『檻』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:鏖                

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              心の檻











 お前も物好きだな、俺みたいな精神異常者に話を聞きに来るなんてお前こそ頭おかしいんじゃねぇか?
 まぁいいさ、俺も久々にまともな奴と話が出来るから嬉しいんだよ。
 で、何を聞きに来たんだ?
 成る程な、俺が犯した罪業についてだった。やばい物忘れ激しいかも、この年で痴呆は嫌だぞ。
 で、お前、記者だっけ? あ、大学の教授様か。まぁいいや、つまり俺の事調べて来たんだろ? それなのに俺が恐くないのかよ。
 あ? 昔から何も恐くないだ? ハハハ、変わった奴だな。気に入った、教えてやるよ俺がした事をよ。

 全ての事件の始まりは俺の人生で始めて出来た美人で俺好みで可愛いより綺麗系の最高な彼女の浮気だったんだよ。
 付き合って3年が経ってたんだけど彼女も飽きたのかもしれねぇなぁ。
 まぁ俺はそれが分かって本気で怒ったって訳よ。あぁ勘違いすんなよ、この頃の俺は純情少年でね、女に手なんて上げられなかった訳よ。
 じゃぁどうして彼女が死んだって? お前過去の事件調べたんだろ? 彼女は死んだんじゃねぇ、行方不明って事になってんのに。そこんとこ俺様の繊細なハートブレイク寸前なハートをブレイクしようと試みるのはやめてくれ。
 まぁいいさ、で結局俺は彼女に手を上げられなかった。悲しい男だね、心の中で感情を爆発させたのさ。それはそれは大爆発でね、テポドンなんて比じゃないさ。
 知っている限りの悪態を罵声を皮肉を考えて口には出さずに彼女を罵ったね。
 ハハハ、具体的にどんな事ってあんた、そんな事言ったら一気にエロトークになっちまうっつーの。この作品削除させる気か?
 あ? あぁ、こっちの話だ気にすんな。まぁそいで彼女は俺の目の前で行方不明となったのさ、その時その瞬間からな。
 あ? 意味わかんねぇって? 当たり前だの前田慶次の愛馬松影だっつの。こっからが話の根幹だってのに水を刺すような事は言うなって。
 じゃぁ言うぞ云うぞ謂うぞ、俺はこの事を言ったから湿臭い独房に入れられたんだ。言っておくが俺は正気だぞ? それだけは信じてくれ。
 目の前から彼女が突然居なくなったのに恐怖を覚えてな、家までダッシュでタクシーで帰ったよ。その日はそのまま寝た、夕方だったけど現実逃避がしたかったんだろうよ。
 翌朝な、無性に腹が痛くて起きたんだ。まだ午前3時だってのに普段起こされるまで起きないという俺がそんな時間に起きたんだよ。
 んで腹が痛いから正露丸飲んでトイレ行って腹あっためてもっかい布団に寝転がった訳よ。そいで頭が冷静になると否が応でも昨日の事は思い出しちまう。
 でもアラ不思議、昨日の事を思い出しても全然悔しくもなんともねぇ。むしろ爽快感まであった訳よ、んで何故か気持ち良いまま眠りに就いたら、夢を見たんだ。
 俺の彼女がな、終わりの無い闇の中を叫びながら走ってるんだよ。居なくなった時、つまり俺の目の前から突然消えたときの格好の白のワンピースでな。声は聞こえないけどきっと助けてだの何だの言ってた。
 本当に真っ暗闇でな、足元にも何も見えないんだよ。それなのに彼女だけ黒背景に写真貼ったみたいに映えて見えてな、何だか可哀想だなって思っちまった時、俺は気付いたんだよ。

    彼女は俺の中に居る

 あ? 何だその表情? 全然信じてねぇじゃねぇか、あ〜あ、喋って損した。
 あ? これは地顔だって? あぁ悪ィ悪ィ、何か先走っちまったな。
おい、話を急かすなよ、信じてくれたのは嬉しいが俺のペースで喋らせろっての。
 ちょっと待て、今久々に長く喋ったから興奮気味なんだ。体を落ち着かせる。

