『ヤング陰陽師!』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:吾郎                

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 古来より人は目に見えぬものへの恐怖にしばられていた。
 
 天災、病、飢饉、そして超常現象。
 人々はこれらの超常現象をときに『あやかし』と呼んだ。
 『あやかし』は時として、人ならざる物となって現れ、人々を苦しめた。
 しかし・・・・・・『あやかし』から人々を守る者もちゃんといた。
 その者の名は・・・・・・『陰陽師』・・・・・・

 第1話「想輔の心霊体験」
 市立夢木中学には桜があふれていた。
 全国の中学校では始業式も終わり、3年生にとっては一番苦しい1年が始まるのである
「ふぁ〜あ」
 少年はいきなり目を覚ました。
 途端、教室中の視線が彼へとそそがれる。
「よくこんな時期に寝てられるな」
「今、鬼村の数学だぞ・・・・・・ しらねえぞ」
「やっば〜 これで居残り説教確実ね〜 かわいそう」
 そんな心の声が伝わってくる視線だった。
 彼らはみな3年生。春とはいえ、授業で寝るとはもってのほかである。
 しかも、この時間は『学校の番長』と呼ばれる川村先生の授業なのだ。
 寝てる生徒はまずいない。
 少年は寝ぼけ顔のまま黒板を見た。
 すると、そこには、黒板に数式を書いた状態で静止している川村先生の姿があった。
 指は怒りにふるえ、小刻みにゆれている。
 少年は急に頭から青ざめ、必死にノートを取っている格好をしだした。
 もちろん、そんなことでごまかせるわけもなく・・・・・・
「馬鹿者が!!!!! なに寝てんだ!!! 自分がどんな時期か分かってんのか!! ちゃんと聞け!! ちゃんと!」
 教室中にすさまじい音量の怒鳴り声がとどろいた。
 少年は、吹き飛んだようにごまかそうとした手を前に滑らす。
 ノートや筆記用具は、雪崩のように下に落ち、と同時に教室中から笑い声が響いた。
 少年は、とにかく恥ずかしそうだ。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
 終業のベルが、学校中へと鳴りわたった。
「じゃあ、これで、今日の授業は終わりだ。みんなちゃんと復習しとくように」
 川村先生は、そう言うと、教室を出て行った。
 先生が出て行くと、教室ははじかれたように騒がしくなる。
 もちろんこの休み時間の話題は、あの少年だ。
「お前勇気あるな〜 あの鬼村の授業で寝るなんてよ」
「そうそう、馬鹿だよな〜 で、もちろん今日、お前居残り掃除だよな!!」
 みんなが少年の席をとりまき、いじりたくる。
「うるせえな〜 昨日、夜中まで勉強してたんだよ。」
 少年は、ふてくされた表情で言った。
 だが、あまりに似合わないセリフなので、周りの男子は笑いだす。
 すると、
「ウソでしょ。あんたが勉強なんてするわけないじゃない。」
 と、男ばかりの集団に女の声がした。
「本とだっつうの!! 美佐子、お前、いちいちうっせんだよ!!」
 少女の名は、蓮沼美佐子(はすぬま みさこ)
 この少年の幼馴染で、勝気な性格のごく普通の女子だ。
 少年は、この男勝りな少女に幼少時代からからかわれてきたのだ。
「あ〜ら。それは、ごめんなさい。でも、してみたいわね〜 笑いながらできる勉強法か〜」
「あ!! てめえ聞こえてたのかよ!!」
「そりゃ聞こえるでしょ。隣じゃなくてもあれだけ騒がしけりゃ、誰でも聞けちゃうって」
 しかも少年にとっては困ったことにこの少女の家は少年の家の真横なのだ。
 この言葉に、取り巻いていた男子は一気に爆笑する。
 少年は、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。
 すると、教室のドアが開き、先生が入ってきた。
「お〜い、そろそろ始まるぞ〜 席につけ〜」
 先生がそう言うと、また教室は足音で、騒がしくなる。
 その騒音がやむのと始業のベルがなるのとどちらが早いか。
 少年も我をとりもどし、教科書やノートの準備にとりかかる。
 これが、少年にとってのごく普通の生活だった。
 この少年の名は、浅海想輔(あさみ そうすけ)
 黒髪、黒瞳で、どこにでもいる中学生。
 でも、この少年の日常に変化が起きるまで、あと数時間もなかった・・・・・・
 

