『殺人者と少女。 〜序章〜終章〜』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:紙サま。                

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『・・・ぇ〜、次のニュースです。昨日に引き続き、今日の23時頃、鈴木玲子さんのものと思われる遺体が見つかりました。・・・これは一昨日の『連続殺人』の継続と見て、捜索を続けています。しかし、未だ犯人は見つかっておらず・・・』


テレビのニュース。
犯人は、見つかっていない。
親族にしたら、この無差別殺人は悲劇そのものだろう。
だが、俺はそんな事知ったこっちゃない。
また明日も人を殺す。
そう、この事件の犯人は俺だ。
顔はバレてない。
大丈夫だ。
犯行は完璧。
証拠などは一切残してない。
大丈夫だ・・・大丈夫。

殺す理由?
そんなものないさ。その名の通り『無差別』
俺は親に捨てられ、幼い頃から小さな犯罪を繰り返し生きてきた。
情など、これっぽっちもない。
だから人を殺しても、何も感じない。
・・・あの少女に会うまでは。



俺は今、死刑を待つ囚人だ。
・・・だから、一生の最後に語ろう。
俺の・・・人生を変えた少女の事・・・


始まりは・・・あの事件。
そう・・・確かあの日は、雨が降っていたんだ・・・




        一章


ザァァァァァ・・・・
雨。
強い雨ではなく、弱い雨が大量に降っている。
辺りの水溜りは湖のごとく派生し、車以外の人通りは0に等しい。


そんな街の裏通りで、彼は6度目の殺人を犯した。
彼の歳は、20歳前半くらいだろうか。


傘は無雑作に放り投げられ、その下には胸部を突かれ出血した女性の姿が。
そう、この女性を殺したのは彼・・・『真田 零』だ。
連続殺人の犯人、零は片手に刃物を持ったまま死んだ女性を見つめている。
・・・いや、ただ俯いていただけかもしれない。
この豪雨の中、傘もささずにずぶ濡れになったまま立ち尽くしている、零。


「おにいさん・・・?」


ふと、横から小さな少女の声。
まだ小学2、3年だろうか、赤い傘を差して、零を見上げ見つめている。
髪の毛は肩ほどまであり、大きく開いたその瞳は何か意味深な雰囲気をかもし出している。


そんな声には目もくれず、ただただ俯く零。
「おにいさん・・・ひとをころしたの?」
なんのためらいも無く問い掛ける少女。
「あぁ、そうだ・・・ガキは早く帰って寝ろ。」
小さな子供に対しては、あまりに冷徹すぎる応答。
「・・・あたしにかえるばしょなんてないわ。」
俯き気味のまま、零は少女の方を見る。
「・・・おかあさんもおとおさんもいないの。」
表情一つ変えないまま、言い放つ少女。
「そうか・・・災難だな・・・」
零はそう言い残すと、その場を立ち去ろうと少女に背を向けた。
「おにいさん。」
歩み始めようとしていた足をピタっと止まる。
「おにいさん・・・どうしてないているの?」



ザァァァァァ・・・・



雨が、強くなったような気がした。
少女はその場から動かない。
零は、数秒した後、クルリと振り返る。
「・・・今・・・何て言った・・・?」
どこか、威圧感を持たせた言葉。
「・・・おにいさん・・・なにをそんなにこわがっているの・・・?なにをそんなに―――」
「うるさい!!!」
言い切らない内に零は少女へ咆哮した。
何をそんなに怒っているのか・・・自分でもわからなかった。

・・・ただ言える事は・・・『これ以上言われるのが怖かった』という事だ。

少女の方へ歩み寄っていく零。
「ガキが何様のつもりだ・・・」
少女の手がギリギリ届くくらいの距離に立つと、少女を見下ろし、低くうめくように言った。
「・・・・・」
無言。

そのまま、しばらくの沈黙。

やがて、零はやっと我に返ったのか、自分の大人気なさに気がつき一つの指令が脳に言い渡される。




            ―逃げろ―



そうだ、俺は犯罪者だ。
こんなガキの戯言に付き合ってる暇はない。
そう思うと、零の体は勝手に少女に背を向け走り出した。
これが犯罪者の「本能」なのだろう。
水溜りの上を駆け、ずぶ濡れの体を引きずるように走った。




