『異次元からやって来た男  完』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ねこふみ                

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         異次元からやって来た男

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人というのは愚かで
生きる価値も無い
それでものうのうと生きている
争いを生み
この地球を滅ぼしかねない
なぜ俺たちは生きているのだろう

第一話     
 『 街の図書館 』

 せみの声が外でミーンミーンとやかましく、それでいてどこか安らぎの音楽を奏でている。この街の図書館に来たのは今回でちょうど十回目だったと思う。小さい頃はあまり本を読むことは無かったが、大学生になって、平日に余裕ができると、なんでか図書館に足が運ぶようになった。それでもまだ数え切れるほどしか通ってはいない。来た時に数冊ちょっと厚めの小説を選んで借りていって暇な時はそれを読む、というのが今の私の楽しみにでもなっている。ファンタジーからホラーまで、ありとあらゆるジャンルを読破しようといつまにか必死になっている。
「いらっしゃい」
 この図書館は一人のおじいさんとそのお孫さんが勤めているだけだった。というよりは管理している、っと言った方が正しいのか。おじいさんはもう八十を過ぎているらしく、頭髪はすでに真っ白に染まり、小さな、それでいて度は厚そうなめがねをかけていているが、足腰はしっかりしていた。そしてお孫さんの方も歳はちゃんと聞いたことが無いが、私より少し年上な感じで黒髪がよく似合って本の大好きな人だ。たまにおじいさんの息子さん、つまりはお孫さんの両親も手伝いに来ているらしいが、私はまだ一度も会ったことは無かった。
「こんにちは、おじいさん」
 私は笑顔で迎えてくれたおじいさんに軽く頭を下げた。おじいさんは
「今日も綺麗じゃな」
 っといつものようにほめてくれた。このおじいさんは図書館に来る誰もを暖かく迎えてくれる。そして、おじいさんはいつも帰るときに「いってらっしゃい」っというのだ。おじいさん曰く「一回この図書館に来た人は常連で家族みたいなもので、だから『ありがとうございました』じゃなくって『いってらしゃい』なんだよ」とのことだった。それでも入ってくるときは決まって「いらっしゃい」なのだが……まぁーそこはご愛嬌ということで別に問題はないだろう。
「今日は誠(マコト)さん、いないんですね」
 誠とはおじいさんのお孫さん、つまりはもう一人の管理人さんである。本名は室井誠と言って先に言った様に私より歳は上な感じで、三年前ぐらいからおじいさんと一緒にここで仕事をしているらしい。誠さんは名前の通り誠実で優しく、それでいて本の話になると情熱的な人だった。そして何より、本が大好きな人だった。
「あぁー誠なら今日は寝ているよ」
「え? 寝ているんですか?」
「なんだか昨日夏だというのに冷えたじゃろ? そのせいか熱をだしてしまったんじゃ。あぁーでも大したものじゃないから安心しておくれ。また数日すれば戻ってくるわぃ」
 室井源一郎(ゲンイチロウ)というのがおじいさんの名前。兄弟はいなく、子供は息子と娘が一人ずつで、両方ともこの街を離れそれぞれの家庭を持っている。それでも息子さんの方の子供……つまりは誠さんが小さい頃から本が好きだったらしく、良くここに通っていたという。そのせいもあってあえて子供が面倒を見ない親……つまりは源一郎さんの元にやってきて面倒を見ながらも自分の好きなことをしている。誠さんは本当に本が大好きで、この間話したときは「俺はこの仕事大好きだし、ずっと続けるよ! 親父達は結構反対しているけどねぇ〜、イヒヒ」っと目を輝かせながら言っていた。
「じゃぁー、お大事にって伝えてください」
「アハハ、あいよ! サラちゃんに言われたとわかれば、すぐに治っちゃうじゃろう〜ワハハ」
「お、おじぃ〜さ〜ん!」
 源一郎さんは大声で笑った。図書館のマナーとしては駄目だろう。それでも源一郎さんが元気なことは、この図書館に通う誰もが望んでいることで、むしろここに通う誰もが源一郎さんを慕っているのだ。だから源一郎さんは特別なのだ。
 源一郎さんにからかわれながらも私はいつもの席に着いた。この図書館は結構広く、色々な本が並べられている。そして新刊からかなり古く、怪しい雰囲気の本まである。そして図書館内には結構な数のテーブルが中央に並べられ、そのテーブルを囲むようにずらりと本棚が並べられているのだ。そして各ジャンルごとに分かれている本棚の中からみんなそれぞれ好きなものを選び、カウンターにいるおじいさんのもとにやっていくのだ。
「ふぅー」
 一息私はついた。まだ十回とはいえ、結構源一郎さんや誠さんと話したりしているからなんかもっと来ているような感覚になっている。そして十回来ている割に、決まってこの席に座っている。つまりは私にとっての定位置なのだ。中央に並べられたテーブルの最も北側に存在し、目の前にはうまく本棚をさけ、街の中に茂る緑の風景が私を癒してくれるのだ。”これ以上ない特等席”って感じで私はここに座っている。
「……あれ?」
 違和感。一息つくまで全然気にならなかった。というか私は鈍感なんだな〜って思う瞬間でもある。目の前のテーブルには一冊の本が置いてあった。しかも本は結構古びていて、題名すら薄れていてちゃんとわからない。かろうじて二文字程度が見えるだけだった。
「空……戦……ん〜読めない」
 読めた字は空と戦。そして消えている文字は空の後と、戦の後の二文字だった。私はラベルを見てしょうがないな〜と思いそれがあった場所に戻しに行った。するとちょうどその本を入れた隣におもしろうそうな本を見つけ、私はそれを借りることにした。
「おぉ〜今日はこれかぁー。もう今日は行っちゃうのかぃ?」
「えぇー、今日はちょっと早いけど帰って学校のレポート書かなくちゃ行けないんですよ〜」
「そうかい。いってらっしゃい」
「はぁ〜い。誠さんによろしく言っておいてください」
 手を降るおじいさんを背に私は図書館を出て行く。なんともいえない光景。それでもいつものことだから慣れていた。源一郎さんは本当にここに通っている人が本のように大好きなのだ。



