『読むな! 〜13』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:雫                

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 プロローグ

 タイトルに「読むな!」と書かれている分厚い本がある。この本は
世界中に十冊あり、1〜10までのナンバーが刻み込まれ、それぞれが
違う色、違う内容になっている。この本を読んだ者がどうなるのかは誰にも
わからない。ただ噂によると、一冊読むごとにある奇跡が起こり、全て
読み終えた者には、とんでもない事が起こるらしい。世界中のコレクターや
科学者、そして政府はその本を集めるために動いた。「読むな!」を集める
人々のことを皆はこう呼んだ。「ブックハンター」と。

 「読むな!」シリーズの本は誰が持っているかは誰にもわからない。
それに持っている人間は決して自分が「読むな!」を持っている事を
人に話したりはしない。何故なら知られれば世界中のブックハンターから
狙われることになるからだ。「読むな!」を持つ者は精神的に強くなければ
そのプレッシャーに押しつぶされ自滅する。「読むな!」を読むと奇跡が
起こるという噂があるが、あれは本当だ。何故本当かわかるかって?
この俺もその「読むな!」シリーズの一つ「4巻」を持っているからさ!

 町に出かける時はもちろん、部屋の中にいる時、トイレに入る時
はたまた風呂に入る時でさえ、俺はこの本を肌身離さず持っている。
俺の持っている4巻はページ総数555ページ。最初のページには、この
本のルールが書かれている。そのルールの中の一つのせいで俺はこの本を
絶対に手放す訳にはいかなくなったのだ。

【ルール1、本は自分で所持していなければならない。もしも本が誰かの手に渡ったり、失くした場合は代償として持ち主の命を頂く】

 「読むな!」を読むことは、奇跡を手に入れる代わりに自分の命を危機に
さらすことを意味していた。だが、それでもお釣りが来るほどの奇跡を
俺は手に入れた。その奇跡とは――

「太郎仕事だ! 【読むな!】シリーズのありかの情報を得た!」
「OK!」
 同じブックハンター仲間の「信」が玄関を大きく開け放ち、言った。
俺の持っている本には他にもルールがいくつかある。本ごとにルールが
違うのか統一しているのかはわからない。だがルールを破ることはすぐ
死に繋がるということだけは同じだろう。だから本の詳しいことが
何もわからないのだ。

【ルール2、一年以内に全てのシリーズを集めること】

 これが一番やっかいなのだ。俺が4巻を手に入れてからすでに一月が
経過している。親友の「信」が唯一の信用できる仲間で、一緒に本を探す
のを手伝ってくれている。今までに何度か本の情報を手に入れたが全て
デマだった。今回もデマかもしれない。しかし動かないことには始まらないのだ。必ず俺は一年以内に全ての「読むな!」シリーズを集めて見せる!
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 Page1 詩音登場

 とても薄暗い細道。一人の少女と数人の黒服を着た男が走っている。
女性の手元には水色の分厚い本があり、8というナンバーが刻まれていた。黒服の男達はその本欲しさに女性を追いかけていた。
「待て! その本をこっちによこしやがれ!!」
「嫌よ! 絶対嫌!! これは私のもんなんだから!!」
 女性の身のこなしは一般人のそれとは違い、素早く華麗だった。長い細道が終わりを告げる。女性の目の前には光が差し込んでいた。
この細道を抜ければ大通りに出る。そうすれば人だかりに身を隠すことが
可能。そう考えた女性は力を振り絞り大通りに向かってダッシュする。
「きゃぁっ!」
「うわっ!!」
「おっと!!」
 大通りに出た瞬間、女性は運悪くも二人の青年に体当たりしてしまい、
バランスを崩し尻餅をつく。後ろからは黒服の男達が走ってもうすぐ傍まで
来ていた。女性は短髪の金色の髪をした方の青年の背後に隠れ
「お願い追われているの助けてっ」と言った。女性には、ただの人間が
黒服の男を追っ払うことが出来るわけがないとわかっていたが、時間稼ぎ
ぐらいには使えるだろうと二人を利用することにした。

 女性が体当たりした青年二人は背が高く金色に染めた短髪と銀色に染めた
長髪だった。金髪の青年は状況が良くわからず、女性にどういう訳なのか
聞こうと背後にぴったりとくっついている女性に振り向いて見た。
「あっ! その本!!」
「え?」
 金髪の青年の言葉に女性はまずったと思った。こいつらもブックハンター
かもしれない。そうしたら狙われる。そう考えたからだ。
「おい太郎! 見ろよこの女!!」
 金髪の青年が銀髪の青年に声をかける。太郎と呼ばれた銀髪の青年はその
視線を女性に向ける。すると太郎の顔に変化が現れ始めた。
「そ、そいつは!?」
 女性は逃げる態勢に入る。本を奪われる訳にはいかないのだ。しかし
「すっげー美人じゃねぇか! うひょー!! たまんねぇ!!」
 太郎は女性に向かって飛び込んだ。金髪の青年がすかさず太郎に蹴りを
出し、制止する。女性はただ呆然とその光景を見ていた。
「あほかっ! 本だよ本!! 読むなシリーズ8巻をこの女が持ってるんだよ」
「いてて、信本気で蹴ったろ?」
「お前があほなことすっからだ!」

 信と呼ばれた金髪の青年と太郎が言い争っていると、とうとう黒服の男達が細道から8巻を持った女性の目の前に現れた。
「もう逃げられないぞ、詩音。さぁ、本を頂こうか」
 黒服の男達の一人が手を差し出し言う。が、詩音と呼ばれた女性は本を
ぎゅっと抱きしめ「誰が渡すもんか!」と言い放った。
「まったく、仕方のないお嬢さんだな。ここで争えば一般人の人間にも
 被害が及ぶ。それでもいいのか?」
 細道と違い大通りには、多くの人が行き交っていた。
「あのーちょっとすんません」
 太郎が詩音と黒服の男の会話を聞いて、頭をぽりぽりとかきながら
前へと出てきた。
「なんだお前は?」
 黒服の問いに太郎は鼻をほじりながら答えた。
「俺はブックハンターだ。悪いけどこのお姉さんの本は俺が頂くんで
 おたくらは帰ってよし」
 太郎は黒服の男の黒服に鼻くそを擦り付けた。
「貴様ぁ……よくも我ら【ブラックキラー】の正装である黒服に鼻くそ
 などを……構わない! 殺せ!!」

 黒服の中でもリーダーと思われる男の言葉を皮切りに黒服達は襲い掛かってきた。
「太郎の馬鹿野郎! 問題起してどうすんだぁ!」
「大丈夫大丈夫、あ、お姉さん俺の体に摑まって」
「え?」
「いいからいいから」
 詩音は言われた通りに太郎の腕に摑まった。
「じゃ、行くぜー!」
 太郎と詩音と信は黒服達の攻撃を間一髪で避け、空高く飛び上がった。
「え? え!? えぇっ!?」
 詩音はあまりの出来事に驚き太郎の腕にさらに強くしがみつく。
「あ、胸が当たってる。やわらかい、えへへ」
 太郎は心底幸せそうな顔をしていた。3人は確かに空に浮いていた。
黒服の男達はしばらく呆然と見上げていたが、すぐに銃を取り出し3人に
向けて発砲した。突然の銃声により、町中はパニックに陥り、多くの人々が
逃げ惑う。
「ここは俺の出番だな」
 信は腰に掛かっていた鞘から長い刀を取り出し、全ての銃弾を刀で
はじき返した。「よし、太郎。このまま何処かに移動しよう」と信が言って
太郎の方を見ると
「お姉さま、もっと俺の腕に抱きついていいですよぉ」
「何してんだお前はぁ!!」
 信の激しいツッコミが太郎を襲った。

 黒服の男達から無事逃げ出した3人はあるアパートの部屋へと入った。
その部屋は太郎の借りている部屋であり、ブックハンターとしての拠点でもあった。
「ようこそ我が部屋へ。さぁ、一緒にベッドで温まろう」
「おいっ!」
 太郎の行動にすかさず信がつっこむ。その光景が詩音にとってはとても
可笑しく面白かった。
「おーお姉さんの笑顔も素敵だぁ!」
「いや、今はそんな話どうでもいいだろ。それよりも本のことだ」
 信は真剣な面持ちで詩音の本を見つめ、言った。
「もうわかっていると思うが、俺達もブックハンターなんだ。で、この
 アホ面した太郎は【読むな!】シリーズの4巻をすでに所持している」
「誰がアホ面だ、誰が」
 空を飛ぶ奇跡、それが【読むな!】4巻から得た太郎の能力だった。
詩音は太郎を見て考えた。こいつから本を奪えれば他の本を探すのが
楽になると。

「あの、太郎さんの本はどこに?」
 詩音の問いに信は詩音の考えをよんでいるかのように答えた。
「言っとくけど奪おうなどとは考えないことだな。太郎の戦闘能力は皆無に
 等しいが俺はこれでも刀捌きには自信がある」
「うわー信怖い顔しちゃって嫌だなぁ。お姉さん気にしないでね。いざって
 時はこの俺が守りますからっ」
「あのなぁ……」
 信は太郎のあまりの女たらしに呆れた。太郎の女たらしのせいで何度
酷い目に合っているかわからなかった。信がいなければ太郎はとっくの昔に
死んでいただろう。ブックハンターの仕事は正直つらいものがある。
【読むな!】シリーズは、自分以外の誰かに読まれた場合持ち主はその読んだ者となり、前の持ち主は死ぬことになる。また一年以内に全ての本を
集めなければ、死が訪れる。【読むな!】を読んでしまった者は奇跡の力を
得る代わりに、9人の他人の命を落としてでも本を集めなければならないのだ。例えそれが最愛の人であったとしても……。

「この女を守るってことは、太郎が命を落とすことなんだぞ
 わかって言ってるのか?」
「わかってるさ」
「え?」
 信の問いかけに対する太郎の答えに、信と詩音は同時に声を発した。
「俺には女性を殺して自分だけが生き残るなんて汚いマネは出来ない
 だから……」
「太郎、お前……」
「だから、思い出に一発やらせてー!!」
「って、おい!!」
 詩音に襲い掛かる獣に信は思い切りドロップキックを食らわせた。
「ったく、お前を少しでも尊敬した俺が馬鹿だった!!」
 本当にその時になったらお前はどうするつもりなんだよ。と信は少し
心配そうに太郎を見つめた。

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 Page2 ルール

「お〜い、なにすんだよぉ」
 太郎の部屋の一本の柱に太郎はロープでぐるぐる巻きにくくり付けられていた。太郎はまったく身動きが出来ずに嘆いていた。信は太郎が詩音に襲い掛かるのを防ぐために、手っ取り早くこのような処置を取ったのだった。
「太郎静かにしていてくれよ。もし騒ぐようなら口も塞ぐからな」
 信の鋭い刃物のような視線が太郎に突き刺さる。信を怒らせると命が危ないと悟った太郎は黙り込んだ。太郎が黙ると信は俯(うつむ)き加減に黙っている詩音の方向に視線を向け話かけた。
「色々聞きたいことはある。太郎の他に【読むな!】を持つ人間に出逢ったのは初めてだからな。」
「……はぁ、私も色々聞きたいことあるわ。情報交換と行きましょうか」
「あぁ」
 太郎は縛られながら思っていた。俺が主役じゃないのかよ、と……。