これが、『少女』との出会い。
あまりに不可思議な出来事だった。
・・・そう、この日から俺の全ては、少しずつ変わっていったんだ・・・







             2章




零は、近くの小さな宿へ走った。
そこは「民宿」とも見える、小さな古い宿だった。
だが、零にとっては一夜を過ごせる寝床ならば、どこでもいい。


カラン・・・


宿の扉の上部につけられていたカウベルが、深夜を回って人気の無くなったホテル内に虚しく鳴り響く。
零は息を切らし、ギュウッギュウッという、靴の中に水の入った何とも言えない音を出しながら、ゆっくりフロントへ向かった。
「部屋を借りたいんだが・・・」
零はフロントの机によりかかるように手を付き言った。
「何泊してくんだい?」
その声の主は、60〜70歳くらい老婆だった。
顔に深く刻み込まれたしわは、幾度も修羅場を乗り越えてきた証だ。
「今夜だけだ・・・」
言うと、老婆は零の顔を・・・いや、零の眼を上目づかいで睨み付ける。
「・・・・・・そこの564の部屋だよ。風呂はそこの突き当りを右に行った所だ。」
ポンッと部屋の鍵を投げ、老婆は指差しながら説明した。
零は無言で鍵を受け取ると、体を引きずるようにゆっくりと部屋へ向かった。
「あの子は・・・マズいねぇ・・・」
老婆は、ズルズルと歩いていく零が闇に消えるまで見届けた。



564・・・564・・・
零はゆっくり歩きながら部屋を探す。
・・・大体、「564」というのもおかしなものだ。
この宿は1階しかないのに、何故「564」なのだろう。


041・・・783・・・あった・・・564号室。


ガチャッ・・・


零は倒れこむようにその部屋に入った。
入るなり、零は血のべっとり付いた刃物を部屋に投げ捨て、服を着替える。
・・・着替え終わると、ベットに倒れこみ、驚くべき速さで眠りについた・・・

               
 


               ※




ザァァァァァァ・・・・


『・・・いさん。・・・おにいさんは・・・どうしてないているの?』
少女の声。
どこかで聞いたセリフだ。
「泣いてない!泣いていたのはこの女さ。」
零は死んだ女性を指差す。

     

         ―ホントハコロシタクナンテナカッタ―



『・・・おにいさんもないてるじゃない。』
その言葉で、零は恐る恐る頬に手をやる。
「こ、これは――」


            ―ホントハアノトキ―


「これは雨――」

     
            ―アノトキオレハ―


「だ!勘違い――」

   
            ―ナイテ―


「するな!――」


            ―ナイテイタンダ―





「!!!!!」
零はベットから飛び起きる。
横の窓からは、昨日の豪雨が嘘だったかのように明るい太陽が顔を見せている。
「・・・俺は・・・」
零は頬にゆっくり手をやる。


・・・すると、「水」の感覚が指先に伝わる。
頬には太陽の光に反射して、キラキラと光る一筋の「涙」が。

零の顔がぐにゃりと歪む。




「うわぁぁぁぁ!!」






零、壊れる。








              3章


零は「涙らしきもの」を拭い取ると、刃物を腰へ隠し、外へ出た。
怒りからか、早歩きになってきた足を脳で制御し、フロントへ差し掛かる。
「どこへ行くんだい?」
怪しげな老婆が問い掛ける。
零は立ち止まらず、老婆には眼もやらずに「出掛けてくる・・・」とだけ言い、宿のドアを開けた。


カラン・・・




                ※



今日も零の「狩り」が始まった。
まず、「獲物」を決める。
相手は力がなく、抵抗されない女か子供がいい。
それも、こんな人通りが多い所での殺人は自首しているに等しい。
つまり、裏通りか小さな路地に入っていった女か子供を狙うわけだ。
殺した「獲物」からサイフを奪えば生活はしていける。
そうやって零は生きてきた。

やがて零は、一人の女に眼をつけた。
その女を気づかれない程度の距離で尾行する。
怒りに震える体を抑え、気づかれないように・・・
しばらく尾行していると、「獲物」は彼氏らしき男が乗った車に乗って行ってしまった。
「チッ・・・」
こういう事はしょっちゅうある。
その場合、また「獲物」を探さなければいけない。


やがてもう夕方を回った頃、また一人の女に狙いをつけた。
「獲物」は先程自分が歩いてきた道を戻っている。
しかし零は、こんな事に気づく余裕はなかった。
この時、この事に気づいてれれば・・・

もう周囲に人気はない。
零は「今しかない」と思い、女に急接近した。
そして、刃物を振り上げる。
女は気づいてない。
だがそれでは一撃では殺せない。
振り向かせ、心臓を貫かなくては。
「・・・おい、女」
「え・・・?」
女が振り向く。
振り上げた刃物を見て、女は顔をくしゃっと歪めた。


         ―ソンナカオデオレヲミルナ―


「き・・・・」
今にも女の口から悲鳴が漏れそうになった、その時。

ブシャアァァ!!!

