『白と黒』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:小都翔人                

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ルーシーは私に気づくと、笑顔で駆け寄ってきた。
「オマタセ、シマシタ。 」
たどたどしい日本語でそう言うと、私の目をじっと見つめる。
私は笑顔を返し、車の助手席のドアを開けると、ルーシーが乗り込むのを待った。
「ドコイク? 」
「ああ、まずは食事でもしようか? 」
ルーシーは、大げさによろこんだ。


私とルーシーが出会ったのは、かれこれ半年ほど前だ。
『パブ・ラグドール』
ルーシーは、スラリと伸びた長い脚が魅力で、ダンスも上手かった。
「コンバンワ。ヨロシク、オネガイシマス。 」
そう言って笑ったルーシーは、ティーンネイジャーのようにあどけなかった。

しばらくして私とルーシーは、店の外でも会うようになった。
ルーシーが育った家庭は、貧しかったらしい。
日本に来てからのルーシーも、いつも薄汚れた安物の服を着まわしていた。
私はブティックで洋服を買ってやったり、洒落たレストランに連れて行ってやったりした。
私もルーシーと一緒にいると心が安らぎ、仕事のストレスも忘れられた・・・・・・。

しかし私の中で、徐々にルーシーに対する感情が変わっていった。
純情で素直だったルーシーは、日本での生活に慣れると同時に、日本の悪い影響も受け始めた。
最近では夜毎、遊び歩いているらしい。
ルーシーから誘いがあったのは、3日前だ。
悩んでいるようだった。金銭的なトラブルに巻き込まれているように見えた。
私は、そういった問題に首を突っ込むのはまっぴらだったが、ちょっとした家庭内でのいざこざを抱えていたところだったので、
気分転換にルーシーをドライブに誘うことにした・・・・・・。


食事が終わり、私とルーシーは車に乗り込んだ。
3月だというのに、外は冷たい北風が吹きすさぶ。時計は21時をまわったところだった。
「コレカラ、ドコイクノ? 」
赤ワインで少し酔ったルーシーが、甘えるような声でたずねた。
「海に行こうかと思って。前に話したかもしれないけど、海辺に別荘を持ってるんだ。 」
ルーシーは歓喜して、私の首に抱きついてきた。

二時間ほど走ったところで、海が見えてきた。
夜の海は寂しげに見える。北風はますます強くなり、外はおそらく凍えるような寒さだろう。
しばらくして、私の別荘に到着した。
車庫に車を止め、コートの襟を立てながら、ルーシーを招き入れた。
暖炉を燈して、ソファーに深く腰掛ける。つま先から徐々に、暖かさが伝わってくる。
私はキッチンから、ルーシーの好きな赤ワインとグラスを二つ持ってきた。
心地よい音を立てて、二つのグラスにワインを注ぐ。私とルーシーは、カチリとグラスを合わせた。
「カンパイ・・・・・・。 」




−暗転−

午前1時13分。一人の人間の生命が奪われた・・・・・・。





『ある新聞記事より抜粋〜 
 ・・・・・・今朝未明、K海岸で発見された女性の遺体は、東京都内のパブ経営者、桑原美由紀さん(48)であることが
 神奈川県警の捜査により判明した。近くにある桑原さん所有の別荘からは、争った跡や室内を物色した形跡が残されており、
 金品目当ての強盗殺人との見方で、捜査がすすめられている。なお事件当夜、桑原さんと行動を共にしていたことが判明
 されている黒人女性、ルーシー・ブラックモア(23)を目下、重要参考人として捜索中であり・・・・・・  』








2004/03/12(Fri)16:17:06 公開 / 小都翔人
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