『朧月』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:時里                

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「弥玖、ピアノひいて」
 
 弥玖は微笑むと本棚から数冊の楽譜を抜き出した


『 朧月 』


 手元の明かりだけがぼぅ、と光っている
 静かに紡がれていく音と、滑らかに動く指先だけがこの空間で生きている物だった

 持ってきた楽譜のほとんどを弾きつくした今、それはほぼ弥玖の即興だった
 様々な曲をつなぎ合わせて、桜散る朧月夜に似合う静かな曲ができあがっていた

 窓の外を見下ろす流が何を思っているのか、弥玖にはわからない
 もうかれは自分のピアノの音など聞こえていないのかもしれない
 それでも弾き続けるのは彼に求められたからにほかならない

 昔、といっても4年前のことだけど、2人で連弾をしたことがある
 あの時は中々流が弾けるようにならなくて
 それで、彼は泣いてしまって
 僕は泣き止むまで一人、自分の旋律を練習していた
 きっと彼が隣に座ってくれる、そう信じていた

 その曲を弥玖はふと思い出し、自分の旋律に指を走らせた
 今はもう、いとも簡単に指が動く
 何度も何度も、君の泣く声を聞きながら弾き続けた曲
 つられて泣きながら何度も何度も弾いた曲

 旋律に高い音が加わる
 鍵盤から目を離して傍らを見上げると、あの時とは違う静かな涙を流す彼がいた
 彼の指はたどたどしくも鍵盤をたどり、曲を紡いでいく
 テンポは遅いが、それは確かにあの時2人で作り上げた曲だった

 顔を見合わせ微笑みあう
 彼がひとつ、音を間違えた


2005/01/01(Sat)23:36:58 公開 / 時里
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■作者からのメッセージ
お久しぶりです。こんな短いのいいんでしょうか・・・(笑)人名は『流』と『弥玖』のふたつで、回想シーン時の年齢は8歳です(このくらいの歳ならまだよくなくかな、と)あまり深い設定は考えずに読んでくださると嬉しいです。三人称から一人称への転換をもうちょっと自然にしたかったです。ご指摘、ご指導お願いします。

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