『電話ごしにて』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:時里                

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 数回のコール
 引き寄せた画面に映る名前は良く知った人のもの
 懐かしい音。懐かしい口調
 懐かしい口癖。懐かしい笑い声
 ベッドに寝転んでいるせいか体はほんわかと温かくなり
 かけふを胸に抱いて、穏やかなお喋りに興じる

「がんばってるんだなぁ」
「そうでもないって。先生に甘えてるだけ。ってか、絶対おまえのほうががんばってるよ。知らない人ばっかなんだろ?」
「そうでもない。小学校からのもちあがりのやつらも何人かいるし、何より日本語だし、授業」
「あ〜。英語の授業はちょっときついものがあるぞ」
「だって国語が英語なんだろ〜?」
「だからそうだってば。めんどくせ〜。数学の文章題まで英語だぞ?ありえないだろ」
「うわ、なにそれ」

 時々笑って
 時々眠くなって目をこすって
 いつのまにか時間が過ぎて
 お互いの声が頼りなくなってきた頃

「颯汰」
「ん?」
「がんばれよ」
「・・・・・・・」
「颯汰?」
「浅葱も、がんばって・・・」

 『がんばれ』
 ただその一言だけで涙が溢れる
 嗚咽にもならない。声にも影響しないほど微かな涙だけれど
 確かにその言葉は静かに静かに胸に染み込み、響きわたる

 お互いに泣いているなんてさとらせない
 だって恥ずかしいから。親友に対しての唯一の強がりだから
 会いたいよとも言わない
 それは自分だけの言葉ではないと知っているから。信じているから

「がんばってるよ」「がんばってる」

 そう伝えるだけでいいんだと思う
 いろんなことが辛いけど、体に篭ったぬくもりは次に話しができるまで心を暖め続けてくれるはずだから

 それでも涙は止まらない
 嬉しすぎて、安心しすぎて
 あの頃のようにお互いを励ましあっていた日々に戻ったように
 けれどそれはない。あの頃は嬉しくて泣くなんてこと、無かった
 心の成長のあかしだ

 そんなふうにぼくらは、あの、夢を見るだけだった日々に別れを告げなくてはならなかった
 離れ離れになって、大人にならなくてはならなかった

「がんばれよ」
「がんばって」

 お互いに相手が泣いているのは知らない
 けれど、確信を持つ
 あの子は泣いている。鏡といわれた僕等だからこちらが泣けばあちらも泣く。そういうふうになっているんだ

「颯汰」「浅葱」

 最後にいつでも声をそろえて
 指先でそっと頬を拭って

「「おやすみ」」

 そう言ってふたり同時にボタンを押す
 胸に残ったぬくもりをかけふと共に抱きしめて
 二人はしばし目を瞑る





『おやすみ!』
『浅葱、明日は公園いこーね』
『うん。ブーメランとかバドミントンとかやろう!』
『みんなさそって遊びにいこ!』
『そだね。じゃぁ、おやすみ!』
『おやすみ。僕が起こす前に起きてなきゃだめなんだからね』
『わかってるったら!』

 あの頃を思い出しながら

「あしたあそぼーよ」

 約束なんかしなくたってそれが当たり前だった日々はもう遠い遠い過去のこと
 

2004/11/22(Mon)17:41:23 公開 / 時里
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■作者からのメッセージ
私が書いている、とある連載の登場人物2人に登場してもらいました。
優しい言葉と雰囲気になるよう努力した短編です。
未熟な点を思ったとおりにバシバシ指摘して貰えると嬉しいです。

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