零の刃物が見事に女の心臓を貫いた。
返り血を浴びないよう、すぐにその女から遠ざかる。
女が無残な姿でその場に倒れこむ。
今日も一人、殺した。
これで何人目だろう。
そんな事を考えていた。

「やっぱり・・・人殺しだったんだね・・・あんた・・・」

後ろから聞き覚えのある枯れた声が。
タッタッタッタ・・・
声の後に足音が聞こえる。
零は驚き、振り返った。
その小さな後姿は、宿の老婆だ。
老婆は、近くにあった公衆電話に駆け寄っていた。


        ―見られた―


そう思った途端、零は老婆に刃を向け襲い掛かった。
老婆の駆け足と、零の駆け足ではスピードが違いすぎる。
・・・すると老婆は歩みを止めた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

老婆はまだ刺されてもいないのに、大声で叫んだ。
「このクソババァ!!」
言うと、刃を振り下ろす。
「ぎゃあぁぁぁ・・・あ゛・・・」
老婆は頚動脈の辺りから大量の血を吹き出し、悲鳴が途絶える。
「ざまぁ・・・み゛・・ろ゛ぉ・・・」
老婆は振り向くようにして倒れこんだ。
その顔は笑っていた。

零は、もう今までに無い以上に動揺し、混乱した。



犯行がバレた?

今の悲鳴で誰かが通報したに違いない。

俺が捕まる?

そんなの嫌だ。

逃げなくては・・・

逃げろ。逃げろ。逃ゲロ、ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ!!


考えるより先に体が動いた。
とにかく逃げなくては。
零は、なるべく逃げた道がわからないように、複雑な路地などに入っていった。
どこでもいい。ここじゃないどこかへ・・・
もう体は冷や汗でビショビショだ。
なんせ零は、今まで「見つかる」という恐怖を知らなかったのだ。
「初めての恐怖」は、怖さが何倍にも倍増する。

零はがむしゃらに走った。
やがて、一本の狭い路地に入った。
・・・奥にだれかいる・・・
入った路地の先の方に誰かが立っている。
汗が眼にかかってうまく物体を捕らえられない。
身長は俺より低い。
・・・いや、比べ物にならないほど小さい。
零は走りながら眼を凝らす
子供・・・女の子・・・


人物が明解になるに連れ、駆け足が早歩きとなり、段々と止まっていく。

「お前は・・・」
それは昨夜の少女だった。
服は昨日と変わっていない。
傘も閉じてはいるが、まだ手に持たれている。
「またあった。」
少女は零を指差し言った。
零は見下ろし、女の子は見上げる。
殺人者は見下ろし、少女は見上げる。
誰がこの画を想像しえたろうか。


「・・・また、ないてる。」








  4章


「んのガキが・・・誰が泣いて――」
「こっち。きて。」
零が言い終えない内に少女は路地を左に駆けていった。
零も、こんな子供について行くのも気に食わなかったが、今はそんな事を言ってる暇はない。
少女の後を追うように、零も走り出した。

右へ左へ、また左へ。
まるで迷路を進むかのように狭いビルの間の路地を駆け抜ける。
そして、少女が壁に備え付けるようにして置いてある階段をカンカンカンっと軽快に上っていく。
零もそのきゅうで狭い階段を上る。
その階段の先は・・・廃墟となったアパートだった。
少女は階段を上り終えると、右から2番目の部屋に入っていった。
零も続いてその部屋へ入る。


