『天使の願い事  その@〜そのC (オムニバス』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ねこふみ                

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 ――この世界はただ平凡で、平凡に終わっている。
 けれどそれは違う。
 本当の世界は、不思議で溢れているのだ。
 そして、不思議で溢れた世界の中で彼らはある共通の不思議と出くわすのだった――


『天使の願い事』


その@ 天使と願い事


プロローグ

 俺は夢を見ているのだろうか……。
 きっとこれは夢だ……。
 だって俺の目の前に……。

「私は天使よ。まったく君は信用ないのね? 失礼しちゃうんだから、もぉ〜」
 なんという表現が正しいのか俺自身困っている。俺の目の前に確かに自称『天使』と名乗った少女がいる。そいつは確かに今朝拾った、怪しいツボを擦ったら出た。紛れもなくそのツボから出てきたのだ。
 けれど天使などいるはずが……ない。
「もぉ〜? 聞いてるの〜? アナタの願い事を三つ叶えないと私天使界に帰れないんだ、から早く私を天使だと認めて願い事言いなさいよ〜!」
 歳は23歳。アパートに一人暮らし。彼女なんて居たことなどない。友達だって、相談されるけど、内気で自分から遊びに誘ったり誘われたりなんてない。
そんな俺は自称天使となる少女に出会ったのだった。

本編

 彼女は胸元を大胆に開けた白と青をメインとする服装でgを纏っていた。歳は18……いや、それ以下かもしれない。足まで伸びた黒く長い髪。そして可愛らしい容姿に似合わないまさにナイスバディーなボディー……彼女のいない俺には何カップかは検討できない……。そして可愛い顔から大きく見開かれた目は確かに俺を見ている。
 瞳に映る俺は、なんて惨めな姿なんだ……そう考えてしまうほどだ。
「ちょっと〜? どーでも良くないけどさぁ〜、さっきから何ジロジロ見てんのよぉ〜!?」
 彼女目は釣りあがる。天使が怒ったような顔になったが、やはり天使は天使。可愛い顔だった。そして俺はその天使に一目惚れしていた。
「あ、あの……その……。君は……なんていうの? あ、俺はヒロシ。安藤ヒロシ。ヒロシで良いよ……で、できれば」
 できればヒロポンでも……なんて言えるはずがない。ヒロポンと呼ばれるのは俺の小さなころからの密かな夢である。まぁーこんな夢しかもてない哀れな人間ということだ。ついでに今まで呼んでくれる人なんているはずがなかった。
「ヒロシね。ねぇー私は天使なの。わかる? て・ん・し! そんでね? さっきから言うように、私は出してくれた人の願いを三つ叶えなきゃ帰れないの! だからさっさと願いを言いなさいよ!」
 彼女は苛立っていた。何度も言うが、カ・ワ・イ・イ顔が怒っても、それはまた可愛く見えてしまうのだ。俺は『彼女は天使』というのを認める事にした。
「ね、願い事……え、えっと〜……」
「ほらぁー、大富豪になりたいとか〜、彼女がほしいとかぁ〜あるんじゃないの?」
 ……彼女が居ないのがばれてた。いや、居るように見えるはずがないか……まぁーいいや。俺は彼女の言うことに頷いていた。金と性は最もだ。そして一生の健康を得れば怖いものなどない。――そうだ、これだ――俺は彼女に願い事を叶えてもらうべく思い切って言ってみることにした。
「そ、それじゃぁー! 大富ご……」
「はぁー、彼氏怒っちゃうよ〜」
「うっ?」
 彼女はボソっとつぶやいた。『彼氏』という単語が天使にしっくりこないが、人間も天使もやはり恋愛なくして子孫繁栄なんてできるはずないか……。しかもこんな可愛い娘ならそれ相当の悩みがあるはず。
「か、彼氏……って?」
「え?」
「何か悩みあるの? 俺でよければ聞く……けど?」
 何を血迷ったか俺は……。俺は中学の頃から他人の悩みを聞いてきた。そして悩みを聞き的確なアドバイスをするため、周りからは『良い人』と思われるようになった。しかし、何故か良い人止まり。よくいるような感じだ……良い人で終わってしまう人なんて……。
 情けないとは思いながらも俺は彼女の相談に乗りたいと思ってしまった。ついでに言えば失恋でもある。
「良いの? 聞いてくれるの?」
 俺は頷く。
「実はね……彼二つ年上の先輩なの……。私とはまだ三ヶ月なんだけどね? なんかもう飽きられてるって感じがして……。彼もてるんだ〜、それに独占意欲高くて……。それで今こうしてる間にも嫉妬してるんじゃないかって? 前だって、その時すごく怒って……」
 俺は所々で相槌をうっていた。良くある恋の悩みだ。俺はこんな悩みを今まで何度も聞いてきた。
「そっかぁ〜……。辛いけど三ヶ月ってのは恋人同士にとって一番大切な時だって人間界では言うの知ってるかな? 脳内の恋愛に関する何とか神経が、三ヶ月を過ぎると下降か上昇するんだってさ。天使もうそうかわからないけど、恋愛する事によって高ぶった感情を三ヶ月過ぎた時、まだ維持しているか、してないかなんだってさ。まだ相手が好きでいるならそれは列記とした恋愛だし、彼だって遊びで付き合うわけないさ。大丈夫。怒ったのは君が可愛いから誰かに奪われちゃうんじゃないか? ていう彼の優しい心だと思うよ。君はまだ彼に大事にされているのさ。最高の幸せモノだよ」
 恥ずかしい言葉をよく言えるな……昔からそうだけど。俺は彼女に励ましの言葉をかけた。彼女は目に涙を溜め込んだ。効果覿面。けれど俺の日本語はおかしい……とっさに思いついた言葉だからといって下降とか上昇ってなんの事だ、と自分でも思う。
 あぁ〜恥ずかしい。
「エミリ、そんなこと言われたのはじめてぇ〜! ウワァ〜ン。君って、エク。優しいんだね〜エク」
 どうやら彼女の名前はエミリというらしい。エミリは涙をこぼしながらも、どうにか耐えようとしている。そうだよね、と何回も連呼し、俺に対して『優しい人』という言葉を何回もくれた。
 可愛い声で初めて間近で泣かれた俺はなんとも言えず、抱きしめようかとも思ったが彼氏のことも考えそっとしておこうと思った。
「じゃぁー君はエク。エミリが幸せになってほしいって思う〜? エク」
 エク、エクと妙な泣き方をしながらも俺に聞いてくる。
「あぁーそう思うよ。なってほしいって」
 なんて俺は優しいのだろうか……。俺はこんな幸福を味わったのは久しぶりだった。可愛い女の子の相談を聞いてその子が喜ぶようなことを言い、そしてそれに満足している。
 そんなことを思っている俺の前で再び立ち上がった彼女は泣きながらこう言った。
「ありがとう。じゃぁねエク」
 そういうと光に包まれツボに再び戻っていった……そしてツボはドアを突き破りどこかに飛んでしまった。
 ……っておい。


