『砂時計 T〜V』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:真松                

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生まれ持った運命のせいでたくさんのモノを失う少年、研究に没頭し危険な立場に生きる少女、残酷な光景を心に閉ざす青年、差別と偏見に立ち向かう子、人でも獣でい姿のせいで恨み恨まれる者。
それぞれの想いを秘めて、歩み出す。

第一章 ー砂漠と想い出ー

「暑い・・・」
砂漠にはあれこれ10年も住んでいるというのに何故か慣れない。
砂漠地帯、デザリア。地域の面積はさほど広くないが、1つのオアシスをはさみ、広い砂が続いている。
ここにはシン族をいう少数民族が暮らしている。大きな争いも無く、食料にも困らず、平和に生活している。
「ハウル、見て。お魚が泳いでる!」
幼い少女が手を大きく振りながら駆けて来た。
「どうしたの?チナ」
「デザリアの真ん中に大きな水溜りがあるでしょ?
 そこに綺麗なお魚さんが居たんだ。一緒に見に行こうよ?」
少年は笑顔でうなずき、二人でオアシスへ向かった。
オアシスの水面は、燦燦と降り注ぐ太陽の光を反射しきらきらと輝いていた。いつもに増して水が透き通っている気がした。チナが言う魚は、細身に虹色に光る大きな尾びれを持っている。
優美に泳ぐ姿は、シン族に伝わる伝統の舞いのように綺麗で、つい見とれてしまいそうだ。
「何でだろうね。誰かが魚を放したのかな」
「でも一匹じゃ可哀相・・・」
悲しそうに魚を見つめる長い黒髪の少女チナ。それを見てまた悲しそうな表情を浮かべる無造作な金髪の少年ハウル。眩しい太陽を見上げた瞬間、頬に水がかかった。
「うわっ、冷たい!」
急いで横を見るとチナが居ない。後ろを見てみるがやはり居ない。もしかすると、と思いオアシスを見た。
「チナ!」
その呼びかけに気づき、水面から顔を出した。
「えへへ、ちょうど暑かったし、お魚さん一人だったし!」
逆光を浴び、水の雫が光る姿が眩しい。しかしそれよりも、彼女の笑顔が何倍も、何百倍も眩しかった。
「泳ぐのは良いけど風邪引くぞ。お母さんがまた着替え用意しなくちゃ、って怒っちゃうぞ」
「は〜い」
困った顔で小さく説教した。それを聞いた少女はどことなくふて腐れた顔をした。
その時、飛び込んだ勢いで頬の入れ墨が剥げてしまったのに気がついた。
シン族は、生命力の象徴として右頬に紅い入れ墨をいれ、両耳に十字架のピアスをつけるのが風習なのだ。二人はハウルの家に向かった。大きな葉が影となる、家の玄関で大きな声で叫んだ。
「お母さーん、居る?」
すると中から大きな布を巻いた女性がでてきた。おそらく母親だろう。
「チナがまた馬鹿やっちゃって、拭くもの貸してくれる?」
母親は早々と布を持ってきた。ハウルに渡すと同時に、
「馬鹿じゃないでしょ、チナちゃんに謝りなさい」
と小突いた。そしてまた家の中に入って行くのを確認して小さく舌を出した。
「とにかくこれで拭きなよ」
「うん、ありがとう」
早速布を渡されて水浸しの体を優しく抑えた。

