『Shade of Buildings 〜プロローグ〜』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:紅                

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〜プロローグ〜

「・・・はぁ・・・はぁっ・・・!」
20××年。かつて思い描かれていたそれとは違い画期的な発明も無ければ核戦争もロボットの反乱も起こりそうに無い、ただいたずらに年月だけが過ぎてきただけの味気ない未来。
無機質に聳え立った超高層ビル群の隙間。真昼でも光の差さないその人工の密林を一人の少年が走っていた。空には灰暗い雨雲が横たわっている。
「くそっ!しくじった・・・・」
よく見ると少年は何かを抱えている。傷だらけの腕にしっかりと抱かれたそれはカメラのように見えた。
その表情を見れば待ち合わせに遅れそうで急いでいる、と想像できる人間はいないだろう。頬には擦り傷やら切り傷が無数にある。
「!!?」
と、不意に少年が足を止める。その眼前にサングラスをかけ、派手な柄のシャツを着た、どう見てもそっちの筋の人々が待ち構えていた。
後ろからも足跡が聞こえる。
どうやら完全に囲まれたらしい。前にも後ろにも逃げ道は無く、左右は壁、足元にも都合よくマンホールがあるわけでもない。まさに絶体絶命四面楚歌の状況といえた。
男のうち一人が前に出た。
「よォボウズ。大人しくそれを渡しな。そうすりゃ――――」
「命だけは助けてくれる?」
少年はこんな状況にいながら不敵な笑みを浮かべて見せた。その表情はもうすっかり覚悟を決めた様子だった。
男も笑みを浮かべると懐から銃を取り出し、少年に突きつけた。
「・・・・・楽に死なせてやるよ!はははははは!!」
男の高笑いがビルの壁に反響して響いた。
「やっぱりか、くそっ!!」
少年は男に向かって体当たりを仕掛けた。が、やはり少年の力では男はびくともしなかった。逆に腹に一撃を喰らい少年は膝から崩れ落ちた。
「がっ!・・・はっ・・・・!」
「馬鹿な奴だ。渡す気が無いならジワジワといたぶって殺らせてもらうか。」
倒れた少年に男は何度も蹴りを入れた。だが、少年は胸に抱えた「それ」を離そうとはしない。男は短く舌打ちすると、少年の髪を持ちぐい、と顔を上げさせた。
「何考えてんのか知らねえけどな。殺るっつったら本気で殺んぞ?どうせ今の世の中じゃガキ一人死んだところで大して騒がれねえんだからよ。」
男の言う通り、近年この国で犯罪は激化しており殺人、強盗はすでにニュースですら報道される事もなくなっていた。
つまり少年一人殺されたところでたいした捜査もされず、ましてやこのビル群が死体を覆い隠し何ヶ月も発見されないことだろう。男が少年を殺すことに何のリスクも無いのだ。
だが、この状況に置かれてなお、少年は笑みを絶やさなかった。
「・・・・・殺すなら殺せよ。どうせ生きていたって意味は無いんだ・・・・」
男は眉根をぴくりと上げた。
「・・・・そうか、じゃあ死ね。」
そう言って銃を少年の額に押し付けると撃鉄を後ろに引いた。
少年はゆっくりと目を閉じた。その表情には恐怖だとか後悔だとかは一切無く、ただ全てを諦めたように黙っているだけだった。



空から雨が降り出した。



「うわぁ!」「ぎゃあ!!」
と、不意に路地を取り囲んでいた男たちの方から悲鳴が聞こえた。男が慌てて顔を上げるとそこにはもう意識がある人間は四人しか存在しなかった。
一人はマフィアの男。一人は少年。
そして後の二人は、

「ったく、人の通り道で弱いもの苛めしてんじゃねえよ。」
「そこの子大丈夫ー!?」
一人は黒のコートを着た目つきの悪い長髪長身の男。もう一人は茶色のセミロングヘアーに蒼い瞳の美少女だった。二人の足元には屈強な男達が積み重なってのびている。
男はその身体に見合った大きな剣を、少女は小型の拳銃をさげていたが、それらを使った様子は無かった。
「お、お前ら何モンだ!!俺らが誰だか分かってんのか!?」
マフィアの男は後ずさりながら二人に銃を向け叫んだ。震えた声がビルの壁に反響して響いた。
「うるせーな、叫ばなくてもわかってるよ。弱いものいじめが趣味のクズどもだろ?」
男のほうが面倒くさそうに言った。
「!!貴様!!!ぶっ殺す!!」
その言葉が神経を逆撫でしたらしくマフィアの男は逆上し銃を男に向けて叫んだ。
男はため息をつくと背負っていた剣を抜いた。しかしその剣は本来刀身があるべきところに刃が無く、柄と鍔だけの「剣」と呼べるかどうか怪しい代物だった。
「舐めてんのかてめぇ・・・こっちは銃だぞ!!剣使ってる事自体イカレてるってのに刃がないだと!!ふざけんな!!」
マフィアは怒りに任せ銃を乱射した。男は剣を正眼に構えた。

ドカッ!!

と、少女がいきなり男を蹴り飛ばした。銃弾は少女のほうに突き進んでいく。
しかし、少女が手をすっ、と扇ぐと銃弾は勢いを失いそのまま地面に落ちた。
「・・・・・・・なっ・・・」
目の前で起こった事が把握できずマフィアは銃を構えたまま絶句していたが、状況を理解すると、
「お、覚えてろ!!」
とお約束な言葉を言い残し逃げ去って行った。


少年は目を丸くして目の前の光景を眺めていた。どうやら命は助かったらしい。命の覚悟はしていたはずだが不思議と自然に安堵のため息がこぼれた。それと同時に蹴られた痛みが急激に襲ってきて、少年は気絶した。
薄れていく意識の中で男と少女の言い争う声が聞こえて来た。

それは、少年の失った、どこか懐かしい響きだった。








2004/12/01(Wed)01:02:59 公開 /
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■作者からのメッセージ
始めまして。紅と言います。
プロローグなのに予想外に少し長くなってしまいました。
まだまだ未熟者な新参者ですがご感想、アドバイスなどいただければ幸いです。

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