放つ。「ここで?」と真央は問いかけると、翔太は笑みを浮かべてこちらを振り向いた。そして、暗闇で見えなかったが、手にはしっかりと果物ナイフが握られている。真央は凍りついた。そして、走ろうとするが、腕をつかまれる。
「待てよ、君の演奏が聞きたいんだ」
「どういう意味ですか!? やめてください!!」
 突然、背中に激痛が走った。そして、痛みで気が遠のきそうになる。しかし、もう一度来た激痛で目が覚める。背中に何か生暖かいものが流れてくる。しかし、背中では分からない。「あ…あ…」と真央は弱い声で何度も来る衝撃に反応するかのように声を出す。後ろではナイフを何度も背中に向けて上げ下げする翔太がいる。そして、真央はだんだんと意識が薄れていく。もう既に痛みは無くなっていた。しかし、衝撃が来る毎に、真央は力が抜けていく。
 ドサ…。
 そして、遂には足にも力が入らず、倒れこんだ。しかし、翔太は倒れてもなお、刺す事をやめようとしない。顔には満面の笑みが浮かんでいる。
――助けて…、お兄…ちゃ…ん…。
 真央は頭に兄の姿が浮かんだが、その姿は薄くなり、目の前が真っ暗になり、そして、意識を失った。
「中々良い音楽だ…。アンコールをしたいが、あいにく僕は指揮者だったね。もう聞けないと思うと残念だよ」
 翔太は息絶えた真央にそう言い放つ。
 そして、現在に至った。全く違う物質へと変化した彼女。それをうっとりとした目で翔太は眺めている。それを、森の出口辺りまでもっていく。運良く、誰もいなかったおかげで、見つかることは無い。そして、もう一度火をつけると、早々に翔太はその場を後にした。
 家に帰った頃、外から悲鳴が聞こえてきた。返り血を浴びた服を急いで洗濯場に放り込み、手を適当に洗うと、電気を消して、布団にもぐりこんだ。すっきりしたからなのか、翔太は思ったより早く眠ることが出来た。

 朝、目が覚めた。いつもどおりの朝である。今の状態では、昨日の事でさえも忘れている状態である。洗面所にいき、いつもどおり歯を磨く。いつもは朝起きると気分が悪かったりするはずが、今日は珍しくすっきりした気持ち良い朝だな。と思った。
 テーブルにおいてある食パンを手に取り、そしていつもどおりトースターで焼きあがるのを待つ。その間に、テレビを付けていつもどおりニュースを見ることにする。そして、ニュースを見て全てを思い出す。
『昨日午後十一時ごろ、〜県〜町のマンションで、またしても焼死死体が発見されました。まだ、身元は分かっておりませんが、現在必死で捜索中です。』
「ああ、昨日女の人殺したんだっけ。あれ、誰なのかなぁ?」
 そんなことを思いながら、もう一度ニュースを見る。そして、驚愕する。
『ええ、今入ってきた情報によりますと、死亡者は「水野真央」さん十六歳。水野さんは「遅くなる」と言って、家を出てから連続殺人犯と接触し、殺されたものと思われております』
「やばい、これだと、俺が犯人の可能性もあると言っているも同然だ。しかも、素人の殺人方法だ。すぐに分かっちゃうじゃないか!!」
 突然知ったことに錯乱する。そして、ハっと気づき、窓を見る。外にはパトカーが数台止まっている。そして、何かが聞こえてくる。
「犯人を絞り込んだ結果、胡桃翔太さん!! あなたが一番怪しいんですよ!! おとなしく出てきてください!!」
 もう、確実に向こうは翔太が犯人と特定したようであった。今捕まれば、確実に連続殺人で、死刑の可能性もある。良くても無期懲役だろう。そう考えると、冷や汗が出てきた。
――ここから逃げるしかない。時効まで何処かに隠れよう…。
 そう考えた翔太は今ある現金と、必要性の高い物をバッグに詰め込み、背負い込むと家を出た。幸い、まだ突撃はしていないようで、警官はいない。マンションの構造は良く知っている。マンションの屋上へ行くと、裏の山にとびおりることが出来る。大人ぐらいなら怪我も無い高さである。そして、決心すると、エレベーターへと乗り込んだ。かちりと屋上のボタンを押して、ただただ屋上に着くことを待っている。そして、音と共にエレベーターの扉が開く。飛び出ると、すぐさま屋上の周りを見て、山のあるほうへと向かう。そして、柵を乗り越えると、翔太は飛び降りた。

