『切り裂きジャックの歌声』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:春の七草                

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都内の、とある高校。
一部の教室の空気は、ざわめいていた。
「…ねえ、聞いた?」
机に座っている一人の少女が、後ろの席の友達に話しかける。
「聞いた聞いた。…本当なの?」
話しかけられた少女は青ざめた顔をして、聞き返した。
「そうらしいんだよ。うちのクラスの人が見たって」
少し自慢しているふうに喋る少女。
「誰?」
少女が、問う。

「…宮城透子」

その名前が響いた途端、ざわ、と教室が一斉にざわめいた。


「……うわ、こりゃあひどいなぁ」
一人の警察官が、驚きの声をあげた。
「言うなよ。…俺だって、あまり気分が良いってワケじゃない」
もう一人の警察官が、帽子を被り直してから、言った。
清水 晶、警視庁捜査一課殺人科の刑事は、そのやりとりを黙って聞いていた。
晶は女性だった。私服だと一般市民と変わりない容姿だ。美人と言えば美人である。
晶は捜査のためにここにきていた。捜査員が現場検証してからじゃないと、身元の確認やらができないからだ。
ここは先ほどの学校の校舎裏……一般教室からは見えない、駐車場だった。
念のため生徒からは見えないように、ちゃんとブルーシートで周囲が囲まれていた。
「…さて、と」
警察官が、呟いた。
「現場検証、しようか」
まず、ポラノイドカメラを取り出した。

ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ。
無機質なポラノイドカメラのシャッター音が響く。
そのたびにカメラの標準に入っているものがぶちまけている液体が、艶かしく光る。
「……うっ」
思わず、晶の口から声が漏れる。
その様子を見て、捜査員の一人が「大丈夫ですか?」と、晶に声をかけた。
大丈夫ではなかったが、晶は「大丈夫です」と言って笑顔を浮かべた。
「それより、……写真、拝借してもいいですか?」
「いいよ」
といって、捜査員はポラノイドカメラから現像された写真を、晶に手渡した。
「…ありがとう」
そういって晶は、少し捜査員たちからはなれた場所で、送られてきた資料と写真を見比べる。

櫛灘亜由美。この高校…野口山高等学校の2年生。

学校から借りてきたクラス写真と、ついさっき撮られた写真とを見比べた。
……一致か。
死亡してからしばらく経過しているので腐乱などで同一人物とはあまりにも思えないが、微かに面影は残っているので、晶は同一人物と断定した。
ついさっきDNA鑑定が始まったと聞く。しばらくしたら結果が報告されるだろう。
(…それにしても)
現場写真を、晶はじっと見つめた。
(ひどい死にざま)
心の底から、そう思った。
死体は腐乱していてそもそもがひどいのだが、それでいてもやはりひどい殺され方をされたのだろうと察した。
死体は腹を引き裂かれて中身がそこら中に散乱し、腕は奇妙な方向へねじれている。首は……切られたのだろうか? 半分ちぎれかけて腕と同じく考えられない方向へ曲がっていた。
「………どう? なにか分かる?」
その声で物思いにふけっていた晶は現実の世界へ引き戻された。ついさっきの捜査員だ。
この捜査員と晶は現場検証でたびたび顔を合わすのだ。だからなのかこの捜査員(名前は笹木さんだ)は晶に気軽に喋りかけてくれる。
晶は小さく首を横に振る。
「いえ、…それにしてもこれは一体?」
晶は写真を指差して言う。
「え? ああ、よく分からないんだが……、近頃こんな仏さんが多くてさ。警察としても、猟奇殺人で捜査してるだろう?」
「あ、はい。そうです。本部長が嘆いてましたよ。これで今年の休みは全部潰れるー、って。警察としては、早く事件を解決したいですから」
「そうだよなぁ。というより、犯人を検挙できずに迷宮入りすると、警察の信頼が落ちるから、そっちのほうも大変なんじゃない?」
今の事、上司に言わないでくれよ、と捜査員は笑いながら言った。そしてすぐに呼び出しがかかり、「頑張れよ」と言い残して小走りで現場へ向かっていった。
晶はしばし、写真を見つめて思考を巡らせていた。


2004/12/15(Wed)20:58:34 公開 / 春の七草
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■作者からのメッセージ
初投稿です。
いやはや、年の巧というものは存在するんだなあ、とひたすらに実感しています。
やはり未熟者です。渋柿です。
こんな渋柿が書いたブツです。経験者様から見たら駄文でしょう。ツッコミどころがあればどんどんつっこんでください。お願いします。

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