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争いの中で人は
何を思うだろうか
俺にはわからない
俺は――

第二話 
 『出会いは唐突に』


 その日はレポートを書くために図書館で本を読むことをせず、家に帰ることにしてしまった。図書館から家までは歩いて十分ぐらいの場所で、私は真夏の暑い中を一人帽子もかぶらずに歩いてきた。途中、どこか懐かしい駄菓子屋で冷たいラムネを買って飲みながら私は家路に向かっていった。
「本も読みたいし……でもレポートあるし……ぱっぱと片付けなきゃなぁ〜」
 私は左手にバック、右手にラムネという変な姿だった。ラムネを買った駄菓子屋は最近知った場所で、店内は老夫婦がいるだけで、開いているのもマチマチだった。だから今日は運が良かった。昔懐かしいラムネは私の乾ききったのどを適度に潤し、シュワシュワとした痛みが私の意識を保たせてくれた。
 そしてもうすぐ私の住んでいるアパートにたどり着く。目の前の十字路を右に曲がれば私のアパートの敷地が右手に現れてる。私は曲がるあと一歩というところで足を突然止めた。なんかおかしい表現だろう。止めたと言うよりは止められた、というのが正解だろうか。
 私は一瞬のことで言葉が出なかった。
「み、水……」
 なんと、目の前からいきなり男が倒れてきたのだ。その男の髪はグレーに染まっていて、緑色の腕の部分が切れたジャケットを直で肌に羽織って、下は上のジャケットとおそろいのような長ズボンをはいていた。そして男は弱々しく「水」という言葉を吐いていた。
 いきなりの異様な光景。正しかった日常を、非日常という文字に変えてしまうような出会い。私は驚き考えた。いきなりのことだったが、私は飲み物をかろうじて持っていた。状況が全然把握できていない私はとにかく男に歩み寄った。
「あ、あのぉ……?」
「み、水……」
 私は手にしていた”水”を男に手渡した。男はそれを力強く奪うと勢い良く飲み始めた。そしてあまりのことに私は忘れていた。それがラムネだったことを。それでもラムネなんて独特のビンなのだから誰でもわかるものだろう。それでも男はそんなことがわからないのか飲んだ瞬間、口から吐き出した。
「な、なんだこれはぁー! まさか、お前は敵!」
「え? あ?」
 何を言っているのだろう。暑さで頭がおかしくなったのではないか?っと私は思った。男はその言葉を最後に意識を失った。私はというと何がなんだかわからなすぎて、一人「警察か、病院か」っと迷っていたがどうにも答えは出ないし、気がつけば携帯の充電はなくなっているし……で、重い体をなんとか持ち上げ……なんて無理な話で、近くをちょうど通りかかった人に助けを呼んで私の部屋まで運んでもらった。
「あのぉー僕〜忙しいんで〜」
「あ、ありがとうね!」
 私はあせった。このままでは私は殺人犯になってしまうのではないか? なんてバカみたいなことを思っていた。『ラムネ殺人事件』という大々的に新聞に載りそうな話ではあるが、かろうじて男の脈は存在していた。
「警察、いや? 病院? でもなんか……」
 かける気が起きなかった。というよりはかけたら捕まるのではない? なんて考えがあった。見ず知らずの人間にラムネを飲ませ、そのうえ気絶させた……いったい何がどうなっているのだ?
「……ここは」
 唐突なことばかりだ。色々考えている最中に男は目を覚ました。今寝ている場所は私の部屋のソファー。っというかこの状況は危ないのではないか? なんて思ったりもしている。いきなり倒れてきた男。それが私の部屋で眠っている。そして部屋には二人っきり……もしかしてヤのつく自由業とかいろんな考えが私の頭の中をめぐりめぐっていた。
「こ、ここは私の家です……」
 私は緊張していた。はっきり言って怖かった。言葉すら言うのが難しい気分。それでも私は『ラムネ殺人事件』というのだけは嫌だな〜っと思っていた。混乱している私はなんとバカなのだろうか……。
「……ん? あ、お前はシュワシュワ女!ちくしょぉー! 俺は!」
 大声でいきなり怒鳴りだす男。しかし男はそれ以上しゃべろうとしなかった。というよりは男自信なんだか私と同じような顔になっていた。つまりは不思議そうな顔を顔全体に現してているのだ。見るからに筋肉質。それでいて着ているのは古びた服。謎のグレー頭。そして運んでいる時に感じた異様な重さ……混乱状態なのは私のほうである。
「そ、そうだ。俺は、俺が誰だかわからない……な、なんでだ! 俺は何をしていたんだ! お、思い出せない……」
「え!? 記憶喪失!」
 私は素っ頓狂な声を発した。男はその声が聞こえていないのか反応は無かった。そして男は私に再び私に目を運んだ。その目は弱者が強者に命乞いをするような、恐怖・絶望に満ちた目だった。
「シュワシュワ女……俺は何者なんだ?」
 知るか、っと言いたい私。なんだか私の日常はどこかに消えて行きそうだった。微妙な間が生まれる中、男は頭をかきむしり、かきむしったと思うと今度はムンクの叫びのようなポーズを決める。見ている私は本当に混乱していた。ムンクのポーズで噴出しそうな私も、状況が状況だけに笑うに笑えず……いや、本当に記憶喪失なのだろうか? という疑問まであった。いったいこの人は……。
「わ、私は、も、桃山更紗(モモヤマサラサ)って言うの」
「シュワシュワ女……俺はなんであそこにいたんだ……倒れる前の記憶以外ないんだ。お前は、お前は何か見なかったか!」
「シュワシュワ女じゃなくって! さ・ら・さ! こっちが聞きたですよ! あなたは誰なんですか? 病院行きますか?」
 男は私の名前になんの反応も示さなかった。なのに”病院”という言葉にいきなり表情が変わった。そして男は私に必死になってすがりついてきた。
「病院はやめてくれ!なんだかわからんが、そのヒビキいやなんだ!」
 ヤレヤレ……大の大人がそれですか? っと私は男に視線をやった。とにかくこの状況をどうにかしなければいけない。私は一人頭を悩ませていた。部屋はあまり広くないけど、別に彼氏がいるわけでもないから部屋にいるのは問題ないかもしれない……。けれど一体何がなんなのだろうか……時計はお昼の12時を指そうとしていた。