エピローグ


 その後俺は、今までの言動を思い返していた。確かに俺は三つの願いを叶えてもらっていた。よく考えればこれもありなのか、と思った。
 一つ目は『彼女の彼氏についての相談を聞きたい』という願い。彼女が呟いた一言で俺はその相談を無性に聞きたくなった。それは俺がここしばらく人とちゃんと話した事がなかったからだ。
 二つ目は『彼女が幸せになってほしい』という願い。これは彼氏とうまくいってほしいという事だ。まぁー彼女のタメにもなるんだしまぁー良いかと思う。
 三つ目について初めはわからなかったが、思い返せば『彼女の名前』だった。まぁー可愛い女の子の名前を聞けたんだし悔いはない……か。
 そんな感じで俺は彼女に三つの願いを叶えてもらった。けれど俺は彼女によってもう一つ、大事なモノを貰った。貰ったというか、なんというかだが。
 俺は今、カウンセラーになろうと必死に勉強を始めた。今まで本気でなろうと思わなかった。けれど彼女によって目が覚め、そして相談を聴きアドバイスをすることが俺の生きがいなんだと、本気で思った。

 願い事を叶えてもらうことは出来なかったが、人が生きる為に必要だろう、『夢』を俺は貰った気がしたのだ。
 
 そして俺は今、カウンセラーと言う夢に向かって走り出すのだった。


■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆

そのA キュートでカワイイ中学生


プロローグ

 天使に出会えた。
 なのに、結局いたのは
 悪魔の――

本編

 私の名前は小山内綾香(おさないあやか)と言って、今年、高校受験のキュートでカワイイ中学生である。……うそではないよ……多分。とにかく私はキュートでカワイイ中学なのだ。
 そんな私は道端で綺麗なツボを見つけた。
「……何あれ、怪し〜い」
「何言ってるのよ! めっちゃ綺麗なツボ♪ じゃな〜い。ランクで言うならシグマね!」
 その日は友達の明日香と一緒に帰宅をしていた。明日香は、道端で私たちの進路をふさいでいるツボを気味悪そうに見ていた。けれど、私はそのツボに『♪』をつけるほど魅入られていた。私は気味悪そうな目で見ている明日香の目の前で、ツボを持ち上げた。
「ちょっと! そんな落ちているモノ拾うなんて、キュートでカワイイ中学生のする事じゃないでしょ!」
「何言ってるのよぉ〜、このツボはどうみて、キュートでカワイイ中学生の私にふさわしいじゃなぁ〜い♪」
 何を隠そう――何も隠してはいないが――私と明日香は『キュートでカワイイ中学生同盟』を作っていた。もちろん二人しか居ない……。それでも、日々キュートでカワイイ中学生になる為頑張っていたのだ。
そんな、同盟仲間であり、無二の親友とでも言えるような明日香は私の言動に驚いた。
「……もう良い……帰る。綾香は私の親友で、キュートでカワイイ中学生だと思っていたのに〜! バカァァァァ〜〜〜」
 そう言うと、明日香は走り出してしまった。しかも、なんでか『バカァァァァ〜〜〜』という最後のセリフがコダマし、更にはスローモーションがかかったような動きだった。なのに、その速さは異常だった。私は『明日香ぁ』と叫ぼうとしたが、既にその場にはいなく、私は明日香を追うか、ツボを持っていくか迷ったあげく、ツボを選んだのだった。
「だって、めっちゃ綺麗なんだもん♪」
 私は満面の笑みを浮かべ、ルンルン気分で家路に向かった。途中、明日香が電柱の影から私を見ているように見えたが、私は気にも止めず、抱きかかえたツボを早く持ち帰ろうと家に急いで行った。
「ただいまぁ〜」
「お帰り。綾香ぁ? 今日こないだのテスト返ってきたでしょ? 見せなさい?」
「……じ、実はま、ママァ〜ン、今日は返ってこなかったのぉ〜」
「ママンはやめなさい! みっともない! まったく……うそばっかり。悪かったんでしょ? どうするの? もうすぐ受験よ?」