「・・・ここならしばらくはみつからないよ。」
少女が振り返り言った。
そこは、薄汚い部屋だった。
キッチンは黒い煤で真っ黒になり、戸棚の戸も腐食してボロボロだった。
しかしリビングと思われる狭い畳の間は他に比べれば比較的きれいで、部屋にはすこし汚れた白い布団が置いてあるだけだった。
・・・その部屋だけは、生活感があった。
「・・・お前まさか・・・ここに住んでるのか?」
零は呆然と聞いた。
「うん。そう。ここならけーかんのひとにもみつからないし。」
警官から逃げてる?
「なんで警官が怖いんだ?」
俺は何を聞いてるんだろうか。
少女がたった一人で生きている。
そんな事、少し考えればわかるのに。
「まえね、あたしにはともだちのおとこのこがいたの。そのこはあたしみたく、おああさんもおとおさんもいなくってあたしとおんなじだったの。そのこはあたしよりちょっとおっきくて、たべものとかもってきてくれてやさしかったの。でも・・・」
こんな子供に何を言わせてるんだろうか。
でも、止めようとはしなかった。
「・・・でもそのこはあるひ、たべものをとりにいくって表にでてったら、とつぜんけーかんのひとにてをつかまれてどこかにつれてかれちゃったの。・・・だから、けーかんはこわいの・・・」
少女はこの時、はじめて顔を歪めた。
「・・・そうか、災難だったな」
零は冷たいその一言を言い残すと、畳の間の方へ歩いていった。
そして、零はひじを付き少女に背を向けるような状態で寝転ぶ。
「・・・両親は?」
「いない。」
「死んだのか?」
「うまれたときからみたこともない。」
・・・なんと悲しい会話だろうか。
これが子供とする会話だろうか。
「捨てられたのか・・・」
「わからない。」

俺と・・・同じだな・・・

「・・・おにいさんはひとごろしなんでしょ?」
少しの間のあと、少女は口を開いた。
「あぁ、そうだ。」
「なんでひとをころすの?」
「・・・ただ・・・生きてるという実感がほしい・・・」
零はボソっと呟くように言った。
「じっかん???」
少女は目を大きく見開き、首をかしげる。
「・・・ガキはわからなくていい・・・」

またしばしの沈黙。

「そういえば、お前の名前は?」
その沈黙を破ったのは、零だった。
殺人者が「獲物」である「人間」と自ら会話している。
「・・・ない。」
少女は呟いた。
「あ?そんな、名前くらいあんだろ?」
零は寝転んだまま、少女の方へ振り返る。
「ないの。なまえなんて。おかあさんやおとおさんにもあったことない。」
「・・・!!」
零は思わず固まった。

この子・・・俺以上だ・・・

俺も親には捨てられたが、親に会って遊んだ記憶くらいある。
しかしこの子は生まれた時から両親に捨てられ、名前さえついていない。
住む場所もこんな廃墟同然のアパート。


何を食べたのか。
どんな風に育ったのか。
誰がここまで育てたのか。


疑問はたくさん浮かぶ。
だが聞く気にはならなかった。

それでも健気に生きている。
何て子だろうか。
何て子に出会ってしまったのだろうか。

「今日はもう寝る。泊めさせてもらうぞ。」
言うと、零は眠りに落ちた。
「・・・うん。おやすみなさい・・・」




               
                ※




『なんでないているの?』

『泣いてない!泣いていたのはこの女さ。』

『おにいさんもないてるじゃない』

『こ、これは・・・これは雨だ!勘違いするな!』

『・・・そっちのおにいさんじゃないよ。』

『意味わかんねぇ事をベラベラと――』

『ないてるのは・・・もうひとりの・・・こころのなかのおにいさんだよ――』






「!!!!」
零は勢いよく眼を開く。
・・・眼に入るのは見知らぬ天井。
「・・・そうか・・・昨日あのガキについてって・・・」
零はゆっくり昨日の事を思い出す。
横からは明るい日差しが差し込んでいる。
「・・・そうだ、あのガキ・・・」
零は上半身だけ起こすと部屋を見回す。

・・・・・いない。

少女がどこにもいない。
零は立ち上がり、部屋のあちこちを探す。
だが見つかる事はなかった。
「おい!ガキ!」

・・・・・・

返事はない。
「アイツ、どこ行っ・・・」
ふと、零は我に返る。
あんなガキ、関係ないじゃないか。
ただ、泊まる所を紹介してくれただけだ。
俺には関係ない。
そう思いながら、零は先程寝ていた場所に戻る。

「そうだ、俺には関係ない・・・」
関係ない・・・関係ない・・・
・・・しかし、そう思えば思うほどその気持ちとは比例して、心配になってくる。
「関係ない・・・・・・・けど・・・」
零は眼を鋭く細める。
すると素早く立ち上がり、外へ出た。