    ヒッヒッフー、ヒッヒッフー

 よしOK。ん? その通りラマーズ法だが文句でもあんのか?
 ナッシングだな、よし合格。
 そいで話の続きだが、俺は毎日毎日同じ夢ばかり見た。
 そう、お察しの通り彼女の夢さ。3日目となると彼女にも元気が無くなり座り込んで何することも無くじっとしている事が多くなった。その時にはもう俺の精神力も限界に近づいてたのかねぇ。
 4日目、彼女を俺の中に取り込んでからの4日目に体の異常を感じた。俺は普通の真面目なリーマンで昼間仕事してたらな、頭が急に痛くなってきたんだよ。
 やっべぇレベルの頭痛でな、こりゃ耐え切れねぇと救急車を呼んだ訳よ。流石に俺様この時は生命の危機を感じたね。
 んでその頭痛が意識が飛びそうになる程の強烈な頭痛にレベルアップした頃やっと救急車は到着した訳よ。時間にして26分51秒だったね、これは確かに覚えてるんだよ。
 救急隊員さんが来てな、俺に大丈夫ですかって聞くんだよ。つーか普通初対面の人に大丈夫ですかって聞かれたら駄目ですっていい難い訳で。

    俺は大丈夫ですとハッキリした声で言いながら気絶したね。

 おい今お前ちょっと笑っただろ? ハハハハハハハハハハハ! 笑っちまうよなってか気が会うなここで素直に笑ってくれてありがとさんだ、お前とは仲良くやっていけそうだよ。
 はいちょっと打ち解けたところでもう少し話そうか。
 気絶するっていうのは眠るってのに大変似てるわけで、俺の思考の中に居る彼女がまた見えてきた訳よ。
 だがな、今回は様子がおかしかった。俺は思わず失神と失禁を同時にするところだったね。

    彼女、狂ってたんだ。

 すっごい満面の笑みで笑い飛ばしながら踊ってたんだ。唾を周りに撒き散らしながらな。
 人生で一番恐かった、本当に恐かった。何て言えば良いんだろうな、丸っきり分かんねぇ例えすら思い浮かびやしねぇ。
 まぁ狂った彼女を見て俺も狂う瀬戸際まで行ったんだけれども流石俺様踏みとどまって、病院に到着するまでの20分くらいの時間、彼女を見ながら耐え切ったのさ。
 病院についた途端に俺の意識は回復してな、そこでびっくり。物凄かった頭痛が何処かに飛んで行っちまった。
 駄菓子菓子、びっくりするレベルの脂汗をかきながらうなされてる俺を見て隊員も流石にやばいって思ったのかもう大丈夫だって言っても全くもって聞く耳持たねぇでやがる。
 んで色々色々色々色々な検査を受けたんだけれども、勿論原因は不明。
「ストレスに寄るものが原因かもしれませんので、休暇をとるのもいかがでしょう」
 とか何とか言われたけれども、大抵原因が分からんかったら医者ってそういう事を言うとかってどこぞの本で読んだ気がする。
 でも確かに俺具合悪くなったし医者の言う事も尤もだなと思って有休とって休む事にした訳さ。
 勿論、彼女の夢を見たよ。5日目は只満面の笑みで暗闇の中を歩いてた。しかし6日目ともなると狂ってても流石に体力が持たないんだろう、体育座りで丸くなってた。
 そこでよ、俺はようやく気付いた訳よ。

    俺は彼女が好きだった。

 余りにも遅すぎた。人形みたいに無表情で、栄養なんて取れる訳ないから元々白かった肌も青白くて。
 その姿を見て俺は綺麗だと思った。大切なものは失ってからその愛しさに気付くとか言うけど、ホントだったんだよ。
 まぁ、俺の場合は気付くのが遅すぎたんだけどな。
 んでそれから何とか彼女を助けようと思って色々な事をした。
 一人分多く飯を食ったり瞑想して彼女に言葉を伝えようとしたり飲み物をがぶ飲みして彼女に影響があるかとか試したんだよ。
 もうその時の俺は笑っちゃうくらい滑稽だったろうな。その姿思い出してたら笑えてきたハハハハハハハ!
 あぁそうだよ、どれも効果なんてありゃしねぇ。
 ん? 彼女の生死はどうなったって?
 あー、こればっかしは俺にも分かんねぇ。まぁ、予想は付いてんだけどな、それでいいか?
 OK、あんたもずかずかと人のいや〜な思い出に触れてくるなぁ。まぁ、それが職業みたいなもんか? というか俺がそれでいいかって言ったんだけどな。

    彼女は死んだよ。

 俺の中に彼女を感じてから9日目、彼女が消えて無くなっていた。
 あの暗闇の中には暗闇しかなかった。死んだって言い方は正しくないかもな、消滅したって言った方がいいか。
 俺、実はその時ちょっと安心したんだ。これで彼女は居なくなった、元の生活に戻れるってな。

