『私は死ぬはずだった』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:髪の間に間に                

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―――――――――私は死ぬはずだった――――――――



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 空はどんよりとした雲が覆っている。よし、絶好の自殺日和だ。
 私は昨年購入した赤のオープンカーに乗り昨日購入したクラシックのCDを流す。
 あぁ、いい感じだ。

 車を飛ばし、所定の位置に着いたのは午前4時21分、随分と暗い早朝だった。
 高層ビルの前に車を停める。 そして、ビルの入り口付近に持ってきたチョークで正しい円を描く。 コレが中々難しい。
 円を描き終え、チョークをコンクリートの歩道に叩きつけ粉々にする。
 ここからが本番だ。
 堂々とビルは正面から潜入する。 何の障害も無く自動ドアは開く。
 次にエレベーター。 何の障害も無くエレベーターは開き、私は最上階のボタンを押した。

 よし、ここまでは順調だ。

 この会社はデザイン関係の会社らしいが残業等が多いため二十四時間動力が落ちないらしい。 不用心な、とも思うが倉庫や金庫は厳重に閉まっているようで安心しているのだろう。
 まさかこんな事に使うとは思うまい。
 色々と考えを巡らせていたらエレベーターが最上階に到達した。

 右に曲がる。 何故だかは分からないが。 左に曲がる。 このビルの構造は。左に曲がる。 迷路のようになっていて。 左に曲がる。 目的の場所に辿り着きにくいのだ。

 九回ほど曲がった後、それは姿を現した。
 古びた五段ほどの小さな階段を上がるとそれはある。 錆びた扉だ、本来なら鍵が掛かっているのだが、この前此処に来た時に壊しておいた。
 キィ〜、と扉が哭く。 一気に外の空気が流れ込んで来る、私はそれに怯まず真っ直ぐに歩き、高さ一メートルのフェンスを乗り越え、五十p程の足場をしっかりと確保する。
 靴を揃えて脱ぎ、懐から遺書を取り出し脱いだ靴に入れる。
 よし、これで準備は万事整った。
 今から飛び降りる地点を確認する、其処には丸い円。 さっき描いたあの円に向かって飛び降りればいいのだ。

 あれ、なんだろう、足が竦む。 お、落ち着け、私。 頑張って死ぬのだ。 よし、深呼吸だ、こういう時は深呼吸をするのが一番だ。

 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。

 違う!これはラマーズ法だ。 落ち着け、落ち着いてもう一度下を確認しろ。

 …………………………
 
 畜生!なんだこれは!なんで私の描いた円に目と口が付け足されてニコチャンマークになってるんだ!くそ!誰だ!だれがやった!?

 ちらっと、動く影が見えた。 あいつだ、あいつがやったんだ。
 私は靴も履かずに、誰かに気付かれても構わないように大急ぎで私の車に戻った。
 息が荒い私を嘲笑うかのようにオープンカーからは陽気なポップスが流れていた。
 畜生!私は自殺がしたいんだ!
 チラッと、動く影が見えた。 それは私が自殺に選んだビルとその隣のビルの間に逃げ込んだように見えた。
 捕まえてやる。 ぶん殴ってやる。
 私は疲れた身体を叱咤し、走ってビルの間に向かった。 元陸上部副部長を舐めるな!私はまだまだいける!
 
 其処には少年が居た。
 
 短パン半袖野球帽、小4くらいの少年が其処には居た。
 例え子供でも容赦はしない。 引っ叩いてやろうと手を伸ばすと少年は小さな身体を利用して私の横をすり抜けた。
 逃がすか!百メートル十一秒を舐めるな!
 
 バンっ!

 派手な音。 私から逃げようとした少年は道路に飛び出し車に撥ねられた。 そして、その車は赤のオープンカーだった。

 畜生!ちくしょう!車が盗まれたと!そして少年は盗まれた私の車に撥ねられたと!さらに飛び出た原因は私だと!チクショウ!畜生!私は自殺がしたかったのだ!

 少年は歩道に撥ね飛ばされていた。 ピクリとも動かない。
 もうだめだ。 私はそう思った。
 むく、と少年が動いた。 緩慢な動きで立ち上がり、私に一歩一歩と歩み寄る。 何故か私は動けず硬直していた。
 そんな私に、少年は言った。

「痛いじゃねぇか」

 それだけ言うと、少年は何処かに去って行った。

 何時の間にか私の赤のオープンカーが元の位置で陽気なポップスを流していた。

 何時の間にか空は一点の雲も無くなっていた。

 私は膝から崩れ落ちた。

 其処には笑った丸い顔があった。



2004/04/03(Sat)02:27:51 公開 / 髪の間に間に
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■作者からのメッセージ
前回投稿したのを少し直してみました。
前回は批評少なかったので今回こそは、お願いします。

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