『Lost Life〜地図の欠片〜 』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:D.takahashi                

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story editing by…D.takahashi

1
唯(ゆい)が残してくれた地図は、暗い倉庫で眠っていた。すこし湿っぽくて、古くさくて、ほとんどの文字を読み取るには少し難しかった。
唯は中学2年の夏休みに交通事故で死んでしまった。僕は最初は交通事故という大きな闇が理解出来ず、ただ唯の死を見届けた。僕たちは恋人同士としてうまくやってこられたのだろうか。ただそれだけが気掛かりでならなかった。唯が死に直面して、何を思い死んだのだろうか。涙は乾ききった。もう何も出るものも無いだろう。閉められたドアを叩くのはもうやめよう。二度と振り返る事も無いと僕は誓った…はずだった。
─────1年後…
「隆志〜?倉の整理してくんないかね。」母の威勢のいい声が、僕の部屋まで何のノイズも交じらずに伝わってくる。僕はうなだれたように返事をする。つまり空返事と言うわけになるんだが。
流石に中学3年にもなると、おこずかいがそろそろ少なく感じてくる頃だ。『倉』なんて聞いたら、意外と高級な物がしまわれていたり、なんて思うのも無理は無いだろう。実際に僕もそう思ったんだから。だから、倉掃除イコールこずかい稼ぎ…なんて思いつくのは多分俺ぐらいだろう。なんせ倉の中のかけじくを売りさばいた事もある。そんときはさすがにバレてしまった。倉のなかに一日軟禁されてしまった。親は怒り狂ったのもまだ記憶には新しい。だから、倉と言ってあなどるわけにもいかなかった。とりあえず倉に関する思いでは置いといて、整理を始めよう。うーん今思えば、そんなにこの倉は使わないし、入りもしないのに何故こんなにも直ぐ汚くなるのだろうか。ありえないが現実に起こっている。
そんな倉の不思議も後にして…さてと、こんな箱あったっけ?思いもよらない箱の出現に僕はこころが踊った。さっと上箱の埃を手ではらいその後ゆっくりと上箱を手で開けた。中からは、一枚の紙の欠片だった。その紙の下は叔父の道具が沢山入っていて、あらかさまに後で入れたかの様な紙の欠片がそこにはあった。少し腐敗が進んでいて、変色している。まぁ倉の中だから仕方ないことなのだが、しかしいつ入れたものなのだろうか。おもむろに過去を詮索するが、思い当たる事が有りすぎて逆に判断がしにくくなった。紙をゆっくりと開くと、そこには唯の字が書いてあった。

「たかしくん。元気だよね(笑)多分この手紙を見たらビックリするよね。ごめん実は私麻倉 唯はたかし殿が好きです。今更ながらですが…だからこの手紙を宝箱に託しました。唯元気出せ!って自分にいい聞かせないと、多分この手紙をみているたかしくんから逃げたくなっていることでしょう。ただの幼馴染みから恋人へなりたいんです。実はたかしくんが私を好きになってもらうために、あるものを隠しました。ひとつはこの倉庫にもうひとつは───────に隠しました。どう探してみる?ヒントは15歳の麻倉 唯に聞いて下さい。中学卒業式に開く予定♪」
僕はもう唯の事で泣く事は無いと思っていた。踏みとどまる事もないと思った。なのになぜ今になって涙が出てくるんだろう。完全には唯の事を忘れて居なかったのか?でも今なら唯を抱き締めたいと思うのだろうか…
今なら振り替えってみてもいいよな…唯…