 あぁ、この話はそれで終わりじゃないんだよ。悲しい事にまだ続く。
 ってか俺の事調べたってんならもう予測できるか。
 あぁ、そうだよ。ようやく彼女の両親が捜索願を出してな、真っ先に俺の所に警官が聞きに来たんだよ。
 当たり前だよな、何かストレスかなんかで発作みたいなの起こしたっていう酷く不確かなことがあったしな。
 そしたらその警官、完璧に俺が犯人だと決め付けやがる。
 まぁ、ぶっちゃけ俺だけど。その時は俺がやったって認めたくなかったんだよ。
 取り敢えず署まで連行されて、あー、確か連行された時が夜の7時30分頃だったんだよ。んで取調べが終わったのが朝の9時。
 俺は取り調べが終わったことに大層喜んでな。無表情を決め込もうと思ってたんだが不意に笑顔になっちまった。
 それを見た警官が言ったんだよ。さも侮蔑するようにさも軽蔑するようにさも忌み嫌うかのようにぼそっと聞こえるか聞こえないかの声で。

「お前は笑う資格なんて無いんだ人殺し」

 その時の俺は酷く不安定だった。だから、感情の奔流を止める事なんて出来なかったんだよ。
 気付けば、その警官は目の前から居なくなっていた。
 …後はわかるだろ?

 それが何回か続いた。相手が精神科医だったり色々と変わったが、俺はこの通り特別独房に危険人物だとして入れられてる。
 ってこの通りって言ってもわかんねぇか。だって周り真っ暗闇だもんな。
 しっかしよく最後まで人のこと馬鹿にした顔見せずに聞き切ったなー。やっぱり慣れてるのか?

…………………え? もう一度言ってくれ。
……もう一度。
…もう一度。
もう一度だけ。

 そうか、そうかそうか。
 俺正直あんたのことを道連れにするつもりは無かったんだ。
 俺は、このスペシャル独房に来て自分の罪を忘れかけていた。
 そこに、あんたが来たんだ。冴えないおっさんが俺に面会だっていうから一体何だって思ったよ。するとあんたは部屋に入ってきて開口一番。

「君が何をしてきたか教えてくれ」

 と来たもんだ! 俺は今までの事を思い出した、虚ろになっていく人の顔、狂って笑う笑顔。そう丸っきり全部思い出したんだよ!
 その時初めて自分で自分が憎くなった。それは腸が煮えくり返るほどにな。

 そして、俺は自分を食った。

 つまり俺が俺自身を俺の中へ閉じ込めちまったんだよ。そしてあんたは運悪く巻き込まれた。
 正直悪かったと思ったんだよ。でもあんたは俺に向かって言ったな。周りが暗闇に包まれても表情一つ変えずに言ったな。

「君が何をしてきたか教えてくれ」

 俺はあんたに全て話すってその時決めたんだよ。
 あぁ、この人なら何とかしてくれるかもしれねぇってな。あ、そうだこれ提案。もしかしたら俺と同じ事になっちまった奴もいるかもしれねぇ、だから、本を書いてくれ。
 あんた教授なんだろ? 本を書いてくれ、そしてこれ以上こんなことが起こらないようにしてくれ。頼んだぜ、年の離れた理解者。
 俺は、あんたが戻れるかどうかあることを試してみる。本を出すまで死ぬなよ教授様様。

……じゃぁな! 教授様様! 俺にとってあんたは神様だ!! ありがとよ、初めて俺の話を『信じてくれた』人間!






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 私は、明るい特別独房室に居た。
 椅子に座って向かい合っていた彼は跡形も無く消え去っていた。残っているのは彼の両手を拘束していた皮ベルトだけだ。
 私は彼に飲み込まれたのだ。しかし、私はここにいる。
 最後、私が見たものはどこかに隠し持っていたのかカーテンレールのような金具で己の首筋を思い切り切り裂いた彼の姿だった。
 彼は、私に礼を言った。私は、彼に礼を言わなければならなかったのに何も言えなかった。

    彼が私に初めての恐怖をくれたのだ

 ならば、彼との約束を果たそう。本を出そう、今から一ヶ月以内に書き上げてみせる。

「教授! 何があったんですか!」

 あぁ、慌てて看守がやってきたようだ。
 私は静かに彼の座っていた椅子を見つめ、呟く。

「題名は、心の檻なんてどうだい?」








 めでたしめでたくもなし END

2004/09/21(Tue)21:52:25 公開 /
■この作品の著作権は鏖さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
髪間に改め鏖です。
連載物を完結させられなかった事を悔いながらの投稿となります。
ちなみに私の鏖をひらがなで呼ばないであげてください。何故なら引かれるから。


感想等よろしくお願いします

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