『氷夜 【読み切り】』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:流浪人                

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 走った。凍えるような寒さの中、雪に覆われた道路を、僕はひたすら走った。昨日までの景色がまるで幻だったかのように、降り積もった雪が僕の走りを妨げる。
 だが、走らなければならない。今ここで走るのを止めたら、きっと僕は一生後悔する。
 闇に染まった空の下、目指す場所へ僕は走り続けた。

「私たち、ただの友達だよね?」
 昨日、彼女はそう言った。その一言に、僕は何も言い返すことができなかった。
 告白は、一切なかった。同じ高校で、大学受験のとき、お互いに励ましあった。仲の良い女友達、そんな感じだった。しかし、いつしかそれは友達の領域を超えていた。告白なんていらないと思った。お互いに相手のことを分かり合っている、それだけで充分だと思った。少なくとも、僕はそう思っていた。
 本当は、言いたいことが山ほどあった。
 少なくとも僕は、付き合ってると思っていた。お互いに分かり合えてると思っていた。なのに、君はそう思ってはいなかった。なぜだ。僕は君を喜ばせようと、出来る限りのことをした。精一杯の愛情を傾けてきた。なのになぜ、君はそんなことを言うんだ。僕の今までしてきたことは、何一つ君には伝わっていなかったのか――
 帰り道、秋の終わりが目に見えてわかった。もうすぐ、雪が降る。秋という季節とともに、僕の恋は終わったんだ――
 
 翌日、天気予報は外れ、雪は降っていなかった。その時、僕の中でわずかな可能性が目を覚ました。
 彼女は、僕を試したのではないか――
 もし僕が本気で彼女を好きなら、ただの友達じゃないと言う。彼女はそう思い、僕を試したのではないか。
 自分勝手な考えかもしれない。思い込みの激しい哀れな男の、ただの願望に過ぎないかもしれない。だがそれでもいい。万に一つでも可能性があるなら、僕はその可能性に賭ける。まだ秋は、終わってはいないのだから。
 だが彼女は、家に居なかった。勇気を出して、彼女の母親に聞いた。「行き先はわからないけど、夜まで帰らないって言ってたわよ」
 思いつく限り、彼女との思い出の場所へ走り続けた。だが、どの場所にも彼女は居なかった。山宮公園についた時、すでに雪がちらほら降り始めていた。僕はベンチに座り、秋の終わりを眺めた。今度こそ、僕の恋は終わったんだ。
 もうすぐ雪が積もり、真っ白な世界が現れたら、僕の思い出も消える。そしてまた、いつもの日常が始まる。ただ、それだけじゃないか。
 なのになぜ、涙が止まらないんだ。思い出を消すのに、涙なんていらないはずなのに。なぜだ。なぜだ・・・・・・
 自問自答を繰り返していた僕の頭に、一つの思い出が浮かんだ。それは去年の冬、彼女とある公園に行った時のものだった。
 あそこだ。直感と同時に、体が動き出していた。もう道路は、大部分が雪で覆われていた。空は闇に染まり、雪の白さだけがきわだっていた。
 凍るように寒い。指先は、もうほとんど動かない。だけど、走るのをやめるわけにはいかない。今ここで走るのを止めたら、僕は一生後悔する。
 視界に目指す公園が入った。あそこだ、間違いない。きっとあそこに彼女はいる――
 しかし、公園のベンチには、誰も座っていなかった。僕はベンチに座り、噴水を眺めた。
『なーんだ、噴水止まってるじゃん』
 彼女との思い出が、鮮明によみがえる。
『そりゃそうだ、だってもう真冬だぞ』
 そこには、彼女の笑顔があった。確かにそこには、僕と彼女の日々があった。
『じゃあさ、今度は夏に噴水見に来ようね!』
 夏じゃないけれど、雪が降っているけれど、僕は見に来たぞ。君との約束を、果たしにきたぞ。
 僕の頬を伝う、涙という名の思い出は、ズボンの上でゆっくりと氷を作ってゆく。その氷が、冬の始まりを、静かに僕に告げた。

2004/11/23(Tue)22:26:24 公開 / 流浪人
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どうも皆さんお久しぶりです。これから少しずつ読み書きを始めようと思っています。
タイトルは、ヒョウヤと読みます。今までとは違った作風ですが、感想・批評おまちしております!

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