「まずは俺から質問させてくれ、いいか?」
 信の問いに詩音は黙って頷いた。信の知りたいことは3つ。まずは詩音の持つ【8巻】から得た奇跡は何か。第2に、太郎の持つ【4巻】とルールに
違いがあるのか。最後に詩音を追っていた黒服の男達は何者か。信はその3つの質問をすると詩音は淡々と答えた。
「第一の質問、これは答えられないわ。貴方達がもし私の敵になった場合
 私の奇跡の正体を知られていては、不利になるからね」
 信は「まぁ、いいだろう」と口を開いた。信の背後で太郎は信に向け舌を出し、ささやかな抵抗をしていた。
「第2の質問、これはお互いの本を見せることは死につながるためできない
 から、言葉で教えて頂戴。そしたら確認するわ」
 詩音の言葉に信は了承し、太郎に【4巻】のルールを言うように告げた。
「覚えてねーよ、読まないとわからないな。でも縛られているから読めないしなぁ。いやー残念だ」
 太郎はかなりふて腐れていた。信はやれやれといった感じで刀を抜き取る。
「ロープは解いてやるよ。だけどもし変な行動に出たら親友のお前でも斬る!!」
「……その目はマジだな、わかったよ」
 太郎はため息をつきながら、ズボンの中に閉まっていた本を取り出す。
その光景を見て詩音はその本を盗む気が失せた。太郎は本を開きルールを
読み始めた。

【ルール1、本は自分で所持していなければならない。本が誰かの手に渡ったり、失くした場合は代償として持ち主の命を頂く。又この代償は他のルールにも適用する】

【ルール2、一年以内に全てのシリーズを集めること】

【ルール3、本から得た奇跡は一日10回を限度とする】

【また、ルールは随時更新される。毎日チェックを欠かさないこと】

 太郎はルールを読み終えると再びズボンの中に本を閉まった。
「で、どうだ? お前の本と内容は同じか?」
 信が尋ねると詩音は「えぇ」と軽く答えた。詩音は次に3つめの質問への返答を始めた。
「私を追っていたのは、政府が作り上げたブックハンター組織【ブラックキラー】よ。ブラックキラーはすでに2冊の【読むな!】を手に入れたとの
情報があるけど、真実はわからないわね」

 全ての質問に答えた詩音は軽く息を吐く。信は何かを考える素振りをする。太郎は退屈そうに一人神経衰弱をしていた。「俺が主人公だー」と意味不明なことをブツブツと呟きながら。
「OK,それじゃー次はそっちが質問をしてくれ」
 信は考えがまとまったのか、詩音に言った。詩音は一本の人差し指を信の前に突き出した。
「質問は一つよ。信、貴方は強い?」
 どんな質問をされるかと思ったら、全く本とは関係ない事で信は拍子抜けした。そして詩音の質問に自信満々に答えた。
「あぁ、俺は強い」
 信のセリフはハッタリでもなんでもなかった。実際に銃弾を刀で打ち返すという常識はずれの刀捌きを見せている。戦闘能力は世界クラスだろう。
信の自信満々の言葉を聞いて詩音は頭を下げて言った。
「お願い! 私をブラックキラーから守って!!」
「君を守ることで俺らに何のメリットがあるって言うんだ?」
 意外にも信は冷たく言い放った。詩音は言葉につまり肩を落とす。と
「おい信! 守ってやろうぜ!!」
 ずっと大人しくしていた太郎が口を開いた。詩音が潤んだ瞳で太郎を見つめる。
「助けを求めてる人を無視なんて俺には出来ないぜ!」
「いや、太郎。危険なだけで俺らにはなんのメリットもないんだぞ?」
 信がそう言うと太郎は真剣な顔をして信に言い放った。
「人を助けるのに、メリットとか考えるな! 助けを求めている人がいるから助ける。それでいいじゃないか!!」
「太郎、お前……」

 信は太郎の考えに感動した。自分は太郎と比べたらなんて小さな人間なんだろうと痛感させられた。
「太郎さん、ありがとう!」
 詩音が太郎の手を握りお礼を言う。太郎は残った手で頭をポリポリ掻きながら笑顔で言った。
「助けるからヤラせてー!!」
「結局それかいっ!!」
 信のつっこみ斬りが炸裂し、太郎は地面へと伏した。

 太郎の動機は不純だったが、信は助けるのにメリットを求めるなという言葉はその通りだと考えを改め、詩音のボディーガードを引き受けたのだった。

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Page3 鏡神

 多くの人々で賑わう商店街。飲食店、雑貨店、宝石店など多くの店が軒並みに並ぶ。空は青く雲一つない素晴らしい天気。飲食店のおいしそうな匂いが風に運ばれ商店街に漂う。そんな商店街に太郎、信、詩音の3人は来ていた。3人は話し合った結果、詩音の身の安全を護るために太郎の家に匿(かくま)うことにしたのだった。もちろん詩音を一人太郎の家に置いていくということは、ライオンと兎が同じ部屋に住むことと同じようなことで危険なため、信も太郎の家に泊まることにしたのだった。だから今3人は商店街にいる。詩音と信の泊り込むのに必要な布団やハブラシ、洋服を購入するために。

 商店街を歩いていると太郎は一人、不満そうな顔をして愚痴っていた。
「なんで信まで俺の部屋に泊まるんだよ、俺の部屋はそんなに広くないっつーの! 大体、詩音ちゃんは自宅にブラックキラーとかいう阿呆な集団が見張っているかもしれないから帰れないかもしれないけど、信は帰れるじゃんかよ、あーあ嫌だ嫌だ。せっかくの俺と詩音ちゃんのスイートな生活を邪魔されるなんてなぁ。はっ!? まさか信は俺が好きなのか!? 俺と詩音ちゃんが結ばれることを恐れて……ホモだったのかぁ!? あぁ、しかし俺にはそんな趣味はないんだ。すまん信!」
「言いたい事はそれだけかい?」
 信が刀の切っ先を太郎の喉元に突きつけた。顔は笑っていたが目は笑ってはいなかった。
「ご、ごめんなさい……」
「わかればよろしい」
 信はゆっくりと刀を鞘に納める。詩音はその光景を見ながら爆笑していた。
「きゃははは! 本当に貴方達って良いコンビだわ。だけど私が襲われた時は命を張って護りなさいよ。ふざけてたら許さないんだから」
「はぁ!? 何言ってんだ詩音。俺はお前を護ってやるんだぞ。勘違いするな、もう少し感謝の気持ちを表したらどうなんだ?」
「はいはい、わかりました。ありがとう、助けてくれたらお礼に私のこの体あげてもいいわよ、ふふふ」
「お前なぁ!!」
 信が詩音の態度に激怒しようとした時、太郎がその間に割って入った。
「ま、マジですか!? マジで体くれんの!? 俺がんばるよ詩音ちゃん!」
 太郎は詩音の手をギュッと握り、まるで純粋な子供のように目を輝かせていた。信は額に手をあて、大きくため息をついた。

 ある程度の買い物を終えた頃には、日は沈みかけていた。空が青から橙色へと変化を見せている。多くの人々で賑わっていた商店街も人が疎(まば)らになっていた。
「見つけたぞ詩音!!」
 3人が帰り道を歩いていると、ふいに背後から大声が空気に振動して3人の耳に伝わる。3人が振り返るとそこには、黒服の男達【ブラックキラー】がいた。人数は5人。その中には太郎が鼻くそをつけたリーダーらしき人物もいた。
「げ! 早速現れたよ、黒い集団」
「あ! 貴様は俺に鼻くそを付けた男!! 丁度良い! 貴様も処分してやる!」

 5人の黒服達達は一斉に銃を抜き、太郎達に向かって発砲した。周りにいた人々が一斉に悲鳴を上げて逃げ出す。全ての銃弾を撃ち終わった後に黒服達は驚愕する。太郎達は全くの無傷、ただ刀を抜いた信が一人構えていた。
「バカな!? 全ての銃弾を刀で防いだというのか!!」
 黒服の一人が言うと、太郎が胸を張って偉そうに言う。
「よし、信! 奴らを軽くやってしまいなさい!!」
「……はぁ」
 信は軽くため息をついた後、目の前の黒服達を見据えた。信の顔つきが変化する。一瞬で空気が張り詰め、黒服達は身動きが取れなくなる。そして次の瞬間、信が大きく足を一歩踏み出したと思った時、姿が消えていた。
「ど、どこだ!?」
 黒服達が叫ぶと、黒服達の背後から刀を鞘に納める乾いた金属音が響いた。すぐに5人の黒服は振り返る。
「くそっ! なんて素早さだ。だが俺らはブラックキラーの名にかけて負けるわけには行かないのだ!」
「もう終わってるよ」
 信は目を細め言った。その言葉が言い終わると同時に5人は一斉に崩れた。詩音は信のあまりの強さにただ呆然としていた。
「みねうちだ、安心しろ」
「さっすが信、相変わらず反則の強さだよな!」
 太郎は信に歩み寄りぽんぽんと肩を叩く。
「太郎も少しは強くなれよ。俺ばっかり戦わせやがって」
「はは、悪いなぁ。けど俺はお前と違って修行なんて面倒なことできないし
 素質もないしな」
「……素質はあるだろ」
 信は小さな声で言った。
「ん?」
「いや、なんでもない」

 信が黒服5人を一瞬にして倒した技。それは【風速斬】と呼ばれ、名前のように風の如き速さで一瞬にして相手を倒す瞬斬剣である。
「く……そ……」
 5人のうち、リーダーと思われた男は唯一意識を取り戻していた。黒服のポケットから携帯を取り出し、何処かへとかけた。太郎達は気がついていない。
「副隊長……すぐ来てください。お願いします、場所は――」

 信は詩音に歩みより言う。
「一応護ってやったんだからお礼ぐらい言ったらどうだ?」
 すると詩音は手の平を上に向け、不敵に笑って答える。
「あんな三下達を倒したぐらいで、恩を売った気にならないで欲しいわね」
「なに?」
「ブラックキラーが怖いのは、副隊長と隊長の二人よ。他のメンバーはこの
 私の奇跡でもなんとかなるわよ」
 詩音は信の強さは認めているがそれでも副隊長と隊長を倒せる程とは思えなかった。
「恩知らずな奴だな、まぁいい。帰るか」
 信は踵(きびす)を返した。とその直後空気が変わった。信は、そのただならぬ空気に寒気がした。ゆっくりと黒服達が倒れていた場所に視線を向ける。するとそこには長い黒髪のスリムな体をした黒服の男が立っていた。
信は一目みて悟った。この男は強いと。

 長髪の男は倒れている5人の黒服の男の頬をぺしぺしと叩く。
「お〜い、来てやったぞぉ。起きろよぉ」
「ふ、副隊長。奴らが【読むな!】を……」
 黒服の男が太郎達を指差す。
「ん〜?」
 長髪の男の視線が太郎達へと移動する。詩音は体を震わせ、顔は青ざめていた。ブラックキラー副隊長、名は【鏡神(かがみじん)】詩音は鏡神の残した伝説を知っている。政府の持つ【読むな!】を100人で組織されたブックハンター達が一斉に狙いに襲い掛かってきた時、鏡神一人で全てを撃破したという伝説を……。

