『デジタルな彼女 (第6章〜9章)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:きくぞう                

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◆第6章 悪夢って……




 

 恐ろしい夢を見た。

 逃げ惑う俺を後ろから男が追いかけてくる夢だ。

 せまい部屋の中を俺は必死で逃げる。

 男は凄い形相で俺を捕まえると、手にもった……なんだっけ?

 とりあえず手に持った硬い何かで、俺の頭を何度も何度も殴り続ける。

「やめて!助けて!痛い!お願い、許して!」

 泣きながら許しを願っても、男は無言で俺を殴り続ける。

 大量の血が俺の頭からとめどめもなく流れ続け、部屋が血の匂いで充満する。

 壁やソファが俺の血で真っ赤に染められていく。

 噴水のように俺の額から飛び出した鮮血が男に吹きかかり、やがて俺がピクリとも動かなくなると、男は荒い息遣いで部屋から出て行った。

 うう……酷い夢だぜ。

 俺は気だるいまま体を起こし頭を抱える。

 ……まだ血の匂いがするような気がする。

 枕元にはデジカメが置いてあった。

 ファインダーを覗き込むとK子は静かな寝息をたて寝ていた。幽霊も寝るとは驚きだ。

――お願い!許して!

 頭の中で夢で見た光景がリフレインする。もしかして、今見た夢は……。

 俺はお前の事を何も知らないし、知ろうとも思わない。だけど、

――これも運命ね。

 あいつが毛布に包まれながら言った言葉を何故か思い出した。こいつと出会ったのは単なる偶然なんかじゃない、そんな気がする。

 時計を見ると午前三時。明日も早い、早く寝ないとな。

「おやすみ、K子」

 俺は彼女を起こさないよう聞こえないくらい小さな声をかけて布団をかぶった。

「ムニャムニャ……おやすみ〜A太郎……」

 まどろみの中、彼女の声が聞こえたような気がした。





◆第7章 デバガメって……





「暇」

 唐突にK子が言った。

「ここは居間じゃなくて俺の部屋だぞ」

 マウスをクリックしながら、もう片方の手でスナック菓子の中をガサガサとまさぐる。

「あ〜退屈」

 K子がぼやく。

「あなたいくつかって?俺は十六だ。前にも言わなかったか?ちなみに趣味は盆栽だけど、ちょっと地味すぎるな。サッカーぐらいにしておくか。観戦専門だけど」

 キーボードでプロフィールを打ち込む。趣味はサッカー……っと。それにしてもこの菓子はハズレだ。新製品は駄目だな。やっぱり昔ながらのお菓子が一番うまい。

「ふん!趣味は出会い系サイト巡りでしょ!もー!暇暇暇暇暇〜〜〜〜!どっか遊びに連れて行けー!!」

 K子が叫ぶ。

――プツン。

 突然パソコンの画面が真っ暗になった。

「ああああああああ!パソコンが落ちたああああああ!まだプロフィール修正済んでいないのにいいいい!!」

「遊びに連れてけ連れてけ連れてけ連れてけ連れてけ連れてけ〜〜〜〜〜!」

 部屋全体がガタガタを揺れだし、キーンと頭が割れるようなハウリングが響き渡る。例の不協和音かよ!ぐわわわわっ!!

「わ、分かったから!連れて行くから、頼むから静かにしてくれえええ!!」

 ピタリ。静かになった。

「本当?じゃあね、私、公園に行きたい!」

「は……はい、わ、わかり……ましたよ……ゲフッ」

 本当、感情の起伏が激しい奴。鳴いていたカラスがもう笑ったよ……。





 家から歩いて5分。すぐ近くに結構大きな公園「星海公園」がある。中央には大きな池があり、この池の周りをぐるりと囲むように林が続く。

 昼間は散歩を目的とした老若男女が訪れる穏やかな公園だが、夜になるとここはもう一つの顔を見せる。

「す、すげぇ……」

 そう、ここは夜中になると発情期真っ盛りのアベックどものラブホテルと化すのだ。AVさながらの声があちこちの茂みから聞こえてくる。こいつら暗い事をいい事にイチャツキまくりやがって……うらやましい……じゃなくて、やらしい奴らだぜ。

