『Moon☆Tail(1話〜最終話)』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:律                

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142

第1話

「さつきちゃん、山!山がある!」
「ホントだぁ。・・・なんか、来ちゃったって感じするー。」
向かいに座ってる私は、眠たい目をこすりながら言う。

数えるほどしか乗客のいない電車の窓からは、
いくつもの山、畑、少し古臭い看板、
色とりどりの風景がかわるがわる飛び込んでくる。

今、私は親友のモカと電車に乗ってる。

きっかけは骨董屋のモカの家で見つかった
『Moon☆Tail』という1冊の絵本。
レンガ色したその本は、見るからに年代物で、
一言で言うなら、魔法使いが持ってそうな本!って感じがした。

内容はこうだ。

あるところにこの国を支配する魔王がいた。
この魔王ってゆうのが、夜になると小さなウサギになってしまうのだ。
昼間は街中を恐怖に陥れていた魔王が、
夜中になるとウサギになって、人々に追いかけられる始末。
これでは、いつ人間に殺されるかわかったもんじゃない!
そしてある日、魔王は思いついた。

「そうだ。月がのぼらなければ夜は訪れない。月を壊してしまおう!」

魔王は、月を空から引きずり落とす。

そして次の瞬間、

がらがっしゃーーん!!

大きな大きなガラスが割れたみたいな音をたてて、月は粉々になった。
そして永遠の昼を手に入れた魔王が夜におびえることは二度となくなった。

ってゆう話。

そんな夜嫌いの魔王に、私たちはかなり共感した。

私とモカも夜が大嫌いだった。
昼間はどうでもよかった悩みや不安が、夜になると大きく膨らんで、
まるで私たちの心まで夜の闇に引きずり込んでいくみたいだった。
例えば、恋をしたとき、考えるのは夜。出せないラブレターを書くのも夜。
考え出すとキリがない。そしてマイナスのイメージばかり想像する。

すごく怖くて、苦しくて、いつもおびえていた。
そう。まるで、あの魔王のように。

そしてこの『Moon☆Tail』には、まだ続きがあるんだ。
って言っても、こっからは私とモカの物語。

この本をモカの部屋で二人で読んでたその日、
月は満ちていて、ぼんやり月明かりが妖しく部屋に差し込む夜だった。
私たちは読み終わった本を最後のページで開いたまま、
二人でババヌキしてた。

そして、モカが私のババを引こうとした瞬間・・・

「さ、さつきちゃん・・・。」
「んー?一度触れたのはひきなよー?
てか二人でババヌキやめようよー、つまんない」
「ち、ちがう。それどころじゃない」

「は?」モカは、トランプも私の顔も見ていない。
「本」
「ほん?」

私がゆっくり、モカの目線の先を追うと

「!!」

月明かりに照らされた『Moon☆Tail』の最後の白紙のページから
蛍光ペンのグリーンに近い色した文字が、ぼんやり浮かびあがっていた。

私はおそるおそる、ゆっくり自分の手に取る。
すると文字はフッと消えてしまう。

「な、なにこれ!消えちゃうんだけど!!」
「月の光に反応してるんだと思う!」
私とモカは、広げた汚い雑巾を持つみたいに本を持ちながら
月明かりが差し込む窓の近くへ移動する。
なぜかゆっくり。

すると文字は再び光り始めた。
モカの言うとおりそのページは、たしかに月明かりに反応していた。
二人で声を合わせて読む。

『君モ 月ヲ 壊シタクナイカ? マダ月ハ 生キテイル。 
 行クガヨイ 月ノ眠ル場所ヘ 
ソコニ 私ノ落トシタ月ガ 眠ッテイルダロウ・・・。』

「これってさー・・・」最初に口を開いたのはモカ。「魔王から?」
「・・・たぶん。私の落とした月が・・・って言ってるし・・・」
「だよねぇ・・・」

そして最初の文字がゆっくりと消えて、
月ヶ谷(つきがたに)という地名と、そこの地図が現れた。
「モカ、書くもの!書くもの!」

いつ消えるのかわからない文字を必死でメモしながら、私は言った。
「今週の土曜あいてる?」
「あいてるよ」モカは待っていたかのように返事した。

なんでこんなに簡単に、この本のこと信じたんだろう。
もしかしたら、デタラメかもしれないのに、ちょっとした仕掛け絵本かもしれないのに。

私たちはまったく疑うことをしなかった。
なぜかこの場所は本当にある。そんな気がした。
この不思議な根拠も夜が私たちにイタズラしたせいかな?