「大丈夫だよぉー! それに……、それにママンは! キュートでカワイイ中学生の母親の通称なのぉー!」
 私は泣きながら、そりゃぁ〜もぉ〜、さっきの明日香のような高速スローモーション&『なのぉー!』がコダマしていた。
私は一気に自分の部屋へと逃げ帰り、そしてツボを床に置き、見つめた。
「ママン、気がつかなかったのかな……。あぁ〜テストなんて見せられたもんじゃないよ、まったく」
 私はツボを前にしながら、今日返却されたばかりの答案用紙を取り出していた。数学と英語の二教科だけだったが、両方あわせてなんと111点。……なんていうか、逆に褒めて欲しいものである。
「でも……でも! このオール1は! キュートだわ!!」
 私はそう思った。というより、そう思うしかなかった。そう叫ぶと、下の階から、オール1ってどういうことなの、とママンの声が聞こえ、私はあわてて口をふさぎ、なんでもないと言い放った。
 そして、先ほど叫んだ時、不覚にも唾がツボに少しかかってしまった。私はキュートでカワイイ中学生がする行為じゃないと思い、がっくりと肩を落とし、自らがキューでカワイイ中学生の地位を誰かに奪われるんじゃないか、とヒシヒシしてしまった。けれど、当然その場には誰も居ない。私は、唯一外の電柱をよじ登って、私が早く謝りに来ないかと待っているような顔で窓の外から覗いている明日香にばれないように近くにあったティッシュで唾を拭いた。
 そして……。
「……な、何!?」
 いきなりツボから変な女が現れたのだ。格好はいけていない。つーか白一色の体に金髪のロングヘアーなんて……。
「なんて! 天使のような格好なのぉー!」
 そして、それはキュートでカワイイように見えてしまったのだ。いけてはないが、ランクで言うならオメガだった。
「私は天使。天使のよっちゃん。あなたは?」
 名前もいけてなかった。けれどなんとも言えない名前は最高だった。
「あ、あたしは……綾香。……あなた、天使……なの?」
 私はあいた口がふさがらなかった。そりゃもぉー、アニメで言う『ガビーン』状態だった。額から何か変な線が出ているのが自分でも解るぐらいだ。
「そう。私は天使のよっちゃん。あなたの願い事を一つだけ叶えてあげる為にやってきたの」
 ……ちょっと待ってください。と言いそうになった。だって、普通考えて願い事は三つだろう。それがなんで、一つだけなのだろうか。……いや、それよりもこの現状はなんなのだ……。
「あのぉー……なんで一つなんですかぁー?」
 恐る恐る私は天使のよっちゃんに訪ねてみた。そりゃもぉーキュートでカワイイ顔で訪ねた。
「見習いだからです。見習いは自分のツボが綺麗なんです。だから拾われてもこすられなくて、なかなか出られないのです。汚れているほど、上級天使が出てきます」
「……そ、そうなんだぁー。でも、本当に叶えてくれるんですよね!」
「えぇ。私は天使のよっちゃん。ウソは言わないわ」
 ということは、自分の名前がよっちゃんていうのは本当なんだ……。それはともかく。私はなぁ〜んてラッキーなんだろうか、乙女心をくすぐるこの成り行き……惚れ惚れって感じである。一つだけお願いを叶えてくれるなんて、なんて素晴らしいのだろうか。私は腕を組み考え始める。
「うぅーん。お願い事かぁ〜……ん〜……」
 だが、いざ言われると、困ったものである。何をお願いするべきか……一回というお願いでは、正直少なすぎるのだ。
「ねぇー三つにするってのはなし?」
「なしです。そーゆーのはタブーになっております。ほかでよろしくお願いします」
 なんとも言えない天使だ。どっかのアニメで、七つのボールを見つけたら願い事を一つ叶えてやるっていうので、『今度から三つにしてくれ』というようなシーンがあって、次から増えたような話もあった気もするが……まぁー良いか。
 私は本気で悩んだ。いっぱい、いっぱいお願い事があった。いっぱいお願い事がありすぎて、結局きまらなくて、悩んで悩んで、悩み続けた。

