『強盗と店員と彼女とまるごとバナナ』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:髪の間に間に                

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―――――――――丸ごとバナナの惨劇と正当防衛――――――――――――――


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 深夜一時十八分。 その声は高らかとコンビニ内に響いた。

「お前ら、全員手を挙げろ〜!」

 店員は無表情に痩せ型で長方形の黒フレーム眼鏡を掛けた男が手に持って自分に突きつけている物を見た。 それは鈍く黒色の輝きを発している。
 
「お前な、声でけぇよ。 つうかお前ら全員って俺しか居ないじゃんよ」

 強盗は思わぬ店員の反応に動揺したが直ぐに用意していた言葉を発する。

「う、うるさい! コレに詰めろ」

 そう言うとレジカウンターに黒色のボストンバックを勢いよく乗せる。

「詰めろって言うと……お菓子?」
「ふざけんな! 金に決まってんだろ! 撃つぞ!」
「あぁそれコルトパイソン? すげぇ、初めて見たよ」
「さっさとしろ! ほら、早く!」

 拳銃を突きつけられ店員はようやく怯えたような顔を見せると、強盗は我が意得たりと途端に強気になり、勢いに任せ店員の頭に銃口を突きつける。
 ここでもう一つ、強盗にとって予想外の出来事が起こった。 店員が泣き始めたのである。 今まで成人の男が泣くのを見るのを初めてだった強盗は狼狽し、つい強盗らしくない事を口走った。

「おい、何で泣いてんだよ。 訳分かんねぇよ!」
「…大声出すなよ。 いいんだ、どうせ俺なんて死んじまっていいんだよ」

 途端、店員は強盗の胸座を掴み、捻り挙げながら涙を流して怒鳴る。 その姿はまるで拳銃の存在を忘れたかのようだった。

「お前には分からんだろうさ! 何が『トモくんよりタクくんの方が私には必要なの』だ! 四年! 四年浮気もせず真っ直ぐにあいつに接してきたんだぞ。 ふざけんじゃねぇよ! 親や友達も『お前にも何か問題があったんじゃないのか』とか言うし、ざけんじゃねぇよ!」

 強盗は自分が強盗だという事を一瞬忘れ、つい、本音を言ってしまった。 幸か不幸か強盗は今彼女が居てその彼女と今幸せの絶頂で、実はこの強盗も結婚資金調達のためなのだった。 若し自分がそうなったら、そう考えたら強盗は本当に心からの本音を言ってしまったのだ。

「…お前も大変なんだな」

 店員の顔が一変し、胸座を掴んだ手を離す。

「…そう言ってくたのお前が初めてだよ。 全部持ってけ、金も商品も。 安心しろ、このコンビニには俺しか居ないしこの時間こんなとこじゃ誰も来ない。 ついで言うと防犯カメラも無い」
「え? いいのか?」

 二人は共犯者となった。
 思わぬところで金が手に入ることになり強盗の顔に少しの安堵が浮かぶ。

「あれ? っかしいなぁ、ちょっと待ってろ」
「どうした?」
「レジ開かねぇんだよ。 ちょっと待て、店員人生にかけて絶対に開けてみせる。 ほら、今の内に何か商品盗っとけって、ビールでもなんでもいいから」

 強盗は店員の言葉に従い、自分の好物を物色しに行く。
 その様子を見て店員はほくそ笑み、思った。 よし、自分の演技は完璧だ。 これで奴はすっかり安心しただろう。 何せあの話は本当に有った事なのだ、半ば本音をぶつけていた。
 店員はポケットから携帯電話を取り出し警察へ連絡した。

「もしもし、コンビニ強盗です。 住所は―――――――――です。 速く来てください」
 
 言うなり、返事など聞かずすぐさま電話を切り、レジを開けないようにいじる。
 よし、後は警察が来るのを待つだけ。 そう店員が思った時、強盗にも店員にも予想の出来ない事が起こった。

「トモ君! 私やっぱりトモ君じゃないと駄目!」

 コンビニに一人の女が駆け込んできた。 髪の長い美人である、店員はその姿を見て涙が出そうになった。 別れる少し前にこのコンビニの深夜営業をするという事を一度だけ店員は女に言っていた。 それを、一度だけ言った事を覚えていてくれたのだ。
 店員は女の名前を少し泣声になりながらも呼んだ。

「「カズミ」」

 そして、その泣声に男の声が被った。
 店員はその声が聞こえてきたのは自分の後ろだと気付き、振り向いた。 其処には呆然とした顔で丸ごとバナナを左手で握りつぶして立っている強盗が居た。

「え? タク君? 何でタク君がこんなトコに。 ……タク君、ねぇそれ、何」

 女が指差す先にはしっかりと右手に握られている拳銃。

「カ、カズミ、これは」

 言い終わる前に強盗は店員に殴り倒されていた。 店員はフロントポジションを取った格好になっている。 店員の顔は憎しみで一杯になっており、若し無抵抗だったなら強盗は殴り殺されていただろう。
 勿論、無抵抗な訳が無い。 強盗は必死に応戦するも見た目通り力は弱く、右手から拳銃がもぎ取られる。 店員が、微かに笑った。









 鮮血が飛び散る。










 店員はそう想像したが、引き金を引いても乾いた音しか出なかった。 拳銃は偽物だった、強盗は騙されたのだ。 騙されて自称銃の密売人からこの拳銃を二十万円で購入したのだ。
 強盗は失神し、女は目を見開いて立ち尽くしている。

「……カズミ…」
「…タク君、タク君!」

 女は店員の横を通り過ぎ、失神した強盗の元へ向かう。 店員は怒りを感じる代わりに呆れていた。 人生で最も呆れていた。

「何が『カ、カズミ、これは』だよ。 ばーか」

 気丈にも女が振り向き、鋭い目線で反論する。

「きっと私達の結婚資金を得ようとしてたのよ!」

 そう言うと強盗に駆け寄り、傍らに身を屈め揺らして起こそうと試みる。 その様子を見て男は両肩を竦める。 よく外国人がやるアレだ。
 店員は硝子越しに夜空を見る。
 星が出ていて、綺麗な空。 それを見ながら、店員は呟いた。






「『カ、カズミ、これは丸ごとバナナといってふわふわとしたケーキ生地にバナナを一本丸ごと入れた贅沢で豪勢な栄養たっぷりのデザートなんだよ』」







2004/04/03(Sat)20:58:29 公開 / 髪の間に間に
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