零はこの時から、「殺人者」から「人間」へと少しずつ変わろうとしていた・・・






              5章


零は小走りでアパートの玄関を出た。
そして、玄関のすぐ前についている手すりにガシっと捕まる。
その手すりは部屋の中と同様、ボロボロになって錆付いていた。

零は手すりに掴まったまま、身を乗り出して少女を探す。
だが、少女はいない。
「・・・くそ、・・・アイツ・・・まさか警察に・・・!」
「おにいさん?こんなとこでなにしてるの?」
後ろから声。
その声色はあの少女だ。
「お前どこ行ってたんだ?」
零は振り返り、今までの焦りを隠すように言った。
「おにいさんおなかすいてるとおもったから、いちばのたべものをもらってきたの。」
貰ってきた・・・というのは違うだろう。
多分、置いてあった物を勝手に持ってきた・・・まぁ、言うならば「盗んだ」のだ。
少女は両腕いっぱいにリンゴやらバナナやら、果物類が抱えられている。
「そ、そうか。じゃあ部屋に入って食うぞ。」
「うん。」
言うと、少女はリンゴを数個落としながら部屋に入っていった。
零は最後に、手すりの所から少女を追って誰か来てないかを探す。

右・・・いない。
左は・・・いない。

追ってはいないようだった。
それを確認すると、零はふぅっと息を吐いて部屋に入っていった。

・・・この時、一人の追ってに気づくことができていたら・・・


零と少女は、調達してきた果物を頬張る。
「お前なぁ、勝手に行動してココがバレたらどうすんだ?」
零がリンゴをかじりながら少女に言った。
「ごめんなさい・・・」
少女が俯く。
「・・・いや、わかれば・・・な」
零は少女の俯く姿を見て後手に回る。
今までの零には考えられない行動だ。
そのまま気まずい食事が続く。


「さて・・・と」
持っていたリンゴを食べ終わると零がひざに手を付き立ち上がった。
「俺は買い物してくる。・・・少しここで留守番してろ」
零は少女の応答も待たず、言い残すと玄関を出た。
バタンッ
「・・・かえって・・・きてね・・・」
少女は呟く。
とてもとても・・・小さな声で・・・



それからしばらくたった頃。
零は買い物が終わり、アパートへ帰っている途中。
外は結構風が強かった。
両手にはパンパンになった紙袋やらビニール袋が持たれている。
金は、今まで盗んできた物だ。


          
            


             ガチャッ!
「見つけたゼ・・・ガキぃ・・・」






「あぁ・・・ちっと買いすぎたかな・・・」
零は重い足取りでアパートに向かった。
しかし、その顔はかすかに微笑んでいる。

そういえば、今日は人を殺してない。
前までは毎日の習慣だったのに。
・・・でも、今はあの「少女」に会えればいい――
なぜか、そう思えた。

少しウキウキしながら零はアパートの前に着く。
そして自分のいた部屋を見上げる。

「・・・!!!!!」


        ―扉が開いてる―


零が出て行くときは確かに閉めたハズだ。
そして少女には「ここで待ってろ」と言った。
零には少女がどこかへ出かけたとは考えられなかった。
ドシャッ!
零は両手に持った荷物をその場に落とし、部屋へ向かう。
その紙袋の一つから子供用のワンピースが、風に飛ばされ流れていった・・・




             


            終章 〜ヒトへ還る刻〜


零は不安の感情だけを胸に、アパートの階段まで走った。
カンカンカンカンッ!
勢いよく階段を駆け上がり、二番目の部屋に入る。
「はぁ、はぁ・・・」
零は息を切らせ、部屋の中を覗き込んだ。
「いつもウチのもんをくすねて行きやがって!!こんのガキがぁ!」
その人物は、恐らく少女が盗んできた果物を置いてあった店の者だ。
年は40〜50の中年の男だった。
「・・・違うの・・ただお腹が空いてたから・・・」
「それを盗んだってんだよ!」
男が手を振り上げる。
「止めろ!ジジイ・・・!!」
零が男に向かって走り出す。
男は振り上げた手を止め、脇の下から後方から走ってくる零を見た。
「なんだお前は・・・」

ドカッ!!

零が男にタックルし、男が振り向きながら尻餅をつく。
零が男を見下ろし、男が零を見上げる。
「・・・キサマ・・・殺す・・・」
ムカつくやつは切り捨てる。「殺人者」の本能なのだろうか。
スっと腰から刃物を取り出しそれを逆手に構える。
零の目は、もはや冷徹さしか残っていない。
「・・・死ね」
言うと、零は容赦なく刃物を振り下ろす。
「ひっ・・・」
しかし男は紙一重でそれをかわした。
刃物は床の畳に突き刺さる。
男は四つん這いで出口まで向かう。
「チッ・・・」
零は舌打ちし、後ろの方に行った男を首だけ振り返り見た。
少女は部屋の隅で目をギュッと閉じている。

