『コンビニからの帰り道』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:珠子                

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 すきな人のすきなモノ。
 私もすきでいたいと思うのは、我侭ですか。






「ちょっとコンビニ行ってくるね」

 
 台所で一生懸命何か作っている母親にそう声をかけて、私は玄関にむかった。

「はいはーい」

 すぐにそうかえってきた。
 何を、作っているんだろう。
 そう思って少し廊下を戻り台所の、のれんをくぐった。
 こちらに背を向けた母親の姿が目に入る。
「お母さん・・・・・・何、作ってるの?」

 びくっと反応する母親。
「え・・・・・・あら奈緒(なお)。行ったんじゃなかったの?」
 声が、顔が、ひきつっているような気がした。
「何、作ってるの?」
「えっ? ええと・・・・・・」

 また変なものにハマったのだろう。
 あまり料理をするのが得意ではない母親が、朝九時からこんなにも熱心に何かを作るなんてありえない。
 そういえば昨日の夜、テレビを食い入るように見てたなぁ。
 そんなことを思い出して。

「とにかく・・・・・・私はその今お母さんがかき混ぜてたもの、絶対食べないからねっ」
 そう言い残して、また玄関にむかった。
 今夜、ううん。
 昼食に『アレ』を食べさせられるかもしれない。
 そう考えると気がまいった。


――お昼には、彼が来るのに。

 玄関に座りこみスニーカーを履く。
 ぎゅっと靴紐を結びすくっと立ち上がった私は、ドアのぶをまわして外に出た。
 瞬間、冷たい空気が体を包む。
 うっ、とひるんでみたけれど、中に戻りたかったけれど。
 彼のすきなモノを買いに行く。
 そう決めたんだから。

 マフラーに顔をうずめて、歩き出す。
 10分もすればコンビニに着く。
 それまでの辛抱だ。



 ガ――ッという音と共に、自動ドアが開く。
 中に入ると同時に、今度は温かい空気が私を包んだ。
 顔の筋肉が緩む気がした。
 ハッとして急いでお菓子の棚に向かう。
 入ってすぐ左にはレジ。右には雑誌がたくさん置いてある棚がある。
 レジには女の人。

 私より少し上・・・・・高校生くらいかな。
 いかにもバイト、て感じの人だった。
 雑誌の方を見ながらお菓子の棚の方へ歩く。
 そういえばそろそろ毎月買っている雑誌が発売かな・・・・・・。
 そう思っていたら、前から来る人とぶつかりそうになった。

 視界に突然入ってきたおじさんをよけるのは難しかった。
「おっと・・・・・・」
 肩がぶつかってしまい、一歩後ろに押された。
 ふわりとマフラーが浮く。
「きゃ・・・・・・す、すいません!」
 反射的に謝る。
 何をやっているんだろう私は。
「いやいや、こっちこそちゃんと前を見ていなくてすまないね」
 笑顔で笑うおじさん。
 や・・・・・・優しい人だなぁ。

「じゃあ」
 またもや笑顔で、去っていった。
 レジに向かったらしい。
 
 どこまでドジなのか、私は。
 親友の、「奈緒はまわり見てそうで実は全然見てないよね」。
 そんな言葉を思い出した。
 見てるつもり。
 つもりは本当は、そうでないのと一緒なのかもしれない。

 ふぅ、と一息ついて棚に置いてあるお菓子に目を移す。
 買いたかったモノ。
 それは。
「あ、あったあった」
 少し視線より低めのソレに手をのばす。
 手にしたのはチューインガム。
 風船ガム。

 『彼』が、すきなもの。

 私のすきな彼。
 家族同士が仲が良くて。
 家が近いってのもあって時々遊びに来るけれど。
 年の差もあって、かなわない恋だと自分でも思う。
 でも、それでも諦めきれない。
 他の誰でもない、彼でしかだめな理由が。
 きっと自分でもわからないけれどあるんだと思うから。

 風船ガムをぎゅっと握って、雑誌の棚の方へ歩き出した。
 欲しい雑誌があるかもしれない、と思ったからだ。
 けれど予定に反してまだ発売されていなかった。
 ふ、と視線を下に向けると、厚い漫画がおいてあった。
 なんだか勢いで、買ってしまおう。と思い、手をのばす。
 
