『Emotions』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:流浪人                

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Emotions


「悪い。俺、好きとか嫌いとかわかんねーんだ」

ある日、女に告白された。彼女を傷つけまいととっさに出た言葉。

「えっ?」

彼女はキョトンとした表情でこっちを見ている。

「名前忘れちまったんだけど、病気らしいんだ。感情が持てない病気。」

俺は社交性が無く、誰とも関わりを持っていなかったので、疑われなかった。

「そうなんだ……それじゃあしょうがないね……」

結局傷つけてしまっただけでなく、今後これがやっかいな問題に発展した。


「お前、感情が無いんだって?」

いつも話さないクラスメート達に、面白がってよく話し掛けられるようになった。

「……まぁな」

俺はいつもこの味気ない返答を繰り返した。

「じゃあ、楽しいとか悲しいとかそういうのもわかんねーのか?恐いとか!」

いつボロが出るかわからないので、家で返答の練習はしてあった。

「まぁな」

俺が創り出したもう一人の俺は、そんな感情も持ってないんだ……

ときどき、とてつもなくむなしくなった。


ある日、電話がかかってきた。クラスメートだ。

「ちょっと小田原墓地まで来てくんねーか?」

突然の誘い。こんな夜中に一体何をする気だろう。

「何で?」

「いいから」

「……わかった」

俺は駆け足で小田原墓地まで向かった。


「今から肝試しやるんだ。お前も参加してくれよ!」

俺はやっと呼ばれた理由がわかった。

「OK。俺、絶対最後まで行けるよ。恐いとかわかんねーし。」

正直、恐かった。けどそういうフリをするしかなかった。

「じゃあお前こいつとペアな!さぁ出発だ。」

俺に告白してきたあの女だった。

「また会ったね……今度は頼りにしてるよ。」

この女の前では、特にボロを出すわけにはいかない。

「任せとけ」

速い足取りでコースを進んで行く。なるべく早く終わってほしい。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、半分くらい進んだ所で女が倒れた。

「どうした?大丈夫か?」

とても苦しそうだ。

「……うん、でもちょっと休みたいかも……」

俺はあたりを見回した。ちょうど良いベンチがあった。

「わかった」

俺は彼女をベンチに連れて行き、寝かせてあげた。

そして俺は土手の上に寝転がった。

少しの沈黙の後、彼女が口を開いた。


「ねぇ……感情が無いって、どういう気分なの?」

返答は充分に練習していたはずなのに、頭が回らなかった。

「口で説明できるもんじゃない」

「そっか……」

また少し沈黙があった。


「両親が死んだら悲しくないの?自分が死ぬことは恐くないの?」

「言ったろ?悲しいとか恐いとか、そういう感情が無いって。」

「たとえば俺がそういう状況になっても、俺には受け入れるしか無いんだ」

「なんだか悲しいね……」

「なぜ悲しい?犬だってそうだろ。自分が死ぬことを恐れているか?」

「受け入れるしかないんだ。それが動物の在るべき姿だろ!」

「じゃあなんで私たち人間には感情が備わっているの!?」

「笑ったり、喜んだり、悲しんだり……そういうためにあるんじゃないの!?」

俺は言葉が詰まった。

(もう、フリをするのは……限界だな。)

「そーかもな。」

俺はいつのまにか笑っていた。

「あれぇ?あるんじゃん!!感情!!」

彼女は知っていたかのように微笑んだ。

「……まぁな」

いつもは味気ないこの返答も、今回は色々な意味が詰まっていた。


真夏の夜のことだった。


2004/01/11(Sun)12:13:21 公開 / 流浪人
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■作者からのメッセージ
「彼女は知っていたかのように微笑んだ。」という部分の意味をわかってもらえたら嬉しいです。
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