『理由無き殺人、通り魔【読みきり】』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ヤブサメ                

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私は殺人鬼だ。今、新たな死体を増やそうとタクシーに乗っている。
「ねえ、お客さん知ってます?」
前に座った、白い帽子に赤いベストを着込んだ若い男の運転手は私に尋ねてきた。細面で、髪は茶色に染めていて、長かった。
「この頃タクシー運転手ばっかりを狙った殺人鬼が出てるんですよ」
「へぇ、怖いですね」
私は普通に流す。可哀想に、この男は私がそれだとは気づいていない。
「後ろから首をバッサリとナイフで切り裂いて、それから車内でバラスらしいですよ」
正確には、サバイバルナイフだが
「私ね、その殺人鬼と話をしてみたいな、って思ってるんですよね」
今話してるのが、そいつです。
「どうしてですか?」
私が尋ねると男は「いや、実はですね」と話しだした。
「理由が聞きたいなーとか思っていましてね」
「理由ですか?」
「ええ、そうです。理由です」
そして運転手はしっかり握っていたハンドルを手のひらで弄ぶように構え直した。
「なんか、殺人鬼ってのは特殊な考えを持っているような気がするんですよね」
若い男は楽しそうに続ける。
「ほら、まるで作家のような、太宰とか芥川みたいな…変わった思考というか」
「そんなの無いと思いますよ」
私は言った。
「ただ快楽も何もなしに、呼吸と同じような感覚で殺していると思いますよ、その殺人鬼は」
「そうですかね?」
そうですかねもなにも、本人が答えているから間違いは無いだろうに。
「残念だなー」
男はそう呟いた。私はそっと着ているコートの下に隠したホルスターに収まったナイフのグリップを一度握った。もうすぐ、もうすぐ運転手の命は尽きる。
「さあ、着きましたよ」
男が言うと同時に、タクシーも一緒に止まる。
私はコートの中に手を入れた。いつもの通り、財布の代わりには私はホルスターに入ったナイフのグリップを握る。
「ところで、あなた熟れたトマトはお好きですか?」
何を言い出すのか。男は唐突に―私は、ナイフをホルダーから抜こうとした手を止めた。
「私は弾けるほか無く、腐るしかないそれが大好きですよ」
運転手は振り向きながら言った。口端を思いっきり吊り上げて笑みを浮かべたそれ。右手に黒色の“何か”を握ったそれ。
悪態をつく暇は無かった。
「それが弾ける瞬間を見るのがね」


赤く点滅する、白と黒に塗られたパトカーの天井につけられたランプの光に包まれた一台のタクシーの姿が在った。周りには既に野次馬が集り、それを防ぐように青いビニルシートが制服に身を包んだ男たちによって敷かれていっていた。
「また、か…」
そのビニルシートに囲まれた中で、黒スーツに身を包んだ、中年太りした腹の張った男は小さく呟いた。
「警部、警部」
その男に、紺色の制服に身を包んだ若い男が声を掛けた。
「どうした?」
警部と呼ばれた男が尋ねると、若い男は言った。
「タクシー内を検査したところ、後部座席に1人の死体が見つかりました」
「身元は?」
さらに、警部が尋ねる。
「恐らく、着ている服からタクシー運転手だと思われます」
「死因は」
立て続けの質問に、若い男は答えた。
「大口径の銃で、頭を一発。粉々です」
「ナイフじゃないんだな」
「はい」
警部は大きくため息をついた。
「何が楽しくて、人殺しなんかするんだろうな」


弾ける瞬間を見るのが好きだから

2004/06/04(Fri)18:46:28 公開 / ヤブサメ
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