 鏡神はゆっくりと太郎達の元へと歩み寄る。信は鞘に納まった刀の柄に手をやり、構える。詩音はただ、震えるばかりだった。一方太郎は……。
「詩音ちゃん、そんなに体を震わせて寒いんだね。俺が暖めてあげるよ」
 詩音に抱きつこうとする太郎。しかし信には太郎につっこみを入れる余裕はない。詩音も太郎に付き合っている暇もなくなんの抵抗もなく抱きつかれる。
「う〜ん、幸せぇ〜」
 太郎は鼻の下を伸ばしきって、本当に嬉しそうに詩音を背後から抱きしめていた。

 鏡神は信の目の前で足を止めた。
「ふ〜ん、適度に引き締まった筋肉、鋭い瞳、それに3種の神刀の一つ
【村雨】を装備ですかぁ。こりゃ、部下達じゃ勝てないわけだ」
 信をじっくりと観察しながら鏡神は言う。信の額から汗が流れ落ちる。間合いに入っているにも関わらず斬りかかることができない。隙がありそうで全く見つからないのだ。
「めんどくさいけど、一応仕事だから。戦闘開始させていただくよ」
 そう鏡神が発言した直後、信と鏡神は同時に動いた。
一方太郎は詩音の胸を揉み弄ろうと魔の手を伸ばしていた。

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Page4 紅い鮮血

 日が沈みかけ、空が漆黒の闇へと変化を遂げようとしていた。多くの人々で賑わっていたはずの商店街は辺りが暗くなったのと、そこが危険な戦場へと化した二つの理由で人通りは全くなくなっていた。

 金属と金属のぶつかり合う乾いた甲高い音が無音の街に響き渡る。信と鏡神はお互いの刀と剣を交え交戦していた。その金属音はリズム良く流れまるで一つの音楽のように奏でられていた。
「くっ! はぁっ!」
 信は鏡神の細い腕から繰り出される力強い剣裁きに悪戦苦闘していた。あの細い腕の何処にそんな力が秘められているのか。そして鏡神のスピード。風の如き速さを扱う信に鏡神は楽に付いて来ているように見える。
「くぅ〜っ! お前強いなぁ! 楽しくなって来たぜ!!」
 戦闘開始前はめんどくさそうにダルい感じを見せていたが、いざ、戦闘が始まると鏡神は嬉しそうに呟く。純粋に戦闘を楽しんでいた。鏡神は一度信の刀を力で突き飛ばし間を空ける。吹き飛ばされバランスを崩した信にすかさず軸足で思い切り地面を蹴り、剣を突き立てながら突進する。
「さぁ、僕の必殺剣【爆突】受け止められるかっ!?」
 一瞬にして信との間合いが詰められる。信は刀の切っ先を猛スピードで突いて来る剣の切っ先に合わせ、剣の起動を瞬時に横へとずらす、と同時に地面を両足で蹴り上げ宙へと舞い、鏡神の背後に着地するとそのまま裏拳ならぬ裏刀を逆刃で鏡神の首元を狙って振り抜いた。が、紙一重でしゃがみ込みそれを避け、その状態のまま信の足目掛け剣を振り回す。だが信は後方へとステップし、軽やかにそれをかわす。息もつかせぬ戦闘を詩音は信が勝つことを祈りながら見ていた。

 一方、太郎は詩音の胸に手をかけようとしたが、何を思ったのか手が止まる。理性が働いたのか、それとも別の理由か。交戦中の信の額には汗が流れていたが、太郎もまた別の意味で額から汗を噴出していた。

 信と鏡神の戦闘はほぼ互角の戦いを見せていた。二人の刀と剣が交差し、ギリギリと音を立てお互いに力で押し合う。
「お前みたいな強豪とやれて嬉しかったぜ」
 鏡神は心底嬉しそうに笑顔を見せながら言った。その態度に信は
「まるでもう終わりのような言い方はやめてもらおうかっ!」
 と相手を睨みながら言ったが鏡神は軽く頭を振った後
「もう終わりなんだよっ!」
 と、刀ごと信を吹き飛ばした。信はすぐさま刀を地面に突き刺し飛ばされる体にブレーキをかける。しかし鏡神は信を吹き飛ばした後すぐに俊足で信との間合いを詰め【爆突】の構えに入る。態勢を崩した信には、それを防ぐことは不可能だった。とその時、女性の悲鳴が木霊する。一瞬鏡神は視線を悲鳴の聞こえた方へと移す。するとそこには――。

 太郎に上着を捲り上げられ、二つの豊満な山を露にする詩音の姿があった。
「いやぁっ!!馬鹿ぁっ!!」
詩音はすぐさま太郎にアッパーカットを食らわせる。太郎は宙に舞いながら「いいもん見せてもらったで」と言い残し、地面へと力尽きた。
それと同時にその光景を見てしまった鏡神は急に亀○人の如く大量の鼻血を勢いよく噴出した。その紅い鮮血はまるでシャワーのように飛び散った。
鏡神は女性にとても弱かったのである。そして信はその鏡神の隙を見逃さなかった。
【風速斬 みねうち】が見事鏡神に決まる。
「こんな敗北……嫌だ……」
 鏡神はそのまま地面へと伏して気絶した。
「ハァッ! ハァッ! ハァッ! なんとか……勝った」
 信は片足の膝をつき、刀を杖代わりにし、乱れた呼吸を整える。
「もう最低ッ! なんなのよ、あんたはっ! ふざけんじゃないわよっ!」
 詩音が太郎にリンチを加えていた。信はゆっくりと立ち上がり、詩音の元へと歩いていく。
「許してやってくれ、太郎はきっと俺がピンチだったから敵の注意を逸らすために仕方なくやったんだ」
「……」
 詩音は思った。こいつ(太郎)は絶対にそんな考えなしにただエロスのみであのような行動に移ったのだと。
「……でも偶然とは言え、副隊長を倒すなんてすごいわ」
「偶然か……まぁ、そうだろうな。実力じゃきっと勝てなかった。俺もまだまだ修行が足りないな……」
「ところで……」

 詩音が少し顔を赤らめて信に問い詰める。
「私の……貴方も見たのよね?」
「ん? あ、あぁ。見たというか見えたというか」
「けど貴方はなんの反応も見せなかったけど、どういうこと?」
「どういうことって、別にあんなもんに興味ないからな」
 と信が言った後、みるみる詩音の顔色が鬼のような形相に変わる。
「あ・ん・な・も・ん〜!? 悪かったわねぇ!」
「な、なんだよ」
「ふんっ、知らないわよ!」
「?」

 詩音は腕を組んでそっぽを向いてしまった。信は何故怒鳴られなきゃいけないのか全く理解できなかった。
「よくわからんけど、もう遅いし帰るぞ」
「そうね、あ! 信、私の荷物持ってよね」
「な、なんで俺が……」
「レディーには優しくするものでしょ!」
「……そ、そうか。それなら仕方ない」
 信は仕方なく自分の荷物と詩音の荷物を両手に抱えながら、家へと向かった。
「……今日は助けてくれてありがと」
 詩音はぼそりと小さく呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもないわよっ! 早く歩きなさいよっ!」
 そう言った詩音の顔は淡いピンク色に変化していた。

 そんな二人の光景を影から見つめる者達がいた。
「あの刀使いやっかいだな……」
「えぇ、奴がいない時を狙えばあの女の持つ本も楽に奪えるんでゲスがね」
「まぁ、焦ることはねぇ。じっくりと待つとしようや」
「そうでゲスねぇ、ケケケ」

 一方、一人寂しく置いて行かれた太郎は死ぬ寸前のゴキブリのようにピクピクと手足を動かしていた。
「いいもん見ちゃったもんね……でへへ……寒い……」
 その夜は大きな満月が空に浮かび上がり、辺りを明るく照らしていた。

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――それはココロを突き刺す程の悲しく、辛い物語。

Page5 太郎とこころ

 見渡す限りの大平原【ルルパミラ平原】。一人の青年が岩陰に隠れ一匹のイノシシを凝視していた。風が吹き、青年の長い銀髪が靡(なび)く。
イノシシがどんどん、青年の方へと近づいて来る。青年は喉を鳴らし、手にしたナタで一気にイノシシに襲い掛かった。

 ルルパミラ平原に建てられた一軒の家。青年はイノシシを担ぎながらその家の扉を開き中へと入った。
「ただいまぁーっ」
「おかえりなさい、太郎」
 太郎と呼ばれた青年が家に入ると、流れるような綺麗な桃色の髪をした絶世の美少女が太郎を出迎えた。
「これ、今日の飯だぜ【こころ】」
 太郎は先ほど取ったばかりのイノシシを見せる。こころと呼ばれた美少女は、満面の笑みで「じゃ、ご飯の支度するね」と言いキッチンへと向かった。太郎が食卓に着くと【読むな!】が置かれていた。太郎は悲しそうな表情を見せた。

 【読むな!】第4巻。それはこころの本であった。太郎とこころが出逢ったのは、今から11ヶ月前。こころはさらに太郎と出会う23日前に道端に落ちていた【読むな!】を偶然拾ったのだという。【読むな!】は読んでしまってから1年以内に全ての【読むな!】シリーズを集めなければ死に至る恐ろしい本である。普通ならいくら奇跡の力を得ようとも、読もうとは思わないだろう。しかし人間という生き物は「〜するな」と禁止されると逆らいたくなる愚かな習性がある。こころもまた、その人間の一人だった。
「……あと一週間」
 太郎は【読むな!】の翼のマークが描かれている表紙を見つめながら呟いた。
「お待ちどうさま、こころ特製【イノシシビビンバ】よ。召し上がれ」
 こころが可愛いエプロン姿で料理を太郎の目の前に置いた。
「おー! 美味そうだなっ。いただきまぁーす!」
 太郎は先ほどの不安を打ち消し明るい表情でイノシシビビンバを口に運んだ。その味はまったりとしていてコクがあり、それでいてしつこくない絶妙のコラボレーションを醸し出していた。
「うめぇ!!」
「本当っ!? 良かった」
 太郎は勢いよくビビンバを口に運んでいく。そんな太郎をこころは嬉しそうに見つめていた。こんな時間が永遠に続いて欲しい。こころはそう願っていた。しかし神様は残酷だった。

 それから7日後――

 午後2時30分。こころはベッドの中にいた。顔はやつれ、呼吸も乱れていた。太郎は心配そうにこころの手をぎゅっと握り締める。こころが【読むな!】を拾ったのは丁度一年前の午後3時。こころは今から約24時間前に倒れ、少しずつ体力を削られていた。死のカウントダウンが始まったのだ。
「こころ、死なないでくれ! 頼む! 信が、信が必ず全ての本をかき集めて帰ってくるはずだから!」
 太郎の親友信は太郎の恋人であるこころのために10ヶ月前から【読むな!】を探す旅に出ていた。その時太郎も一緒に本を探そうとしたが、信に「こころと一緒にいてやれ」と言われ、全てを信に任せていた。

「太郎、お願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
「な、なんだ!?」
 太郎はこころの願いならなんでも全て叶えてやるつもりだった。
「あのね、あと30分したら私死んじゃうでしょ?」
「そんなこと言うなよ! 助かる! 絶対だ!!」
 太郎のこころの手を握る力が強まる。
「ごめんね太郎。私が死んだら……私を……忘れて」
 そう言い放ったこころの瞳からは大粒の涙が溢れ流れていた。太郎にはこころの言葉の真意がわからなかった。
「なんでだよ、こころは助かるし俺は絶対こころを忘れないよ!!」
「太郎、ごめんなさい。今まで黙っていたんだけどね」