風が吹いた。優しい風が頬をなでた。時には砂煙をたて、時には木を揺らし、時には嵐を呼んだ。
「風は僕らのように生きている」そう信じていた。
すると、オアシスの近くから一人の荒っぽい男性の声が聞こえた。
「風が変わったぞー!何か来るかもしれねえ!!」
それを聞いて集落の全員が家を出た。男声が指を指す報告を沈黙で見つめた。
「何か来る・・・」
砂煙の中からやがて、複数のシルエットがうかがえた。そしてついには姿が見えた。
「獣・・・?」
ぱっと見れば獣のような、しかし身長は高く、二足歩行をしている。
獣人―――――――――
そんな気がした。
「奴ら、武器を持ってるぞ!!」
そう、襲撃される。
「皆、急いで逃げろ!!女子供を優先に!!」
それを合図に全員が散らばった。しかしハウルとチナはどうすればいいのか判らず、その場に戸惑っていた。今更家に戻る時間も無い。足がすくみ、手が震えた。
『龍のあざがあるガキを捕らえるんだ!後はどうなってもよい!』
獣人の大群の首相とされる者が剣を挙げた。威勢の良い掛け声と共に武器を構えて攻めてきた。勿論、勝敗は見えた。
周りになんの敵も無かったシン族は全くを言っていい程戦闘能力は無かった。そして武器も多くない。
あるとしても、木を倒すときの斧、植物を刈るときの鎌くらいだった。
何も見えない砂煙の中で判るのは、悲痛な叫び声だった。どれだけの人が殺されたのか、血の生臭い臭いも感じ取れた。恐怖で体が震えた。しかし自分以上にチナが震えていることが気がついた。
逃げるしかない、そう事が理解でき体の方向を変えた瞬間、
『まだ生きてたのかよ』
目の前に大きな剣を持った豹の獣人が立ちはだかった。心の奥底で、殺されてしまうと確信してしまった。その時、後ろに居たチナがハウルの前に立った。
「ハウル!逃げて!お願いだから!!」
『お嬢ちゃんが相手かな?止めといた方が良いんじゃない?』
ケケケと子笑いし、視線がずれた瞬間、
「えいっ!!」
チナが地面の砂をすくい、獣人の顔に向かってあびせた。
これが幼い自分の必死の抵抗であった。
『うおあ!?目に砂が・・・!!クソ餓鬼め!!」
今ので怒り狂ったか、手当たり次第に剣を振り回してきた。
「チナ!!」
「・・・またね」
最後に砂煙の中の彼女が見えた。僕は逃げたんだ。彼女を置いて。
「はぁはぁ・・・・」
走った。チナを戦場に置いて。
恐らく、いや確実にデザリアの人たちは全滅だろう。生き残ったのはハウルだけかもしれない。この先どうすればいいんだ?
まだ空気をただよう砂煙の中をを駆け抜けて考えた。
必死に逃げた。とにかく逃げた。走った。死ぬ物狂いで走った。突然、何かにぶつかる。砂煙が晴れ、それが何かわかった。
「あぁあ・・・・・・」
声が出なかった。目の真っ暗になった。斬られる前に意識を失ってしまったのだ。
『龍のあざがあるのはお前か?まぁ今更生かしても仕方ないか。
 何せデザリアの奴ら全滅させればいいもんな」
にやっと微笑み、銃を向けた。その直後、大きな銃声が聞こえた。僕には聞こえなかったのだけれども。
こうして逃げ切れなかったハウルは10才という若さで生涯に幕を閉じた。
なのに。何故か何処からともなく機械音が聞こえた。
「今何時?」
聞く人はもう居ない。とりあえず、目を覚まそう。


第二章 ー魔法剣士ー

相変わらず機械の音が聞こえる。しかしそれに混ざって声らしいものも聞こえる。
―――――――――――――――――人の声?

意識はぼんやりとあるけど、目を開けない。
小さな小部屋の真ん中に置かれた手術台のような物。そこに体を休めるのは、短い金髪の少年。
いや、かけられた布から判る背の高さから青年と言ってもいいだろうか。
少しだけ見える顔の頬には紅い入れ墨が見えた。

自分が呼吸をする音が感じ取れた。そしてようやく、瞳をゆっくりあけた。目は見えるのだけど、何故か曇っている。天井がうっすら白く見えた。
「おお!!目を覚ましたぞ!!」
何人かの威勢の良い、大きな声が飛び交った。
それに驚き周りに視線を散らすかせると、そこには真っ白な白衣を着た男女が数名、自分を囲んでいた。
「君、どこか具合は?ちゃんと喋れるかい?」
一人の若い男性が早口で言った。
勿論あまり聞き取れず、何を言っているのか判らなかった。
「とりあえず、別の部屋に移りましょうか?貴方に話をしてくれる子がいるから」
今度は背の高い女性が言った。しかしそれも理解できず、音がするたび頭がずきずきする。兎に角、どこにいるかだけ聞いてみようと恐る恐るたずねた。
「おにいさん達、ここはどこなんですか?」