「モカ、月を壊しに行こう!私たちも夜におびえないように」

行こう!月の眠る場所へ。


もう何時間、電車に乗ってるんだろう・・・。
今、私は親友のモカと電車に乗っている。

電車の、ガタンゴトンという規則正しいリズムは、
私を確実に眠りの世界へと誘う。
それをかきけしたのは、モカの声だった。

「さつきちゃん、山!山がある!」
「ホントだぁ・・・なんかー、来ちゃったって感じするー」
向かいに座ってる私は、眠たい目をこすりながら言う。

月ヶ谷。月ヶ谷〜。

車内のアナウンスが、月の眠る場所の名を告げた。

                  To be continued...


第2話

誰もいないホーム。
響いてるのは私たちの声と、遠ざかる電車の音。
そして名前の知らない鳥の鳴き声。
空気が澄んでいて、シン・・・と体が冷える感じがした。

電車を降りた私たちはとりあえずバスを探すことにした。
たしかに駅名は『月ヶ谷』なんだけど、
本当はバスでもう少し行かないと、月ヶ谷には着かないらしい。

「うわぁ」

無人の改札を抜けると、目の前に一気に景色が広がった。

周りは山に囲まれていて、これぞ田舎!って感じの町。
温泉の看板や、特産品の名前が書かれた細長い旗がいくつも揺れている。
駅前にはわずかだけど人がいて、みんながゆっくり歩いてるように見えた。
まるで時間がゆったり流れているような・・・。
そんな雰囲気。

店先にラムネとコーラーの瓶と木でできた刀が置いてある
今にも潰れそうなおみやげ屋さんとか
金の文字で「甘屋堂」と立派に書かれた
歴史を感じさせる和菓子屋さんとか
都会育ちの私たちにはどれも新鮮に映って、
見ているだけでワクワクした。

でも・・・

「どこにも『月』のこと書いてないね」
そう。どこを探しても、
「月の眠る場所」を意味するような言葉は見当たらない。
「本当にこんなとこに月が眠ってるのかな?」私は心のそこから思った。

「そもそも、月が眠るってどうゆう意味だろ?」
モカはたまにするどい質問を投げかける。
「月はいつも浮かんでるでしょ?眠ってないと思うんだけどなぁ。。」
たしかにモカの言うとおり、月は、毎晩毎晩浮かんでくる。
「昼間に眠ってるとか、そういうのじゃない?」
私はたいして考えもせず、モカに言った。
「うーん。だって昼間だって、月は宇宙に浮かんでるよ。」

なんか頭がこんがらがってきた。

「とりあえず、行けばわかるよ」
頭の弱い私は、いつだって考えるより行動が先。
「そだね。行くしかないか。あ!さつきちゃん、あの人に聞いてみよっ!」
そう言って、モカは小走りで走っていく。
「さつきちゃん、早く早く!」

あんたも考えるより、行動なのね。私は苦笑いで、モカを追った。

「すいません。おばあさん、
この辺で月が眠ってる場所って聞いたことありません?」
(バカッ、モカ!いきなりそんなこと聞いても変な目で見られるよー!)
そう言って私はモカに耳打ちする。
(ダイジョブ、ダイジョブ。)
なにがダイジョブなんだか、さっぱりだ。

「あんたら、月を壊しにきたんかね??」

(ほらね、おばあちゃんはなんだって知ってるんだよ)
モカは得意になって私に言う。それが「ダイジョブ」の理由か・・・。
モカの頭は単純に出来てていいな。

「あの、私たち、本、読んで・・・それで・・・」
「やめときなされ。」
モカの言葉をさえぎるようにおばあちゃんは言った。
そして私たちの顔をジッと見る。
「あんたらの目は、綺麗すぎる」
「あのーぉ、どうゆうことですか?」私は聞いた。
「あれは魔王だから壊せたということじゃ」
はぁ?!その魔王から誘われたんだよ、私たちは!