 かれこれ、30分ぐらいが経過した。天子のよっちゃんは痺れを切らしたのか、ん〜とか、むむむという私の声だけしかしていない部屋で、よっちゃんがしゃべったのだ。そりゃぁ〜もぉ〜30分ぶりにだ。
「早くしないと時間が切れます。私は天使のよっちゃん。そして見習い。だから、時間制限あるの」
「えぇー! ちょっと待ってよ! 一時間……ううん! 30分だけ待って!」
「わかりました」

エピローグ

 私は必死になった。目の前にいるのは紛れもない天使。しかも、願い事を一つだけ叶えてくれるというのだ。こんな事があっていいのだろうか。
 私はフルに脳みそを回転させた。友達で『キュートでカワイイ中学生同盟』の明日香と仲直りもしたいし、テストの点をあげたいし、お金ほしいし、健康ほしいし、犬や猫が飼いたいし……悩むこと、29分がいつのまにか経過した。
「決まったわ……。天使のよっちゃん! やっぱり、私を世界一のキューでカワイイ中学生にして!」
 ……間が出来る。そしてよっちゃんは
「さようなら」
 30分経過と共にツボの中に消え、ドアを突き破りどっかへ行ってしまうのだった。
「な、なんで……。なんでよぉー!」
 私はよっちゃんは消えていった、壊れたドアをただボーっと見つめていた。そして、ドアの前には悪魔のような形相をした、母が居るだけだった。
「あ〜や〜か〜〜〜!」
「ヒィィ!?」


■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆


その3 悪魔のような天使のような

プロローグ
 結局俺は天使に出会えたのだろうか。
 多分違う。
 だって……。

本編

 俺の前に現れた天使は名前を『サエキ』と言う。男の天使だ。なんでか、ヤツは俺にお茶を注がせ、せんべいをバリバリ食い、横になりテレビを見ていた。
「てめー、一体何しにやってきたんだ!」
 俺はぶち切れていた。いきなり現れた『自称天使』に俺の部屋が占拠されているからだ。だが、ヤツは何を言っても、
「俺様は天使だぞ、コラ。そんな口の聞き方じゃ〜……お前殺すぞ。マジで」
「ッー……」
 声にならない声を出すってこんな感じだろうか。俺は背中に不気味な翼を広げた自称天使サエキをどう排除するか考えていた。

