『洞穴』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:小都翔人                

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「そういえば、乱歩の短編に”防空壕”ってあったね。」

タカシは健一に問い掛けた。

「あぁ・・。前に読んだことがあったような・・。」

二人は都内に住む、中学三年生。幼い頃からの遊び仲間だ。

「しかし、こんな所に洞穴があったなんて、どうして今まで気が付かなかったんだろう?」

「少なくとも、俺らの仲間内じゃあ、ココ知ってんのは俺たち二人だけだな!」

二人がこの洞穴を発見したのは、つい三日前のことだった。

小学生時代によく遊んだ、緑多い小山。”K山”に久々に行ってみよう、という会話からだった。

タカシは小さい頃、祖父から戦時中の防空壕での話しを、よく聞かされていた。

二人は今日、リュックに必要品を詰め込み、ここへやってきた。

この洞穴に入ってみるつもりである。

懐中電灯のスイッチを入れ、ゆっくりと中へ入っていった・・。

「うわぁ・・。やっぱり狭いね。それに肌寒いわ・・。」

「もっと厚着してくれば良かったな。」

しばらく進んだ。もう入り口の日差しは全く見えなくなっている。

「あ!だ、誰かいるぞ!!」

健一が叫んだ。

「え!!ど、何処!?」

タカシは健一の指す方向へ、懐中電灯の光をあてた。

「あ!!」

男が座っていた。

全身、血糊のついたボロボロの兵隊服。ヘルメットの下から覗く、延び放題の蓬髪。顔の下半分を覆う髭・・。

「う!!うわぁ〜ッ!!!」

二人は出口に向かって、一目散に逃げ出した!!

「ハァハァハァハァハァ・・・あ!!入り口が!!」

二人は愕然とした。さきほど入ったばかりの洞穴の入り口が、土砂で埋まってしまっていたのだ。

「そ、そんな!!出られない!!」

二人はリュックを投げ出すと、必死になって土砂を手で掻き分けた・・・。



・・・数日後。

捜索隊によって、二人の少年は発見された。

激しい疲労と衰弱のため、全身やせ細り、精神的にも異常をきたしているらしかった。

しかし、発見した捜索隊のメンバーは、二人の少年の行動が理解し難かった。

洞穴は、わずか入り口から5、6メートルほどの一本道。

少年たちは、その洞穴のどん詰まり、つまり”入り口の正反対側”を必死で掘り続けていたのだ。

爪を剥がし、血まみれの両手で・・・。




2004/02/06(Fri)12:37:19 公開 / 小都翔人
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