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決して俺は
俺の意志で生きていたわけじゃない
毎日毎日
誰かの言いなりだった気がする
だから俺は――

第三話     ラーメンとシャワーと下着


 せみの声が聞こえてくる。今年は異常気象で今までに無い暑さだった。それでも昨日はそのまた異常気象で、物凄く冷えた。いったいどうなっているのだろう? っと私いや、日本全国民が思っただろう。
 そんな異常な時に異常な男が私の前に現れたのだ。男はいきなり私の前に倒れこんできて「水」というからちょうど手にしていたラムネを飲ませると気絶して……けれど今は私の部屋にあるソファーの上でくつろいでいる。
「あのぉ……なんて呼べば……」
「……記憶無くて名前なんか覚えてない。なんでも良いぞ、シュワシュワ女」
「更紗です! じゃぁー”グレー”で良いですか?」
 安易な名前。髪の色がグレーだから。そして何より未確認生物みたいな感じもあったし、それでいてちょっとカッコイイ名前。そんな風に見ていると男の顔はよく見ていると結構かっこよかった……いかんいかん、そんな男は名前のことを聞くと
「グレー、っか」
 っと言い天井を見上げていた。灰色の髪をして記憶を失なったグレー。それでも大変だという状況なのにどこか今の休息を楽しんでいるような感じもした。外ではセミがとまっていた木から飛び去りどこかへ行ってしまったようで、部屋には静寂が戻っていた。
「あのぉ……お昼作りますから、食べますか?」
 あぁー私は何を言っているのだろう、なんて思う。見ず知らずの変な男が部屋に来て私はおかしくなってしまったのだろうか?自分からお昼を作るというのだ。グレーはちょっと悩んだ顔をする。そんなに私の料理は嫌なのだろうか? っというか食べたことも無いくせに……。
「昼食の時間か。うぅ〜ん、少し世話になるとしよう。クレ」
「ください」
「なんだ」
「人にモノを頼む時の言葉です」
 グレーはそんなのことしるか、っと言いたそうな顔をしてこっちを見ている。私は
「はぁー」
 っと一つため息をこぼしてから台所へ向かった。ホント私は何をしているのだろうか。無理にでも病院や警察に届ける方がいいのだはないか? っと思うがなんでか「病院」って単語でふるえるグレーには申し訳ない感じがした。大の大人が病院が怖いとはホント、何事だろうか。
 冷蔵庫を覗くとあまり具材がなかったが、なんとかありきたりな簡単な料理はできそうだった。ありきたりなメニュー……考えているとそこにふ二つ”袋に入った麺”が見つかった。つまり私はラーメンを作ることにした。ラーメンとはこの世の中で画期的なものだと思う。味付けもちょっと変えるだけで色々楽しめるし、具在も変えたり麺の形を変えたり、無限の可能性がある料理だと思う。
 私は急いでラーメンを作り上げた。
「はい、どうぞ」
 私は未使用の割り箸と屋台で出てきそうな熱々のどんぶりをグレーの前に渡した。グレーは置かれた料理に目を丸くしていた。その顔は「なんだこれは?」というような顔……もしやとは思うが”ラーメン”すらわからないだろうか?
「ねぇ……これラーメンなんだけど知らない……の?」
「スマン、記憶になさすぎ。っていうかお前はホント見たことも無いような食べ物を食べているんだなぁー」
「へ? ちょ、ちょっと! ほんとにわからないの!?」
 今の私の顔を世間には見せられない。何を言っているのだろうか? ラーメンなんて常識も常識だろう? しかもそこに入っている具材にも「見たことの無い」なんて言って指をさすのだから、記憶喪失的にはかなりやばいのではないだろうか? っと思う。
 とにもかくにもグレーは割り箸を見事に割り、手に持ち、箸を中に中に突っ込み、麺をつかみ、恐る恐る口に運んだ。見るからにやばそうだった。
「なんて美味!」
 グレーは歓喜の声をあげた。この世にこんな食べ物が存在していたのか? っとでも言いたそうにラーメンを見つめる。グレーはズルズルといっきに麺を啜っていく。そして具が全てグレーの胃袋の中に納まると今度はツユを行って気残らず飲み干した。
「ぷはぁ〜〜〜」
 グレーの顔は輝いていた。なんて人なんだろうか……私はあっけにとられ一口も食べていなかった。そして外では再びセミの音が鳴り響く。ジリジリとした暑い夏の中、私は見ず知らずの記憶喪失のグレーと出会った。そしてグレーはこの世界の”普通”というものを知らない。けれど日常に不可欠なことは知っている。たとえばはしの使い方。それは問題ないくらい完璧だった。それなのに……。
「なぁーシャワー浴びたいんだが」
「しゃ、シャワー!? い、良いけど……かえの服なんてないですよ?」
「記憶が戻ったら返すからどこかで買ってきてくれ。その間俺は入っているから」
 私は戸惑った。男性ものなど父親以外買ったことは無いのだ。しかもここで「買ってきてくれ」というのは少なからず下着のことだろう。ついでに言えば私が仮に買いに行ったとしても一人家に置くというのもどんなものだろうか。私は戸惑った。
「……何を悩んでいるんだ。普通に下着だけ買ってくれば言いだけだろう」
「……そうだけど」
 その瞬間ひらめいた。歩いて3分の場所にコンビニがある。そこにはちょっと高めだが男性用下着もあるはず。私は「よし」と自分に言い聞かせた。
「わかったわよ。シャワーはあそこだから、良いって言うまで出てこないでよね」
 そういうとグレーは私が指差した場所に向かっていった。
 私はというと急いで自分の部屋から財布を取り出した。ついでに部屋に落ちてすでに”ゴミ”になっているチラシを丸めた。これには最近ここに現れる強盗のことが書いてあった。けれどうちには関係あにだろうと思った。そして私はコンビニに向かった。それからたった10分程度で私は自宅に戻ってきたのだった。けれど――

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自由に動く翼を
羽ばたかせ
破壊の限り
この世を滅ぼしていく
まるで俺は――

