『俺は怪物キダム 〜怖いんだぞ!〜』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:か〜くん                

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昔、森中にキダムという怪物が一匹住んでいました。黄色い肌に鋭い目、鋭い歯は全ての動物を怖がらせました。

キダムが歩くと動物達は逃げます。

「わぁ!キダムだ!」

「キャー!食べられちゃう!!」

だけどキダムはそんな動物達を決して食べません。キダムはみんなと仲良くなりたかったのです。

キダムはいつも独りぼっちでした。

そんなある日、キダムはお腹をすかせて、森の中をひとり歩いていました。

すると、目の前を一匹の小熊が歩いていました。

「迷子になったのかい?」キダムは恐る恐る尋ねました。

小熊はキダムに気づき、うなづいて泣き出しました。

しかし、不思議なことに、小熊は怖がった様子はありません。

(俺を怖がって泣いているんじゃないのか?)キダムが不思議に思っていると

「僕、目が見えないんだ」と、小熊は細い細い声で言いました。

聞けば、小熊は父さん熊と母さん熊とはぐれ、一日中ひとりで森の中を歩いているようです。

「俺が家まで連れっててやるよ!」キダムは笑顔で言いました。

「ホント?」小熊は涙を拭きました。

「その代わり・・・・」

「その代わり?」

「俺と友達になってくれるか?」

「うん!」

小熊は笑顔でうなずきました。

「ほんとか!?」

「うん!ホント!友達!」

キダムはうれしくて森中飛び回りたい気持ちでいっぱいでした。初めての友
達ができたのです。

「名前はなんて言うんだ?」

「グリ」

「じゃあグリ、今日は家に泊まってけよ。ドングリのスープをごちそうする
からさ」

キダムはグリを家に連れて帰り、一人ぶんしかない温かいドングリのスープを与えて、たった一つの暖かい寝床で寝かせてやりました。

「おやすみ、グリ」

そう言ってキダムはグリの頭を撫でてやりました。

キダムのお腹はどんなに空いていても、キダムは幸せでいっぱいだったのです。

キダムの体はどんなに冷たくなっていてもキダムの心はとても温かかったのです。

(俺はひとりじゃない!)

それからというもの、キダムとグリは仲良く楽しい日々をおくりました。

キダムは小さなグリを弟のように可愛がり、グリはキダムを兄のように親し
みました。

しかし、グリに「家にはいつ連れっててくれるの?」と、聞かれると、キダ
ムは決まってこう答えました。

「明日な」

また、名前を聞かれてたときも、キダムは決まって

「明日な」

と、答えました。

しかし、キダムもそこまでバカではありません。一週間もすると、キダムは
罪悪感でいっぱいになりました。

そしてその夜、寝付けないグリにキダムがたずねました。

「明日お前を家に連れてってやるよ」

「ホント!?」グリはうれしくて声を上げました。

「あぁ、その代わり・・・・」

「その代わり?」

キダムは少し考えて「いつでも遊びに来てくれるか?」と言うのを止め、低
い優しい声で

「いつでも遊びに来なよ」とだけいいました。



次の日の朝、キダムはグリを連れて動物達が集まる幸せの村に向かいまし
た。

そして、歩いて1時間もたたないうちにその村は見えました。

「さぁ、あれがお前の村だぞ。・・・・って見えないか」

目の見えない小熊のグリには自分の家さえ見えないのです。

「でも、家の匂いがする、楽しそうな声が聞こえる」グリはうれしそうに鼻
を鳴らしました。

「ここから帰れるか?」キダムは涙を惜しみながらたずねました。

「うん!」

そう言って突然グリはキダムの胸に飛び込みました。

「兄ちゃん!ありがとう・・・・また会えるよね?」

「あぁ、お前が会いたければいつでも会えるよ」

キダムも小柄なグリを抱いて頭を撫でてやりました。グリは顔を上げてキダ
ムにたずねました。

「お兄ちゃん、最後にお名前教えて!」

「明日・・・」とキダムは言いかけて息を呑みました。もう隠すことなんて
できません。

キダムは震える声でグリにたずねました。

「もし、俺の名前を聞いても・・・・その・・・また遊びに来てくれる
か?」

「うん!」グリは笑顔で軽く飛び跳ねます。

「俺はな・・・・キダムって言うんだ」

小熊のグリは少しあっけに取られていながらも直ぐに笑顔になりました。

「兄ちゃんがキダムなら全然怖くないよ!」

「ホントか?」

「うん、だって兄ちゃんすごく優しいんだもん!」

その時、目の前からクマの群れが二人のほうに歩いてきました。熊たちは小
熊のグリを探しに来ていたのです。

「みんなの匂いがする」グリはうれしそうに鼻を鳴らしました。

そして、熊たちは二人に気づきました。しかし、熊たちはグリを見つけて喜
ぶと同時に、その隣で立っているキダムを見て目を丸くしました。グリが食
べられると思ったのです。

先頭にお父さん熊が出てきてグリに呼びかけました。

「グリ!そこから離れろ!」

母さん熊も悲鳴を上げました。「グリちゃん!こっちに来て!!」

「・・・パパとママどうしたんだろう?」グリは寂しそうな目をして隣で立
っているキダムに言いました。

「みんな俺を怖がっているんだ・・・」キダムは低い声で言いました。

「えっ?」小熊はなおも首を傾げます。

「グリちゃん!そいつはキダムなのよ!早くこっちに逃げて!」

そのとき、母さん熊の悲鳴がグリの耳に入った時、グリは光のない目を大き
く大きく丸くしました。

「グリ?」キダムは恐る恐る友達グリに話しかけます。

「・・な・・・なーに?・・・兄ちゃん・・」

グリの声は震えています。グリの目からは次から次へと大量の涙が零れ落ちました。

「グリ・・・お前・・・なんで・・・泣いてんだ?」

グリは涙を流したまま何も答えません。

この瞬間。キダムはとてもとても悲しみました。きっと森中の誰より
も・・・。

そして、「おいグリ!お前の目から美味そうな汁が出てるぞ!」と、一言だ
け言ってグリをひと飲みして、森の奥へひとり寂しく走っていきました。

その後キダムを見たものは誰一人としていません。

                            (終)  

2004/03/01(Mon)14:10:59 公開 / か〜くん
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