「あ〜たりぃ・・・・・・」
 想輔は、川村先生にきつく怒られた後、体育館裏の倉庫の掃除をしていた。
 体育館の中からは、バスケ部やバレー部の声とボールがはずむ音が聞こえる。
 ちなみに、想輔はサッカー部に所属しており、レギュラーである。
 だから、さっさと部活に行って、楽しみたいと思っているのだが、現実は厳しいものだ。
 倉庫は何気に広かった。
 しかも年に一度、大掃除の時にしか掃除をしないので、汚れも相当なものだ。
 さらに、横からは、部活中の楽しそうな声。
 想輔は、ますますあせる。
「さっさとやっちまうか・・・・・・」
 想輔はそう言い、気合を入れなおすと、眼前につんであるダンボールをまとめて運び出した。
 だが、軽いと思っていたダンボールは、とても重く、調子に乗って3つも持ってしまった想輔は、
バランスを崩し、倒れこんでしまった。
 ガッシャーン
 棚から物が大量に落ちてきた。
「って〜。なんだよ。これ!!」
 幸い、ダンボールの中身には、傷がなく、地面も砂だったので、想輔自身にも怪我はなかった。
 すると、棚の下に赤く光ったものが見える。
「ん? お宝かな?」
 想輔は、おもいっきり手をのばして、それを掴んだ。
「なんだこれ? なんに使うんだ?」
 それは、赤い勾玉のような石だった。その石は小さな光沢を放っており、まるで火のように見えた。
「ま、とにかくかっこいいし、今流行のチタンに対抗して、首飾りにでもすっか」
 想輔はその石を学ランの胸ポケットにしまった。
「さってと!! やるか!!」
 それから、気合を入れなおして、掃除はすぐ終わった。
 この石こそが、この何気ない日常を変えるきっかけとなることを想輔は知る由もなかった・・・・・・



「できた!!!」
 想輔は、家に帰ると、あの石を紐を通してすぐに首飾りにした。
 その石の光沢は、一点の曇りもなく、光り続けている。
 想輔もこの石がなにか気になり、インターネットなどで調べようとしたのだが、
そんなことは、もうどうでもよくなり、さっさとアクセサリーにして
しまったのだ。
「なかなかのできばえだな。俺」
 うっとりとして、出来たばかりのアクセサリーをながめていると、突然、電話が鳴り出した。
 想輔は、不機嫌そうな顔で、受話器をとった。
「はい、もしもし浅海ですけど」
 電話の主は、美佐子だった。
「想輔? 開かずの女子トイレって知ってる?」
「なんだよ。美佐子かよ。隣なんだから電話しなくてもいいだろ」
「うっさいわね! いいから答えなさい。」
「知ってるよ。あの旧校舎の方にあるトイレだろ?」
「そうそう、あのトイレにね、花子さんが出るって噂聞いたことある?」
「花子さん? ああ〜なんか聞いたことあるな。」
「じゃあさ、10年前あそこで何回も行方不明事件がおきてたことは?」
「なんだよ? 今春だぞ。そんな話いちいち電話でしてくるなっての」
「そこでよ! 噂を確かめに、今からみんなで旧校舎に行ってみない?」
「はぁ!? なんで行くんだよ? 今春だって言ってんだろ」
「あ〜ら行きたくないの。そう。残念ね〜 由美来るのにね〜」
 由美とは、同じ学校で3年生の高村由美のことだ。
 美人で、学校中の男子の憧れの的である。
 もちろん、想輔もほれている。
「高村さん来るの!? 行く! 行く! 今からだな。よ〜し」
 そこで、想輔は、受話器を置いた。
 美佐子は、苦笑を浮かべ、あきれながら言った。
「ほんと、調子のいいやつ」