その言葉で一瞬、場が静まり返った。この場所にあるすべての空気が、重く、冷たく感じた。
が、それ以上に、自分に驚いた。
普通今の言葉を聞くと小さな少年の声を思い浮かべるだろう。しかしそうでは無かった。
誰が聞いても、青年のものだと判るくらい低くしっかりとした声であった。
「今君に言っても理解できないと思う。ちょっと僕に着いて来てくれないかな」
先ほどより一言一言はっきりと言い、その青年の手を引いた。
台から降り足を着かすが、床に触れた感触があまり無かった。
少し廊下を歩いた後、男性が
「ここだよ。この部屋の中に君にちゃんと話してくれる女の子がいるから。
 ゆっくり話をすればいい」
と言い、青年を別の部屋に導き、そのまま別の部屋に去ってしまった。

部屋に入ると、殺風景な所に机と椅子だけがあった。
そして其処に自分を待っていたかのように一人、短い茶髪の少女が座っていた。
「えっと・・・こんにちは、初めまして。でいいのかな。
 とにかく、こっち座ってよ」
青年は言われるがまま、少女と向かい合わせになるように椅子に腰をかけた。
「あたしはサアヤ。どこから話せばいいのかな・・・」
少女が一方的に話し、自分はどこから喋り出せばいいか戸惑い、ずっと下を向いていた。
それを感づいて、サアヤと名乗る少女はゆっくり判るように話し出した。
「場所からで良いよね、うんうん。
 ここは東方イースタイタンにある「ヴォール街」っていうの。 
 大都市のくせして文明はあんまり発達していないのよね。
 いえば南方サウスライアと正反対・・・」
「あの」
青年が口を挟んだ。
「何?」
「横文字ばかりならべられてもよくわかんないんだけど・・・」
困った青年の顔をみて、何だか恥ずかしくなってしまった。
「ここは「ヴォール街」って所!南方にはサウスライアって国があるの!それだけ!」
なにやら無理やり事を進めているような気がするが少女の一生懸命さが伝わり、なんとか理解しようとした。

東方イースタイタンと南方サウスライア。
この二つの国はいたって対照的である。景気が良く、食料、金銭的にも何の苦も無いのがイースタイタン。つまり今此処に居る国である。
しかし昔から南方サウスライアとは仲が悪く、何かが盗まれたり事故を起こされたりしている。
「デザリアとは遠いんだな・・・」
何も考えていないのに、この言葉は自然と口から出た。
「君、デザリアに住むシン族・・・だったけ。名前は?」
「名前・・・?」
自分の名前が思い出せなかった。
喉の奥に引っかかっているようような感じがする。それより、自分は誰だろう。真っ先にそれを考えないといけないのに、何故か怖かった。
              
