『Legend of Sun  第1話 サンとエル』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:血染メ弥生                

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 今日最後のチャイムが鳴ると、クラスメイト達は、教室を飛び出していく。クラブ活動だ。彼等の顔が1番輝く時がこの瞬間だ。
「おい、サン。結局何もしないまま高校3年間を終えていいのかよ。」
またこの話だ。最近じゃ毎日のように聞いている。
「あいつらを見てるだろう?毎日クラブの為に学校に来てるようなもんじゃん。青春っていうんだぜ、ああいうのをさぁ。」
青春について熱く語るこいつは親友のデュールだ。
「あぁ、そうだな。」
「そうだなっておい!・・・ったく。まぁもっとも、俺らにはやりたい事もないし、青春ったってなぁ・・・。」
夕方になると、俺とデュールは教室でこんな風に黄昏れる。そんな毎日だ。
「ん、何だお前達、まだ帰ってなかったのか?」
教室に駆け込んで来たのは、サッカー部のキリだ。
「高校生活もあと1年、お前達も何かやったらどうなんだ?ま、俺が気にする事じゃないな。じゃあなっ。」
キリは荷物を手に持つとまた教室を出ていった。
オレンジ色の夕陽が教室を染める。もう帰ろう。俺は鞄を持った。
「今日は帰ろうか。」
「そうだなぁ。」
練習のかけ声が響くグラウンドの横。俺達2人の影が長く伸びる。
と、その時だ。グラウンドの方を見ていた俺に誰かがぶつかってきたのだ。
「あっ、ごめんなさいっ!急いでるの!」
俺より少し背の低い女の子だ。彼女は一言残すと、校舎へ走って行った。
「なんだアイツ?見たことない顔だったけど。知ってるか?サン。」
「いや・・・、見たことない。」
俺は遠くなる彼女をずっと見ていた。何故かは解らない。でも、気になったんだ。

「そんじゃ、またなぁ。サン。」
校門の前。デュールの帰り道と俺の帰り道は逆方向だ。
「また明日な。」
歩き慣れたいつもの帰り道。黒猫がゆっくりと通りすぎて行く。

 ギターの音と、歌声が聴こえてくる。駐輪場の方だ。電車の時間だったが、俺は何気なくその方向へ歩いて行った。
「今日はこれで終わりっ。ありがとう。」
人混みが散っていくと、そこには少年がギターを片づけていた。
「ん?俺に何か用?」
たった1人残っている俺を不思議に思ったのだろう。
「あ、いや・・・。歌、上手いんだね。」
頭をかきながら俺はそう答えた。
「サンキュ。お前、高校生だろ?学校、楽しいか?」
俺にとって痛い質問だ。でも俺はつい、
「あぁ、楽しいよ。」
「そっかー。いいなぁ!」
嘘だ。全然楽しくなんかないのに・・・。
「お前は?どうなんだ?楽しくないのかよ?」
「俺、学校行ってないんだ。俺んち、金無くてさ。こうやって路上で稼いでんだ。俺、親父と2人で暮らしてんだ。」
それを聴いた俺の中で、何かが壊れる音がした。呆然と立ち尽くす俺に彼は、
「そんなに驚く事ないよ。俺みたいなヤツけっこう居るよ。学校行けなくて働いてるヤツだったりさ。いいよなー、学校行けるってさ。」
始終笑顔で話す彼に、俺は胸が締め付けられる思いになっていた。
「・・・お前、辛くないのか?何でそんなに笑顔で話すんだ・・・。」
「辛くなんか無いさ。こうして好きな歌やってるんだしね。しぼんで歌ってたって、そんなヤツの歌、聴きたくないだろ?」
そう、俺は言葉が出なかった。自分がすごく小さな人間だと思った。彼はさらに笑顔で言う。
「俺はエル。17歳だ。お前は?」
「俺は・・・サン。17歳だ・・・。」
「そっかー、タメかぁ。よろしくなっ。よかったらまた聴きに来てくれよなっ!じゃあ、またな!」
エルは体と同じ位のギターケースを背負って去って行った。
学校がつまらない?やりたい事が無い?俺はなんてくだらない事ばかり考えていたんだろう。学校に行きたくても行けない人だって居るって事を、俺は全く気にもしていなかった。エルに教わったんだ。学校に行きたいが行く事の出来ないエル。しかしエルの顔は、学校の連中と同じ、キラキラ輝いて見えた・・・。

 朝陽が眩しく照らす。いつものように俺は学校へ向かっていた。
昨日のアイツ・・・、エル。昨夜はエルの事ばかり考えていて眠れなかった。
今日もエルに会いに行こう。もっとエルを知りたい。
そんな事を思いながら歩いていると、クラクションの音が耳に入ってきた。
我に帰った時にはもう遅かったんだ。ダンプカーはすぐそこまで来ていた。
そうか、エルの事ばかり考えていて、赤信号を見落としていたんだ。
もう一度エルに会いたかったな・・・。ブレーキの音と共に目の前が真っ暗になった。

2004/03/03(Wed)17:02:44 公開 / 血染メ弥生
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