『見えない蝶々【読みきり】修正版』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:柳城卓                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142


 見えない蝶々 【読みきり】


 太陽がギラギラと輝く夏、木陰に腰を下ろす少年が一人。
 路場葉、それが少年の名前だった。
 茶髪にジーパン、おまけにピアス。どこからどう見ても不良だった。
「ミチバ、ミチバ、ヨウ。おい、聞こえてるか?」
 ためしに、近くで言ってみる。
 返事が返ってこない。
 彼にはこちらの姿が見えないらしい。
 ――と、自己紹介が遅れた。
 私は諏訪海斗。既に死んでいる。この世で言う、ユーレイというやつだ。
 つまり、路場葉には霊感がないということだ。
 何故、私が路場のそばにいるかって?
 私は路場翔という人物に殺された。
 お気づきだろうか。そう、私は路場葉の実の父親に殺されたのだ。
 しかし、路場翔は死んだ。
 私は、息子である「路場葉」に、父親に与えるはずだった「罰」を与えることを決意したのだ。
「路場くーん、何やってるのお?」
 女の声、走ってくる音。
 間違いない、路場の幼馴染の浅瀬恭子だ。
「ハァ、ハァ…。ヨウちゃん、ひどいよ! 私をおいていくなんて」
 どうやら二人は待ち合わせをしていたようだ。
「…別に、俺の勝手だし」
 路場は反省している様子がない。
 浅瀬はぷうーっともちのように頬を膨らませた。
「ずるい。ずるいよ、ヨウちゃん。私だけ、置いてけぼりみたいじゃない! 朝子さんならそんな反応しないくせに。な、なによう!」
 そういうと、浅瀬は走って去っていった。
 と、すると…、浅瀬は路場を好きで、路場は「朝子」という奴を好き…、ということだろうか?
 ふふん、面白いことになってきた。路場と浅瀬と朝子…か。こいつは利用できそうだぞ…。
 
 
「諏訪海斗?」
 私はぎくり、とした。
 聞いたことのない女の声だった。
「ね、葉。諏訪海斗でしょう? 葉が、キョーコちゃんを嫌う訳」
 路場は無言でうなずいた。
「流石。鋭いな」
 ふふっと、優しく笑う女。あいつが、朝子か?
 オレンジ色の変わった髪だ。背も高く、とても目立つ。
「諏訪海斗、ね。あなたのお父さんが殺した女。…そうでしょう?」
 余裕に満ちた笑み。
「ああ」
 私には意味がわからなかった。何故、路場は浅瀬を嫌うのか? そして、その理由は私なのか?
「恭子が諏訪を殺したがっていたから」
 その一言に、背筋が凍りついた。
 さらっと言われたから、なおさらだった。
 路場の父が、私をたまたま見かけて殺害したのではなかったのか?!
 それが、本当の真実なんだろうか…?
「恭子は親父の共犯者だから」
 ポツリ、と路場がつぶやいた。
 共犯…だと?!
「恭子は諏訪を羨んでいた。成績もよくて、可愛くてかっこういい、諏訪を。…そして、俺の気持ちが諏訪に向くのを拒んだんだ」
 浅瀬、あいつが?
「キョーコちゃん、きっと後悔してると思うよ。ねえ…許してあげたら?」
 朝子の長い髪が揺れる。
 路場は体をおこし、言った。 
「誰であろうと、親父に殺害を頼んだ奴は虫けら以下だ! その挙句、親父は死んじまった。ベランダから、誰かに押されてだとよ。…誰だとおもう? …恭子だよ、恭子」
 私ははっとした。
 路場翔が死んだ理由。
「事件の真相を知っている奴を消そうと思ったんだよ。…でも、バカだな。親父は俺宛の手紙を書いていた、自分がもうすぐ殺されると察知して」

 ―葉。
 俺の命はもうすぐ奪われるだろう。
 諏訪君を殺してしまった。
 恭子ちゃんに頼まれて、断りきれなかったんだ。
 『諏訪海斗を殺して』ってね。
 初めは、『駄目だ! そんなこと』って、俺も否定してたんだよ。
 でも、断れなかった。
 恭子ちゃんの母親である人を殺したも同然なんだからな、俺は。
 彼女は、お前の唯一の理解者でもある。
 俺が死んでも、あんまり恭子ちゃんを責めないでやってくれ。
 お前への愛ゆえだったのだよ。

 P.S 朝子によろしく

「これ、おじさんが…?」
 朝子の目は潤んでいた。
 今にも涙があふれるか、というくらい。
「そうだよ」
「恭子の母さんは、親父が事故に遭いそうになった時、かばって…。それで、だ…。だから、親父は断れなかったんだと思う」
 朝子は口を押さえた。
「…おじさん…」
 
 夕日が、沈みかけていた。

 結局、恭子が共犯者ということは路場、朝子、そして私の3人以外誰も知らない。
 死んだ、路場翔を抜かせば…。

「諏訪、奇麗だったぜ。死んでも」
 帰り際、路場が言った一言だった。
「そうね、諏訪さん格好良かったわ…」
 朝子も、何をいっているんだよ。
「もしかしたら、諏訪俺に怨み抱いているかもなあ!」
 ――図星だった。
 涙が止まらない。こんなにもそばにいるのに!
「諏訪の墓、よってこうぜ」

 見えない蝶々という話。
 美しい翅を広げても、翅を見てくれる人は誰もいない。
 存在に気づくものも誰一人として。
 そんな私は見えない蝶々。
 

2004/11/03(Wed)13:46:59 公開 / 柳城卓
■この作品の著作権は柳城卓さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿しました。柳城卓です(やなしろたく)
読み切りを描いてみました。
まだまだ未熟ですが、これからがんばって描いていきたいと思います!

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。