第四話      夏の日の

 暑い日差しの中を再び外に出かけるのはいやだった。私は色白なので焼くのには多少なりと抵抗があった。けれど今はそんなことを言ってられず、私は急いで近くのコンビニに向かい恥ずかしい気分で男性用の下着を買った。
 暑い日差しは私の体温を簡単に上昇させていく。まるでサウナにいるような気分になっていく。どこかでアイスでも買って行こうか? いやいや、今日は違うのだ。いつもの私なら近くのお店でアイスでも買っていくところだが、今日は非日常である。急いで戻らなければならない。私は早足になりながらグレーのいる私の部屋に行った。
 
「ここにおいておくからね」
 私はそういうとさきほど買って来た下着を脱衣所に置いといた。というより元々着ていた服を洗うのは私の役目なのだろうか? ……それは困るな……。
そんな私はこのとき異様な光景を少なからず見えたはずだった。しかし全然気付かないでいた。ある異物ののような存在を……もっとはっきりとした何かを……私は気付いていなかったのだ。
 私はひといきつくために冷蔵庫に向かった。取り出したのはギンギンに冷え切った麦茶だ。麦茶を飲むコップには数個の氷を入れる。ヒンヤリ冷えた氷を手につかんだ瞬間の爽快な気分がなんともいえない、氷は夏にはというよりはこの世の中になくてはならない、欠かせないものだろう。そういえばカキ氷なんていう食べ物もあるほど氷は日本人の夏には必要不可欠なものだ。カキ氷はシロップをかけることでただの氷を色々な味で楽しめる。ちなみに私はメロン味が大好物である。
私は氷が数個入ったコップに麦茶を注ぎそれからちょっと待つ。ちょっと待っていると氷が溶け出してきてより冷えていくのだ。私は麦茶を口に含ませながら今日のことを思い出していた。
「はぁー」
 ため息が漏れる。本を読みたいために図書館に行ったのにその帰り道、記憶喪失という男つまりはグレーに出会った。しかし彼は病院が怖くてしょうがない人間……。私は近くにあるMDコンポに私のお気に入りの曲を流した。
 その曲はDay After Dayの『Daybreak』っていう曲で私がかなり気に入っているものだ。カラオケでも良く歌ったりする。Day After Dayの意味は毎日毎日という意味で、構成は男性二人に女性二人。ボーカルはMET(メイ)って言う人でその歌声は”歌姫”っていうにふさわしい声で日本中でかなりブームになっている。Day After Dayの中でも『Daybreak』は特に人気が高かった。なんていうか、大袈裟に言うと人生における切なさ、どんな闇の中にいてもきっとそこに光は差していくって感じで本当にすばらしい曲だ。
「綺麗な月 一人で会うことが切なくて」
 曲が鳴り響く。私はこのフレーズが一番好きだった。一番最初の出だしだが、この部分私は自分もそう思ったときがあった。外にキラキラと光り輝く星の中を一人歩いていく。神秘でてな感じだが、それを一人であることはさびしいものなのだ。この曲は日本中の女性をとりこにした。この曲によって女性からの支持は完全なものになった。来週には新曲も出すらしい。もちろん私はその曲を買うつもりだ。
そんなこんなで曲は最後のフレーズを歌い終わると次の曲へ入った。Day After Dayの一番最初のリリース曲、『Passion』が流れ始る。意味は”激情”っていうもので、自分の中で抑えていられない”恋”という激しい感情を歌っている。これは先に述べた切なさというよりは、強引に抑えられない感情を思いっきりぶつけた歌詞。そんな歌詞がいっきに人気を集め3週目にしてオリコン一位に輝いた。人々は彼女、METの歌声聞き入っている。私もそんな人々の一人である。
Day After Dayのことを言えば、その曲その曲でボーカルが変わる。それでもメインはMETなのだが、他の三人がメインボーカルになるときもある。いつもはピアノを弾いているもう一人の女性は、METに比べて柔らかい声の持ち主、時にベース、時にギターを弾いている男性はかなり低い声の持ち主、そして最後の一人は時にドラム時にギターだが先ほどの男性よりも色々なものを弾いている男性で、声は男性にしてはかなり高いキーを出す。彼ら四人は女性にとっても男性にとってもかなり人気があるのだ。そして四人それぞれに曲の特徴が変わる。まぁー聞けばわかることではあるが、彼らは本当にそれぞれが天才的な声を持っているために、人気はかなり高いのだ。

 聞き入っている私。けれど私は気付かなかった。見ず知らずのグレーとは全然違う人間の存在がひそかに私の背後にやってきていることを。私はほっとしている状況。気の抜けた私の口元に何かが当たってくる。それは黒い皮手袋の誰か知らない男の手だった。
「んぅー!」
「静かにしやがれ! 金目のものはどこにありやがる! てめーが一人暮らしなんてわかってんだよ! 怪我したくなきゃおとなしくしやがれ!」
 何がなんなの! と私は思った。私は涙目になっているだろう。その声は低くかすれた男の声。聞き覚えなど全然無い。もしかしたらさっき捨てた強盗なのだろうか? 私の頭の中は混乱していた。口元を押さえられた手と、背中にチクリと当たっている刃物のようなものが私をいっきに恐怖に埋め尽くして行った。
どうしよう、どうしよう。私は知っている。人間には奇跡なんてものは存在しない。結局私はこのまま通帳などを奪われる。運がよければそれだけだが、相手が男だというのならこのまま癒せない心の傷を負わされるかもしれない……ここはおとなしくしようと思った。
「ん!」
 私は顔で「あっち」という風に示した。目指す場所はタンス……命には変えられない……けれど……悔しい……。
「このタンスか? 逃げたらぶっ殺すぞ」
 その一言で私は男の手から離れることができた。けれど恐怖が支配して足も口も動かないでいた。初めて見えた男の姿はやはりあのチラシに書いてあった強盗にそっくりだった。そしてこの強盗の欄にもう一つ書いてあることも思い出した。『強姦経験もアリ』というものだった。思い出してしまった私は恐怖と絶望が完全に支配している場所にいた。男経験なんて恥ずかしいけど、ないのだ。けれどこんな形で――