 こころはゆっくりと口を開いた。それは【読むな!】のことについてだった。【読むな!】は最初のルールが書かれているページ以外は白紙となっている。しかしタイムリミット24時間を切った所で、白紙だったページに文字が浮かび上がった。こころはそれを全て読んだ。そして【読むな!】の真実を知ったのだった。
「な、なんだよ。その真実って……」
「言っても無駄なんだ。言ってもそれは無に還るだけだから」
 太郎にはこころの言っている意味が理解できなかった。
「あ、あと一分切っちゃったね……」
「だ、大丈夫だ! 本当に死ぬかどうかわからないじゃないか。それに読むだけで死ぬ本なんて現実的に有り得ないだろ!? 何も起こらないさきっと」
 こころは「それじゃー空が飛べるようになることも有り得ないよね」と言おうとしたがやめた。もう時間がないからだ。こころは太郎を強く抱き寄せた。
「……こころ?」
「大好きだったよ、太郎」

 キラキラ光る星のようにこころの体は輝き出す。
「こころ!!」
 光はやがてこころの全てを包み込み――消えた。
ベッドの上には【読むな!】だけがぽつんと置かれていた。
「あれ? 俺は何してたんだっけ? ん?」
 太郎はベッドにある【読むな!】を拾い上げる。
「なんだこれ?」
 太郎はその本を開いた。

――言っても無駄なんだ。言ってもそれは無に還るだけだから。
【読むな!】によって命を取られるとその存在自体がなかったことにされるから。だからね、私が本の真実を語った所で全て忘れてしまうんだよ。私の言動、行動全て無に還るだけだから……。


――辛く悲しい過去。しかしその出来事は誰の記憶にも残っていない。


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Page6 修行

 窓のカーテンから漏れる朝の光。心地よい音楽を奏でる小鳥達のさえずり。太郎は朝が来た事を確認し、目を開ける。目の前には、ベッドで寝息を立てている詩音とソファーにあぐらをかき、刀を突き立てながら眠っている信がいた。太郎は詩音の元へと歩み寄る。
「か、可愛い……」
 いつもはキツイ目をし、毒舌を吐きまくる詩音も寝ていると普通に可愛い女の子に見えた。太郎は手を出そうか迷ったが、もう半殺しにされるのは嫌なのでやめた。次にソファーに視線を移す。
「よくこの態勢で眠れるよな……」
 信いわく、いつ敵に襲われてもいい態勢らしい。太郎はもう少し寝ようと
床へと戻った。
「って、俺の家なのになんで俺が一番質素な床で寝てんだよ!!」
 太郎は台所からフライパンとおたまを取り出し、おたまでフライパンを強く叩いた。
「朝だぞお前ら! 早く起きろー!!」
 それはただの嫌がらせだった。信と詩音は眠そうに目をこすりながら起き上がる。二人を起した後太郎は【読むな!】のチェックに入る。
「あ! ルールが更新されてる」
「え、本当!?」
 太郎の言葉に詩音が素早く反応し自分の本を取り出し読み始めた。

 更新された主なルール
【読むな!は一人一冊しか所持してはならない。二冊の読むな!を読んでも
 奇跡は最初に読んだ方の奇跡しか持つ事は出来ない】
【奇跡の使用回数3回】

 使用回数の更新はほぼ毎日のように行われていた。しかし新しくルールが
加わるのは太郎にとっては初めてだった。
「え、どういうこと?」
 ふいに詩音がぼそりと呟いた。
「どうしたの詩音ちゃん」
「だって、新たに更新されたルールは、一人一冊しか所持してはならないって……」
「それがどうかした?」
 太郎は詩音の言いたいとすることがわからなかった。
「今まで私は本を持っている人から奪って10冊集めればいいと思ってた。だからブックハンターっていう仕事まで出来たのよ。なのに、これだと10冊集めるというよりも本を所持した10人を集めなきゃいけないってことになるじゃない!!」
 確かに詩音の言うとおりだった。
「じゃー10冊集めると、とんでもない奇跡が起こるっていうのは
 10人全員に起こりえるってことか?」
「そういうこと」
 詩音はなんだかこのルールがやっかいとも言わんばかりの表情をしていた。太郎にとっては、これで誰も死なせずに済むから歓迎のルールだと思っていた。

「さて、行くか」
「ん? 信何処行くんだよ」
 信は大きな荷物を持っていた。
「俺の師匠の所に修行に行くんだ。鏡神のような強い奴がまだまだこの世
 にはたくさんいるんだって思い知らされたしな」
 信は鏡神との戦いで己の未熟さを痛感したのだった。
「そうか、頑張れ! 俺は俺で本を探すから」
「お前も来るんだよ!」
 信は太郎の耳を引っ張った。
「いてて! な、なんだよ! なんで俺が修行しなきゃいけねーんだよ!
 絶対俺は修行なんてしねーぞ! 俺のモットーは楽して幸せになること
 なんだよー!!」
 すると信の目が鋭く光り太郎の耳元に口を移し、何かを告げた。
「マ、マジか!?」
「あぁ、それでも修行する気はないか?」
「い、いく!! 絶対行く!! 断じて行くぞ!!」
 太郎はなんだか興奮していた。すぐに荷物をまとめ始める。
「ね、ねぇ。なんて言ったの?」
「ん……ちょっとな」
 詩音の問いに信は答えずはぐらかした。
「詩音も荷物まとめておけよ。それとも一人残るか?」
「ば、バカ言わないでよ! こんなとこに一人で残ってたらいつブラックキラーに狙われるかわからないわ」
 詩音も太郎と同じく荷物をまとめ始めた。

――修行山 〜明神之池〜

 3人は長い山道を登り、大きな池のある場所までやってきた。
明神之池と呼ばれる池の隣には、一つの小屋があった。
「さぁ、ついたぞ」
「ハァッハァッハァッハァッ」
「ゼェーゼェーゼェーゼェーッ」
 詩音と太郎の呼吸は荒く、グダグダだった。信は小屋の扉へと向かいノックをする。と……。不意に扉から一本の刀が飛び出した。信は即座にそれを後ろに飛び退き避ける。辺りがシーンと静まり返る。と、静かに扉が開きそこから一人の人物が姿を現した。
「お久しぶりです師匠」
 信がその場で跪(ひざまず)く。
「え……この人が信の師匠、なの?」
 詩音はその人物を見て呆気に取られた。太郎は目を輝かせ、信の師匠の元へと突進していった。
「俺太郎でーす! 宜しくお願いしまーす!!」
 太郎が抱きつこうと襲い掛かる。すると信の師は胸元から扇子を取り出し軽く太郎に向かって仰いだ。
「うおっ! うおぁあああああ!!」
 その直後、突風が吹き太郎は遥か彼方へと吹っ飛んだ。

「お久しぶりですね、信」
 師は何事もなかったかのように、笑顔で微笑む。優しい瞳に流れるような美しい髪、そして豊満な胸に露出度の高い服。信の師は神秘的で色気のたっぷりな女性だった。
「ふーん、こんな美女といつも修行してたから私のなんて、見ても何も
 思わなかったわけね?」
「ん? なんのことだ?」
「知らないわよっ! 私太郎探してくるわ」
「あ、あぁ。頼む」

 詩音はなんだかムカムカしながらも、太郎の飛ばされた方向へと向かった。すると詩音の前に二人の男が現れた。
「待っていたでゲスよ! お前が一人になるのを!」
「さぁ、本を渡してもらおうか」
 二人はブックハンターだった。詩音が一人になるのを狙いずっと後をつけていたのだった。
「うるさいわねっ!!」
 詩音は二人に対して手をかざした。すると二人は一瞬にして氷付けにされた。
「もぅ! 次の更新まで3回しか奇跡使えないのにこんなところでもう
 一回使っちゃったじゃないのよ! 全部信のせいなんだから!!」


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 Page7 【読むな!】3巻

 大自然に覆われた一軒の小屋。太郎、信、詩音の3人は神秘的な信の師【楓】と一緒に紅茶をすすっていた。
「大体のお話はわかりました。その【読むな!】という本を集めるためにも
 さらに強くなっておきたいという訳ですね」
「はい、師匠お願いします」
 楓の言葉に信は頭を下げて、お願いした。太郎は楓の胸元を見つめながら、詩音は不機嫌そうにしながらそれぞれ紅茶を飲んでいた。
「それにしても偶然ですね。2ヶ月前から私の元で修行をしている子がいましてね。その子も【読むな!】を所持しています」
「え!?」
 3人が一斉に声を上げる。
「噂をすれば、なんとやらですね」
 小屋のドアが開け放たれ、両手にマキを一杯持ったツインテールの女の子が現れた。年は13歳ぐらいに見える。
「お師匠様ぁ、マキ集めてきましたぁ。ってあれれぇ? お客様ですか?」
 少女はマキを部屋の隅に運ぶと元気よく挨拶した。
「こんにちわっ!」
 3人はこんな小さい子が【読むな!】を所持しているのだろうか? と思いながらも挨拶を返した。
「この子の名前は【唯笑】。素質は信と同等かそれ以上なんですよ」
「あー! このおじさん知ってる!! お師匠様の一番弟子ですよねぇ
 写真見たから覚えてますよぉ!」
「ぷっ! おじさんだって」
 唯笑の言葉に詩音が笑う。信は少しムッとしていた。
「お師匠様ぁ、もしかしてこの人達は修行に来たんですかぁ?」
「えぇ、そうですよ」
「やったー! お友達〜」
 唯笑は喜びはしゃいでいた。そんな唯笑に太郎は質問した。
「唯笑ちゃんは【読むと死ぬ!】持っているんだってね。どんな奇跡があるのか見せてくれないかな?」
「うんいいよぉ」
 唯笑はあっさりと承諾し、外へと出た。

 全員が小屋から出ると唯笑は桃色の【3巻】を取り出した。
「それじゃー見ててね」
 3人は唾を飲んで見守る。
「えいっ!」
 唯笑が地面に両手を叩きつけた。すると地面が槍のように突き出した。
3人は呆然とそれを眺めていた。【読むな!】の起す奇跡の力はやはりすごいと実感する。
「えっへっへ〜すごいでしょっ」
 唯笑は得意げに言う。すると太郎が一歩前へと出る。
「じゃーお礼に俺の力も見せてあげようか」
「ほぇ?」
 太郎はズボンから本を取り出す。すると唯笑の目の色が変わる。
「あー! 【読むな!】4巻だぁ!! 私の他に本持っている人初めて見たぁ!」
 はしゃぐ唯笑を太郎は抱き上げた。
「ほえほえぇ?」
「しっかりつかまっとけよー」
 太郎は大空へと飛び上がった。
「きゃー! すっごーい! きゃははは! お空飛んでるぅー!!」
「これが俺の奇跡だ。すげーだろ?」
「うんっ! もっと飛ばしてーお兄ちゃん〜」
 【お兄ちゃん】というフレーズになんだか萌えてしまう太郎だった。