「上から三番目・・・・・・っと」
 何故だろう。
 癖になった、買うときは上から三番目。
 立ち読みなら一番上。
 いつのまにかあなたの癖、うつってしまったみたい。

 ゆっくり視線を上げると、すぐ隣で雑誌を読んでいる男の人がいることに気がついた。
 いつのまにこの人いたんだろう。
 少し焦りながらも更に視線をあげていく。

――あ・・・・・・

 そこにいたのは。
「ひ、久司(ひさし)・・・・・・」
 紛れもない、私のすきなひと。

「よっ! 奈緒」
 私のすきな笑顔。
 びっくりして、暫く声が出なかった。
 頭の中ではどうしてここに? とか。
 なんで? とか変な疑問符が浮かんでは消えていた。

「奈緒?」
 目の前で手をヒラヒラと振られて。
 ハッとする。
「な、なんでここにいるのっ?」
「おばさんがここに向かったって言うからさ」
 お母さん・・・・・・
「だ、だいたいうちに来るのはお昼になるって・・・・・・」
「あぁ、親父が少し早めに行こうって」
 おじさん・・・・・・

 いつもそう。
 突然現れて、私を驚かせて。
 それでもその後残る気持ちはいつも同じ。
 大切で、すきで。

「さっきからわきに立ってたのに全然気づかねーんだもん」
 ははっと笑う久司。
 笑うと少し細くなる目。
「もうっ、声かけてくれればいいじゃない」
「まぁまぁそう怒るなって。何買うの?」
 手に持っているものを覗き込む久司。
「あ・・・・・・えと。と、とりあえず買ってくるから先外出てて!」
 そう言ってわきをすり抜けレジに向かった。
 店員にお金を払っていると、隣をしぶしぶ外へ出て行く彼の姿がチラリと見えた。


 ガ――ッとまた自動ドアをくぐり、外へ出た。
 出てすぐ左に、彼はいた。
 横顔が、またりりしくて。
「あ、何買ったんだよ」
 ぽつぽつ歩き出して、すぐ言われる。
「えと・・・・・・・これっ」
 ガサガサと袋の中から風船ガムをとって久司に渡す。

「いてっ」
 勢いがありすぎて、彼のおなかにダイレクトヒットした。
「ご、ごめ・・・・・」
「うっそー。何これ・・・・・・あ、ガム!」
 どんな顔をしていいかわからず、そっぽを向く。
「何、もしかして俺のためとか?」
「わ・・・・・・悪いかっ」
 この前あなたがぼそっと言った、最近ハマっているもののこと。
 忘れるわけもない。
「いやいや・・・・・・嬉しいっすよ」
 笑いをこらえるあなた。
 ひどいんじゃない?

「なんで笑ってるのよー」
「いや、奈緒可愛いなぁって」
 顔が、熱くなった。
「な・・・・・・何言って・・・・・・」
 イキナリそんなこと、言わないで。
 あぁ今私きっと、顔真っ赤なんだ。

「ソレ、貸して」
 そう言って私が持っていた袋(漫画入り)をひょいっと奪って。
 久司は持ってくれた。

「あ、ありがとう。ええと・・・・・・」
 なんとなく話題を変えたくて、話しかけた。
「そ、そういえばこの前家庭科で習ったんだけど」
「んー?」
 


「いとこ同士ってなんか結婚できるっぽいよ!!」

 言ってから気づく。
 なんでこんな会話ふってるんだろ・・・・・・
 バレバレじゃないか私の気持ち。
 隣ではまた笑いをこらえるあなた。
 あぁ私って・・・・・・

「そうなんだ?」
「お、おー・・・・・・」

 それでもあなたと、ずっと一緒にいたいと思うのよ。



「じゃあしてみる?」
「お、おー・・・・・・ってえぇ!?」

 まだ、始まったばかりの今年。
 どうかこれから、あなたの隣を歩くのは。
 私だけでありますように。


 

2004/01/04(Sun)15:52:39 公開 / 珠子
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■作者からのメッセージ
初めましてーっ!!!
珠子(タマコ)ともうします。
ココに投稿させていただくのは
初めてなのでわからないこともたくさん
ありますが、ドゾヨロシクお願いします。

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