「なんだ? 騒がしい。上着だけ干さしてもらうぞ」
 唐突に聞こえた声。それは奇跡の何者でもない。今の私にはグレーという見方がいるのだった。そうだ、そうだよ! 私はいっきに希望に満ちていった。そんなグレーを見て驚くのは強盗犯。女性一人暮らしの家にいきなり同居人が現れたらそりゃぁ〜驚くだろう。
「な、なんだてめぇー!」
「グレー!実は今――」
 私の言葉は全て発せられなかった。グレーと出会って、風呂場に下着を置きに行った時の違和感。すべてはこれだったのだろう。私と強盗犯は共通の謎を持っただろう。グレーの姿に。全ては普通の人間だと思っていたが……それは違っていた。彼は人間なんてものじゃない……まるで

「悪魔……」


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悪魔そのもの
俺は殺戮のためだけに生きる
それが俺の意志
それが俺の希望

第五話        謎は謎を呼ぶ 

 ラムネを飲んで気絶した時にもっとちゃんと考えるべきだったのだろう。ラムネを知らない人間なんて外国人以外にいないだろうということ。ラーメンをしらない人間なんて早々いないということ。日常に必要不可欠なことを知っているくせに食べ物とかテレビ番組のこととかまったく知らないことに、もっと疑問を持つべきだった。
 それ以上にあのとき何故倒れていたのかをもっと考えておくべきだったと思う。あまりにも不自然な出会い方。けれど私との出会いなんて偶然の何者でもない。それは絶対だ。シンクロにシティという言葉があるが、そんなことなんてありえないのだ。
私は一驚する。
 彼は、グレーは……
「悪魔……」
 それが適切な表現。上半身完全に裸で現れたグレーの背中には今まで隠れていた黒く、優雅に伸びている翼が存在した。それは鳥の翼というよりはコウモリののような、それでいてマントのように見え、テレビやアニメで出てくるような”悪魔”に生えている翼みたいだった。黒き翼は左右に伸びきっている。悪魔という存在がこの世に存在するならそれはグレーのことだろうと思う。がっちりとした鋼鉄のような体。そこに優雅に生えている黒き翼。
「ん? どうした? シュワシュワ女。そいつは誰だ?」
「……こ、こいつ……は」
「て、てめぇー! どんな仕掛けだゴラァ! こっちには人質がいるんだ! おとなしくしてりゃ――」
 私は再び刃物を当てられた。風が吹く。窓の外から入り込んだ風が私を包む。「もう大丈夫だよ」まるで天使がささやいてくれたように。私は一瞬にして男から離れた。気がつけば男はノックダウン。一体何が起こったのだろうか……。
「悪い。なんかやばそうだったから倒した」
 再びもとの世界に戻ってきた私の前にいるのは天使なんかじゃなくって悪魔そのものだった。一瞬の出来事それはすごく簡単だった。グレーの速さは強靭的なもので、鋼鉄の体に備わった足はまさに俊足のごとく、強盗犯の胸元にグレーを連れて行った。次にグレーは鋼鉄の体に備わる鋼鉄なる拳を犯人の顔面に浴びせたのだ。断末魔など聞こえないほどの一瞬の業。
「グレー、あなたは一体……」
 恐怖が支配する。何か不思議な世界の迷い込んだように、私を通常の時の流れから不思議な流れに変えていった。犯人はノックダウンのままで私はグレーを見つめている。目に映るグレーは下半身に下着を着ているとはいえほぼ裸体同然。不自然な翼を持つ謎の人型……の獣……。
「グレー……あなたは何者なの!? もしかして、本当に……悪魔……。いやぁー! こないで!」
 私の頭の中を混乱が支配していく。ついさっき会った人間は人間ではなかった。悪魔という空想動物のような存在、それが今目の前に――
「な、なんだよ! 俺が何かしたのか? お前がピンチに見えたから助けただけだろう! まさか、お前は俺のことを知っているのか!」
 グレーは私に聞き返す。わからない。何もわからない。けれど答えは目の前にいるグレー自身。恐怖の象徴とでも言うのであろう悪魔が私の前に私の部屋にいる。けれど私はその悪魔に助けられた……グレーあなたは一体……。
 私は恐怖に満たされる心を一掃するべく一息つく。これじゃなにもわからないままだ。何も進まないままこのまま混乱しちゃいけない。私は改めて深呼吸をする。そして改めてグレーをみる。けれどグレーの姿は異様だった。
「わからない……でも、その姿は異常だよ……翼なんて普通ないの……それじゃぁ……まるで、悪魔……」
「あ、悪魔……? わ、わからない……俺にもわからない。翼はさっき風呂に入るまで気付かなかった。なぁー! 普通の人間には翼は無いのか!? 俺は誰なんだ! シュワシュワ女」
「更紗!」
 グレーは自分の姿に驚く。「普通の人間には翼が無い」あたりまえのことだよ……グレーはただ困っていた。そして震えているのをわっかたのだろうか、グレーは困った顔をしながら私を覗き込む。ただ私は思う。悪魔という空想動物という存在は私を助けてくれた。それはつまりは……。
グレーは優しかった
「……ごめん、グレーは私を助けてくれたんだよね……?」
 そうだ。結局”悪魔”という言葉が”悪いもの”と決め付けたのは人間。そしてそれがどんな姿をしているのかとか固定概念を植えつけたのも人間。ならば――
「なら私もグレーのこと助けなきゃ……」
 そう、グレーと関わったのはいわば運命かもしれない。図書館で前借りた本にもこんなようなファンタジーのような話はあった。それに人間が思っているほど世界はつまらないものじゃなく、不思議が隠されているものだと思う。その不思議の一つがグレーなんだと……私はそう思うことにした。
「グレー、明日図書館に行きましょう? 何かわかるかもしれないし……」
「図書館……それもわからない。頼む……俺にはおまえしかないんだ」
 グレーは私の肩をつかむ。グレーは私を見つめている。まるで子犬のように、すてられたくない何かのような目。グレーは私の答えを待つ。私は頷く。
「グレー……」
「シュワシュワ女……」
「更紗!」
「あのぉー」
 驚く私たち。肩に置かれたグレーの手はどこかに消える。声の元を見るとさきほどの犯人が起き上がっていた。犯人の顔面は異様な腫れ具合だった。それでも犯人を私はグレーと一緒に警察まで連れて行った。もちろん交番の前でグレーは待っていることになったけれど……。
 とにかく私は決めたのだ。グレーの謎を解こうって、だから明日私はあの図書館に行くことにした。グレーの謎を解くために……。