 思ってみれば今日は久しぶりに大学の授業もなく、バイトもなく暇な日だった。そして、それを見つけた。
「ツボだ……怪しい〜な〜……」
 道端に置かれたツボ。古いツボはなんでか俺の前に立ちはだかった……ように思えた。俺は辺りを見渡す。貧乏性とでも言えばわかってもらえるのだろうか。俺は基本的に『落ちているものは拾う主義』であり『他人のものは自分のもの』なのだ。
「……そ、そいえば〜花瓶なかったなぁ〜! ラッキィ〜〜……ハハハ……?」
 周りに人が居ないか確認しながら、まるで物を盗むように俺はツボを抱きかかえその場からダッシュした。誰かが見ていればあまりにも不自然な行動なので、絶対捕まっているだろう……。

 家に着き、俺はツボをまず水で洗い、タオルで拭いてみた。一吹き二吹き、そして――
「俺様は天使だ。出してくれてありがとな」
 いきなり現れたのは金髪の男だった。体は白で統一された副で覆われ、背中にはなんと翼を生やしていた。そしてその羽はゆっくりと羽ばたいていて、地上からわずか5センチぐらいだったが、ヤツは浮いていたのだった。
「だ、誰だよてめぇー!」
「あぁ〜? 俺様は天使だ。天使サエキだ。偉いんだぞ、コラ。いつまでもしりもちついてないで、お茶と食えるもの用意しろ、コラ」
 口調最悪、つーか性格最悪の天使が俺の目の前に現れてしまったのだった。

 そして現在に至る。俺はこのわけわからん、自称天使サエキをどうにかしたかった。いきなりツボから現れ、まさにこの家の『主』となったような態度に俺の怒りのボルテージは上る一方だった。
「おい、コラ。お菓子ねーんだけど〜」
「この家にはこれ以上、お菓子を買えるお金なんてないんだよ!」
「んだと、コラ。俺様は天使サエキだぞ? そんな悪魔のような口の聞き方があるか、コラ。この世界で言う、尊敬語使え、コラ」
 なんでそんなことを知っているんだこいつは……しかも、尊敬語って……なに。あまり俺にわけわからない質問をしないでくれ……。なんて思いながら俺は怒りをぐっ我慢しながら自称天使サエキに言い放った。
「じゃぁー、金をくれよ! ッー……ください。買って来きますから!」
「あぁーわかればいいんだよ、下等生物である人間の田中君」
「斉藤です」
「あぁーそうだっけ? どっちでもいいだろう、コラ」
 俺は自称天使サエキに右手を差し出していた。早くだせ、という目を向けていたが、サエキは財布を取り出すしぐさもしなかった。俺が動かないのを見て、自称天使サエキはいきなり立ち上がり(というか宙に浮いて)俺を外につまみ出した。
「ちょ、ちょっとまてぇー! 金がなければ買えないって言ってるだろうがぁー!」
「面倒なヤツだな、コラ。俺様は天使サエキだぞ、コラ。偉いんだぞ、コラ。約束どおり、お前のポケットに札束入れてあるから買ってこいよ、コラ」
「はぁ!? 意味わからねー! 札束!? そんなもんあるわけ……あった」
 なんという奇跡だろうか。俺のポケットに数え切れない札束が入っていたのだ。これは奇跡だろうか。奇跡というのは一人の人間に起こる確率は億分の一ぐらいと言われている。けれど俺は『ツボから天使……いや、悪魔が出てきた』そして、『金がいきなり現れた』という、確立の少なすぎる『奇跡』というものを二つも経験してしまったのだ。
「偽札か……?」
「本物だ、コラ。早く行け、コラ」
 俺は部屋を追い出されてしまった。部屋主が、どこの馬の骨とも知らない自称天使に追い出されるなんて、なんつー悲劇だ。けれどようやくわかった。アイツは天使……いや、悪魔ではなく、どっかの偉いマジシャンなんだ、と。だから大金も持っていて俺に得意のマジックで、自分の金を預けたのだろう。しかも、マジックでツボの中から……。
「って、そんな訳あるかよ」
 とにかく、俺は適当にコンビニでお菓子を買って部屋に戻って行った。もちろん領収書を貰った。料金は税込み1500円と安いが、それは『この大金のおこぼれがもらえるのでは』という、貧乏性ならではの邪なる思いからだった。
 それでも、1500円分のお菓子は贅沢である。俺はレシートをゴミ箱に捨て、コンビニから家へと戻っていった。
「ただいまぁー」
 いつも返事は返って来ない。だって俺は一人暮らし……。そして彼女なし……。それでも夢は、おかえりと笑顔で出迎えてくれる奥さんを持つことだった。
「やっと来たか、コラ。おせーぞ、コラ。早く机にお菓子を乗せろ、コラ」
 しかし現実は違っていた。わけわからん自称天使サエキという悪魔が物凄い形相で待ち構えていたのだった。
「……はいはい。わかりましたよ……はぁー」
 俺はため息をこぼしながらも、買って来たお菓子をビニール袋ごと机の上に置いた。そりゃぁ〜もぉー怒りを込めた置き方だった。
「おぉー“ポテトチップス・幸楽味”じゃねぇーか、コラ。新発売物なんて、気が利くじゃねぇーか、コラ」
 以外にも自称天使サエキは喜んでくれた。……でも、コンビニは常に新しいものを売っていく所だしな〜、などと思いながらも得意げな顔を俺はしてみせた。
「へっへへ。所で……結局アンタナニモン? マジシャン?」
 マジシャンという単語を聞くなり、再び元の形相へと変貌していった。そりゃぁもぉ『大悪魔』のような顔だった。
「あぁ? 誰がボケシャンだ、コラ!」
「んなこと言ってない……(ボソ」
「俺様は天使だと言ってるだろ! コラ。まだわからないのか、ボケが、コラ。そのない知恵使って理解する努力ぐらいしろよ、コラ」
 相変わらず、一言一言が頭にくるヤロウだ、と改めて思った。そして俺はさきほど抱いた邪な思を再び思ってしまった。この有り余った大金を自称天使サエキがいなければ俺物、だと。そして俺は辺りを見渡し、凶器になるものを見つけ、自称天使サエキののどへつきたてた。
 持っていたのはカッターだ。
「あぁ〜! いい加減にしろよ、テメー! 大体わけわかんないんだよ!」
「ふん。貴様地獄送りになるぞ?」
「だぁーれが、そんな事信じられるかよ! あぁーもぉー! ガマンできねぇー! でてけぇー! 即刻出てけ! そんで、大金置いてけ! 俺の前から消えてくれー! ……って、あれ?」
 そして、自称天使サエキはいなくなったのだった。
 見渡せば、ドアは壊れ、ツボもなくなってしまっていた。


