『君の笑顔に花束を  ver1〜3』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:かぜたち                

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 貴女は笑っていられますか?
 たとえ、大切な人を失っても



 ピーピーピー・・・聞き覚えのある音。間違いなく、病院の機械の音だ。その音が、プチッという音を立てて切れる。ああ、機械の検査が終わったんだ。
「七倉さーん。今日は、退院ですよ。おめでとうございます」
 私は5年ぶりに外に出た。5年前、交差点で交通事故にあって以来。ずっと。
 そのときのショックで、私は記憶喪失になって、それで退院が先延ばしになっていたらしい。・・・そして、私が見た外の世界は、5年前と変わっていた。
私の家は跡形もなく、そこには立派なマンションが建てられていたし、近くの公園も潰され、家が建っていた。
 事故を起こした交差点の信号前でつぶやく。

「聖奈・・・私、退院したよ」
 私は太陽に向けて、キラリ、と輝く写真を見つめる。そこには、長い黒髪の少女の姿が映っていた。私の姉の、聖奈だ。
 キキーッと、自転車のブレーキの音。白の、ワンピースが良く似合う。麦藁帽子をかぶって、手には100円のアイス。
 活発で、いつも話の中心で。リーダー的存在だった姉
 そんな姉が、私は大好きだった。

 でも、聖奈はもういない。
 聖奈は事故の日、私をかばって自動車に直撃したから。だから、私はそのことを忘れずに生きていくことを決意した。絶対に。

 そして、私の中学校生活最初の登校日は、雨だった。
「おはよう」
 そういい、ドアを開け、教室に入る。すると、黒髪の男の子が私に話しかけてきた。
「お。見慣れない顔だね。俺、佐々木康一っていうんだ。よろしく」
 彼は、ひょろりとしてやせたような男の子だった。向こうだけに挨拶させるのはよくないとおもい、こちらも、
「私、聖羅。よろしく」
と答えた。
 すると、康一の後ろから淡い水色の髪をした男の子がひょい、と顔を出した。
「僕、佐々木研一。康一の双子の弟だよ。よろしくね」
 康一とは違い、おっとりして、優しい研一に私は心を惹かれた。
「わ・・・私、せ・・・聖羅っていいます。よろしくね」
 少し、慌てて自己紹介をした。

 二人を眺め、ふとおもったことがあった。

 ―前にあったことがある・・・?
 気のせいだと、おもいたかった。

◆       ◆        ◆

ver2 笑えない秘密

 私が事故を起こしたのは、1年生のとき。
 そのときから、5年間入院してて、退院したのは中学一年生の時だった。
 事故を起こしたときの私の記憶はあいまいで、まだ、わからないでいることもたくさんあったのだ。
「聖奈・・・、私ね、双子の兄弟の康一と研一と友達になったのよ」
 今日も私は、机の前で写真に語りかける。

 ―だって、本当は、死ぬのは私だったはずなのだから

 本当ならば、ここにいるのは聖奈だったはずなんだ・・・。
 だから、私は聖奈の分まで生きなければならない。
「・・・聖奈ぁ、私・・・、恋したわ。研一にきっと。なぜかしら。前にもこんなことがあった気がする・・・でも、覚えてない」

 そんな自分が悔しくて、悔しくて、たまらなかった。
 家に帰れば母親も父親もいない。両親は、私を捨てて家を出た。
 途切れ途切れの記憶。私から消えた笑顔。それを奪ったのは、私自身。
 何よりも、姉の命を奪った自分自身に腹が立って、しょうがない。・・・でも、もうどうしようもできない。

 だから、私は今度こそ、大切な人を守れるようになりたい。
 非力な自分を変えたいから。
 なくした記憶を取り戻したいから。
 私をかばって死んだ、姉のためにも。

 だから、私は笑わない。
 笑えない。
 前みたく、大切な人を失いたくないから。

 二度と、同じ過ちを繰り返さないように、私は笑わない。決して。

「聖奈、ありがとう。私に勇気をくれて」
 これが私の秘密。

 誰にもいえない・・・・


◆        ◆        ◆

ver3 声
 
 秘密を抱えた私は、まだその秘密を誰にも打ち明けられないでいた。
 「ふぅ」と昼休み、教室で一人、ため息をついていた。
 そこに、キーンコーンカーンコーン・・・と、学校のチャイムがなる。
「大変っ! 次の時間は、冷血教師、和那の授業だぜ! 移動教室! 理科室だってよ」
 皆に、「冷血教師」と呼ばれている、和那敬一郎先生は、不思議な人だった。
 例えば、廊下を静かに歩いていたかというと、いきなりハッとして後ろをものすごい勢いで見渡す。
 まるで、誰かにねらわれているかのように。
 他にも、植木鉢を教室のふたをしてある水槽の上に乗せていたり、特別な日でもないのにカレンダーに赤丸を付けていたり・・・と、不思議だらけの先生なのだ。
 でも、生徒の親身になってあげたことはなかった。
「・・・・先生、だから? 」
 ふとおもったことが、つい口に出てしまった。
「ああ、大変・・・。こんなこと、してる場合じゃなかった」
 私は急いで白衣を着て、理科室に行った。

 カッカッカッ・・・
 黒板にチョークで書く音が、理科室に静かに響き渡っている。
 「淋しい・・・?」ちょっぴり、そんな感じがした。
「えー、誰か。この図の意味を説明してみてくれ。・・・佐々木・・・兄」
 和那先生は、康一を指名した。
「こーいち・・・こーいちっ・・・」
 隣で研一が康一をつついている・・・ああ、康一はいつもの居眠りだわ。
「佐々木。聞こえないのか? それとも、授業をうける気がないのかね」
 冷たい和那先生の声が響きわたる。
「うにゃっ? 」
 康一は、意味不明な声をあげ、目を覚ました。
「佐々木。君には授業中居眠りをしていた罰として、校庭15週を命じる。文句は聞かない。行け」
 康一は、口をぽかーんとあけ、放心しつつも、「はい」と小声でいい、校庭に出て行った。

 そんな、一騒動おきた、授業の後だった。
「先生。・・・ちょっと、いいですか? 」
 私は、机でテストの丸つけをしている先生に話しかけた。
「なんだね? 七倉」
 話しかけても、テストの丸付けを止めない先生に、私は言った。
「先生は、どうして生徒の親身になって教えてあげないんですか? 不親切だとおもわないんですか? それとも・・・」
 がたん、と、先生が席をたった。
「七倉、僕は、生徒に「親身」というものを教えるためにこうしているんだ」
 私は何がなんだかわからない。
「他の先生方は、生徒の親身になって優しく教えている。でも、そんな環境の中で育ち続けた子供は・・・いずれ駄目になる。それを阻止するため、僕はあえて「不親切」にしている。そうすれば、子供達は「本当の優しさ」を覚えるだろう。・・・他の先生方は、子供達たちに優しすぎる」
 
 なぜか、私はその先生の声が、頭に響いて離れなかった。

 いつも、冷血だったのは、そのせい。
 自分達の、ためをおもった先生心・・・


 声が聞こえた
 先生と、楽しそうに話す声が

続く

2004/07/18(Sun)11:56:23 公開 / かぜたち
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