『血を流す年賀状』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:小都翔人                

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「付き合ってくれと言うのも勇気がいるが、別れてくれと言うほうが10倍勇気がいる・・・・・・。 」
昔、会社の先輩が言っていた言葉だ。
僕には学生時代から、もう8年以上も付き合っている彼女がいる。
その彼女と、僕はこれから別れようとしている。
彼女はまだ知らない・・・・・・。

別れる理由、それはひと言で言い切れるものではない。
長い年月の間に、僕の中で少しずつ積み重ねられていった物だからだ。
彼女の他に、好きな相手が出来たわけでもない。
ただ、このまま彼女と付き合っていく事が、僕にとってプラスであると自分自身思えなくなったのだ。

仕事が終わり、思い切って電話をかけた。
プルルルル・・・・・・。
呼び出し音を聞きながら、これが彼女との最後の会話になるかも知れない・・・・・・という切ない矛盾した気持ちと、
これが彼女との最後の会話になって欲しい・・・・・・という本音の気持ちとが入り混じる。
10コール。そろそろ切ろうかと思ったとき、彼女の声が聞こえてきた。

「もしもし。弘樹? 」

8年以上も聞きなれた声。いつもと何もかわらない、彼女の声だ。
僕はゆっくりと、しかしはっきりと、彼女に別れ話しを切り出した・・・・・・。

「そっか・・・・・・。しょうがないよね。人の気持ちって変わるものだし・・・・・・。私は大丈夫よ!けっこう気持ちの切り換え
 早いから。弘樹のほうこそしっかりやってね!それと・・・・・・新しい彼女出来たら教えてよ!私も教えるから・・・・・・。 」

意外な言葉だった。僕はてっきり、彼女に泣かれると思っていたのだ。
どう説得して別れを理解させるか?そればかりを考えていたのに・・・・・・。
むしろ彼女は、僕を励ますような言葉をかけてくれた。
僕は何とも言えない気持ちになった。そして・・・・・・それが彼女との、最後の会話になった・・・・・・。




数ヶ月が経った。
僕は仕事に精を出し、休日には趣味であるウィンド・サーフィンを満喫していた。
一人になった事の身軽さ。気ままな日常。
僕はもうすっかり、彼女の事を忘れかけていた。
年末から年始にかけての正月休み。僕は友人たち数人と、スキーを楽しんだ。
夜は温泉に宴会。楽しい仲間と、のんびり過ごす3日間・・・・・・。

そして僕は、真っ黒にスキー焼けをした顔で自宅アパートに帰ってきた。
いつものように郵便ポストを開ける。年賀状が束になって入っていた。
「そうか。年賀状か。 」
バッグを持つ腕の脇に年賀状を挟んで、自室に入っていった。
「ふぅ〜。楽しかったけど、疲れたな。やっぱり自分の部屋に帰ってくると落ち着くわ。 」
僕は煙草を吸いながら、年賀状をパラパラめくっていった。
「えーと、井上に山岡、お!岸田の奴、結婚したのか!あ!部長にちゃんと出してたっけ? 」
僕は大人になって一人暮らしを始めてから、それ以前よりも年賀状をもらう事に嬉しさを感じるようになっていた。
”これだけ、僕を気にしてくれている人たちがいる”
そんな気持ちだ。
そうこうしているうちに、年賀状も残り一枚となった・・・・・・。
「あ! 」
差出人は、浅野友美。僕が別れた彼女だった。
「あいつ全然音沙汰なかったのに、ちゃんと年賀状くれたんだな・・・・・・。僕は出してなかったわ・・・・・・。 」
文面を見ようと裏を返した。
僕は、背筋がゾっと凍りついた。

ハガキの四辺が黒いマジックで縁取られていた。まるで、遺影を飾る額縁のように。
そして真ん中に小さく赤い文字で、ひと言だけ書いてあった・・・・・・。




『死んでやる』・・・・・・と。











 −END−

2004/03/31(Wed)09:01:09 公開 / 小都翔人
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■作者からのメッセージ
ひさびさに本業(?)のショート作品を書いてみました。
これは一応、心理ホラーかな(汗)。
感想いただけたら嬉しいです!!
※誤字修正(あちゃ〜!)

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