零は刺さった刃物を抜くと、中腰になっていた体を起こし、後ろでのろのろ這っている男をゆっくり追いかける。
零のほうが歩幅が大きいため2歩ほど歩いただけで追いついた。
「・・・おい。」
男はその言葉を聞き、ビクビクと体を震わせながら振り返る。
そしてまた尻餅をつき後ずさりで出口まで向かう。
「あ・・・あぁ・・・」
哀れみの声を出す男。
もはや男の目には零は「狂気と化した鬼」にしか見えない。
そのまま、ジリジリと間が詰まっていく。

ドッ・・・

気が付けば、男は外にある柵に背中をついていた。
すぐ横は階段なのに・・・
走れば逃げられるのに・・・

足が完全に硬直して、言う事を聞かない。
この時男は・・・死を覚悟した。
「・・・へ、へへ・・・」
微笑む男。
「・・・お、俺も殺すのか?・・・無実のこの俺をよォ!」
男は零を見上げながら、どこか怯えながら怒鳴った。
「あぁ・・・そうだ・・・!」
言うと、零は刃物を振り下ろす。


ズシャアァァァ!!


肉が裂ける感触が零の手に伝わる。

久しぶりの感覚だ・・・

「さ、さすが・・・殺人鬼・・・簡単に・・・人を殺せんだな・・・この・・・――」
零がまた血に染まった刃物を振り上げる。
「鬼がァ!!!!」
「・・・黙れェ・・・!!!!」


ズシャアァァ!!


零は再度刺した刃物を抜く。

「ふんっふんっ!ふんっ!!!」
ズシャ!ズシャ!グシャ!!

今度は3度連続で男を刺した。
「ヒュー…ヒュー…ごの゛――」
男が口から息を漏らしながら喋る。
「・・・あ゛ぁ〜!!!」


グシャ!ズシャ!グシャ!グチャッ!!!・・・


何度刺しただろうか。
男は完璧に息絶えた。
「はぁ、はぁ・・・あぁ・・・」
零はその場に跪く。


「きゃぁ!人殺しよ!!!」


アパートの下の方でこちらを見て知らない女性が叫んだ。
その女性は叫んだ後、どこかへ走り去って行った。
警察に行ったのだろう。
しかし、零は――


「あ゛ぁ〜!!」
零はひたすら地面に頭を打ち付けている。
額は血の紅に染まっている。


俺はあの男を殺した。
だが、あの男が何をした?
「盗んだから怒った」それだけなのにっ
まだあのガキにだって殴ってなかったな・・・
第一、殴ろうとしたのかするわからない・・・
なのに、俺は・・・俺は・・・




「おにいさん・・・!!」



ふと、後ろから声がする。
零は、上半身だけ軽く起こし振り返った。
そして、零のその瞳には・・・「涙」が。
「俺・・・俺・・・」
少女が零の下まで駆け寄る。

「やっと、なけたね・・・」

その瞬間、「涙」がツーっと頬を伝った。
「俺!殺したくなかった!俺!ホントは弱いんだ!泣きたかったんだ!!」
零は立ち尽くしている少女の腰辺りにしがみついた。
すると、少女は零をひしと抱きしめ返した。




情けない。
こんな子供にすがるなんて。
・・・と、もう一人の零・・・「殺人者」は思った事だろう。
しかし、今の彼は「人間」である。
「人間」は泣いて笑って。
しかし、「殺人者」の零はそれができなかった。
だが、今は違う・・・
今の彼は・・・「人間」だ。




その後、彼は先の女性の通報によって捕まった。
殺人者数は9。
連続殺人事件の犯人。
死罪。
少女は、零の指示に従い逃げたかいあって、警察には捕まっていない。
これ以上盗みをさせて生かせるのは良いことじゃないが、警察に捕まるよりかはマシだと思った。


これが俺の人生。


「おい!さっさと歩け!!」
零は両脇を警察に抑えられ、無理やり歩かされている。
長い廊下を。
今まさに死刑が執行されようとしていた。
やがて一歩一歩13階段を上がって行く。
あがり終えると首に縄を括り付けられる。
「スゥーー・・・」
零は上を見上げ息を吸った。
そして、ニッと白い歯を見せて微笑む
「・・・強く生きろよ、ガキ!」

ガシャン!!

床が抜け、死刑が執行された。





2004/03/12(Fri)23:25:20 公開 / 紙サま。
■この作品の著作権は紙サま。さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終わっちゃいました!(ぇ
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