「君・・・記憶が・・・。もしかしてあの時に・・・」
「あの時?」
「これを一番最初に言わないとね。
 今からあたしが言うこと全部、黙って聞いてくれる?」
そんなに重要な事なのだろうか。
聞くのが怖い。しかしその真実を聞かなければ、自分が誰かすら判らない。
青年は一回きりうなずいた。それを見て、サアヤもうなずき、真剣な顔をして口を開いた。 
「君は5年前、砂漠のデザリアの先端で発見されたの。あたしが所属するこの組織の人が見つけたのよ。
 勿論、貴方は銃で撃たれ、死んでいたわ。」
勿論・・・?銃で撃たれて死んでいた・・・?それを聞くと、記憶の奥底からじわじわと悲しみと怒りが染み出てきている気がした。
「あたし達は君を蘇生した。
 あいつらに復讐するためにね。そして今、5年の時を経て目を覚ましたのよ。
 多分背と声からして、貴方は私と同じ15歳くらいだと思う。
 髪だって、布製のマントだって、以前の形のままだから判らなかった?」
蘇生・・・?
自分は生きていたのではなく、生き返ったのだろうか。
それに5年間も眠っていたのか。事が全て飲み込めないうちに、少女は次々と話を進めた。
これ以上真実を聞かない方が良いかもしれない。心の中でそう思った。
「あいつらってのは、デザリアを始め、各国を襲撃した獣人。
 あたし達はクリーターって呼んでるわ。
 生態についてはまだ詳しく判ってないの。
 でも、まぁこの話はまた今度でいいかな。いっぺんに言っても飲み込めないでしょ」
既に飲み込めていない。が、自分は獣人を倒すために蘇生されたと言うのだけは理解できた。
「君が蘇生された理由っていうのが・・・」
すると一番聞かなければいけない話は、何やら外から聞こえた爆発音で中断された。
「何だろう・・・」
サアヤは立ち、小窓から外を覗いた。
その時、部屋のドアを乱暴に空け、先ほどの男性達が入ってきた。
「大変です!獣人が・・・クリーター達が街の入り口まで・・・!!」
それを聞くと、サアヤはチッと舌打ちして部屋の隅にあった古びた剣を手に取った。
「えっと・・・君はここに居て!あたしはあいつらを追い払ってくる!」
早口で言葉を吐き捨てながら、部屋を走り去って行った。
小部屋に残された青年と男性達は互いに顔を見合わせ沈黙している。
「君は・・・、名前も思い出せないのかい?」
「何で僕が蘇生を・・・」
二人の言葉が重なった。青年は戸惑ったが、名を思い出せないと聞かれてうなずいた。すると男性は少しの間黙って考えた。
その間、青年は自分を残してクリーターを追い払いに行ったサアヤの事で悩んでいた。男性はクリーター達と言っていた。複数の獣人を彼女一人で撃退できるのか。答えはたぶん、否だろう。
「よし」
男性が何か思いついたようだ。
「君はアララギ(蘭)・・・。
 ヴォールの街を代表するたくましい木の名、アララギではどうだい」
嬉しそうに微笑み言う男性を見て、アララギとつけられた青年もにこりと微笑んだ。するとたちまち、男性を抜け部屋を走って出て行った。
驚いた男性は急いで彼を止めたが、
「・・・彼女を、彼女を一人にしてはいけません。
 クリーターの強さは確かなのですから!」
そう言うと一刻も早くサアヤを追いかけた。しかし、何故強さなど知っているのだろう。そんな疑問が浮かんできた。
アララギ達が居た研究所を出ると、外の眩しい太陽の光が目に入った。
そして窮屈に詰まった店のならぶ道と多くの人がうかがえた。
「しまった・・・街の入り口の場所を聞いておくんだった・・・」
なんとか頭上に小さく記された地図を見て、ひたすら走った。
大きな住居を左に回った瞬間、むらがる人達と、少女の悲鳴が聞こえた。
人ごみで見えないが、恐らく悲鳴はサアヤのものだろうと確信できた。
しかし彼女の悲鳴だとしたら大変だ。アララギは急いで、人ごみを押し切り、輪の中に入った。

「あ・・・君!!!」
そこには、数体の豹の獣人と古びた剣一本で格闘するサアヤの姿があった。
「大丈夫か!?」
すかさず彼女に駆け寄った。
「大丈夫、でも思ったよりクリーターって手強いンだよね」
腕を真っ赤にそめて苦笑いをした顔を見ると急に胸が痛くなった。すると、サアヤの相手をしていたクリーターの豹が攻撃を止めた。
止めると同時に後方へ下がり、後ろに立つ仲間と何やらささやきだした。少しの間話すと、くすくすと子笑いしながら、再度こちらへ向く。
「おい其処の餓鬼。その布製のマント、蒼い眼、十字架のピアス、頬の紅い入れ墨。
 もしかして砂漠のシン族じゃねえか?」
「え・・・?」
その瞬間、昔の記憶が鮮明なフラッシュバックになって瞳に移った。

『オアシスで泳いでいた、あの魚はとても綺麗だったな。
 あ、そうだ・・・。デザリアサボテンの花を取りに行こうと思ってたけど枯れていたんだ。
 あの子に、あの長い黒髪の女の子と約束してた。
 絶対取ってきてあげるからね。そしてサボテンの花を花瓶に挿すんだ。
 二人で一緒に育てよう。』