 それにしても、こんなところへデジカメを持ってうろついていたら、デジカメじゃなくてデバガメになっちまうぞ……。

「どうだ?お望みどおり公園に連れてきてやったぞ。感謝しろよ」

「……」

「聞いてんのか?」

 さっきから一言も喋らないK子。覗き込むと顔を真っ赤にしてうつむいてやんの。ははは、可愛いところもあるじゃん。って、幽霊が可愛い?何を言っているんだ俺は。

「こ、これは!シャ、シャッターチャンスだ!」

「ちょ、ちょっと!そっちにカメラを向けないでよ!見えちゃうでしょ!」

 茂みを覗き込むとアベックが熱い抱擁を交わしていた。

「見えちゃうんじゃなくて見るんだよ!お前もデジカメの端くれならご主人様の役に立ってみせろ!きちんと見て状況報告をせんか!」

「もー!信じらんなーい!」

 嫌がるK子を無視してデジカメをアベックの方へと向ける。

 今までこいつに振り回されっぱなしだったからな、ここいらでリベンジしておかないと。立場ってものを分からせる必要がある。どっちが犬でどっちが飼い主かをな。クックック……。

「ちょっと君。何をしているのかね?」

 デジカメをアベックに向け嫌らしい含み笑いをしている俺に、突然眩しい光と共に後ろから声がかかった。

 振り向くとそこには懐中電灯を持った男が立っていた。

 青いパリッとした服を着ていて黒い帽子をかぶっていて、まるで警察みたいな格好だ。……って言うか、き、く、け、警察〜〜〜!!

「何をしているのかねと聞いているのだが?」

 険しい表情で警察は俺を睨み付ける。

「い、いやその、デバガメ……じゃなくて、バードウォッチングを少々……」

 あたふたと慌てふためきながら、厳しい言い訳をする俺。

「ああ〜ん!そんなにしちゃいや〜ん!」

 アベックどもは気づいた様子も無く盛り上がっている。警察はアベックの方をチラリと見て、

「……ほう、こんな暗いのにバードウォッチングをねぇ……?」

 その目は「このデバガメ野郎!」と今にも言い出しそうな犯罪者を見る目だった。

「このデバガメ野郎!交番までついてこい!」

「す、すいませーん!!」

 逃げる暇も無く警察が俺の手を掴んだ。ああ……俺もこの若さで前科持ちになってしまうのか……親不孝な僕を許して下さいお母さん……。

「A太郎!デジカメを警察に向けてシャッターを押すのよ!」

 突然K子が叫んだ。え?な、何?シャ、シャッターだって?!

 俺は訳も分からず無我夢中でカメラを警察に向けシャッターを押した。

――パシャッ!

 強烈な光がカメラから発射され、辺りを一瞬白く照らした。その光は警察の目を直撃した。

「う、うわっ!ま、眩しい!」

 至近距離から閃光を浴びた警察はそのまま目を押さえて倒れる。

「見たか!俺の必殺技、太陽拳を!」

「何を馬鹿な事を言っているの?!今のうちに早く逃げるのよ!」

 ガッツポーズをとっている俺をK子が制す。

「お、おう!」

「ま、待て!このデバガメ野郎!」

 俺達は後ろも見ずに一目散にその場から逃げ出した。





「ハァハァ……どうやら逃げ切ったみたいだな……」

 俺達は公園の中央にある池のほとりまできた。ここまで来れば多分大丈夫だろう。俺はへたへたと芝生の上に倒れた。

「全く、あんな意地悪するから罰が当たったんだよ!私の機転が無かったら今頃警察に捕まっていたよ!」

「ううう……すいません……」

 立場を分からせるどころか、さらに自分の立場を低くした俺。バツが悪い俺はデジカメから顔を背ける。まるで叱られた犬のようだ。ううう……情けない……ん?

「ほ、ほらK子!あ、あれを見てみろよ!」

「なによ!誤魔化そうとしても、そうはいかない……」

 ぶつぶつ文句を言うK子を無視して、俺は池の方へとデジカメを向けた。

 空には満天の星。そしてその星の光を受けるように池がキラキラと輝いている。

「綺麗……」

 池の中央には、空に浮かんでいるはずの黄色い三日月が、まるで池に浮かぶ小船のようにゆらゆらと揺れていた。この池が夜になるとこんなに綺麗になるなんて知らなかったな。俺は初めてこの公園の名前の由来を知ったような気がした。