 空の散歩を終えると、詩音が本を取り出し待っていた。
「わぁ! お姉ちゃんも本持っているんだぁ」
「えぇ、私の奇跡の力も見せてあげるわ」
 詩音は手の平を上に向けた。すると氷の刃が詩音の手の平から空に向かっていくつも飛び出した。その光景は神秘的で綺麗だった。
「すっごぉーい!!」
 唯笑は楽しそうに拍手した。信と太郎も初めてみる詩音の奇跡に驚いている。こうして太郎の元には約3分の1の【読むな!】が集まったことになった。唯笑の持つ桃色の【3巻】。太郎の持つ白色の【4巻】。詩音の持つ水色の【8巻】。そして3人の残りの期限は太郎が約10ヶ月ちょい。詩音が9ヶ月。唯笑も9ヶ月だった。

 自己紹介も兼ねて奇跡の能力を見せた3人はすぐに打ち解けた。信は一人寂しそうにしていた。
「このポジションは太郎のポジションだな……」
 そんなことをうなだれながら呟いた。しかし本が欲しいかと聞かれれば信はNOと答える。信は本の奇跡などなくとも世界一強い男になる。それが目標だった。
「それでは早速修行を始めましょう」
「楓さん、俺達には時間に限りがあるから一番早く強くなれる修行にしてくださいな」
 太郎がふいにそんなことを呟くと、信と唯笑の表情が一変する。
「ふふふ、いいのですか? 特別短期修行コースで」
「ちゃっちゃと済ましたいからな」
「わかりました」
 信も唯笑もそのやりとりを震えながら見ていた。
「ん? どうした二人とも」
 太郎が二人の異常な様子に気づき声をかける。
「し、師匠。俺は普通で……」
「わ、私も今まで通りでいいですぅ」
「ふふふ、駄目ですよ。皆一緒です」
「あぁぁああああ!!」
「いやぁぁぁああ!!」
 二人は悲鳴を上げる。
「な、なんなんだよ一体……」
 この時太郎はその特別短期修行コースが想像を絶する死んだ方がマシだと思えるぐらいの過酷なモノだとは知る由もなかった……。


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「きゃはははははははは!! あははっ! あはははははははっ!!」
「キャハハハハハハハハ!! キャーッ! いやぁっ! きゃはは!!」
「あはははっははあはっ! あはははははは、はーっはっはっはっは!」

Page8 動き出した闇

 山に物凄い笑い声が木霊する。最初の修行は小屋の中で一人ずつ行われた。最初に唯笑(ゆえ)が入り、大きな笑い声に太郎と詩音はどんな修行をしているんだろうと興味津々だった。信は修行の内容を知っているため、顔面蒼白で引きつっていた。一時間交代で詩音、信も小屋の中へと入っていく。再びの笑い声。太郎は一人、どんな楽しい事をしているのだろうと、心躍らせていた。そして太郎の順番が回ってくる。
「太郎君、こちらへいらっしゃい」
 楓(かえで)が微笑みながら太郎をベッドに促す。部屋の隅では、何があったのかゲッソリとやつれた3人がうずくまっていた。太郎はその光景を見て嫌な予感がしたが、綺麗なお姉さん+ベッドにどうしても素晴らしい妄想をしてしまい、素直にベッドに仰向けになった。
「ハァ……ハァ……楓様ぁ、何をするのでありますかっ」
 太郎は興奮しながら尋ねた。楓は「いいことよ」と言いながら太郎の両手両足をベッドに手錠でつなぐ。
「ど、どんなプレイっすか?」
「ふふふ」
 楓は悦な表情を浮かべながら太郎の体に触れた。
「あふぅんっ!」
 つい太郎は声を吐き出してしまう。が、次の瞬間。
「ぎゃはははは! ぎゃははっ!! な、なにするんですかぁっ!!
 楓お姉さまぁ!! あははは!! ひぃ〜!!」
 楓は素早い手裁きで太郎の全身をくすぐり始めた。楓のくすぐりテクニックは最早世界一と言っても過言ではないほど素晴らしかった。
「笑うという行動には、治癒力を高める効果と腹筋や頬の筋肉など色々な筋肉を使うから筋力アップ&体力アップに持って来いなのですよ。ふふふ」
「ひぃ〜っ! こ、こんなの一時間も、ぎゃはははははは! き、きつすぎるぅ〜!」
 太郎はそう叫びながらも心の何処かで、これはこれで気持ちいいかもと感じていた。山には、3人の笑い声が夜遅くまで響き渡っていた。

 一方その頃、政府機関は謎の集団に襲撃に遭っていた。【読むな!】の回収と政府を護る兵隊の両方の役割を兼ねていた【ブラックキラー】は謎の集団と一戦交えていた。謎の集団はざっと100名。それに対しブラックキラーは300名と圧倒的有利に思えた。しかし……。
「こ、こいつら人間じゃねぇぞ!!」
 謎の集団達はパッと見、人の形をしていたが、よく見ると鋭い牙が生えていたり、やけに太い腕に鋭い大きな爪を生やしている者、さらには背中に黒い翼を生やした者など到底人間とは思えぬ姿をしていた。
「この化け物がぁ!!」
 黒服の集団は化け物達に一斉に攻撃をしかけた、しかし化け物達はその一体がブラックキラー10人分ほどの戦闘力を持ち合わせており、黒服達は次々に倒れていった。

――政府最高幹部室

 高級感溢れる部屋に政府の幹部達とブラックキラー副隊長【鏡神】が机を囲み緊急会議を開いていた。
「今、ブラックキラーが化け物を食い止めていますが相手は予想以上の兵(つわもの)この僕にも行かせてください」
 鏡神が戦場への出頭を願い出る。すると幹部の一人が額の汗を拭いながら口を開く。
「お前が行ってもし負けたりしたら我々を誰が護るんだ。行ってはならん」
「しかし、このままでは!」
 鏡神は机を叩き大声を上げる。
「奴がいてくれれば、あんな奴らなど一瞬で消し去ってくれるのだろうがな
 こんなことなら、【読むな!】捜索に出すんじゃなかった」

 謎の集団襲撃から1時間。一人の黒服が幹部室へと倒れこむように入ってきた。
「大変です。我々はもう、全滅寸前……逃げて、下さい……」
 黒服はそう言い終わった後力尽きた。鏡神は血がにじみ出る程拳を握り幹部達に言い放った。
「僕は行きます! 幹部達は脱出通路から逃げて下さい。大丈夫です。
 僕はやられません。ブラックキラー副隊長の名にかけて!!」
 鏡神は剣を手にし、戦場へと向かった。

 戦場と化したその場所は酷い有様だった。多くのブラックキラー達は惨殺され、人の形を残していなかった。
「お前らはもういい! 下がっていろ!! 僕一人でこいつらを全て斬る!」
 僅かに残っていた部下達を鏡神は下げ、構えに入った。化け物の数は70。鏡神はブックハンター100人が一斉に攻めてきた時の事を思い出していた。
「今回はさらにきつそうだけどな」
 襲い掛かる化け物達に鏡神は向かっていった。そのスピード風の如し。
流れるような剣裁き。全ての攻撃を紙一重でかわし、確実に一撃で急所を狙い化け物達を倒していく。それはまるで流星のようだった。
「流星剣とでも名づけようかっ!」
 部下達は鏡神の戦いぶりを見て、呆然としていた。
「すげぇ……やっぱり副隊長は半端じゃねぇよ!」
「あ、あぁ。これなら化け物達を一掃できる!!」
 部下達に希望が湧き上がる。現に化け物は70から20にまで減っていた。

 鏡神が戦闘を開始してから1時間10分。化け物達は全滅した。
「うおおぉぉ! 副隊長ー!!」
「さすがっすよー!!」
 部下達が鏡神の元へと駆け寄る。さすがの鏡神も息が乱れ、疲れきっていた。
「……お前らがもっと強ければこんな面倒くさい事にはならなかったんだ」
「す、すいません」
「まぁ、よく生きていてくれた。他の部下達の家族達には申し訳ないことを
 したがな……」
 鏡神はもっと早く自分が来ていれば、幹部達のことよりも部下達のことを優先させていればと悔やむ。と、その時背後から手を叩く音が聞こえてきた。振り向くとそこには【読むな!】10巻を手にした赤髪の女性が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「何者だ!」
 鏡神はすぐに戦闘態勢を取り、問いただした。
「私は【凛写(りんしゃ)】、今の化け物達を作り出した者よ」
「なに? 作り出しただと?」
 油断をせずに、いつでも攻撃を仕掛けられるような態勢のまま聞き返した。
「そう、この本のおかげでね。見せてあげる」
 凛写と名乗った女性は鏡神の部下二人に向け手をかざした。
「え? な、なんだ!? 体が引っ張られる!!」
「うわ! お、おい! うあぁっ!」
 二人の部下の体が重なり、交じり合い【一個の生物】が出来上がった。
「な、なんだこれは……」
 鏡神は呆然とする。
「ククク、これが私の奇跡の力【合成】よ」
「合成、だと!?」
「話は終わり、さぁ貴方も合成して上げるわ。きっと最高の殺戮兵器が
 できるでしょうねぇ」
「ふ、ふざけるなぁっ!」

 一人の青髪の青年が化け物と黒服の死体が転がっている地面に仁王立ちしながら、脆く崩れた政府最高機関のビルを見つめていた。
「俺の不在を狙って来たか。まぁいい、俺の手元にも本はある。いつか
 対峙する時が来るだろう。それにしても……」
 青年は黒服の死体を睨みつけ、蹴飛ばした。
「役に立たない部下共だ」
 青年の名は【神宮寺 恭介】ブラックキラーの隊長であった。恭介の右手には【読むな!】1巻が握られていた。

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 Page9 最強の○○

 太郎達が修行に耽(ふけ)っている頃、世界は大パニックを起こしていた。合成の奇跡を持つ【読むな!】10巻を所持した凛写(りんしゃ)によって、数多くの化け物が生み出され世界に放たれたからだ。凛写はこの奇跡の力を最大限活かし全ての本の持ち主を拉致するつもりだった。

 【レクテール弐番街】貿易が盛んな街。このレクテール弐番街でも合成生物が暴れまわっていた。一匹の合成生物(ユニオン)が、ある一軒の民家へと木製の扉をぶち破り入っていく。中には、小さな男の子と女の子の二人が
住んでいた。
「ターゲット確認、本不所持につき抹殺する……」
「私の子供達を勝手に殺すんじゃないわよ!!」
 ふいにユニオンの背後から大きなフライパンを持った女性が思い切りユニオンの頭部にフライパンを振り下ろし、言い放った。
「おかあちゃーん!」
 子供達がフライパンを持った女性の所へと泣きながら走り寄る。どうやら
この子供達の母親のようだ。思い切りフライパンを頭部に強打されたユニオンだったが、全くダメージを受けていないかのように涼しい顔で立ち上がった。
「あんたら下がっていなさい」
 母は子供達を後ろへ下げると、ユニオンに向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「普通の主婦ならきっと貴方達には敵わないんだろうけど、残念ね」
 女はエプロンを取り外し、一つの本を取り出した。
「本確認、ターゲット捕獲します」
 ユニオンの太い腕がゴムのように伸び、女に襲い掛かる。しかし、女は軽い身のこなしで攻撃をかわし、ユニオンとの間合いを詰め両腕を掴む。
「相手が悪かったわね。私は最強の主婦【みさえ】よ!」
 みさえが掴んだ腕からユニオンの体がバラバラになる。
「あいにく私の奇跡は合成の正反対、分解なの。そして今の技は【千切り】 とでも名づけようかしら? ふふふ」
 みさえの片手には【読むな!】2巻が収められていた。