ここで記憶が途切れた。
長い髪の女の子、それが誰なのかわからなかった。
自分が小さい頃から知っている、その後ろ姿も、笑顔も何回も目に焼き付けていたのに。誰だ・・・・・・。君は誰なんだ?
「・・・前!危ないよ!!」
とっさにサアヤが叫んだ。
瞳を閉じて記憶をたどっている間に、クリーターの一人から銃を向けられていた。
「答えろ。返答しだいでお前の生死が変わる」
先ほどとは結びつかない程の剣幕で言った。それに恐れをなした街の人たちは逃げていったり、建物に隠れたりした。
しかしアララギは何も答えない。
「生意気な・・・クソ餓鬼が!!」
その荒々しい喋り方。今にも噛み付かんばかりの剣幕。この豹も何処かで見たことがある。
そう、アイツだ――――――――――――――
「思い出した。あの時の・・・」
静かに口を開くアララギ。彼の瞳はどことなく悲しみと怒りが感じ取れた。
「なんだ?俺は餓鬼となんか会った事・・・って・・・もしや、お前!!」
豹が動揺した瞬間、
「サアヤ!剣を貸してくれ!」
と返答も聞かず乱暴に持ち、不意にクリーターの方へ向けた。
「あの時・・・僕の故郷を・・・荒らした・・・」
一言ずつ言葉を吐くたびに自分の呼吸が荒く乱れていくのも、心臓が高鳴りするのも判った。いつ撃たれるか生死の道の真っ只中なはずだが、銃に対してアララギは何の恐怖も持っていないようだ。しかし剣を構える腕は小刻みに、震えている。
真っ直ぐ敵を見つめるアララギを、サアヤは地に座り込んで見守っていた。
「なんだ、ただの腰抜けか。お前に剣は使えないよ」
またクリーター達がが腹を抱えて笑う。
「だまれ」

突然、アララギの周りから暖かい空気の塊が感じた。
風は吹いていないはずなのに彼の金髪はなびき、マントが妖しくはためく。
それを不審に感じた、別の後方の豹が銃をこちらに向ける。その刹那、炎のような紅の光がアララギを中心とし、辺りを舞った。まるで怒りが、哀しみが、その光を生み出しているかのようだ。
「撃て!!」
先頭にいるクリーターが銃の引き金を引いた。
しかし、その弾は正確で無く、標的の頬をかすれるくらいだった。右頬の紅い入れ墨が、血の色で更に紅くあざやかに瞳に映る。
「やっぱり・・・お前は、シン族なんだ!
 5年前デザリアで殺しそこねたのか!?いや、それはない!
 何故生きている!?」
クリーターにとって最悪な事態が起こったらしく、狂ったように慌てふためいた。
再び銃の引き金を引こうとした瞬間、空気中に紅い光が一本の直線を造りあげる。その光が消えた時、やっと事が理解できた。
「君・・・やっぱり・・・」
哀しいのか驚いているのか、サアヤが消え入りそうな声を出し周りの野次馬達もざわつき始めた。
アララギが握っていた剣を地面に落とした。それと共に宙に舞っていた紅い光も消えていった。
「僕は・・・」
目の前を見ると、クリーターの死体が散らばっていた。
無性に自分の右腕が燃えるように熱い。それに気づき痛む右腕を見てみると、驚くべき事になっていた。腕全体に頬の入れ墨に似た物が浮かび上がっている。剣を持つ前、いや、あの光が舞うまではどうも無かったのに。
武器を思い切り振るうとき、もしかしてその時かもしれない・・・

「さっき・・・」
「え?」
突然黙り込んでいたサアヤが言った。
「さっき、君が蘇生された理由を言う途中だったよね」
そういうと、立ち上がりアララギと対面した。
「君が蘇生されたのは、クリーターと戦うため。
 今の戦いで感づいたかもしれない。
 君の右腕の入れ墨に似たあざ、それが印でもある唯一の″魔法剣士″なの。
 直ぐには飲み込めないかもしれない。
 でも判って?貴方が必要なの・・・」
それを聞いて、正直腹が立った。自分は本当に″復讐の道具″なのだろうか。
そんなために生き返らされて、何を希望に生きるのだろう。しかしクリーターを敵にするのは自分も同じだ。
「運命に逆らっても僕は進めそうに無い」
皮肉に聞こえるかもしれないが、今はただそれしか言葉が無かった。
「ありがとう、君の名前は?」
――――――――――――――――名前
本当の名で無いのはわかっている。
もし、記憶があって、自分の事を判っていてもそれを口にしないかもしれない。過去が怖いから。
「僕は・・・・・・アララギ」
これから起こる出来事が・・・記憶を取り戻す鍵になっていたとは思ってなかった。