 夜中の旧校舎は、一段と不気味だった。
「あ!来た来た」
 正門の方から走ってくる想輔に美佐子は手をふった。
 想輔は、全員が集合している手前で、立ち止まった。
 暗闇で見えにくいが、集合しているメンツを見回す。
 そしていきなり美佐子にダッシュしてきた。
 当地には、美佐子と他男子2人女子2人合わせて5人が待っていた。
 だが、そこに高村由美の姿はない。
 想輔はそのことに気づき、小声で美佐子に問い詰める。
「どういうことだよ!? 高村さんいないじゃんか!」
 美佐子は、すごい形相で問いただしてくる想輔に苦笑を浮かべながら、答えた。
「いや〜 由美ね。急に用事が出来たんだって。残念ね〜」
 というと、美佐子はそそくさと旧校舎の中へ入っていってしまった。
「おい! ちょっと待てよ!」 
 想輔は呼び止めるが、もう外にはいない。
 他の連中もすでに入っている。
 取り残された想輔はふてくされた顔をしながら旧校舎の中へと入った。
「ったく、こんな時間に用事ができるかっての」


 一同は噂の女子トイレの入り口に立っていた。
「これが、噂の女子トイレか〜」
 一緒にいたメガネをかけている男子生徒がつぶやいた。
「へぇ〜 花子さんは? 今日いないの?」
 おっとりした女子生徒もなにやら見当違いの言葉を発している。
 各々が感想を漏らす中、想輔だけは、なにやら不思議な感じを感じ取って
いた。
(なんだ・・・・・・この感覚、妙な寒気もしてきたな・・・・・・なにかあるのか)
「な〜に考えごとしてんのよ。想輔!」
 美佐子はそう言うなり、想輔の背中をおもいっきりたたいた。
「いって〜! お前なにすんだよ」
「痛かった? まぁまぁ、今から入るんだから早くしなさいよ」
 そう言うと、美佐子は想輔に背を向け、4人についていこうとする。
「待てよ。美佐子」
「ん?」
 想輔は、唐突に美佐子を呼び止めた。
「教えてくれ。噂を。詳しく」
「え?いや、だから言ったとおりよ。花子さんがでるって」
「行方不明事件ってのは?」
「ああ、あれね。10年前まだこの校舎が課外授業とかで使われてた時、一人の女子生徒が、
このトイレに入ったきり、出てこなくなったの。
それで、数日後、近くの山から骸骨にもなってないその子の遺体が、発見されたのよ。
しかも、他にも数人肝試しにきた生徒が、また別々の場所で遺体となってでてきてるの。
言っとくけど、これニュースにもなった事実よ」
「で、それが花子さんの仕業って言われてるわけか」
「そ。ま、私はあんまり信じてないけどね」
「う〜む」 
 想輔はいきなり難しい顔をしながら考え込んだ。
 美佐子はそのあまりに似合わない光景にキョトンとしたまま立ち尽くしている。
 そして、想輔は思い出したように言った。
「お、分かった。行こうぜ」
「いや、なんなのよ。あんた」