 一方その頃、信の師匠【楓】と太郎、信、詩音、唯笑の4人の修行は
佳境を迎えていた。高さ2メートルはある大きな水槽4つの中に太郎達はそれぞれ潜っていた。水槽の中にはぬるめのお湯がたっぷりと入っており
呼吸ができない状態だった。
「肺活量を鍛える修行にのこの修行に耐え抜けば皆さんは半分程の力で
 今の100%の力を発揮することができるようになるでしょう」
 水槽内でもがき苦しむ太郎達を眺めながら呟く。4人の顔は真っ赤に変色し、そして紫色へとさらに変化していく。限界まで呼吸を止め、5分のインターバルの後再び潜るという繰り返しの修行が続けられた。

 ――修行を開始してから一週間後

「よく特別短期集中修行コースをみなさん制覇しましたね」
 太郎達を見つめて笑顔でねぎらいの言葉をかける楓。そんな楓とは打って変わって太郎達の表情からは笑みが全くなく、燃え尽きた屍のような状態になっていた。
「本集め頑張って下さいね」
「ふぁい……」
 楓に別れを告げ4人は山を下り始めた。
「まぁ、これで俺達は強くなったはずだ。もう俺は誰にも負けはしない」
 信が刀を強く握り締め決意を表す。
「こっちはすでに本3つもあるから楽勝だよね」
 唯笑は無邪気に笑いながら信と太郎の手をつなぎながら言う。
「死にたくないもの絶対期限以内に全て集めるわよ!」
 気合を入れ信同様決意を胸にする詩音。
「死んだら女の子とあんなことやこんなこともできないしな! うしし」
 太郎はエロ目で鼻を伸ばしながら、詩音の胸元を見つめながら呟く。
「どこ見てんのよっ!」
 詩音は楓から受け継いでいた風を紡ぎ出す扇子【バショウセン】を太郎に向かって仰いだ。
「うわぁぁぁぁ……っ」
 太郎は遥か彼方へと吹っ飛ばされた。
「おいおい、やりすぎだ詩音」
「知らないわよっ!」
「やれやれ……、まぁほっといても死にはしないか」
 信は太郎を放っておいて山を早く降りることにした。修行をする前であったなら信は太郎が心配でそんなことはできなかっただろう。しかし修行を終えた太郎がどれほど能力アップしていたか信は気づいており、そんな心配をすることもなくなっていた。

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 Page10  抜け落ちた記憶

 山を下りた信、詩音、唯笑は呆然と立ち尽くし言葉を失っていた。
何故ならば、眼前に破壊尽くされた町並みが映し出されていたためだ。
人ひとり、見つけることは出来ない。この町は完全に全滅していた。
「一体俺達が山へ篭っていた間、何があったというんだ」
「酷いありさまよね……何かが起こり始めているんだわ」
「こんな酷い事する人は許せないですぅ!」
 三人はそれぞれ身を引き締め全滅した町中へと入っていった。
 地面には灰が積もっており一歩踏み出すごとに灰が舞い上がる。
視界も悪く、三人は口を塞ぎながら進んだ。
「きゃうっ!」
「どうした!」
 ふいに唯笑の叫び声が聞こえ、先頭を歩いていた信が振り向く。と唯笑は
長く大きい腕にわしづかみにされていた。舞い上がる灰の中からユニオンが姿を現す。
「こいつは……」
「ば、化け物よ!」
「やぁ〜離してぇ!」
 信と詩音が驚愕する中、唯笑はユニオンの手の中でじたばたとしていた。
「本確認ターゲット2人捕獲します」
 ユニオンのもう一つの腕が詩音に向かって伸びる。
「来ないでよっ化け物!」
 詩音は両手をユニオンの腕に向ける。
「凍れ!」
 するとユニオンの腕がまたたくまに氷付けにされ動かなくなる。その隙に信が氷付けにされた腕をすばやく斬り落す。
「もう渡してって言ってるでしょぉ!」
 ユニオンの手の中でジタバタしていた唯笑は地面に向かって手を突き出す
「グギギギ……」
 地面から突き出した土の刃がユニオンの体を貫通する。ユニオンの腕から力が抜け、唯笑は脱出に成功した。

 倒れて動かなくなったユニオンを見つめながら、世界に異常事態が発生していることを確信する。
「この化け物【読むな!】を狙っていたみたいよ」
「あぁ、そうだな。合成の奇跡で生み出された化け物達に本の持ち主が
 探させているようだ」
「え?」
 信の何気ない一言に詩音が疑問に思う。
「なんでそんなこと知ってるのよ」
「ん?」
「どうして、この化け物が【読むな!】の奇跡で生み出されたって
 わかるのよ!」
「!」
 信の表情が固まる。
「もしかして、その本の持ち主のこと知っているわけ?」
「あ、いや……その、なんだ」
 明らかに動揺している信。それに詰め寄る詩音。それをまるで浮気のバレた夫に妻が言い寄るような光景だと思い込みわくわくと見つめる唯笑。
「い、いつか話すでござるよ」
「なんで急に語尾がござるなのよ」
「離すべき時が来たら拙者はきちんと話すと言っているでござろう」
「なんで侍言葉なのよ」
「……わかった、話すよ」
 信は観念するとおでこに手を当てため息をつく。最早このポーズは信の
お決まりポーズになっていた。
「俺があいつと出会ったのは、11ヶ月程前だ……」
 信はゆっくりと過去を話し始めた。

 
 あの頃の俺は太郎に頼まれて【読むな!】を探す旅に出ていた。何故俺一人でそんなことをすることになったのかは、わからない。何故かそこのところの記憶がないのだ。これは太郎にとっても同じ事。俺達には記憶の抜け落ちた部分がある。まぁ、その事は今はどうでもいいか。俺が一人旅をしている時に出会ったのが合成の奇跡を与えてくれる【読むな!】10巻の持ち主
【凛写】だ。

「【読むな!】を実際に見るのは2度目だな」
 俺は凛写の手にしていた10巻を見て言った。
「へぇ、そうなの。その本の持ち主はなんて人なんだ?」
「あぁ、太郎の    の    だ」
 あのときのセリフの内容も抜け落ちていた。太郎ではないことは確かだ。
もし太郎であるのなら、もう今この世に太郎はいない。太郎と何かしら関係があった人だろうという推測しか出来ない。

「で、あんたはこの本が欲しいってわけだろ?」
 凛写は本を俺の視界にちらつかせながら言った。
「あぁ、太郎の   の命がかかっているんだ」

 俺はどうやら太郎と関係のある人物が「読むな!」を手にし、残り日数が少ないため必死に探していたらしい。だがそれが誰なのか。そして何故その
誰かを思い出せないのか、いや違う。記憶にすらないのだ。

「だけどあたしも欲しいんだよ。まだ期限はたっぷりあると言っても
 世界中から全ての本を集めるには短すぎると思うしね」
「そうだろうな……この本を手放せばお前は死ぬ。しかし生き残るためには
 全員を殺し本を集めなければならない。本当に酷いルールだ」
 俺はそう言うと刀を抜いた。
「うらみはないが、親友と   のためなんだ。悪く思うな」
「フン! あたしはそう簡単にやられはしないよ。合成の奇跡を甘く
 見るんじゃないよ」
 
 凛写のなんでも合成してしまう能力には、さすがの俺も手を焼いた。特に生物同士を合成させ、化け物を生み出す力には恐怖すら覚えた。結果俺は化け物に足止めされ凛写を逃がすハメになった。それが俺と凛写の出会いだった。

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Page11 山の神様

 詩音によって、遥か彼方へと吹き飛ばされた太郎。今太郎は完全に山で遭難していた。
「うぅ、なんでいつも俺はこんな目に合うんだ。俺は主人公だぞー!」
 山に太郎の心の叫びが木霊する。膝をつきガックリとうな垂れていると、葉の擦れる音が太郎の耳に入る。
「信達が迎えに来てくれたのか!」
 太郎は期待を胸に音のした方向に歩み寄る。そして草の根を分けると。
「グギギギ……ターゲット確認」
「な、なんだぁ!」
 太郎が信だと思った相手はユニオンであった。ユニオンは長い両腕を太郎に向かって伸ばす。
「うわっ、キモい手で触るな化け物!」
 太郎はユニオンの両腕を払いのけ後ろに下がる。
「くそぉ! なんなんだよコイツは! やるしかないのか」
 いつもは信に守られてきた太郎。そんな太郎が己の力だけでユニオンを退治することを試みる。修行をして、強くなっていると確信していた太郎は軽く構え戦闘態勢に入る。

(漫画とかじゃ、ここで修行の成果が発揮され自分の溢れるパワーに驚く展開が待っている。きっと俺もそうに違いない!)

 勝手にそんな都合の良い展開を予想し、太郎はユニオンに向かって飛び膝蹴りをユニオンの顔面に食らわした。が、ユニオンの顔面は思いのほか硬く太郎は片足でぴょんぴょんと飛び跳ね片足の膝を押さえる。ユニオンは顔を蚊にさされた程度だと言わんばかりにぽりぽりと掻いていた。
「なんでじゃ〜! 全然強くなってねー! あの女騙したな!」
「グギギーッ!」
「ちくしょうっ!」
 ユニオンの攻撃を太郎は本の奇跡で空へと逃げる。ユニオンの届かない上空まで逃げると太郎はその場であぐらを掻き修行が無駄だったことに怒る。
「くそー! あの苦しい修行はなんだったんだぁ!」
「阿呆め、たった一週間でそう都合良く強くなれるわけないじゃろ」
「まぁ、そりゃそうだけどよぉ漫画とかじゃ強くなれるじゃん」
「阿呆め、これは現実じゃ」
「あーあ、現実はそう簡単じゃないか……って、誰だあんた!」
 太郎は隣で同じように宙に浮かびあぐらを掻いていた、白い長い髭が特徴的な老人にやっと気づいた。
「気づくの遅いのぉ」
「なんでじいさん空に浮いてんの!」
「お前もそうじゃろ」
 的確な老人の返しに太郎は言葉を失う。
「そんなことよりも、あんなユニオンも倒せないようじゃ駄目駄目だのぉ」
「ユニオン? なんじゃそりゃ」
「お前がさっきまで相手しておった化け物じゃよ」
「ほう、ユニオンというのか。って、それよりもじいさん何者だよ!」
 太郎は老人を指差し叫ぶ。老人は胸を張り片手に握られている杖を太郎に向けて突き出し言い放った。