「私、こんな綺麗な景色を見るのは初めて……。私、ほとんどガラスケースの中からの景色しか見たこと無かったから……」

 そっか……。こいつはずっとあの中に……。

 毎日変わらない景色を見続ける気持ちってどんなんだろう。きっと俺には耐えられないんだろうな……。

 俺はかける言葉が見つからず暫く黙っていた。

「おあいこ」

 そんな俺の気持ちを察したようにK子がポツリと呟いた。

「おあいこ?」

「うん、私達はおあいこだよ」

 俺達はしばらく時間の流れも忘れ二人で池を眺めていた。

「……そっか、おあいこか……」

 池にはデジカメを持った俺が映っている。

 ファインダー越しにしか見えない彼女。でも俺には二人で並んで池を眺める姿が映って見えたような、そんな気がした。





◆ 第8章 学会発表って……





 学校の帰り道。あいつと同じ制服を着ている女生徒達とすれ違った。

「あ、あれ!どこの学校の制服だ?!」

「なんだ亮、知らないのか?あれ、一之瀬女学院の制服だぜ」

 隣で並んで歩いていた高橋が答える。

「一之瀬女学院?」

「隣町にある典型的なお嬢様学校さ」

 メガネをクイッとあげながらしたり顔で話す高橋。

「妙に詳しいじゃん。お前、オカルトだけじゃなくて、そっちの方もマニアだったのか?」

「違う!今、付き合っている彼女がそこの生徒なの!」

「ええ?!お前の付き合っている彼女ってお嬢様かよ!」

「そうだ。ふふん、恐れ入ったか?」

 鼻を鳴らしながら勝ち誇った表情で俺を見る高橋。……屈辱だ。

 ……?まてよ?ってことは、あいつもお嬢様ってことなのか?!

「なんでも八十年以上もの歴史ある格式高い学校らしいぜ。入るのに金もかかるしな。ま、僕はともかく、お前には無縁の学校ってことだ」

「いや……意外とそうでもないかもよ?」

「?」

 俺は漫画を読んで大声でゲラゲラ笑っているK子の事を思い出していた。

「格式高い……ねぇ」

 あいつこそ無縁のような気がするが。まぁ人は……もとい、幽霊は見た目によらないってことか。

「それでさ、この間の話の続きなんだけどさ……」

 楽しそうにお喋りしながら帰る女生徒達。それにしても、アイツの着ている制服が一之瀬女学院の物だと知って、何か妙にリアルなものを感じた。今でこそデジカメに取り憑いている奇妙な幽霊だが、あいつも昔は生きていて、あの制服を着てこの道を歩いていたんだろうか……。

「……で、電話かけても繋がらないから、直接また例の質屋に行ってみたんだけど臨時休業でさ……」

 もしかしたらあいつが生きていた時、お互い気がつかないまますれ違った事もあったのかもしれない。それが今こうして奇妙な縁によって俺達は出会っている。なんだか不思議な感じだ。

「……てな訳で、今現在の持ち主を探すため今週末に我がオカルト研究会総出をあげて調査をする事に……っておい、聞いているのか、亮?」

「え?あ、ああ……」

 上の空で考え事をしていた俺を呆れ顔の高橋が見ていた。

「じゃあ、そう言う訳だから今週末よろしく頼むぜ」

「え?何がそう言う訳?」

「お前の家で例のデジカメの持ち主を探すための作戦会議を行うから」

「げふっ!」

 ……デジカメの持ち主を探すって、あなたの目の前にいますが……。

「……あのさ、言いそびれていたんだけど、実はそのデジカメ……」

「クックック……。もし発見したら心ゆくまで解体して隅々まで調べてやる。学会に発表して今まで僕を虐げていた奴らを見返して……」

 怪しい笑いを浮かべながらブツブツ呟く高橋。……こいつだけには知られないようにしておこう……。

「とりあえず、部員全員連れて行くから、お茶菓子用意しておけよ!じゃあな!」

「ぶ、部員全員って……お、おい……」

 高橋は用件だけ言うとサッサと行ってしまった。あいかわらず一方的な奴だ。それにしてもなんともまずい事になったな。……ん?まてよ?これって、まずいことなのか?

「むしろ厄介者を追い出すチャンスなんじゃないか?」

 あんな薄気味悪いデジカメなんて高橋に渡して学会とやらに発表してもらった方が世のためじゃなかろうか?なんてったって本物の幽霊だからな。でも……。

――よろしくね!A太郎!

 家に置いてやる事になった時、あいつ、嬉しそうな顔をしていたな……。

――あんな所に戻されるくらいなら、死んで化けて出てやるううううう!!

 あいつ、ずーっとあのショーウィンドウの中に閉じ込められていたんだよな……。

――私、こんな綺麗な景色を見るのは初めてよ!