第三章 ー虎のようなリュウー

『っていうの、私の名前。宜しくね』
優しい声。優しい笑顔。優しい・・・そう、彼女は何よりも誰よりも優しく清かった。でも名前が思い出せない。すぐそこ、のどまで出掛かっているのに。思い出さなきゃいけないのか?それとも思い出してはいけないのだろうか・・・・
「痛っ・・・」
頭が針で突かれたような痛みがした。
「大丈夫?」ごめんね、食料とか水とか持ってきてなくて・・・
 近くの街についたら何でも買おう?」
サアヤが自分の心配をしてくれた。
重い機関銃を持っている彼女こそ疲労が溜まっているはずなのに。
街から出る時にちゃんと用意をした方が良かったと痛感する二人であった。

平原は静かだ。草を踏みしめる音しかしない。
時に冷たい風が頬をなでる。いつまで歩けば・・・歩めば良いのだろう。
終わりの無い本の物語をめくっているようだ・・・。
「見えた!ね、見えたよ」
地平線から顔を出すように、街が見えた。
あそこに行けば休めると思うと、やる気がわいてくる。
しばらく歩くと、街についた。
「な、何て街だろう・・・読めない」
サアヤが目をしかめた。
街門にぶら下げられている看板を見たが、読めない文字で書かれている。
普通の人ならどうでもないのだが、ヴォール街で生態研究ばかりしていたサアヤはあまり外の世界に詳しくないようだ。もちろんアララギも知らない。
「とりあえず入ろうか!」
アララギの手を引いて強引に歩いた。

この街はヴォール街を似ていて、レンガの建物や市場が多くある。
しかしこちらの方がひとけが少ない。朝だからだろうか。キョロキョロと慣れない目つきで周りを観察していく二人。まるで良くある″田舎者″が都会に出てきた様子だ。市場で管理をする人たちの視線が二人にとまっていく。
「何か、あっちが騒がしくないか?」
アララギが左前方を指差した。サアヤも注意して耳をすました。
「本当だ。人の声・・・?ざわついてるね」
朝市を競っている音だろうと思った。
「あれは闘技場からだよ」
横で歩いていた老人が声をかけてくれた。
「あ、こんにちは。闘技場・・・・ですか」
「そう。この街の名物みたいなもんだからね。ちょうど今開催されているよ。私も昔はよく出場したねぇ。お嬢ちゃん達も見に行ったらどうだい」
懐かしそうに語る老人を見て、好奇心もあったのか、すぐに行ってみる事にした。
闘技場はとても大きくて、警備もしっかりしていた。
しかし新しいとは言えない壁や像から年代を感じさせた。早速、観客席に着いた。
中心にあるステージでは男性と青年が武器を構えて争っていた。
両者とも髪の色が違う。恐らくこの大会では他の街などからも参加者が出ているのだろう。サアヤは急いで参加者リストから「ヴォール」と探したが自分の街から出た者は居ないようだ。一方、アララギは無意識のうちに「デザリア」と探した。が、やはり見つからなかった。

その時、会場に歓声が響き渡る。
ふとステージに目を向けると、先ほどの勝敗が決まったようだ。勝者は大柄な男性。続いて、敗者がステージから下りると入れ替わりに一人の青年が姿を見せた。長身で黒髪を後ろで結い、格闘家のような身軽な格好をしている。

「どっちが勝つかな」
アララギは問いかけた。
「今上って来た、柄の悪そうな人じゃないかしら。・・・かっこいいし」
最後にぼそっとつけたした。

「お前が決勝の相手か?貧弱なにいちゃんだねぇ」
先ほどかち抜いてきた男性が喧嘩腰に言ってきた。
「もしかしておっちゃん俺を知らんのか?
 これだから新人は困るねー・・・。それにアンタのは全部贅肉じゃねえの?」
その言葉に青年と観客が笑いを起こした。
「大口叩けるのは今のうちじゃぞ!!!」
それに腹を立てた男性は、審判の合図も無く猛烈な勢いで襲い掛かってきた。
会場は青年に刃が刺さるのを予想した。何人かは顔を手で目隠しする者も居た。
しかしその中で笑った表情をする女性の観客がいる。
「みんな知らないのね、あの人の実力を!
 あの人は前回・・・前々回の・・・そう、優勝者!」
突進してきた男性をひらりとかわし、足で転びを誘った。
まんまと引っかかった男性は、にぶい音を立てて地面に打ち付けられた。
「くっそぉお・・・なめてんのか!!」
起き上がって再び鎌を振ってきたが、青年もまた軽々とかわした。
その刹那、

