『Run Away!』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:咲羅えんり                

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 別に何もすることがない、昼下がり。
 おれ――ルウィンは近所の喫茶店にいた。
 …暇だ。
 そこへ、ウエイトレスがやってきた。
「お客様、ご注文はなんにいたしましょう」
「あ、コーヒーで」
「砂糖やミルクは?」
「ブラックでお願いします」
 その時、ウエイトレスの顔色が変わった。どたばたと調理場へ戻ると、今度は店長らしきおじさんと共に出てきた。
「…君っ!」
「は、はいっ!?」
 ものすごい剣幕で怒るおじさん。…何?
「君っ、君はこの国の法律を知っているのか!!!」
「は?」
 なんでコーヒーのブラックを頼むことが法律とつながるんだ?
「…昨日から、この国では…コーヒーのブラックを頼むと懲役5年なんだ!!!」
 なんだよそれ!
「と言うわけで、110番だ、警察を呼べ!!」
 な、なんでそんな意味の分からない法律で逮捕されなきゃいけないんだ!
 おれは瞬時に逃げ出した。
「ま、待て――!!!」
 後ろから、おじさん、ウエイトレスが追いかけてくる。
 う…嘘だろ―――ッ!?

「…はあ…はあ…」
 一応この街で20年間過ごしているんだ、裏道、マンホールのつながり方、ビルの隅々までを知りつくしたおれがあいつらに捕まるはずがない。
 細い道を通りぬけ、マンホールに入り下水道を走り、デパートを駆け巡ってようやくあいつらをまいた。
 …しっかし、なんなんだ、あれは。そんな法律が出来るなんて聞いてねーぞ?っていうか、そんな法律聞いたことねーぞ?
 でも、もう安心だ。そう思って表通りに出る。
 いつも通りの表通り。にぎやかで、人と車と自転車と犬とキック○ードが走る通り。
 そして、歩道をぶらぶらと歩いていたときだった。
 突然、おれのすぐ横の停めてあった車から、火花がぱちぱちと飛び出てきたのだ!?
「うわっ!?」
 思わず飛びのく。な、なんだよ、いきなり…。
 そして気付く。人々の視線がおれに集中していることを。
「…な…なんですか…?」
 人々の中から一人、お爺さんが歩み出てくる。
「…ここの通りを歩いていた人の中で、この車に一番近かったのは、お前さんじゃな…」
「…は?」
「したがって、この車に細工をした者としては、お前さんが一番怪しいというわけじゃ…」
 …なんとなく展開が読めてきた。そして、おれの推測が当たっていれば、このあと…。
「…みんな、こいつをとっ捕まえるのじゃあっ!!!」
 推測は見事に当たっていた!やっぱり、さっきと同じ展開じゃねーかッ!
 通りにいた人々が、おれに向かって走ってくる。その数約50人ッ!?嘘だろーッ!?
「待て―――っ!!!おとなしく待たんかいっ!!!」
 待つわけねーだろッ、とツッコミを入れながら必死に逃げる。
 そのうち、
「あっ、お前はさっきのコーヒーのブラックを頼んだ奴っ!」
 …出たッ、さっきの店長とウエイトレス!その二人がおれを追いかける集団に加わる。
「おっ、おれはっ、無実なんだっ!!!」
 希望を持って集団に叫んでみるが、
「問答無用!!!」
 と叫び返される。無理だ…この集団と分かち合うのは無理だ…。
 角を曲がり、表第二通りというそのままの名前の通りに入る。
「うわっ!」
 おれの真後ろにいた集団のうちの一人が、飛び出してきた猫につまずいてこけた。ラッキー、と思ったが、全然ラッキーじゃなかった。
「…きゃあっ、ミケっ!」
 一人の少女がその猫に駆け寄る。多分、飼い猫なんだろうけど。そして、つまずかれてへろへろ状態の猫を抱き上げ、俺のほうをキッと見た。
「酷い…あなた、この集団のリーダーか何かね…」
 先頭にいたことで、思いっきり勘違いをされたらしい。
「酷いわ…酷い…!みんな、あいつをとっ捕まえて!!!」
 違うんだ―――っ、と叫ぶ間もなく、表第二通りの通行人が、おれを追いかける集団に加わりやがった。計約120人。
「はっ、話を聞いてくれ―――ッ!!!」
 かすかな希望を胸に叫んでみるが、
「問答無用!!!!!」
 …だめだ…やっぱり無理だ…。
 そして、気付いた。表第二通りはこの先、行き止まりになっていることを。しかも、建物に囲まれているため、逃げ道がないことを。
 建物の壁にぴったりとくっつき、大量の追っかけ集団に向き合う。集団はもう、すぐそこだ。
 …多分、もうだめだ。嗚呼、青春真っ盛りのはずのルウィン、20歳。コーヒーのブラックと車の火花と猫につまずきやがった奴のお蔭様で、…もうだめだ…。
 …観念して前に進み出た瞬間。
「…?」
 なぜか、集団がみんなにこにこと笑っている。その中の一人が、さらににこにこと笑いながら近づいてきた。手に、『ドッキリ作戦成功!』と書かれたプラカードを持って。
「…あの、これ…?」
「いや〜、見事に引っかかっちゃいましたねッ!『ドッキリ』に!!」
 …つまり、これはおれを引っ掛けるためのドッキリですか…?て、手間のかかることを…。
 呆然とするおれの前に、テレビカメラを抱えた人物もやってくる。
「いやいや、始めまして。テレビ局の者です。いや〜、それにしてもものすごい引っかかりようでしたねえ。大変な思いをして仕掛け人を集めまくったかいがありましたよ。どの道へ君が逃げるか分からないから、全ての道に仕掛けを置いたりして…ああ、苦労が報われました。そうそう、来週放送予定なんで、お楽しみに…」
 おれは黙ってテレビカメラの人物に近づき…カメラを奪って、逃げた。
「あっ、ちょっ、ちょっと、待ちなさ―――い!!!」
「問答無用だあッ!」
 今度こそ本気で逃げないと、まずいに違いないッ!これが全国ネットで放送されちまうッ!
 Run Away!

2004/01/04(Sun)13:34:30 公開 / 咲羅えんり
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■作者からのメッセージ
こんにちは。咲羅です。
超短編です。勢いだけで作ったような覚えが…。
えっとちなみに、『RUN AWAY』とは『逃げろ』という意味になっております。
それでは、失礼いたしました。

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