『『名のないあなた』読みきり』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:満月                

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『名のないあなた』

 あなたは誰?
 何故泣いているの?
 そして、あなたは何を願う…?


 ♪キーンコーンカーンコーン
 学校のチャイムが授業の終わりを告げた。
「えー。では、今日はここまで。今日やったところは、家でちゃんと復習するように」
 チャイムの音も先生の話も、深い眠りに入ってしまっている私の耳には届かなかった。
 それもそのはず。私の席は、一番後ろの日当たりの良い窓際だった。しかも今日はよく晴れていて絶好の居眠り日和だった。
「美咲ちゃん、美咲ちゃんってば! 授業終わったよ」
 私は友達の由梨に起こされ、ようやく目を覚ました。
「あ…あれ? 授業は…?」
「もう、そんなのとっくに終わったよ。それより、今日トイレ掃除の当番の日だよ。早く行って、ちゃっちゃと終わらせようよ」
「げっ、今日だっけ? トイレ掃除」
 私は寝ぼけながらも、目を擦り椅子から立ち上がった。
「もう、美咲ちゃんたらすぐに忘れちゃうんだから!」

 こんな感じで私はいつもいつも普通の毎日をおくっていた。
 当たり前のように毎日通う学校、何のへんてつもない友達との会話。毎日が普通で当たり前だった…

――彼女に出会う前までは

「…が…であるため、…である」
 先生の声が教室に響く。皆は先生の言った事や黒板に書かれたことをノートに写していた。先生の声とみんなの鉛筆の音、それにポカポカと私を照らす太陽の陽の暖かさで私はまた眠気に襲われていた。

“ふぁ〜、眠い…皆よく真面目にやってられるよなぁ。はぁ、学校抜け出して遊びに行きたいなぁ”

 特に学校が嫌いという訳ではないが、とにかく私にとって毎日が普通でつまらなかった。私は暇つぶしにでもと思い、窓の外を眺めていた。何の変わりもない青い空、もう夏も近いせいか運動場にある桜の木の桜が、葉桜に変わり始めていた。
 何処を見るわけでもなく、ぼや〜っと外を見ていると一気に目が覚めた。私の目に飛び込んできたもの、それは一人の女性だった。
 しかも何十回もあるマンションの屋上の上でフラフラと体を揺らせながら立っていた。
“おいおいおい! あんなところから落ちたらひとたまりもないよ…何やってるんだろぅ、あの人…まさか、自殺!?”
 いろんな想いが頭に浮かぶ中、私はその女性に釘付けだった。あっ!! と思った瞬間その女性はマンションの屋上から飛び降りてしまった。
“うわっ、最悪…自殺の瞬間見ちゃったよ…”
 眠気は一気に覚めたが、気分は最悪だった。
 最悪のまま授業が終わり、私は教科書を片付け家へと向かった。帰り道を歩いている時一つの事に気が付いた。
 今日見た、自殺した女性。彼女が飛び降りたマンションは私の帰り道の途中にあるところだった。私はまた重い気持ちになりながら道を歩いた。
 そのマンションの前まで来た時、私は自分の目を疑った。普通自殺したとなれば、そこには警察がいたり近所のおばさんがその事に対して何か噂をしているものだ。
 しかし、警察の姿はなく、近所のおばさん達はいたけど今日のスーパーの割引がどうとかそんな事ばかり話していた。
「…? 何で警察来てないんだろう」
 私は不思議に思い、ちょうど買い物帰りの隣に住むおばさんが通りかかったので聞いてみた。
「ねぇ、おばさん。もう警察の人は帰ったの?」
「あら、美咲ちゃん。今学校の帰りかい?」
「うん。で、警察の人はもう帰ったの?」
 私の質問におばさんは眉間にしわをよせた。
「警察? 何か事件でもあったのかい?」
「だから、今日ここで飛び降り自殺あったでしょ?」
「…? 美咲ちゃん、何かの冗談かい? 今日は警察の人も来てないと思うし、第一自殺なんてなかったよ」
 そう言い、おばさんは不思議そうな顔をしながら歩いていった。
“自殺何てなかった…じゃあ、私が見たのは何? 確かに女性がここのマンションから…”
 私は頭を抱えながら家へと帰った。

――その日を境に私の生活がくるいだした。

 その女性は、頻繁に私の前に姿を現すようになった。学校の帰り道、電信柱の後ろにいたり。放課後、学校の運動場に一人立っていたり…
 私に話しかけてくるわけでもなく、ただひたすら泣きながら私の事を見ていた。最初はほかっておこうと思っていたのだが、近頃は毎日見るようになり流石に怖くなり私はその事をお母さんに相談してみた。が、お母さんは私が冗談を言っていると思い真剣には聞いてくれなかった。
 しかし、急にその女性は私の前に姿を現さなくなった。そして、いつしか私も彼女の事を次第と忘れていった。