 あんなどこにでもあるような景色で、あいつ、喜んでいたな……。

 俺はその場に立ち尽くし、暫くあいつの事を考えていた。

 ……しゃーない。学会に発表するのはまた今度ってことにしてやるか。

 俺の足取りは軽い。今まで家に帰ることなんて当たり前で、別に楽しいことじゃなかった。でも今は違う。きっと、これのおあいこって事だろ?あいつに言わせればさ。

「……ったく、俺もとんだお人よしだよなー」





◆第9章 姉貴って……






「ただいまー」

「よお、お帰り、亮」

 部屋に戻ると姉貴が居た。その手にはデジカメが握られて……いい?!

「あ、姉貴!そ、それは……!」

 慌てふためく俺の方にゆっくりと姉貴が振り返る。

「フッフッフ……亮ちゃ〜〜ん、何でこんなに面白い事、お姉さんに言わないワケ〜?姉弟に隠し事なんてしたら駄目じゃな〜い?」

 姉貴のメガネがキラリと光る。

「あ!A太郎、おかえり〜。今、美香さんとお話していたトコロなのよ。美香さんってとっても面白い人ね!」

 楽しそうにはしゃぐK子。

「へ?」

「お前もやるじゃんか、デジカメと一緒に念願の彼女まで手に入れるなんてさ」

「はい?」

「嫌ですわ、美香さん。A太郎とはそんな関係じゃありませんよ〜」

 頬に手をやり照れくさそうにするK子。

 俺はイマイチ状況判断ができないでいた。

「あ、あのさ……そいつは幽霊……」

「それがどうしたか?」

 ケロリと答える姉貴。

「お、驚かないの?」

「何を?」

 ケロリと答える姉貴。

 俺は頭を抱える。

 ……そうだった、姉貴はこう言う性格だったよ……。

「そんなんでいちいち驚いてどうする?彼女は彼女だろ。生きているかどうかなんて気にしない気にしない」

 そう言う問題か?

「さすが美香さん!どっかの心の狭い誰かさんとは大違いですわ!」

 K子が俺の方をチラリと見た。俺か?俺が悪いのか?!

 その後もすっかり意気投合した奴らは、俺の事なんてそっちのけで二人の世界を作っていた。はぁ……。





「ま、そんな事だろうと思っていたよ。アイツの店に置いてある物にまともな物があるハズが無いからな!ギャハハ!」

 ビールを片手にすっかり出来上がった姉貴は上機嫌に笑っている。

 まともな物が無いって、アンタそれを知っていて紹介したのか……。

 あれから姉貴はまだ部屋に居座っていた。

 酒のつまみにと、いきさつを根掘り葉掘り聞きながら騒ぐ姉貴。はぁ……いい迷惑だよ。早く部屋から出て行ってくんねーかな……。

「ったく、本当姉貴の話はろくなもんがねーよ……」

 ため息まじりに呟く。

「まぁそう言うなって!こうして可愛い彼女もゲットできたんだからさ!むしろ私に感謝するべきだと思うぞ!ギャハハ!」

「彼女って言ったって、幽霊じゃん……」

 俺の肩に手を回し酒臭い息を吹きかける姉貴。お前は親父かよ!もう勘弁してくれ……。

「嫌ですわ、美香さんったら。A太郎とはまだそんな関係じゃ……」

 照れてうつむくK子。ったく、猫かぶってんじゃねーよ……。

「それにしてもK子ちゃんが私の後輩だったなんてね〜ヒック」

「え?後輩って……」

 驚いて姉貴の方へ振り向く。今何かさりげなくとんでもない事言わなかったか?

「K子ちゃんが着ている制服、私が昔通っていた一之瀬女学院の物じゃん。お前も私が着ている姿、見たことあるだろ?」

「確かに言われてみればそんな気も……。って言うか、姉貴、一之瀬女学院に通っていたのかよ!あそこって超!お嬢様学校だぜ?!うちみたいな一般家庭の人間が入れる訳が……」

「私は特待生だったのさ。ひひひ、お前とは頭のできが違うのよ」

 殻のビール缶で俺の頭を小突く姉貴。し、知らなかった……。姉貴がそんなに頭が良かったなんて……。

「そっかー、私ってそんなお嬢様だったんだぁ〜」

 何かを考え込む様子のK子。

「ホーッホッホ!お嬢様とお呼び!」

「それ、違うから……」

「ギャーッハッハッハ!K子ちゃんって、おもしろーい!」

 姉貴の馬鹿でかい笑い声が辺りに響き渡る。

 時計は夜の二時を指していた。俺はもう眠いよ……。

 夜は更けていく。

2003/12/31(Wed)18:05:03 公開 / きくぞう
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■作者からのメッセージ
少し長くなってきたので、二つに分けてアップします。
頑張って書きますので皆様よろしくお願いします。

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