エピローグ

 あれから数十年が経過した。俺もついにあの世の迎えが来る時となった。
「おじいちゃん!」
 孫の声が聞こえる。俺にはカワイイ奥さんができ、子供も3人できた。そして長男夫婦に子供が出来、俺の初孫が生まれたのだった。
 今は孫が合計で3人……いや、5人だったか。そのうちの長男夫婦の孫が俺の手を握り締めていた。
 目の前には死んだ婆さん、つまり俺の奥さんが迎えに来ているようだった。
 そして――
「ご臨終です」
 近くにいた医師から最後の言葉が聞こえた。俺は死んだのだった。

「おじいさん」
「ばあさん……久しぶりじゃの」
 ここはドコであろうか。俺の前にははっきり婆さんが存在した。しかもその姿は俺たちが出会ったぐらいの年齢になっていた。
「ここはどこじゃ……」
「ここは天国への入り口ですよ。おじいさん。さぁー私と一緒に天国へ行きましょう」
 俺は誘われるまま天国の入り口へと進んでいった。そして『天国』と日本語で書かれた大きな扉の前にやってきた。
「この扉をくぐれば天国ですよ」
 そいうと婆さんは大きな扉に何の迷いもなく飛び込んでいった。そして透けるように消えていった。俺は婆さんの後を追うように、飛び込んだ。
「ヘブシ!」
 なんともいえない声が出た。扉に顔面をぶつけた俺はそのまま道に落ちていった。
「な、どうーなってんだ!?」
 いつしか、若い時の口調に戻っていた。そして、聞き覚えのある声がコダマした。
「久しぶりだなー、コラ。下等生物である人間の花沢君」
「斉藤です。ってぇー! あんたはあの時の、自称天使サエキ!」
 そう、声をしたほうにいたのは自称天使サエキだった。サエキは当時の姿と変わらないまま俺の前にいたのだ。
「貴様は、この俺様を殺そうとしただろ、コラ。俺様は偉いといっただろう、コラ。天使は人間の願い事を三つ叶えてやるという規則があるんだ、コラ」
「ちょっと、待てぇー! あの時確か、そんなこと一言も言わなかったよな! しかも何も言わず消えちまったし!」
「あぁー? そんなの気がつけ、ボケ、クズ、コラ。俺様に包丁を当てた時貴様は俺様に出て行けといっただろう、コラ。だから三つ目の願い事を叶えてやったんだ、コラ」
「三つ目だと!?」
「あぁー。貴様は俺様の名前、そして金その二つ願っただろうが、コラ」
「な、なんだってぇ〜!?」
「貴様の最後の失態は許せないぞ、コラ。つーわけでテメーは地獄行きだ、コラァ〜!」