 彼女が姿を消してから何週間と日が過ぎていった。私の生活もいつもの平凡なものへと戻っていった。
 暑い暑い夏の日だった。私は夏休みの真っ最中で、今日も学校のプールで一泳ぎし今は家の中で一番気に入っている畳の部屋で大の字になって寝転がっていた。
 扇風機の風が心地よく私はいつの間にか眠ってしまっていた。

“何故、来てくれないの? 寂しい…寂しい…”

「いやゃゃゃゃゃゃ」
 私の悲鳴が家中に響き、夕飯の支度をしていたお母さんがすごい勢いで飛んできた。
「どうしたの!?」
「はぁはぁ。夢の中であの女の人が私を追いかけてくるの! 私怖くておもいっきり走って逃げたの…でも、あの人もすごい勢いで追いかけてきて。私腕を掴まれたの。それであの人こう言ったの…“何故、来てくれないの? ”って」
 私は恐怖で体が震えた。そして掴まれた腕に鈍い痛みを感じ見てみると、私は息がとまりそうになった。腕にあざが出来ていたのだ…しかし、そのあざはどこかおかしい。夢の中で私の腕を掴んだのは私より少し年上の女の人。でもそのあざは女の人が掴んで出来るようなあざではなかった。これは…

――赤ん坊……

 私のあざを見た瞬間、お母さんの顔色が一気に変わった。
「どうしたの? お母さん。顔が真っ青…」
「美…咲…今日は何日?」
 震える口調でお母さんは今日の日付を私に聞いてきた。
「四日よ…八月四日。でも、何で?」
 八月四日と聞きお母さんはその場で泣き崩れてしまった。“ごめんね”と呟きながら。
 そして、お母さんは涙を流しながら話し出した…私が生まれる前の事を…

 私が生まれる二年前、お母さんのお腹の中には一人の赤ちゃんがいたらしい。お母さんもお父さんも初めての子供だったから生まれるのをとても楽しみにしていた。でも生まれてきた赤ちゃんは死産だった。赤ちゃんは女の子だったらしい…そして、その子が生まれ、死んだのが二年前の今日八月四日…
「私にお姉ちゃんがいたんだぁ。でも、夢の中ではすごく怒っているような感じだったよ?」
「恨まれても当然だわ…お母さんね、赤ちゃんが死んだって信じれなくてね。お父さんが泣きながら抱いている子に向かって“この子は私の子じゃない!”って言ったの。それ以来、あなたが生まれてもあの子が死んだという事を認められなくてね…まだ一度も行ってないの…あの子のお墓参りに…」
 お母さんの目からは次々と涙が溢れてくるが、お母さんはそれを拭こうとしずぼぅっとどこか一点を見つめていた。
「…名前は? お姉ちゃんの名前?」
「ないわ…つけられなかったの…」
「今からお姉ちゃんのところに行こ! お姉ちゃんきっと寂しいんだよ! ね? お母さん」
「今さら行ったってあの子はゆるしてはくれないわ…」
「許してくれないかもしれない…でも、お姉ちゃん言ってたよ? 何故来てくれないの? って。行こうよお母さん。このままじゃ、お姉ちゃん可哀想だよ…」
 私は自分の服の裾をかんかんに握りしめていた。そんな私を見てお母さんはようやく涙を拭き、行こうかと立ち上がった。

 夕焼けの差し込む電車にゆられて、私とお母さんはあるお寺に行った。そこは、水子供養のお墓があるところだった。
 私は一番のお気に入りのうさぎのヌイグルミ、お母さんは両手いっぱいのお菓子を持っていた。私とお母さんはそれをお墓の前に置いて、両手を合わせて合唱した。空気でお母さんが泣いているのを感じた…

“この世界の事何も知らずに逝ってしまった、私のお姉ちゃん。当たり前の事がお姉ちゃんには出来なかった。ごめんね、お姉ちゃん…。来年からは家族みんなで会いにくるからね”

 私とお母さんはなかなかお墓の前から離れる事が出来なかった。
「ねぇ、お母さん。名前…帰ったら、みんなでお姉ちゃんの名前かんがえようよ! せっかく、私お姉ちゃんに会えたのに名前無しなんて嫌だよ」
「そうね、名前つけてあげなきゃね…この子も私にとって大切な娘なんだから…」
 お墓の前で少し沈黙が続いた。するとお母さんが、帰ろっかと呟いた。私はうん、と頷きお母さんの手を握った。

 バイバイ、お姉ちゃん。来年はみんなで来るからね…毎日が普通で当たり前だけど、私はそれを大切にして生きていくよ…

――今はまだ名のないお姉ちゃんのためにも…

2004/12/27(Mon)23:40:55 公開 / 満月
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■作者からのメッセージ
満月です。何だか短編書いてみたいなぁと思いながら書いて見ました。…でもはやまったなぁ(泣)内容がしっかりとまとまっていないような…とにかく、感想、指摘もらえるとありがたいです。

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