 中の4人はすでに、問題のトイレのドアの前にいた。
「おい、早くしろよ。いちゃつくんなら後にしろ」
 背の高い茶髪ぎみの男子生徒が2人に言った。
 美佐子は、この言葉に瞬時に反応する。
「いちゃついてなんかいません!!」
 他の4人から疑いの眼差しが美佐子に当てられる。
 美佐子は、顔を真っ赤にして、うつむいた。
 モロバレである・・・・・・
「ま、いいか。じゃあ開けようぜ」
 茶髪の男がそう言うと、全員がドアに注目した。
「せえ〜の」
 ギィィィィィ
 古い木製の音が鳴り響いた後、中が見えた。
 中には、古ぼけた便器があるだけで、回りのトイレとなんら変わりはない。
 全員拍子抜けしたようだ。
「なんだよ。なんにもねえじゃんか」
「あれ〜やっぱ留守なのかな?」
「ま、こんな噂本当なわけねえか」
 そう言うと、一同は、即座に帰ろうとする。
 美佐子も拍子抜けした顔で、まだ考え事をしている想輔の肩をこずいた。
「やっぱり、なにかの事件にまきこまれただけなのかな。さ、想輔帰るよ」
 想輔は、腕を組んだまま、動かなかった。
(ここにはなにかある・・・・・・)
 それでも、美佐子に促され、入り口まで歩き出す。
 そして、全員話しながら、歩き出した。
 拍子抜けしたこと、明日の授業のこと、部活のこと。
 語り合いながら普通に帰ろうとした。
 刹那
「・・・・・・待って・・・・・・」
 全員に電流が走った。
 後ろで、幼稚園児ぐらいの女の子の声がするのだ。
「・・・・・・待って・・・・・・」
 2回目が聞こえた。
 空耳ではない。
 その場にいる全員の顔から一気に血の気がひいた。
 美佐子以外の女子は、恐怖し、絶叫しながら一気に走り去った。
 男子生徒2人も絶叫している。さらに美佐子も恐怖のあまり、その場に座りこみ、震えている。
 片方の男子生徒は恐怖のあまり意識がはっきりとしていない。
 だが、茶髪の生徒は、突然我に返り、声のしたほうにゆっくりと歩み始め
た。
 そして、トイレに向かって一歩、二歩と歩み寄る。
 ついに、トイレの前まできた。
 ゆっくりととってに手をかける。
 何がいるのか。
 怖い、でも見たい。
 死ぬかもしれない、でも見たい。
 彼を動かすのは、怖い物見たさの好奇心だった。
 ギィィィィィィ
 古ぼけた木の音・・・・・・。
 そして、中から出てきたものは――
 地面に座り込んで泣く、小さい幼稚園児だった。
 だが、その服装は、現代のものではなく、第2次世界大戦ごろの服装。
 防災頭巾ともんぺだった。
 茶髪の生徒は、一目でわかった。
 彼女は、この世のものではない。
 心を落ち着かせ、ひそかに持ってきていた塩を取り出した。
「おおおおお俺が、花子さんをたたたた退治してやるよ!」
 そういうと、茶髪の生徒は、塩を花子さんめがけてぶちまけた。
 花子さんと思われる女の子は、その塩を浴び、苦しみ始める。
 想輔は、また妙な感覚に襲われた。
(助けて・・・・・・助けて・・・・・・)
「なんなんだよ、これ」
(私じゃない・・・・・・私じゃない・・・・・・)
「どういうことなんだ!」
(タスケテ)

