『四曲の愛の唄』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:桜貝                

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「情が欲しい」

これを口にしたのは、僕が10歳の小学4年生の時だった。

生まれてすぐに母親は亡くなった。もちろん父親も兄弟もみんな居ない。
今はかろうじて一人で生活しているのだけれども、学校では虐めの的だ。
それでも頑張って生きているんだけども・・・・。
その気はしない。
かといって、死にたくもないんだ。

そう―僕に足りないのは「情」

愛情。友情。恩情。私情。人情。
どれを取っても、それは僕の中には存在しなかった。
平凡な毎日を過ごしているとも言えないし、極度に辛い訳でもない。

他人からみると、僕は「ぬけがら」なんだろう。

そんな僕も、今年、中学2年になった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


「そっちいったぞ〜!走れぇ!」
サッカー部員の声がグラウンド中に響き渡る。
バタバタと砂煙を立てて、監督の前を横切ったりする。
「ゴォーーーール!」
ホイッスルの音がきこえる。
「やったな、翔(かける)!」
部員の言葉の後に、遅れて返事をした。
「あぁ・・・・・。」

この少年は、親が居ない。人情が薄いで有名な、サッカー部員の「翔」

今日はゴールを決めたようである。

もう夜だ。解散の号令があると、みんなはさっさと学校を出た。
翔も一人自転車に乗り、夜道を駆け抜けていった。

そして見かけたのが電柱の張り紙。

「あなたも自分の気持ちを唄にしてみませんか?
         自分の心の整理してみませんか?・・・・」

すると翔は少し自転車を止め、張り紙をよく見た。
気になっているようだ。
「うた・・・・・か」
その一言を残し、自宅へ急いで帰った。

そして自宅へ帰るとカップ麺を食べて、机に向かった。
机の上にあるのは、宿題の山ではなく、普通の紙切れだった。

「俺が・・・書けるなら・・・詩でも良い・・・」

そうブツブツ呟きながら、熱心に紙切れと向き合った。


できた――――

何時間かかったのだろう・・・。
時計はすでに12時を回っている。
ふぅ〜。とため息をつき、椅子を引いて顔をそらした。
いつもと違う笑顔を浮かべ、改めて自分の書いた紙切れを見てみた。


「・・・・・ッ」

翔はとっさに目を疑った。
険しい顔が、焦りにも見えた。

「なんだよ・・・・俺の書いた詩は・・・・!!!」

そう言って紙をビリッと破き捨てた。


(続く)

2004/02/06(Fri)21:07:54 公開 / 桜貝
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■作者からのメッセージ
全然体験談ではないのですが、ふと思い浮かんだお話です。
はじめはちょっと暗い話になりそうです(汗)
がんばりますので、良かったら読んでください。

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