「くどい」
攻撃を避けられて後ろ向きになった男性の首を、拳で殴った。
大きな歓声と共に男性は倒れた。
「しょ、勝者はリュウ選手!只今7連勝という好成績を残しています!!
 そうか寛大な拍手を!!」
リュウと呼ばれた青年は得意げににこりを笑った。
「・・・すごい」
二人はただぽかんと見とれていた。

昼過ぎになる頃、アララギとサアヤは食事をできる場所を探していた。
朝と違い、人も多くなっていた。
その時、通り過ぎた店から怒鳴り声が聞こえてきた。すると入り口から飲みかけの酒瓶が何本か飛んできた。
「うるっせーよ!てめぇ何かにやるかっつーの!」
中から青年の声がした。

「いて・・・」
酒瓶はアララギに直撃してしまった。
「もう御免だ!」
青年が言い捨てると、早足で店から飛び出してきた。
「うわあっ!!」
不運にまたもアララギと打つかってしまう。
慌てて青年が声をかける。一瞬、怒鳴られるかと思ってしまった。
「っと、悪い!大丈夫か?」
優しく声をかけてくれた。
幸い酒瓶はマントで防げ、当たりも悪くもなくケガは無かった。
「・・・もしかして、リュウさん!?」
サアヤが問う。
長身に結った黒髪・・・、先ほど闘技場で優勝した選手だ。
「あーっと、とりあえず詫びるよ。アイツが来たら事が大きくなるから、一緒に逃げてくれ」
そういうと、二人の手を引いて路地に入った。樽を持ってくると、大雑把にそこに腰をかけた。
「すまないな。ほれ」
リュウは二人に酒瓶を差し出した。
が、未成年だし飲めるはずがない。素直に首を振った。それを見てリュウは意地悪げに笑った。
「あのー・・・」
サアヤが恐る恐る話しかけた。
「闘技場に出られてましたよね?」
「そうだよ。俺には賞金が必要でな。毎年この大会に出場してるんだ」
リュウは酒をすすった。
「強いんですね」
「まぁ、な。強くなるためには努力を惜しまない!それがモットーさ」

しばらくしてリュウがアララギの方を見た。
サアヤは怒っているのかと重い、二人を見ながらあたふたした。
また酒をすすった。
「なぁ、金髪の。お前どこの人間だ?」
「デザリア」
何を言われるのかと内心焦った。
「生き残りか何かか?」
リュウは5年前の事件を知っているようだ。それから彼は自分の事を教えてくれた。
彼は小さい頃から格闘技術を見につけている。不治の病に侵される母親のため、闘技場で大金を稼いでいる。そして彼にはデザリアに住む友達が居た。
年に何回という回数でしか会えないが、友情も信頼も厚かった。
突然クリーターに襲撃されたと聞き、すぐさまデザリアに向かったが、そこには無残な光景しかなかった。
血と、死体と、汚れた武器と――――――――――――――――

「これも何かの縁かもな?お前ら旅人なのか」
「クリーターを倒すためにな。それが・・・?」
リュウは顔をしかめた。そして笑いながら二人に手を差し伸べた。
「俺はリュウ。青春真っ盛りの19歳だ!!」
「?」
いきなり自己紹介をされて何が何だかわからなかった。
「だからー。鈍いなぁ。賞金も入ったしおふくろは親父に任せて。
 俺はクリーターに恨みがあるしな。ま、宜しく!!」
二人は顔をあわせた。
「何も知らない俺達について来て良いのか?」
アララギは素直に聞き入れずに戸惑った。

「これから知ってけば良いじゃんか」
心が温かかった。
″急がないでも良いんだ。″そう言われているようにも聞こえた。
見た目は怖そうだが、味方につければ頼もしい青年だ。実際、年上に加えて実力もある。
「僕は・・・アララギ」
「あたしはサアヤ。宜しくお願いします、リュウさん!」
「リュウで良いって。敬語も無し無しー!」
3人は強い握手を交わした。
「・・・そういえば、リュウって未成年じゃん」
酒瓶が路地を転がった。


2004/08/30(Mon)12:36:21 公開 / 真松
■この作品の著作権は真松さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。
小説は小さい頃から読むのも書くのも好きだったので投稿しました。
まだまだ不十分な所だらけですが、頑張って仕上げていくので宜しくお願いします。

読みづらいと思ったので自分なりに少し訂正しました。
感想やアドバイスも貰えると嬉しいです。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。