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けれど俺は
時々思う
なんのために生まれ
なんのために殺戮を
繰り返すのか
それは
俺が自らの意志を持ってしまったようだ

第六話   やっぱり図書館


 スズメの声が聞こえてくる。昨夜は熱帯夜だった。けれどそんなことを気にしていられない。この街の図書館は開店は10時。少しでも時間がほしい私は急いで朝食を作ることにした。今の時間は9時。熱帯夜な割に良く寝れたものだと思う。グレーはソファーで眠っている。けれど初めグレーは眠ることに恐怖していた。何故そこまで? というような感じで震えていた。震えがずっと続いていたグレーを昨夜私は抱きしめてあげた。
「良い子だから……」
 そうするとグレーはゆっくりと眠っていった。そしてそのままの状態でまだ眠っている。最初ソファーで寝ていたときは今思えばひどくおびえていたようだった。なんというか起きた後なんて「俺は死んだのか?」というような顔だったし……。
「玉子焼き完成!」
 ご飯と玉子焼きという質素な朝食。それでも良いかと思い、グレーを起こす。体をまずは揺さぶってみたが起きてくれなかった。しかたなく近くにあった目覚まし時計を使った。
「――!敵!」
「ぐ、グレ〜? やだもぉー、何が敵よアハハ、朝食だよ」
 私は昨日までの私ではなくなっていた。それが何を意味するのかまだ自分でもわからない。けれど少しずつではあるが、グレーと私はコーヒーとミルクのように混ざりあっているようにも思えた。
「そか、悪いな……っでこの白の粒粒と、黄色い目玉のようなやつはなんだ?」
「あ? やっぱ知らないんだ〜? こっちはご飯でこっちは目玉焼き」
「に、人間ってのは目玉を焼くのか……」
 私は笑う、心のそこから笑う。グレーが本当に何者なのかそれがわかった時、私はこうして笑っていられるのだろうか……そんな不安もあるが、私とグレーと今は一緒に笑っている。

 ジリジリと私とグレーを照り付ける太陽。ミーンミーンと鳴いているセミ。吹くのは嬉しいが、生暖かい風。異常気象はなおも続いている。9時55分、開館前に私たちは図書館にやってきた。そんな私たちを時間前に気付いた源一郎さんが中に入れてくれた。
「いらっしゃい、今日は早いのぉ〜? あれ? そちらの方は? もしかしてサラちゃんのこれかのぉ? ハハハハハハ」
 源一郎さんは相変わらず元気だ。しかし私は小指を立て「これかのぉ?」に対し異様に首を横に振る。グレーは無言のまま源一郎さんを見詰めている。”これ”の意味はわかっていなそうだった。
「そうじゃ、そうじゃ。誠も今日の午後には来るそうじゃし、もしかしたらサラちゃんのおかげかものぉ〜」
 源一郎さんはまた豪快に笑う。この図書館はまだ開館前ということでまだ客は私達しかおらずそんなのお構いなしなのだろう。涼しい人工の風が吹いている図書館は最高の避暑地だった。
「誠さん、もう大丈夫なんですか? そっかぁ〜良かったですね」
 私はニッコリと微笑む。グレーは当然わからないままのようだ。源一郎さんは「さぁさぁ」と私たちをいつもの私の席へ案内する。
「すみません……なんか悪魔の出てくる本とかってありますか?」
 突然何を言い出すのか? っとも思う発言をする私。けれどそれ以外に言いようがなかった。源一郎さんは口をあけ”さてさて?”というな顔をしながらも、少し考えその場所を指を指した。そこは西洋文学と書かれたエリアだった。悪魔といえばやはり西洋……つまりドラキュラとかそんな感じの類に属すのだろう。私とグレーは指された方に歩み寄っていく。そして並べられた数々の本をてありしだい調べることにした。
「なぁ〜なんて書いてあるんだ……」
「字も読めないんだ……。しょうがないなぁ〜グレー? おとなしく待ってね」
 しかたなしに私は一人で調べることにした。数分が経ち客も全然入ってこないと源一郎さんが私たちの方へやってきた。
「何を調べておるんじゃ?」
 言って良いのだろうか? 私は迷う。けれどこの街で一番頼れるのはこの源一郎さんだけだ。それを考えていると源一郎さんに話て何か知っていればそれは、それで……っていうかそんなことを信じる人などいるのだろうか? けれど一向に手がかりは何一つわからないままだった。
「ちょ、ちょっとぉ……」
「なんじゃ? 何かあればワシにも言ってくれな?」
「もちろんですよ! でも多分大丈夫です! 御気になさらずに〜……ハハハ……」
 源一郎さんは少し寂しそうな顔をしてカウンターに戻っていった。突発的だったとはいえ、悪いことしたかな……っと私は少し罪悪感に包まれた。しかしそんなことを言ってられない。どうにかこうにか手がかりはないものかと必死に調べる。偶然か必然か、客は誰一人としてやってこない。そしてそのまま時間は刻々と過ぎお昼の時間となってしまった。

「――あれ? 桃山さんじゃない? あ、そっちの人は……初めまして、僕は室井って言います」
 突然だった。昼の12時になって図書館内の古いハト時計が鳴り響く中、やってきたのは源一郎さんのお孫さん、室井誠さんだった。誠さんは私と一緒にいる初めての客に笑顔で自己紹介をする。というよりグレーはどうしたらいいんだか迷っている。私はあせりながら
「あ、風邪大丈夫ですか? お久しぶりです。こっちは連れのぉー……」
 言葉に困る。なんと言えば良いのだろうか。私は思う、なんで名づける時日本人のような名前……違う、何を考えているのだグレーはどう見ても日系じゃないではないか? 名前はだからそのままで……
「グレーって言います」
「グレー……外国の方ですか? さっき入って来たらゲンジィが仲間に入れてくれないってへこんでたけど、何を調べてるんですか?」
「あぁー……えぇ〜……っとぉ〜……」
 現状報告するとすれば、何もわからないということだけだった。結局2時間かかって何もヒントはわからなかった。グレーが何者で一体何故ここに存在するのか、という疑問が本当にわからないままだった。源一郎さんと誠さん以外はこの図書館にはいない。客は誰一人としていない。コレ以上私だけで調べてもらち明かないだろう……これは……もう……。
「実は……ちょっと協力してもらえませんでしょうか?」
「協力ですか?」
「悪魔について……」
 誠さんは静かに私を見つめているのだった。