「よせ!!!!」
 想輔は、茶髪の生徒に向かって叫んだ。
「え?」
 茶髪の生徒は、困惑している。
「なんで、とめるんだ?こいつを退治しにきたんだぞ。花子さんは子供を殺して埋めたんだぞ」
「違う! あの行方不明事件は、花子さんの仕業じゃない」
 刹那
 ゴトッゴトッゴトゴトゴトゴト 
 トイレの中から音がしだした。
 なにかがはいつくばってでてくる音だった。
 しかもそれはじょじょに近づいてくる。
 想輔の方を向いていた茶髪の生徒は、ふるえながら恐る恐る後ろを振り向く。
 そこにたっていたものは、血まみれの男だった。
 20代後半ぐらいの背格好で、頭部からは、脳しょうが少しとびでている。
 表情も異常を極めていた。メガネをかけて、にやにやと気味の悪い笑みをうかべている。
 この男もこの世の者ではない。
 茶髪の生徒は、一瞬で悟った。
 と、同時に失神する。
 想輔は、臆することなく、その男の幽霊をにらみつけた。
 そして、勇ましく叫んだ。
「一連の行方不明事件の犯人は、お前だな!」
 想輔の言葉に今まで黙っていた美佐子がふるえながら口を開いた。
「ちょっと、想輔、どういうこと?」
「こいつは、ここで自殺した変態殺人鬼さ。こいつが子供を殺して、埋めてたんだ。
こいつは便器の中と外を自由自在に移動できる。
花子さんは、このトイレの自縛霊だから、そうはいかないけどね」
 美佐子は、恐怖と一緒に想輔の今の言葉に困惑している。
(なんで、想輔がそんなこと・・・・・・?)
「って、頭の中から聞こえた」
 想輔は、そう言い、美佐子に微笑んだ後、一変、真剣な顔つきになり、茶髪の生徒の方へ走った。
 男の幽霊は、ニヤリと奇妙に笑うと、手に持っていたなぎなたを一気に振りおろす。
 間一髪で、茶髪の生徒を抱きかかえたまま、なぎなたをよけた想輔は、美佐子の方まで走った。
「こいつ頼む。もう走れるよな。早く逃げろ」
「え?ちょっとあんたどうすんのよ!」
「いいから逃げろ!」
 想輔は、男の幽霊に向きなおした。
 だが、男の幽霊は、にやついたまま眼前に来ていた。
(まずい・・・・・・このままじゃ美佐子まで)
 想輔は、咄嗟にあの石を握り締めた。
 そして、無我夢中で男の幽霊に殴りかかる。
 ドゴッ
 にぶい音がして、男の幽霊は吹き飛んだ。
 想輔の手には、殴ったような感覚が残っている。
「え?」
 そして、手を見てみると、赤い光が手にまとっていた。
 いや、手だけではない。
 全身にまとっている。
「どういうことだ? これ」
「知らないわよ。じゃあ早く、逃げるわよ」
「美佐子、お前まだいたのか! 早く逃げろ」
「あんたねえ。ってあんたどうすんの!?」 
「俺は、後で行く。早くしろ!」
「わ、分かった。無事でいなさいよ」
「おう!!」
 そういうと、美佐子は、茶髪の生徒を抱えて、外へと走り始めた。
 想輔は、その姿を心配そうにながめ、見えなくなったころ、深呼吸をひとつして、男の幽霊の方を見た。
 男の幽霊は、苦しみながら、なぎなたを片手にもち、振り上げている。
 そして、じりじりと想輔の方へと歩み寄ってきた。
 男の幽霊は、想輔の1メートル手前で静止した。
 しばしの沈黙・・・・・・
 突然、男の幽霊は、袈裟切りになぎなたを想輔めがけて振った。
 想輔は、それを右に飛び、かわす。
 だが、男の幽霊のなぎなたは、今度は左からの横なぎの斬撃に変わって、襲ってきた。
 それも、後ろに跳び退ってかわす。
 想輔は、必死に考えをめぐらせていた。
(さっき、殴ったような感覚がした・・・・・・もしかするともう一回殴れるかもしれない・・・・・・)
 今度は、唐竹割りに、なぎなたが!
 これも左に転がってかわすが、すぐに右から横なぎの斬撃が来る。
(え〜い! 迷ってられっか!! 力いっぱい殴ってやる!!)
 想輔は、そう決心すると、横なぎのなぎなたには目もくれず、男の幽霊の
懐にもぐりこんだ。
 そして、渾身の力をこめて、右ストレートを男の幽霊の腹にぶつける。
「おぅら〜!!!」
 ドムッ
 鈍い音とともに男の幽霊は、おもいっきりふきとばされた。
 想輔は、次が来ると思い、すぐに身構える。
 しかし、ふきとばされた男の幽霊は、赤い光を放ちながら、もだえはじめた。
 「ぐ、ぐぎゃぁ〜」
 男の幽霊は、断末魔の悲鳴をあげて、赤い光とともに消えていった。
 男の幽霊が消え去ると、想輔はとたんに息苦しくなった。
 緊張がとけたのだ。
「はぁはぁはぁはぁ」
 呼吸がみだれ、体は汗でびしょびしょだ。
 想輔は、少し呼吸をととのえ、額についた汗をぬぐうと、なにかを思い出した。
「花子さん・・・・・・」
 想輔は、急いで、花子さんのいるトイレへかけこんだ。
 そこには、恐怖におびえる花子さんの姿がまだあった。
 うずくまり、泣きじゃくりながら、おびえている。
 想輔は、花子さんにそっと手をさしのべた。
 もう、恐怖とかそういう感情はない。
「もう大丈夫だよ。怖くないよ。」
 想輔は、花子さんにそう優しく言った。
 花子さんは、泣くのをピタリとやめた。
 そして、おそるおそる顔を覆っていた手をどける。
 そこにあったのは、微笑み。
 優しかった兄を思い出させるような暖かい笑みだった。
(ありがとう、ありがとう)
 花子さんも想輔に微笑み返す。
 それは、小さい子供の本当に幸せそうな笑みだった。
 同時に、花子さんも赤い光をしながら、消え始めた。
 それは、幻想的な光景だった。
 赤い小さな光が蛍がはじけるようにまっていく。
 じょじょにじょじょに消え始める花子さんの体。
 そして、花子さんの笑みは、体が全て消えるまで消えることはなかった。