 結局俺は天使に出会えたのだろうか。
 多分違う。
 だって……。
 だって、どーみてもヤツは……。
 自称天使サエキは……。
 悪魔だったのだから……。



■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆■○☆



その4 ついうっかり

プロローグ

「そんな馬鹿な……君を探していたのに……あんまりだぁ! 願い事は決まっている。ついうっかり違う事言わないように頑張ったのに……なのに、なのにぃー!」
 俺は今年で25になる。高校にもいっていない。中学中退という面白い経歴を持つ。なんでそんな経歴ができたのかは簡単だ。

俺が中学生の時、失踪したからだ。

本編

 天使のツボを俺の友達が見つけたらしい。それは、道端に落ちていて、それを拾ったら天使が出てきたという。そして願い事を叶え、どこかに消えてしまったらしい。
「そんなバカな話があるも……あ……」
 そして俺は今、その状況に直面していた。

 目の前にある道端にはツボが置いてある。それはあまりにも不自然だった。けれど、俺はその状況に直面していた。
「ま、まさか……なぁ……」
 俺は疑いの眼差しを向けながらも、辺りに人気がないのを良い事にそのツボを抱きかかえ、その場から家まで15分ほどかかる中学校帰宅ルートを5分で帰宅してしまった。
「ただいまぁ〜!」
 親は居ない。俺の家族は両親プラスの兄貴だけだった。兄貴は今年で18になり、大学受験の勉強で夜の7時くらいにならなければ家には帰ってこない。そして母さんも、父さんも互いに仕事を持っており、だいたい6時にならなければ帰ってくることはなかった。
 俺は時計を見る。4時30分をさしていた。
「こする……だったよな……」
 俺は恐る恐る、道端で拾った汚れたツボを擦ってみた。
……変化がない。俺はあきらめず、一呼吸置いてから何度か擦ってみたが、やはり何も出てくる気配はなかった。
「や、やっぱ……うそ〜……だよなぁ……」
 当然である。この科学が発達している世の中で、ツボから天使が出てくるなんて、まずありえない話だ。俺は、バカバカしいと独り言を言いながら、玄関に出た。全くもって利用価値もないツボを家に入れておくほどの余裕なんて家にはないのだ。……余裕というか、腹立たしい。このツボが家の中にあるだけで俺は多分、損した気分になる。絶対にだ。例えば朝起きて、清々しい朝の空気を吸い、おはようと言いながら家族の顔を見て家の中を歩く。お手洗いに行くも良し、食事をするのも良し。そんな所でこのツボを見つけたらどういう気分になるだろうか。
 ついでに明日学校に行ってツボを拾ったなんて言ったらお笑いモノだという事だ。けれど、俺はそれを黙っているほど口が堅い人間ではない。だからきっと明日はその話必ず120%の確立で話してしまうだろう。ついうっかりで、だ。そして、クラスでは一日の話題が出来る『天使のツボ拾った君二号』という感じでタイトルまでつきそうだ。俺に話をした、友達も皆に笑われた。もちろん俺は大いに笑い、そして、それが本当だったら町内を逆立ちで歩いてやるよ、なんて言ってしまった。ついうっかりで、だ。なのに、俺が見つけたとなれば……約束は絶対だ。しかし、実際、天使は出てこないしその約束は関係なくなる。だが、ツボを拾ったことはNGだ。結局へまをしてしまった。ついうっかりで、だ。そして、そんなツボを飾っているなんて言ったら、家にクラス全員来るだろう。むしろ来させるだろう。来ないなら脅迫電話を入れてしまうかもしれない。ついうっかりで、だ。
だからこそ家に置いておくわけにはいかなかった。置いておくことでありとあらゆるデメリットが俺を待っているのだ。置いておけば更に悲劇は続いていく。ついうっかりで、だ。
 俺は玄関の扉を開けてから少し森の方へ歩いていく。そこには3メートルほどの崖があり、そこから落とせば木っ端微塵……跡形もなく消え去る事だろう。
「あぁ〜もぉー、なんかすげぇー損した、気分。消えてなくなれ〜!」
 そう言いながら、俺はツボを天高く掲げ、そして一気に下へと叩き落した。ツボは下でパキーンという大きな音を立てながら粉々に割れた(ようだ)。そして――
「ケケケケ。俺様を呼んだのはおめぇーかぁ〜」
 なんか出てきた。
「!? あ、あわ、あた!?」
「落ち着けよぉ」
「あ、あんた、ナニモン!? ま、まさかアンタが……天使!?」
 俺の前に現れたのは、黒で覆われた姿をし、黒い翼を生やし、そして頭に二本の角のようなものを生やした、あまりも『天使』とは呼べそうにないものだった。
「ケケケケ。俺様が天使だぁ〜? ばぁ〜か。俺様はなぁー」
「俺様は……?」
「悪魔だよ。ケケケケ」
 な、なんということだろうか。俺が見つけたツボから出来たのは、黒に覆われた、悪魔だった。どうやら、ついうっかりで悪魔を出してしまったようだ……なんて、俺は簡単に信じるような馬鹿ではない。俺は悪魔と抜かしたヤツをにらんだ。
「悪魔……ねぇー」
「なんだ、その疑いの眼差しは? 地獄へ落とすぞ? ケケケケ」
「いや。悪魔って何してくれるの? って思ってさ。俺の友達は天使に三つのお願いを叶えてもらったらしいんだけど……悪魔って何すんの?」
「ケケケケ。バカかおめぇー? 悪魔は悪魔だよ。つまりなぁー、お前を不幸にしてやるのさ」
「は?」
「悪魔を呼び出したお礼に、お前の大事な人間を三人殺してやるのさ〜。ケケケケ」
 そいうと、いきなり空中でツボは復元され、その中へと悪魔は消えていった。もちろんツボはどっかに飛んでいった。そして俺も消える事になったのだった。