第七話
 『 グレー 』
 
「実は……協力してもらえませんでしょうか?」
 誠さんは唐突の言葉に驚いている表情だった。そして何かを見つめるように何かを一途に見つめた。そして私の顔を見る。その表情は何か違った。
「協力ですか?」
「悪魔について……」
 私の目は真剣だった。そのために誠さんは何かを感じたように私から視線を離さない。けれど誠さんはいっきに動揺していく。そして目線をそらした。
「……聞いてほしいんだ。一昨日、何故夏なのにあんなに冷えたのか」
「え」
 私の期待した言葉とは違っていた。誠さんは息を飲む。この感じは今の私に似ている。何かとんでもないことを隠しているような……そんな感じ。私がグレーを隠しているようにそんな顔をしていた。
「誠ぉ〜? なんじゃ? いきなり」
「誠さん、どういうことですか?」
 源一郎さんもなんともいえない雰囲気の私たちの所に寄って来た。ここにいるのはさっきから口を開かないグレーと誠さんと源一郎さん、そして何もわからない私の四人。誠さんは張り詰めた顔をしながらいっきに話をし始めた。
「実は結構前の日『召喚術の本』っていう古い本を見つけたんだ。気になって調べてるうちに『悪魔の召喚術』ってのがあってそれを一昨日、夜中の0時に実行してみたんだ。もちろん信用したわけじゃない。遊び半分でその書いてある通りにした。けれどいきなり暗雲が立ち込めて、いきなり冷え切った。怖くなってその場を逃げて家に戻ったけど体の冷えはおさまらなかったんだ……ただ、それだけのことなんだけどなんか誰かに聞いてもらえないと怖くて……もしかしたら僕があの日冷夏にしたんじゃないかって……」
 『召喚術の本』『悪魔の召喚術』そんな……けれど私にはそれが何を言っているのかなんとなくわかった。その異常気象を起こしたのが自分の責任なんて思ったのだろう。私は誠さんがまだ震えているのがわかった。
「誠……その本がこの図書館にあるのか……」
「じいちゃん?」
 しかしその二つの言葉に一番驚いたのは、源一郎さんだった。見る見るうちに目の色が変わった。それは何かとてつもなく恐ろしいものを見るような顔。はじめてみる源一郎さんの顔だった。
「『召喚術の本』……それはかつてこの図書館がまだ古びた町の図書館だった頃の話じゃ。その本は別名『悪魔の本』と呼ばれ悪魔を作るための本だった。何を? というような顔をしておるなぁ〜、その本は意志を持ち最初は人の数が少ない古びた図書館に勤める男にとりついたんじゃ。その本に支配されその男は殺戮を繰り返し、次にとりついた女にも殺戮をさせた。そして警察によりその本を完璧な消去されこの世から消えた、本……しかしその本がまさかここにまた存在していたとは……ワシもうわさでしか聞いたことが無かったしのぉ……まさかそれほどまでにその本は恨みを持ち現世に生き続けていたとは……」
 『悪魔の本』……違う。それじゃぁ〜……私は……きっとそれを――
「そんな本が!? 僕はなんて本を……でも、そんな恨みで復活するなんて……ありえない!」
「ありえないなど誰が決めた。そもそもワシが言うように本はどこか別の世界を観覧できるものじゃ。だからその本もまたどこか違う世界を映し出している……それが地獄なのかもしれん。さぁーその本を早く消去しなければまた死人がでる。その本はすでに悪魔を呼び出せるだけの生贄が存在している!」
 存在、つまり――
「ま、まってください!」
 私は居たたまれない気持ちになった。これがすべての答えなの?私はその――
「ここにその悪魔が存在します……」
 私は多分あの日悪魔を見つけた。あの日、ラムネを持って家に帰る途中に……
 
 私はグレーを……悪魔を見つけた。

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破壊すれば良いだけ
そうすれば
俺は自由になれるから
だから俺は破壊をする
殺戮兵器として

第八話
 『 終わり。そして、始り 』

 ここまでのグレーとの経緯を二人に話した。グレーは沈黙したままだ。自分の存在がなんなのかわからんない恐怖におびえるような顔をしながらもちゃんと私たちの話に耳を傾けている。
「……ならば彼が、その本にある”悪魔”かもしれないというわけじゃな」
「でも、それなら僕が彼を生み出した、って事!?」
 でも結局それがすべて繋がっているのかはわからないままだった。偶然に偶然が重なったようなことだ。しかし、それにしては、できすぎた話だ。『召喚術の本』通称『悪魔の本』。意志を持ち、かつて人にとりつき殺戮を繰り返させ自らの生贄を作った本。そして現代に蘇った、それは源一郎さんと誠さんがいるこの場所に……。そして誠さんはその本を見つけた。源一郎さんですら見たことの無かった本を……。そしてそれによって召喚術をし突如起こった異常気象。一日中冷え切った夏。そして次の日現れた謎の男、グレー。答えはどこに存在するのだろうか? 果てしない空が広がっているこの世界で今とんでもないことが起こるような気がしてきた。

刹那、ビーという異常な高音が辺りを響かせる。にぎやかに聞こえているセミがどこかに消えたように、耳鳴りのようなものがしている。
「悪いが、その推測は少し違っている」
 声がする。男の渋い声がどこからか聞こえてくる。そして聞こえてきたとたん混乱が頭の中を支配していく。わからない! 何が起こっているのかがまったくわからない! 私は身体の自由が効かなくなっていた。そして声すら発することができない。けれど目は動き、心臓は生命の維持を続けている。そして近くに見えていたはずの時計すら動きを失っている。

――何が起こったの?

