『心の障壁 <序章>』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:はれるや                

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ひとは、だれかの心の痛みをわかってあげられない
ほんのちょっぴりわかった気がするだけだ・・・・

けれど、だからこそひとは、すこしでも誰かの痛みをわかろうと
必死になれる

いつだって自分で精一杯のくせに
がんばろうとする

それが善意であれ、悪意であれ
わたしはそんな(人)が好きだ
            
                                             <名前のない詩人>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

また、声がする

(結局、俺のため俺のためっていうけど
 結局自分達のことしか親父たちは考えてないんだ・・・)

・・・・・・・・

(くそ、あいつめ!!俺を保証人にしといて
 夜逃げなんかしやがって!!
 この大金を俺にどう払えって言うんだ!!!)

・・・・・・っく

(何で俺があんな年下の上司に
 あごでこき使われなければならないんだ!!

・・・・・・黙れ

(いつだって必死なのにどうして上手くいかないの?
 ・・・・・・いっそ死ねば楽になれるかしら?)

・・・・黙れ!!



「・・・い」

「・・んい?」

「せんせい!?」

「!?」

呼び声で、俺はやっとのことで我に返る。
どうやらまた<あの声>を聞いていたらしい。
「せ、先生、どうかなさいましたか?」
俺を呼んだ人物
大上 正敏 (おおがみ まさとし)は、不安そうな面持ちでこちらを見ていた。室内には、患者が緊張しないために音楽が流れている。俺は音楽に詳しくないため、曲名まではわからない。
「あ、えぇ。大丈夫です。たぶん、ちょっと疲れているだけだと思いますの で、ご心配なさらずに・・・・」
「あの、別に日を改めてもらっても構いませんよ?」
俺としたことが、仕事の最中に患者から心配されるなんて・・・
「だ、だいじょうぶです、仕事はちゃんとやります。」
このままだと仕事にならない。
俺はカルテをめくり、さっきまでの<あの声>を忘れ、仕事に専念することにした。

患者の名前は、
大上 正敏 52歳 (O型)

カウンセリングに来た理由
上司と部下の間で板ばさみになり、悩んだあげくに来たらしい。

まぁ、典型的なサラリーマンの悩みだな。
「・・・え〜とそれじゃあまず、大上さんのお話をお伺いできますか?」
こうやって直接本人の話を聞き、紙に書かれた事実より、本人の口から出てくる言葉のほうが、相手の本音をより深く聞くことができるのだ。
時には、本音を話してすっきりした、といって帰ってしまう患者も少なくは無い。そういう悩みだったら、思いっきりテ○ビのみのも○たにでも相談すれば、とも思うが、そしたら俺の仕事がなくなってしまう。
なにせ治安がいいせいか、この辺では犯罪者の精神鑑定も、現代病である引きこもりもないため、おれのところにはこういうお悩み相談所みたいな仕事ばっかり入ってくる。(こういうことの専門の医者もいるらしいが)
なんでも市役所は、合併問題のなんたらで忙しいせいか、対応が冷たいらしい。それで俺のところにこられても・・・と思うが、金をもらっている身の上でそんなことはいえない。
「わかりました・・・・実は今会社で・・・・・」
そういうと、彼はは自分の会社で何が起こっているのか、自分の身の上がどういう状況なのか、自分はどうしたいのかを、事細かに話し出した。
もともと悩みを一人で抱えている人間の多くは、相談できる場となるとすんなり話してくれるものだ。無論、例外もあるが・・・・・

「・・・・・・・・というわけです」
彼がすべて話し終われば、次は俺の番だ。
彼の話した話の中から、最良の案を出してやるのが仕事だ。
最良の案・・・・といっても、結局考え、行動に移すのは彼の役目だ。
俺はその手伝いをしてやるに過ぎない。
「・・・・・・・・」
数秒間、俺は考え込む。
どう答えるものか・・・・
一般的に、悩んだ人にかける言葉といったら「がんばれ」だが、これは実のところ禁句だ。とくに鬱患者には。
どうしたらいいか悩んでいる相手にがんばれといっても、実際のところどうがんばったらいいのか、相手はわからない。
勿論がんばれ、の一言も気持ち的には嬉しいが、何の解決にもなっていない。できるだけ言葉で、相手の気持ちにならなければ、この仕事は勤まらない。そういう意味では、<あの声>が聞こえる俺には向いた仕事なのかもしれない。
「・・・・大上さん、こうしたらどうです?」
「はい?」
「この不景気の中、それこそ会社がどんどんつぶれていく世の中で、上司と 部下が言い争っていたんでは、会社自体が長く持ちませんよ?
 あなたの立場がつらいのはわかります、けれどここでなんとか分かり合え るようにしなくちゃいけません」
「はい」
「時間をかけて、お互いが歩み合えるように言いかけてみてはどうでしょ  う?最初は聞く耳も持たないでしょうけど、時間をかければ案外うまくい くもんです。長い目で見てがんばりましょう。そうすればわかってくれる はずですよ。なんなら宴会でもやってはどうです?嫌がっても、来てさえ もらえれば、なんとかなりますよ」
「・・・そうですか。やっぱり時間をかけなくてはダメですか・・・」
「最後にどうするかはあなたが決めることです。わたしはそのお手伝いをす るだけですから。参考にってことで・・・」
「そうですね。ありがとうございます」
そういうと彼はお辞儀をし、部屋を出て行った。

「ふぅーーーーー・・・・・・」
初対面の人間の悩みを聞くのは、この仕事を始めて7年になる俺でも緊張するもんだ。まして下手なことはいえない。神経を削ってでも集中しなければならない。10年後の俺の頭は黒いだろうか?それとも白いだろか?まさか、髪の毛すら生えてないとか・・・・
「・・・・失敗だったかな」
仕事の最中に<あの声>に気をとられるとは・・・・プロ失格だ。
いつもは聞き流すのに・・・・・

カーン・・・・カーン・・・・カーン・・・・・・

外から5時を告げる鐘が鳴る。
今日の仕事はもう終わりだ。
俺は席を立つと、室内に流れる音楽をとめ、病院を後にした。


これがいつもの俺の生活だ。
精神科医として他者の悩みという心の痛みを聞き、解決の手伝いをする。
けれど、俺は俺自身の心の痛みが決して消えることのない事を知っている。
なぜなら、俺自身の人間が俺の心の痛みだからだ
他者が存在することによって消えない痛み。
俺は一生これと戦い続けなければならない・・・・そう思っていた。
そう・・・・そう思っていたんだ。
今日この日までは・・・・・
この次の日俺は、一人の少女と運命的な出会いをした。
その出会いは俺にとって、今まで気づけなかった大切なことを気づかせてくれる、そんな、出会いだった・・・・・・・・

「お兄さんには聞こえるんでしょ?いろんな声が」


<つづく>

2004/09/15(Wed)19:25:26 公開 / はれるや
■この作品の著作権ははれるやさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして、精神年齢82歳です。
心の障壁はどうでしたか?
正直な感想を書いていただけるとありがたいです。
(あまりいじめないでくださいね)
あ、ちなみに名前なんですが実話です。(っえ!?)
名前が思いつかなかったんで、実話を名前にしました。なんかショックだね・・・
まだ16なのに82って・・・・
感想と一緒に、皆さんの精神年齢かいてね?(実年齢と一緒だと嬉しいです)
というわけで、また書くつもりなんで、これからもおねがいします!!

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