あの日の夕立が僕達の始まりだった。学校の帰り道の事、突然のどしゃ降りの雨。公園でぼく達は夢を語った。そんなに大した話じゃなかったけど、僕はとても嬉しかった。

2
学校の帰り道に一緒に帰った。でもまだ彼氏彼女扱いとかそんなものは全然と言っても良いほど、なかった。ただ小学生が皆で帰るような感覚だった。ただ、少しだけ意識するとこはあったらしくそんなに会話は始まらない。だからどちらかが公園に誘う。
「麻倉ってさぁ中学好きか?」そっけない僕の相づち。こうでもしないと、会話は直ぐに消えてしまう。
「私?…うん好きだよ。今度の秋の文化祭でね、私演劇をやるんだぁ。」唯は天然が、混ざる。結構話の食い違いが生まれた。しかし僕はそれを無視して唯の話に乗る。それで満足だった。
「演劇かぁ〜。僕は…っていうか僕も演劇じゃね?」当たり前だ僕達は同じクラスなんだから、クラス内で違う催しをする訳は無いだろう。演劇はカンペキなるオリジナルだ。題名はかなりくさい…『愛の魔法』まぁ中学の演劇だ少しは許してほしい。俺は町役人その3で言う言葉は『それは嬉しいです。』と『おぉなんたる素晴らしい魔法でしょう。』の二言だ
「当たり前か…やっぱりたかしくんは面白いよね」
「麻倉だってそうじゃないか。」唯はそっけない態度を取る。僕はその姿が好きだった。
───────
震える手を抑えながら手紙を最後までゆっくり読んだ。手紙には雨の粒が落ちた。そして手紙のある場所を見つめた。

ひとつはこの倉庫にもうひとつは───────に隠しました。どう探してみる?

古く、変色をしている手紙…唯はこの倉に思いでを残していた。いまになっては思いでだけど…でも
「この倉に唯は居る。」僕は必死に探した。そりゃ一日で探せるような、量じゃない。手が汚くなろうと、構いはしない。唯は最後に残してくれた。どんなものかも解らない、でもそれが欲しい。欲しい…探して…絶対に探すんだ!そして唯に一言言いたいんだ!!

3
文化祭に唯は居なかった。胸が苦しくなった。俺は文化祭の後で唯に告白するつもりだった。なんでこんな風な別れ方を神様はしたのだろうか?なぜ…
唯が居ない文化祭は殺伐としていた。

───実はたかしくんが私を好きになってもらうために、あるものを隠しました。ひとつはこの倉庫にもうひとつは……に隠しました。どう探してみる?────

それは棚と棚の間に挟まれていた。俺はそれをゆっくりと手に取る。封筒にたかしくんへと書かれていた。あきらかに唯の字だ。開く。思いでだけが残されている。それは唯一、僕と唯を結ぶ最後の絆なんだ。それを開く。
また唯のかすれた声が聴こえてきそうだ。だけどそれは幻想に過ぎない。

「見つけたね。ありがとう。でもねこれを探してくれたって事は私を好きになってくれたのかなぁ。それともただの紙切れだと思って捨てられちゃうのかなぁ。でもね一つだけ渡したい物があるんだ。それわね…」
まだ手紙には続きが書かれているが僕は読むのをやめた。そして封筒の中からは、一枚の写真が落ちた。それは遠足の写真だった。最初で最後の二人で写っている写真だった。

4
夏休みの始めに…学校から電話がかかってきた。その電話には母が出た。はいはいと答え、電話を切った。そして母が悲しい目で言った
「隆志…あんたのクラスに麻倉さんて居た?」
「うん」
「その麻倉さんが…」
──────
嘘だ…ありえない。唯が事故?バイクに跳ねられて重体…?嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
なぁ嘘だろ?嘘だと言ってくれよ!!
小さな町の病院に唯は居た。あきらかに唯とは言えないぐらいひどい状態だ。俺は唯の手を握った。ほのかに暖かかった。
そして唯の父親が現れた。そして言った。「唯はあんたに会いたいって言ったんだ」
そういわれるともう一度唯の方をみた。するとかすれたか細い声で言った。
「たかしくん…手を握ってくれる?」
「あぁ握ってるよ」
「暖かいね」
「わかったから、今度の文化祭の練習を夏休みに一緒にしような」
「うん。でもねもうね私を誰かが待っててくれてるの。」
「それは俺だよ!!なぁ俺はここにいるよ。」
「違うの…たかしくんの顔実はもう見えないの。ごめんね」
「どういうことだよ!!俺はここに居るぞ!!飯嶋隆志はここに居るぞ!!お願いだからこっち見てくれよ。」
「ごめんね…ごめんね…」
唯は最後に謝った。事故の痛みなんか無視をして僕に謝った。ごめんねって…なんで謝るんだよ。謝るってなんなんだよ。