「5、4、3、2、1……」
 謎のカウントダウン。終わると私の身動きが取れるようになっていた。そして――
「グレー!」
 体が動くようになる。私はとっさに彼の名を叫ぶ。なんとグレーの体には何重もの鎖がつけられていた。その鎖を握っているのは、今までみたこともないサングラスをかけ、黒い服をした男たちだった。人数は5人。そして何よりも今まで、いや? 動けるようになる前まで確かに私達は図書館にいた。けれどもここはどうだ? 白で覆われた何も無い空間。そしてそこにはさっきまで図書館にいたみんなと五人の謎の人たち。そして見たことも無い巨大な乗り物だろう”何か”が存在していた。誠さんと源一郎さんも絶句している。混乱が続く。
「失敬。私どもは未来から派遣された、歴史の修正を担当しているものだ。こやつの名前はデビル。この世界で言う……つまりは悪魔だ」
 いきなり何を言い出すのだろうか。グレーすら何が起こっているのかわからない感じだった。それでも黒服の男の一人は淡々としゃべり続けた。私たちは一向に声が出ないぐらいの驚きの中にいた。
「こいつはこの世界とは違う世界で人工的に生み出された殺戮兵器。人間を改造した人間兵器。悲しいような話だがこいつは殺戮のための道具だ。こいつが何故この次元にやってきたかというのは謎だが、異常気象はこいつが次元を移動したために起こったものだ。ついでに言えば歴史がこいつのおかげで変わっている。何故歴史が変わりそうになったのかはっきり言って不明だが、今からこの次元に住む全てのものを正常なる世界に戻す。もちろんこの数日間の記憶は一切消える」
 全てを謎のまま話は進んでいく。”悪魔”やら”次元”やら”兵器”とかわけのわからない単語をドンドン並べるために私の頭はオーバーヒートしそうになっていった。
「ちょっと待ってください! 全然わからないです! 何が起こっているんですか!」
 それでも必死になって言葉を発する。
「お嬢さん。忘れれば良いだけなんだよねぇ〜、そんな気にしなくてOKOK。こっちとら、いきなりのことで混乱しててようやく原因見つけてんだ。徹夜でなぁ? わかるか? 眠いんだよ? 俺らはよぉー」
 そういってさっきからしゃべっている男が私に詰め寄る。怖い……それしか印象は無い。誠さんと源一郎さんは何を思ったのか彼らに歩み寄った。
「待ってくれないか……。デビルという殺戮兵器……まさかワシが知っている本に出てくる世界じゃないのか?」
「本? あぁ〜この次元では異なる次元を見るために本だのテレビだのでしか見れないんだったなぁ〜、本というのはそもそも実物する次元を著者だっけ? そいつが知らぬ間に見て書き表すものだ。数学とかの教科書は? なんて質問はごめんだがな」
 わからない。信じれと言う方がおかしいような話。結局はグレーをその元の時限とか言う場所に連れて帰る気なのか? わからない……。一体何がどうなっているのか……。いきなり聞こえた謎の音。そして謎の白に覆われたこの空間……。
「空想戦争……確かその本の名は空想戦争! 一人の男が殺戮のために生み出され、そしてデビルと呼ばれた……まさか、本が、違う次元を見るために作られたものじゃったとは……」
「父さんたちにこんな職をついたのをいつか後悔するぞと言われ続けてきた本が……そんなすごいものだったなんて……でもじいちゃん、今はそんなときじゃない。グレーさんをどうするつもりだ!」
「だぁーかぁーらぁー」
「ちょっと待ってよ! グレーをどうする気!」
「しつけぇ〜なぁー、元の次元に送る。殺したりはしない。それだけだ。それじゃぁーなぁー」
 光と闇が入り混じっていく。私の視界は奪われていく。本当にこれでおしまいなのだろうか……私はあの日に戻り、グレーと出会わなくなるのだろうか……。
「異次元に存在するやつはこの次元にも必ず(仮)存在する、とだけ補足しておこう。じゃぁ〜な」
 五人は乗り物であろう”何か”の方に光となって消える。もちろんグレーもだ。
「グレー!」
 私のちょっと変わった日常は元に戻っていくのであった。

エピローグ


 異常気象だろうか? 暑い日が続いている。好い加減少しぐらい寒い日がほしいものである。せみの声が外でジリジリとやかましく、それでいてどこか安らぎの音楽を奏でている。この街の図書館に来たのは今回でちょうど10回目だったと思う。小さい頃はあまり本を読むことは無かったが、大学生になって、平日に余裕ができると、なんでか図書館に足が運ぶようになった。それでもまだ数え切れるほどしか通ってはいない。来た時に数冊ちょっと厚めの小説を選んで借りていって暇な時はそれを読む、というのが今の私の楽しみにでもなっている。ファンタジーからホラーまで、ありとあらゆるジャンルを読破しようといつのまにか必死になっている。
「いらっしゃい、今日も綺麗じゃな〜! でもあそこみてみぃー? いつもの席あの男に取られちゃってるんだ」
「いいですよ、他をさがします」
 おじいさんは私の指定席とでもいうような場所を知っている。しかし今日は人がいた。見渡すとおじいさんのお孫さんも店内にいた。私は本を探し、見たいものが見つかったので一回だけさっきの席を見てみると本が置いたままさっきの男の人が図書館を出ようとしていた。私はそれを見るなり、机に置かれた古そうな、それでもなんとか『空想戦争』と書かれた本を持ち、彼に歩み寄った。
「ちょっと、良いですか? これ置きっぱなしですよ?」
「え? あ、すいません」
 男は外国人だろうか?髪の色はグレーだった――


fin

2004/08/15(Sun)15:31:06 公開 / ねこふみ
■この作品の著作権はねこふみさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 一応は一区切りです。異次元〜に関してはまだ謎が残っています。

召喚術の本、別名悪魔の本の謎
いきなり現れた男達の謎

 しかしこの謎を元にさらに話は進んでいきます。

 ここまでありがとうございました(><)

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