「わしは山の神様じゃ!」

 しばらくの沈黙が訪れる。そして太郎は老人の両肩に手を置き、哀れみの目で言った。
「老人ホームに帰ろうな」
「わしはまだボケとらんわい!」
 自称山の神様は頭に血管を浮かび上がらせながら唾を飛ばして言う。
「汚ねぇじいさんだなぁ」
「じいさんではない、山の神様じゃ!」
「わかったよ、汚ねぇ山の神様」
「汚ねぇは余計じゃわい!」
 山の神の顔面は茹ダコのように真っ赤に染まっていた。太郎は空飛ぶ顔の真っ赤なもうろくじいさんが怖くなった。
「あ、そうだ、俺そら飛びながら山下りるわ。じゃあな」
 太郎は何事もなかったかのように去ろうとする。だが、山の神に後ろ襟を掴まれる。
「な、なんだよぉじいさん」
「わしがお前を鍛えてやる。いいか? お前は体を鍛えるよりも奇跡の力を
 100%使いこなせるように修行するべきなんじゃ」
 こんな危ないもうろくじいさんには、何一つ教わりたくないと太郎は思った。
「いえ、結構ッス」
「遠慮するでない」
「いや、マジでいいッス。これから塾があるんで」
「嘘こくでないわっ! お前が塾行くような顔かっ!」
「あ、ひでぇ……」
 太郎は100の精神的ダメージを受けた。太郎はじいさんを疑わしいという目つきで見つめる。
「仕方ないのぉ、まだ下をおろおろしているユニオンをわしが一瞬で倒したら、わしの修行を受けるかの?」
「やめとけよじいさん、あと少しは生きられるんだろうからさ」
「むむぅ、こやつは本当口が悪いのぉ。黙ってみておけ」

 山の神はゆっくりと地へと降り立つ。と、すぐさまユニオンが山の神に向かって両腕を伸ばし山の神を捕らえる。
「あー、大丈夫かよじいさん」
 空の上から太郎が興味なさげに声をかける。
「楽勝じゃっ!」
 山の神の筋肉が急に膨れ上がり、ユニオンを持ち上げ、そのまま回転して振り回す。
「うわぁ、すげースイング……」
 太郎は唖然と見つめる。そしてそのまま山の神はユニオンを上空へと投げ飛ばしユニオンは星となった。
「下りてくるんじゃ」
「あ、あぁ」
 太郎は素直に山の神の元へと下りる。山の神の体はもうじいさんらしい
しょぼいやせ細った体に戻っていた。
「一つ聞いておこうかの、お前は【読むな!】の本質を知っているかの?」
「本質?」
「そうじゃ、例えばお前の持つ4巻から得られる奇跡は何か」
「空を飛ぶ奇跡だろ?」
「阿呆め、お前の本の本当の奇跡は【重力操作】じゃよ」
「え、そうなのか?」
 太郎は初めて知った。ずっと空を飛ぶだけの奇跡だと思っていたのだ。
山の神は髭を撫でながら話を続けた。
「重力を自由に変化させる奇跡。それが4巻から得られる奇跡じゃ。極めれば他の本の奇跡にヒケを取らないのじゃ」
「す、すげー!」
 太郎の目は輝いていた。女と【読むな!】のことになると太郎は誰よりも真剣になる。
「でもよ、なんでそんなことじいさん知っているんだ?」
 太郎は当然の疑問を山の神にぶつけた。
「え? あ、あぁ。それはな」
「それは?」
「わしが100年前に全ての【読むな!】を集めたことがあるからじゃ!」
「な、なんだって!」

 太郎は驚愕した。
「100年前って言ったら今何歳だよっ!」
「って、そっちに驚愕したんかいっ! 普通は【読むな!】を全て集めた
 ことに驚愕するじゃろっ!」
 山の神は太郎のあまりのボケぶりに、入れ歯がはずれんばかりのつっこみを入れた。
「で、全部集めたとき何が起こったんだ?」
 太郎は興味津々に尋ねる。山の神はしばらく間を置いてから咳払いをし、答えた。
「ね、願いが一つ叶ったのじゃ」
「……うさんくせぇ〜、本当に全部集めたのぉ?」
「本当じゃっ! とにかく約束通りわしの修行を受けてもらうぞ」
 半ば強引に太郎は自称山の神で全ての【読むな!】を集めた男に修行を受けることとなった。下界がとんでもないことになっているとも知らずに。


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 Page12 詩音お嬢様

 焼きただれた多くの建築物。地面は灰で覆われ風によって大気中に散漫する。それはまるで猛吹雪の雪国の中のように視界は悪く歩きづらかった。
信、詩音、唯笑の3人は灰と化した死の町を徘徊する。
「コホンッ! コホンッ! 息するのもつらいよぉ」
 唯笑は涙目になりながら、信と詩音の両手をしっかりと握りながら言った。
「全くどうしたというんだろうな。政府は何をやっているんだか」
 町を護るはずの政府機関がありながら、この様に信は腹を立てる。
「あーもう! なんでこの私がこんな灰の中を歩かなければいけないのよ!
 お家に帰ってシャワー浴びたいわ」
 詩音もまた不満を漏す。自慢の黒髪は灰のおかげで、灰色へと変化していた。
 
 しばらく歩いていると3人は人影を発見する。その途端に
 詩音がその人影を見て一目散に走り出す。残された二人もすぐに後を追った。詩音は人影を追いながら叫んだ。
「爺や!」
 その言葉に反応して、人影は立ち止まり振り返った。詩音はその人影の顔をハッキリと確認する。
「やっぱり爺やね!」
「おぉ……お嬢様、ご無事でしたか!」
 灰の中から姿を現したのは、白髪のいかにも紳士的な風貌の老人だった。
詩音は、爺やと呼ばれた老人に抱きつく。
「爺やも無事で良かった!」
 そこには普段の気の強い詩音の姿は消えていた。爺やは詩音を抱きしめながら、信と唯笑の存在に気づいた。
「お嬢様あの方達は?」
「あ、うん。彼らは私と同じ【読むな!】を持つ仲間よ」
「おぉ、それはそれは」
 爺やは二人に近づき頭を下げる。
「この度はお嬢様を守って頂きありがとうございます」
「そんなお礼を言われる程のことでは。それより貴方は今までの経緯を
 ご存知だろうか?」
「えぇ、知っています。ここではなんですからお屋敷の方へ」
「お屋敷?」
 信は踵を返す爺やに向かって聞き返した。
「はい、車ですぐですので」
「私の家よ。これでシャワーが浴びれるわ」
 詩音は嬉しそうに爺やの後についていく。信と唯笑も後に続いた。

 10分程歩くと大きく立派な車が灰をかぶって止まっていた。
「お前って金持ちの娘だったのか?」
「えぇ、そうよ」
 信の問いかけに詩音は鼻を鳴らして答えた。
「わーいおっきなお車だぁ」
 唯笑は車に乗り込むと嬉しそうにはしゃぐ。こうして車はお屋敷へと向かって走り出した。

 広い車内の後部座席に座った太郎と唯笑は窓から外の風景を眺めている。
その光景は神秘的にも見え、不気味にも見えた。灰の積もる死の町。
「あぁ!」
 ふいに信が大声を上げる。爺やは驚き急ブレーキをかける。
「ど、どうしたのよ!」
 詩音が後部座席を振り返り信に視線を向けて聞いた。
「太郎のことをすっかり忘れてた」
『あ……』
 詩音と唯笑は同時にあんぐりと口を開けていた。
「もう一人お友達がいたのですか?」
 爺やが三人に尋ねる。
「えぇ、ですが途中ではぐれてしまって。誰かさんのせいで」
「な、なによ」
 横目で詩音を見る信に焦りながら詩音は言い返す。
「私のせいじゃないわよ。エロいアイツが悪いのよ」
「まぁ、否定はしない」
 信はさてどうしたものかと腕を組みながら考え込んだ。唯笑も信の真似を
して考え込むふりをする。
「仕方ない、放っておこう。太郎は逃げることに関しては天才的だし化け物
 にやられることもないだろう」
 信はあっさりと答えを出した。ちょっと太郎が可哀想だと哀れみの気持ちを唯笑と詩音は抱く。
「では、出発します」
 再び車は動き出した。

 一方その頃、ブラックキラー隊長【神宮寺 恭介】は【凛写】の行方を追っていた。
「好き放題やってくれる」
 半壊した町を見渡しながら恭介は呟く。恭介の周りには、50体程のユニオンの死体が積まれていた。全て恭介が殺したユニオンだ。
「お兄ちゃん町を救ってくれてありがとうー」
 半壊した町の数人の生き残りのうちの一人の少女が恭介の元へと駆け寄る。すると恭介は信じられない行動に出た。
「俺に近づくんじゃねぇ! 愚かな一般市民が!」
 そう吐き捨て少女の腹部に蹴りを入れ吹き飛ばす。少女は気を失い灰の上に倒れた。
「ちっ、虫唾(むしず)が走る」
 恭介は地面に突き刺さった2メートル以上はある巨大な剣を背中に背負い
次の町へと移動し始める。
「こころ……」
 遠くを見つめながら恭介はぼそりとその名前を呟いていた。

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Page13 最強タッグ

 一つの街の面積の半分にも至る超巨大な屋敷内。世界でも5本の指に入る大金持ちの長女。それが詩音だった。信と唯笑は高そうな壺や絵画、天井に眩しい程に輝くシャンデリアのある、いくつかある客間のうちの一つに招き入れられていた。詩音はシャワーを浴びに行ったらしく、客間には数人のメイドと爺やが信達をもてなしていた。
「ねー信兄ちゃん見て見て〜このソファーすっごいふかふかだよぉ」
 唯笑はソファーの上ではしゃぎまくっていた。いくら奇跡の力を持っていてもやはり子供だなと信は思う。そしてこんな小さな子にすら、死が確実に近づいていると思うと信はやりきれない気持ちになる。
「可愛らしいお嬢さん、こちらのお菓子どうぞ」
 メイドの一人が唯笑に高級そうなお菓子を差し出す。唯笑は天使のような笑顔でお礼を言うと、お菓子にパクついた。
「わぁ〜おいしぃ〜!」
「良かったな唯笑」
「うん! 信兄ちゃんも食べなよ」
「あぁ、後でな」
 信は唯笑の頭を軽く撫でると爺やの方に向き直り、話始めた。
「爺やさん、怪物によって幾つの街が破壊されたかわかりますか」
「えぇ、今までに判っているので全世界の3分の1がすでに壊滅
 状態にあります」
「そ、そんなに……」
 信は自分が思っていたよりも遥かに被害が出ていることを知り、ショックを受ける。凛写はすでに【読むな!】を手に入れてから少なくとも11ヶ月以上は経過している。焦っているだろうことは容易に推測できた。
「取り合えず、しばらくはここで様子を見るのが良いかと。
 下手に動くよりも情報を待った方がいいと思いますので」
「良いんですか?」
「えぇ、もちろんですとも。お嬢様を守っていただいた恩人なの
 ですから」
「それでは、ご好意に甘えさせて頂きます」