エピローグ

 旅は長かった。

 俺は悪魔と呼ばれた男と別れてすぐ、両親、そして兄貴が死んだことを聞いた。
「急な事だけど……あまり気を落とさないでね?」
 親戚であろう、おばさん言われた。葬儀は簡単に済まされた。そして、葬儀後は俺を誰が引き取るかという揉め事が起きていた。けれど、俺の考えは違っていた。
「天使を……見つければ……」
 こうして、俺は天使を探す旅へと出た。家の中にあった全財産を持ち、親戚が寝静まった夜に自転車を走らせ、朝になったら電車に乗り込み、一日一日を必死に生きていった。結局、情報はあまりにも少なすぎた。少ない情報を頼りに、俺はツボを探しまくっていた。 皆飛んでいったツボの行き先なんて皆目検討は無かった。だから、こんなに時間がかかってしまったのだ。

 そして、ようやく『らしきツボ』を見つけ、擦ってみたのだ。
「呼ばれて飛び出て、ウジャジャジャ〜ン! 見習い天使のピトちゃん、登場!」
 俺は、金髪に体を白でまとった天使を見るのだった。それはいつものように、ついうっかりの出来事だった。



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2004/11/07(Sun)23:26:02 公開 / ねこふみ
■この作品の著作権はねこふみさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 またまた、お久しぶりです!ねこふみと申します^^
 なんというか、大学は指定校推薦でどうになることになりました♪

 今回はこんな感じですが、いかかがなものでしょうか?いやぁー……でも、やっぱりというか、自分の作品に悪魔はつきものだなぁ〜とつくづく思います(苦笑
 最後の落ちは……ん〜気付くかな〜?なんて思いもありますが、楽しんでもらえれば幸いです^^


 この小説はオムニバスになっておりま〜っす(_ _)mなので、一話一話別の話で、前半の【――この世界はただ平凡で】という部分はあまり関係ない(マテ)なので、気にせず楽しんでください^^

 お読みくださってありがとうございました^^

※ちょい修正

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。