第六話「あっけない…」

「逃亡しようとしたと思われる犯人死亡確定」
 翔太の周りを警官が取り囲んでいる。後頭部からはゆっくりと血が流れている。翔太は虚ろに目を開けて、口をアホみたいに開けている。翔太にかすかな意識はあるが、既に死んでいるような物だった。
――いつから気づいたんだ? 水野ぉ…
 心臓の鼓動は聞こえない。何故意識があるのか分からない。警官から見ればもう死んでいるのだろう。そして、警官が自分の周りを取り囲む中、泣きじゃくる水野がいる。しかし、口元はなぜか妙に微笑んでいた。そして、神様はそれを最後に見せたかったかのように、自分の意識を薄れさせていく。
 そして、意識は消え去った。
「あっけないな、何でこの高さから飛び降りて、重症を負って死亡なのか…」
「そうですね。よく考えると、矛盾だらけですよ」
 信也は隣にいる警官と会話を弾ませる。上を見れば、一メートル位の高さに屋上の柵がある。しかし、翔太はここから飛び降りて、死亡した。例え滑って転んだとしても、死ぬはずは無い。しかも、着地場所に危険なものは無かった。そして、疑問に思うのは、「何故水野が第一発見者なのか」だった。何故彼はマンションの裏に行ったのだろうか。水野も「気が付いたらここにいた」と言う。普通ならば彼を連行するのだが、つい最近妹が死んだばかりで、ショックで無意識に体が動くことはある。そのせいで、捜査も困難を極めていた。
「やはり、水野が一番怪しいと…」
「いや、証拠がない…ここにいたと言うだけでは、駄目だ。もしかしたら周辺の人物が目撃しているかもしれないから、周辺の捜査に行くぞ」
「はい」
 信也は走り出し、現場から離れていく。そばにいる警官も共に同行していく。それを見た後、水野は涙を拭くと、立ち上がる。「もう帰っていいぞ」とそばの警官に言われた。その言葉には哀れみも入っていたのだろう。水野はお辞儀をすると、肩を落として背を向ける。そして、彼は警官たちに見えないように、そっと微笑んだ。
――あばよ、翔太…
 草木を踏み越えつつ水野は町へと出て行く。所持品は財布と…、赤いペンである。水野は赤いペンを手に取ると、握り締める。そして、森の中に投げ入れた。ペンを良く見ると、赤い部分が剥げて黒い部分が見えている。
 急に雨が降り出し、そして、ペンが黒く変色していく。いや、赤いものが流れ落ちたと言ったほうが良いだろう。それは、今の液体の状態を見れば、確実に血だと分かるだろう。しかし、雨の中、水野は笑いながら去っていき、そしてその場を調べることは誰もしなかった。