二日後に通夜が行われた。それは小さな通夜だった。僕は参列を拒否した。まだ唯が生きていると思っているからだ。しかし事実は変わらない事ぐらい知っている。ただ現実から逃げているだけなのしれない。いや実際に逃げているだけ…まだ手には唯を握っていた感触がぬくもりが残っている気がした。

5
僕は読むのをやめていた、手紙を開いてみようと、手をかけた。たしかに閉められたドアを叩くのはもうやめようって心に誓った。でも違うんじゃないのか?いまはその見えないドアから唯が出たがっている。それを無視するのか?いまはそのドアから唯を誘いだす事が大切なんじゃないのか?
僕は手紙の続きを読んだ。

「それわね、今の私が持っているの。ほら、覚えてる?遠足の時の事…私が荷物が重いって言ったら、たかしくん持ってくれたでしょ。だからそんときの写真が入ってるでしょ?でねその写真の私の右手を見てよ。きれいな石でしょ…ほらおもいだした?」
僕はおもむろに自転車を走らせた。場所は、わからない。ただ自我通りに自転車を全速力で走った。気付いたら、唯のマンションまで来た。僕はためらった。でも唯はそこにいる。だからそこに僕も行く。
607号室の番号を押す。そして唯の母親が出た。僕は今までの手紙の事、唯への想いを全てを打ち明けた。すると渡したい物があるとオートロックを外してくれた。僕は走って階段をかけのぼる。そして唯の家のチャイムをならす。そこには一年前と変わらない、匂いがした。あの夕立の帰りに寄った、唯の部屋

6
見つけた。唯はこれを僕に渡したかったんだ…
「ごめんねぇ。もっと前に渡すつもりだったのよ」母親がうっすら涙を浮かべる。
「いえ、今になってすいません。」
そして今もその輝きを残した、銀の光沢を放つ石が渡された。そして渡しそびれたという品も受け取った。それは厳重にノリで閉められた厚みのある、封筒だった。中からは、ひとつのオルゴールとまた、一枚の手紙が現れた。そのなかには…もう言い切れないような長い文章が長い列を組んで待っていた。僕に読んでもらうために。
─────
そして、それから一週間もたたないうちに僕は唯の墓の前に立っていた。それは海のきれいに見える小高い丘の上にある墓地…僕は線香に火を着けた。それからオルゴールを鳴らした。それはなんとも悲しい曲が流れてきた。
「今度は僕が謝る番だよな。」

遅くなってごめんなさい……ごめんね

ある夕立ちのある日僕達は愛を交わした。純粋な愛を…倉にしまってあった、ちいさな地図を返すべき場所にもどした。その地図の欠片は今は僕の部屋に飾っている。いや正確に言うと、しまってあると言った方がいいのかもしれない。でもやりのこした事が出来た。ある日偶然見つけた、手紙と言う文字の地図は変わらないまま、道を見つけた。
「またどこかで会おうな。」
ゆっくりと手紙を閉じた。
「たかしくん。ありがとう」
唯がそう言った。それはまた幻想の声かもしれない。でも僕ははっきりときいた。あの唯の声で…

『Lost Life〜地図の欠片〜』

2004/08/07(Sat)14:17:51 公開 / D.takahashi
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■作者からのメッセージ
どうもDaiことtakahashiです。ここでは初投稿になります。短編の恋愛小説です。皆さんがどう言った感想をもつか結構気になるたちです(笑)まぁお手数かけますがgassh2004@hotmail.comに感想を書いて送って下さい。なるべく返事はしますので、これから書く小説の参考にさせてもらおうと考えております。


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