『声(ショート)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:樂大和                

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「もしもし?博、元気ー?」
「ああ元気だよ、直美」
 彼女から電話…待ち焦がれていた彼女の声。何日ぶりだろう。最近はメールのやりとりばかりで彼女のこの美しい声に飢えていたのかもしれない。
「久しぶりだね。久々に声が聞けて嬉しいよ」
 嬉しいのはこっちの方さ。君の声が聞けるだけでも俺は全身ショートしちまいそうだよ。
「最近、風邪引いちゃってさ、体がだるいのなんのって…」
「ちょっと、大丈夫なの?」
 彼女の心配する声も素敵だ。うっとりする。
「冗談だよ。とっくの昔になおってるよ」
「もう、あんたの場合、冗談だか本当だかわからないのよ!!」
 怒った声も素敵。もっと怒って欲しいくら…いやいや、俺にそんな趣味はない。
「体には気をつけないと、去年のバイク事故みたいになったら…」
「へへ、ごめんな…大丈夫だよ。傷も良くなってるし」
「傷跡、まだ消えない?」
 彼女の声が傷跡に響く。
 確かに、あの事故で俺の体に大きな十文字の傷跡が残った。今こうして元気でいるのが不思議なくらいだ。だが、あの事故から立ち直れたのは彼女のおかげだ。あの元気で美しい声に励まされ続けて、今の俺がいる。
「大丈夫だよ、嘘つけるくらい元気なんだから」
「うん…」
 彼女の声が小さくなる。
「ありがとう…直美」
 一瞬の静寂。
「直美?」
「ごめん!も一回…ってくれる?え?何?…聞こ…ないよ。電波悪い…かな?」
 彼女の声が切れ切れに聞こえる。
こんな時に電波かよ!!大事なときに限ってこれだ。もっとアンテナを立てやがれ!!

 イライラすると十字傷が疼く。
 なんとか、切れ切れの彼女の声が聞こえた。

「…博―?聞こ…る?アンタ、まだ、あの携帯使…てんの?事故のとき大きな十字のヒビ入ったってやつ。そろ…ろ、買い換えてよぉ…絶対に壊れてるって!」

 …おい博、お前、俺を捨てたりしないよなぁ?

2004/10/14(Thu)09:22:33 公開 / 樂大和
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