「やっぱり、これは、水野がやったとしか思えないな…」
 これといった証言も手に入らず、戻ってきた信也は現場を見渡す。しかし、水野の姿は見えない。近くの現場検証の者に尋ねる。すると、「帰ったよ」と言い返した。驚いた。
「何で帰したんだ!! あいつは現場にいた一番怪しい人物だぞ!! いや、犯人だ!!」
「すみません…、気が付いたら姿を消していまして」
 信也は雨の中を走り出す。森の斜面を転がるように駆け下りて、水野の姿を探す。見つからない。雨のせいで視界も悪く、簡単には見つからないだろう。しかし、今はとにかく探すしか無かった。奴は犯人だ。それだけはもう確実だ。このまま逃がしたりでもすれば、もしかしたら新たなる殺人が始まるかもしれない。そんなことを考えている矢先、信也は飛び出ていた木の根に足を取られる。口がジャリジャリと音がするくらい、土がべっとりと付いた。右手に感触があった。黒いペンだ。それも、一部分だけに血がこびりついている。
「あいつはこれで奴を殺したのか…。くそ、どこに言ったんだ!!」
 信也は叫ぶ。しかし、それは静かに雨の中に消え去って行った。

最終話「終焉」

 雨の中、警官一人と信也は再度現場に戻る。それを見て、現場検証をしている者達は何かを期待したような目で見ている。
「見つかったんですか!? 証拠…」
「ああ、はっきりとしたのがな」
 信也はハンカチで丁寧に持ち、マッジクペンを出す。「マジックですか?」とペンを見て驚く。
「ただのマジックじゃない。何で証拠検証時に出なかったのかと言うと…」
 信也はキュポンとキャップを外す。すると、出てきたのはインクの染みた先端部分――では無く、尖った錐のような針が出てきた。「それだけじゃない」と信也は指で針を掴み、引っ張ると、針が伸びて、人差し指くらいの長さへと変わる。針を回すとカチリ、と音がして戻らないようにロックされる仕組みだった。当然、針の後ろの部分には血がべっとりと付いている。
「成る程、では、これで殺人犯、胡桃翔太の後頭部をグサリと…、何回も…」
 いてぇ、と聞いている警官の何人かは想像したせいで、後頭部を抑える。信也は再び森の出口まで降りようと後ろを向き、そして、「あと、このマジックに付いた指紋お願いします」と言い、走り出す。暫くすると、大きな音が響き、そして遠のいていった。

 数時間後、水野の家には誰もいなかった。そればかりか、家具でさえも何一つ残っていないので、結局、捜査は「連続殺人犯死亡」で決着が付いたのであった。そして、捜査は次に「水野捜索」へと移った。
「水野は殺人犯を殺した。しかし、それでも罪は問われる。なんとしてでも捕らえるんだ」
 真剣な顔と重苦しい雰囲気を漂わす部屋。ざわざわと沸き立つ声の中、たった一人だけ浮かない顔をしていた。「信也さん、どうしたんです?」警官が声をかけた。
「いや、水野は多分、これから殺人を何度も犯すだろう。だから、早く捕まえなくてはな…」
 立ち上がると、部屋を出、駐車場まで走り、そして車に乗ると、エンジンを噴かす。ブロロロ、とアクセルを踏んだと共にタイヤが動き出し、そして、冷たい雨の中を走り出した。


 綺麗な飾りが彩られる商店街。その裏路地に近いところに男が独りいる。手には「0:30」と液晶で移ったものと、数本のコード。その先には細長い何かが付いている。粉上の物が詰められている様である。
「何で、俺の妹が死んで、お前らが笑ってるんだ!! お前らも、妹の身になってみろ!!」
 そして、ピっと音がした。三十、二十、十、とカウンターは減っていく。それをみた町の者はおどろイて逃げ出そうとする。しかし遅かった。カウンターはゼロを指し、それと共にまばゆい光が辺りを包み、水野もその光に包まれ、そして、激しい爆音が商店街に鳴り響き、周りの建物が吹き飛んでいった。

終幕

2005/02/22(Tue)18:07:45 公開 / ニラ
■この作品の著作権はニラさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
遂に完結しました。やっぱり、まだ表現力が足りず、あっけない最後となってしまいました。これからの課題にしていきたいと思います!!
影舞踊、満月様、ゆぇ様、卍丸様、霜様、、ご感想、そしてアドバイスをありがとうございました!!
次回作も今回初の「書き溜め」中なので、そのときは、よろしくお願いします!!

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。