「あぁ〜疲れた」
 想輔は、家に戻るなり、ベッドに倒れこんだ。
 あれだけ奇妙な体験をした後だ。疲労がすごい。
「ってか、あれ夢っぽいな。あんなの夢じゃなきゃおかしいぞ。一眠りすっかな。朝んなったら分かるさ」
 学校で起きたことを夢だと思うのも無理はない。
 花子さんを見に行ったら、血まみれの男の幽霊が襲ってきて、そいつとケンカして勝った。
 こんなこと誰も信じるはずがない。
 それより、想輔は、花子さんの気持ちが聞こえるようなあの感覚の方が気になった。
 しかし、疲労には、勝てず、想輔は、枕に顔をうずくめると、そのままぐっすりと眠った。
 静かにいびきをたてながら、熟睡している。
 数分ほどたった後、そのその眠りを妨げるように・・・・・・
(・・・・・・起きろ・・・・・・起きるのだ・・・・・・)
 耳元で、変な声がする。
 想輔は、空耳だと思い、そのまま眠り続ける。
(起きろ・・・・・・起きるのだ!!!)
「うっせー!!!」
 想輔は、その声のあまりのしつこさに飛び起きた。
 と同時に想輔は、不思議な光景を見た。
 想輔が見た光景それは・・・・・・
 小さな老人と不動明王尊が、ともに枕元で立っていた。
「やっと起きたか」
 想輔は、これこそ夢だ。と確信した。

 つづく・・・・・・


 幽霊プロファイル
 其の一:トイレの花子さん
 詳細データ:第2次世界大戦中、旧校舎のトイレに逃げ込んだ幼い少女の霊。
空襲から逃れるため、逃げ込んだトイレだったが、学校ごと爆弾で焼かれ、トイレの中で死亡する。
 その後、トイレの自縛霊となり、たびたび現れる。
 想輔の顔に学徒出陣で離れ離れになった優しい兄を思い出し、成仏した。

 其の二:変態殺人鬼の霊
 詳細データ:20年前、小中学生のみを対象にした通り魔殺人の犯人。
 警察に追われ、旧校舎のトイレに逃げ込み、その場で自殺した。
 幽霊となってからも、学生を殺害し、山中に埋めていた。
 想輔によって徐霊される。
 ちなみに、この事件の後、トイレの下から死体が発見され、警察は喜んだらしい。


2004/07/29(Thu)14:14:08 公開 / 吾郎
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■作者からのメッセージ
はじめまして。
ここの小説は、いつも見ていたのですが、ROMばかりで書き込みはしませんでした。
でも、今回ここに混じりたいと思い、投稿してみました。
感想等いただけたら幸いです。
これからよろしくお願いします。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
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2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。