 信と唯笑はそれぞれ何百とある部屋の中から一つを貸してもらい、しばらくそこで寝泊りをすることとなった。
そしてあっという間に夜は更けた。

 信は夜中にふいに目が覚め、部屋を出る。どこまでも続く長い廊下を歩きながら、太郎だったら迷子になるだろうな。と考えていた。
「ん?」
 ふいに廊下から外を眺めている詩音を発見する。月明かりに照らされた詩音はいつもよりも魅力的に見える。が、信は何も感じずに普通に声をかけようとした。
「……!」
 信は言葉をかけようとして気づいた。詩音の瞳から涙が溢れ流れていることに。
「あっ!」
 詩音が信に気づき声をあげる。すぐに涙を拭いほんの少し顔を赤らめて言った。
「どうしたのよ、眠れないの?」
「あぁ、ちょっとな」
「そう……」
 信も詩音と同じく外を眺める。空に寂しそうに浮かぶ月は満月だった。満月というのは、人の調子を狂わせる作用があるという話を詩音は聞いたことがある。それはまさに今の私だ。と詩音は感じた。
「私ね、両親がいないんだ」
 ふいに詩音が語り始めた。
「いないっていうか、覚えてすらいないんだよね。爺やにも聞いたんだけどね知らないって言うのおかしいでしょ?」
 確かにおかしい。そう信は思う。
「私の両親を私も周りの人間も誰一人として知らないの。アルバム
 とかも探したんだけど見つからなくてね」
 信は詩音の話を黙って聞いていた。
「私ね……私、本をどうやって手に入れたかも覚えてないんだ」
 詩音はずっと月を眺めながら語り続ける。庭の木々が風で微かに揺れていた。
「気づいたら両手に持っていたの。しかも何故か涙を流しながら。
 ねぇ、これってどういうことだと思う?」
 本をいつ手に入れたかわからない。それは太郎にも共通する点だった。気づいたらベッドに本が落ちていたのだ。信はそのことを太郎から聞いていたが、詩音に話そうとは思わなかった。黙っている信を横目で見て、作り笑いを浮かべながら「判る訳ないわよね」と言って廊下を歩き始めた。
「私はもう寝るわ。信もあまり遅くまで起きていると体の調子悪くするわよ」
 信は詩音を見送った後、部屋に戻ることにした。
「唯笑は本をいつ手に入れたのか覚えているのだろうか」
 と、小さく呟きながら……。

 数日後――

 信、詩音、唯笑の3人は一緒に豪華な朝食を取っていた。
「ねぇ信、そこのソース取って」
「あぁ」
 信はソースを詩音に差し出す。
「信兄ちゃん、お醤油取って〜」
「あぁ」
 信は醤油を手に取り唯笑に渡す。
「なんだか、夫婦と子供の光景を見ているようでございますね」
「ぶーっ!!」
 爺やの言葉に詩音は口に入れていたモノを思い切り噴出す。
「な、何言ってんの爺や!」
「……おい」
「え?」
 信に声をかけられ、詩音は信を見る。と、詩音が先ほど吐き出したモノが見事信の顔面にかかっていた。
「ご、ごめんなさい」
「……はぁ」
「きゃっきゃっ」
 その姿を見て唯笑は大喜びしている。世界が混乱に陥っているとは思えない程に平和な光景だった。

 朝食を終え、信は体を動かすために広い庭へと出た。
「あの技を早く完成させるためにも、体を鈍らせないようにしなければ」
 信は腰の鞘から刀を抜き風速斬を連発し、舞い落ちるこの葉を一枚一枚ことごとくバラバラにする。
「やはり修行が効いたのか体が軽いな」
 信の調子は絶好調だった。と、拍手をする音が背後から聞こえる。詩音か爺やだろうと思い振り向くとそこには意外な人物が立っていた。
「凛写!」
 目の前には、長い黒髪に神秘的なたたずまいをした凛写が不敵な笑みを浮かべながら手を叩いていた。
「お久しぶりねぇ、信」
「何故お前が此処にいる!」
「あらあら、ご挨拶じゃないの。せっかくの久しぶりの再開なんだからキスの一つや二つくれてもいいじゃないのかい?」
「ふざけるなっ!」
 信は構える。相手は【読むな!】欲しさに無差別で世界を破壊している危険人物。それに合成の奇跡はかなりのやっかいな代物と来ている。信は油断など出来るはずもなかった。
「私と戦うつもりかい」
「殺しはしない。お前も知っているだろう【読むな!】のルールが
 変更されたんだ」
「あぁ、知っているとも。だから本を持った奴らをユニオンに探させ拉致しようとしているんじゃないか」
 凛写はどうやら、詩音と唯笑の【読むな!】を察知したらしい。
だからここにいるのだろうと信は理解した。
「だ、誰ですか?」
 ふいにメイドが現れ、凛写を見ながら言う。
「これはいい合成材料だ」
「なにっ! 逃げろ!」
「え?」
「もう、遅いわっ!」
 凛写が手をメイドに向かってかざすとメイドは身動きが取れなくなり、そのまま近くにあった大木と融合させられた。
「な、なんてことだ」
「ははは! さぁ、大木人間の出来上がりだよ」
 半分が大木で半分が人間の奇妙な化け物が誕生した。
「ウアーアーー」
 化け物はうめき声を上げながら信に向かって歩んでいく。
「さぁ、信。あんたに今まで人間だったこいつを斬れるかい?」
「なんて卑劣な奴だ! くそっ!」
 信は後ずさる。斬るか斬るまいか迷っていた。
「ウアーアーー!」
 大木人間が信に覆いかぶさろうとする。
「くっ!」
 信は両腕を構え防御の形に入る。
「ははは! 防御するだけかい! 甘い奴だねぇ!」
「ほんと、確かに甘い奴だよね」
 大木人間が真っ二つに分かれた。大きな地響きを上げながら大木が両方向に倒れる。
「お、お前は!」
 真っ二つに分かれた大木人間の背後には、鏡神が立っていた。
「やぁ、久しぶりだね信君」
 鏡神は笑顔で信の挨拶をする。信が唯一剣で負け、ライバル視した男が立っていた。
「ふんっ! まさかお前が現れるとはねぇ」
 凛写が鏡神を見て言う。凛写と鏡神は一度対峙したことがあった。凛写は鏡神を合成しようとしたが、鏡神の並外れたスピードによって逃げられたのであった。
「鏡神、生きていたのか。政府が滅ぼされたって聞いていたから
 てっきりお前も」
「僕があんな女にやられるとでも? 甘くみないで欲しいな。
 これでも僕は【ブラックキラー副隊長】だ。ただ奇跡の力を
 持つだけの素人にやられはしない」
 鏡神は刀を凛写に向ける。信もまた刀を構え凛写の方を向く。
「今回は一時的に手を組まないか?」
 鏡神が提案する。
「そうだな、悪くない」
 信はその提案を承諾する。
「じゃーとっとと、世界の敵を排除しますか」
「あぁ」
 ここに最強のタッグが誕生した。

つづく

2004/05/27(Thu)17:10:03 公開 /
■この作品の著作権は雫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
13話、2時間の時間をかけて丁寧かつ最高の仕上がりだと思った書き込みが途中エラーによって全て消去。バックアップを取ることをしない主義の私はこれでやる気ダウン。がもう一度頑張りました!内容は作り直す前と変わりましたが一度書いていただけに完成度は最初のものよりもよくなった気がします。結果オーライですね
【もう君は親友さ!5回以上感想の皆様】
 卍丸様>8回目の感想ありがとうございます。恭介は人の痛みのわからない人間です。次回13話は少々お待ち下さい。
 グリコ様>7回目の感想ありがとうございます!!また感想がもらえるようになって嬉しいです。そう、信は過去に幕府を……ってなんでやねん!(笑)私も最近見始めたんですよクレヨンしんちゃん。なんか小さい頃に見ていた時よりも感じ方が違うんですよね。家族の暖かさが現れてて本当いいなぁって。昔は下品だとか子供には見せられないとか言われてましたけど、全然私はそう思わなかったですね。むしろ見せるべきだと。次回も頑張ります

【大感謝、3度以上感想をくれた常連様】
 think様>そうなんです。読むな!というタイトル通り読んではいけない本なのですね。不幸になるのは自業自得という……
 律様>3度目の感想ありがとうございます!!毎回の感想大感謝!!これからの太郎の成長も楽しんでくれると嬉しいです。
 ニラ様>4度目の感想ありがとうございます。何度も読んでくれているなんて嬉しいです。やる気湧いてきます!!
 本宮 李飛様>ルール知らなければやっぱり読んでしまいますよねー。信と詩音の恋愛模様も期待していて下さい。
 晶様>4回目の感想ありがとうございます。文章と設定の矛盾、ギクゥッ!やっぱり矛盾がどっかに発生していますか。どうしましょう。アドバイスお待ちしてます。
 紅い蝶様>4回目の感想ありがとうございます。太郎はもうそういうキャラですから(笑)修行は8話の内容以外にもありますので、他にどんな修行があるのかお楽しみに。
 神夜様>たくさんの方から感想頂けているので物語を深くしていけます。感想少なかったらきっとやる気ダウンで6話ぐらいで終わってたと思います(笑)これからも頑張りますので宜しくお願いします。
 夢幻花 彩様>感涙です!私の作品を待っていてくれた方がいたなんて!忘れ去られていると思っていました。ありがとうございます!続き頑張ります!
 遥様>4回目の感想ありがとうございます。爺やを気に入ってくれて嬉しいです。恭介は酷い男なので敵になりそうですね
カズ様>取り合えずまずは、恭介と凛写をどうにかして、整理をつけたら残り4冊の持ち主登場と言った感じですね。山ノ神には意外な真実がありますのでお楽しみに。

【2度感想をくれた皆様】
 若葉竜城様>こころの存在は太郎も信も両親も覚えていません。ただ、覚えている方もいます。それは読者の皆さんです。
 葉瀬様>あっぱれを頂きましてどうもありがとうございます!今回の信はどうでしたでしょうか?かっこよくかけてるかなぁご感想いただけると嬉しいです!!
  
  【初めて感想をくれた皆様】
 黒子様>感想大感激です。物書き常連で自分の考えをしっかりとお持ちの黒子様の言う通りでキャラは強烈なのを揃えています。これからもどんなキャラが出るかお楽しみ下さい。
 千夏様>面白くなるのはこれからです。今はまだ、読者の方にどういった設定、世界観、キャラクター達の性格分析をさせる段階です。皆さんが馴染んだ頃面白みをじょじょに上げて行こうと思います。
 飛鳥様>少しでも気にしてくれたら嬉しいです。
 亀+様>わぁ〜本物だぁ!本物の亀+さんから指摘もらっちゃった。感激ですぅ!プロローグは一人称ですが1話からは三人称で統一したいと思います。ありがとうございました!謝々♪
 rathi様>人物像が説明くさいですかぁー。具体的にどうしたらいいのでしょうか(教えを請う瞳)次回、アドバイスくれると嬉しいです!戦闘シーンは好評でよかったです。
 白い悪魔様>本10冊集めたらとんでもないことが起こります。構想としては10冊全て集めて起こる出来事。まで今のところ考えてあります。次回もどうぞ読んでやってください。
 老犬@様>キャー!滅多に感想を書かない、毒舌、素敵。で有名な老犬様から感想をいただけるなんて感激ですー!例えて言うなら芸能人になって初めて笑っていいともに出演できたときのような感覚。私も少しはここで認められてきた証拠ですね。ありがとうございますー(感涙)
 湯田様>ボケキャラとツッコミキャラは半々ぐらいですね今のところ。信はボケもツッコミも両方やってますが(笑)最高のボケキャラはやはり太郎か山の神様でしょうか。山の神様は別の意味でボケ……。次回も頑張ります。
 流浪人様>笑いどころはふんだんに用意していますね。感動の場面はまだまだ先になりそうです。シリアスとギャグと恋愛。巧く織り交ぜて行きたいですね本当に。
  
 8話の段階ですでに300ptの評価を頂いていたのですが、消えてしまって無念です。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。