『塩の砂漠の真ん中で』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ヤブサメ                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142

僕は旅をしている。旅の供は背中のリュックとその中に入った水と食料、裾がボロボロのオーバーコート。それだけ。塩の降り積もった大地―煌々と輝く太陽に白く輝くそこを僕は進んでいる。前に足を踏み出すたびに塩は粒同士で擦れ合い、ジャリジャリと音を立てた。空を見上げてみると―そこには僕の黒髪をヂリヂリと焼く日光を発して太陽が青空を浮かんでいた。前を見ると白い地平線が広がり、どこまでも続いているような、そんな錯覚を覚えさせ、そして辟易させた。しかし、歩く足を止める訳にはいかなかった。

その先、進んでいくと少し小高い丘のようなところに差し掛かった。下に小さな黒点が見えた。僕は塩に足をとられない様にゆっくりと下りて近づいてみた。それは穴だった。人一人ほどが通れるぐらいの大きさで、下には大きな空洞が続いているようだった。―井戸かな?僕はそう思って下を四つん這いになって穴を覗き込んでみる―そこからはひんやりとした冷たい風が吹き上げてきていた。落とすものがないので、確認することはできない。仕方なく、僕はそこから立ち上がろうと両手に力を入れた次の刹那―崩れた。その分穴は広がり、僕は飲み込まれた。

それから暫くたったのだろうか、僕は少女の声に起こされた。綺麗な声―それは言ったのだ
「あなた、嘘つきね」
瞼を開いているのか閉じているのかさえ分からぬ闇の中、僕は声に尋ね返す
「嘘?」
「そう―諦めを知らない」
声は続ける。
「諦めてるけど、口にしない嘘つき」
僕は言い返さずに、ただ尋ねてみる。
「僕が何を諦めてるっていうんだ?」
声は答えた。
「彼女の事よ」
僕は、それ以上何も言う事ができなくなった。

僕は旅をしている。彼女ために―出会ったのは彼女が病床に伏せる一週間前の事だった。
「余命は、半年もない」
医者のその宣告は僕に重くのしかかった。
「何か手はないんですか?」
彼女の為なら、なんでもする覚悟があった。そして医者は僕に言った。
「薬があれば何とかなるかもしれません」
その日、旅に出ることを決心した。
「旅に出るの?」
ベッドの上でやつれた顔の彼女は、僕に尋ねた。
「ああ―君の病気はボクボスにある薬で何とかできるかもしれないんだ」
そして僕は靴紐を固く結んで、バックパックを背負うとドアノブを握った。
「絶対に、君を助ける」
振り返ると、彼女は弱弱しい笑みを浮かべて僕を見つめていた。
そして、僕は旅立った。

「あなたには分かっていた―目的のものを手に入れる事ができても、それを持って帰ってくる前に彼女は確実に死に至る事を―そして」
声を僕に話し続ける。
「彼女も知っていた―その彼女はもう死んだわ。あなたがこの砂漠に入る、少し前に」
「嘘だ・・・」
僕は嘘をついた。既にそのことは気付いていた。期限の半年は随分前に過ぎていた。そうだ、怖かったのだ。この世界の言いなりになる事が―
「ねえ」
僕に声は尋ねた
「あなたをこの穴から助けてあげるわ―ただし」
そのためには、と声は言った
「その真実を受け入れる事ができたらね」
僕は悩む事なんてなかった。それが真実なのだ。それが真実だったのだ。
「分かった」
僕がそういった次の瞬間、辺りは一変して光に包まれた。

僕は塩の大地にいた。その上に仰向けに倒れて。僕はゆっくりと瞼を開ける―そこに白のワンピースを纏った少女の姿があった。黒い長髪の少女は僕の顔を見つめながら微笑み、そして泣いていた。両頬に一筋の涙を流して。
「さっきはひどいこと言ってごめんなさい」
少女は言った。
「あの声は、君だったのか?」
立ち上がりながら僕は尋ねてみた。少女は小さく頷いた。
「いや―謝らなくてもいい」
僕がそう言い、そして尋ねた。
「そういえば、君は誰なんだ?」
そして、少女は答えた。
「私は―人の願いを叶えるだけの存在、ただそれだけよ」
少女は続けて言う。
「ただし、気に入った人の願いしか聞き入れないわ―あなたは、100年ぶりくらいかしら?」
そして、と
「私は、1人につき3つだけ願いを叶えてあげる事にしてるの―もし、あなたが願えば彼女を生き返らせることもできるわ」
少女の言ってることはとても信じられないが本当なんだろう―僕はそう直感した。
「さあ、あなたは何を願う?」
そして少女は微笑んで僕に尋ねた。彼女が生き返る―それはとても魅力的な事ではあった。しかし、果たしてそれは自分にとって、彼女にとって良い選択なのだろうか
「僕は」
そして、僕は願った。

僕は旅をしている。旅の供は背中のリュックとその中に入った水と食料、裾がボロボロのオーバーコート。そして、脇をスキップしながら進んでいく少女が1人。そういえば、彼女の名前はなんというのだろう?まあ、それは次の街についてから聞くとしよう。

2004/02/17(Tue)21:37:04 公開 / ヤブサメ
■この作品の著作権はヤブサメさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
電撃文庫の公式サイトに載せるために作ったショートストーリです・・・ほかの小説の内容を考えている合間に作りました

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。