「そうだぁね、もし壊せるとしたら、こっちの娘じゃないかねぇ。」
そう言って、おばあちゃんがモカのことを見た。

「わ、わたしっ?!」

モカは、えぇ困ったなぁ・・・って、照れ笑いを浮かべてる。
「なんでよーっ!おばあちゃん、私はっ?!ねっ、私は?!
力ならモカよりずーーっとあります!」
「さつきちゃん、きっと月を壊すには、力だけじゃダメってことだよー」
そういって、笑いながらポンポンとモカが私の肩に手を乗せる。
「なに、それーっ!」

そんな言い合いをしてるうちに、
おばあちゃんはもうどこかに向かって、歩き出していた。
その背中を見送りながら私はつぶやく、

「なんだったの?あのひと・・・?」
「さぁ。ま、気にしない気にしないっ!」
「気にするよぉ・・・」肩がガックリ落ちた。



「どうするー?次のバス。4:23分だってー。」
4つしか書かれていない休日のバスの時刻表を、指で確認して、
自動販売機で飲み物を買ってるモカに言った。

「げー。あと1時間はあるよ?今のうち、おみやげも買っとく?」
「疲れたから帰りにしよー。」
「じゃぁ休もう!バスは逃げちゃうけど、おみやげは逃げないしね」

そこのバス停は、ちょうど小屋みたいになってて、
座る部分の布が破けて、中から黄色い綿がでてきているイスたちと、
古びた木のテーブルがあった。

私たちはそこに、今自販機で買った紅茶と(モカはリンゴジュース)
持ってきたお菓子を広げて、まるでファーストフード店にいるみたいに
くだらない話で盛り上がった。

「ねぇ、さつきちゃん・・・」

さっきまで笑いまくってたモカが突然、真顔で聞いてくる。
「さつきちゃんは、なんで夜が嫌いなの?」
「なに?いきなり。だから、夜になるとね・・」
「不安や悩みが大きくなって苦しいんでしょ?それはまえに聞いた。
もっとさぁー、具体的なことっ!」
「具体的なこと?」
私は、ポテトチップスを1枚ほおばりながら言う。

「うん。さつきちゃんを苦しめる、悩みや不安ってナニ?」
「笑わない?」
「うん。笑わない。」

うーん・・・私ね、やりたいこととか、かなえたい夢とか、
そうゆうの全くないんだ。
受験だって控えてるのにさ、
家でTV見たり音楽聴いたり、好きなことしてて。

そうゆうとき、たまらなく自己嫌悪になるんだよ。

今頃、モカや裕美やアイちゃんや、かなっぺは
必死で将来のこと考えてるんだろうなぁ。
私、なにやってるんだろうって。

昼間はいいんだ。
みんなで笑いあって、そんなことも忘れちゃうくらい楽しくて。

でも夜、一人になると考えちゃうんだよね。
これじゃ、ダメだっていつも思う。
私は私。比べなくてもいいのにね。
でもどうしても比べちゃって、苦しくなっちゃうんだ。

こんなん、自分が頑張ればいいだけの話なのに、
でも頑張ることへのプレッシャーに負けた。
がんばってダメだったら、どうしようって。


モカは今、どんな顔してこの話を聞いてるんだろう。
悲しい顔?それとも笑顔?
怖くて見れない。
こんな、情けない私、見せたくなかったな。

「それにさ、私にはホント、なんにもないから。」
「さつきちゃん、」
「ん?」
「さつきちゃんの人生なんだから人に合わせなくていいんだよ。
ゆっくりでいいんだよ。それがさつきちゃんのペースなら。
それにさ、なにもないさつきちゃんは、
なににでもなれるさつきちゃんなんだと思うよ。」
顔をあげると、モカはいつものように微笑んでた。

モカの優しさが胸の中でスーッと溶けていく。
モカはいつだって優しい。
私が落ち込んでるとき、なにかを相談したとき、
モカは、その笑顔と優しさで包んでくれる。
ありがとう・・・モカ。

「モカは?モカはなんで夜が嫌いなの?」
そう言えば私もモカが夜嫌いなのは知ってるけど、理由までは知らないや。

そう聞いたとき、
モカが一瞬、悲しい顔をした気がした。
でもすぐに「内緒だよん。」と満面の笑みを浮かべる。
「こら!ずるいっ!」

気のせいだったかな?

でもそれが気のせいじゃなかったってわかったのは、あの夜。
『月の眠る場所』に着いたとき。
モカの悲しみの笑顔に、もっと早く気づいてあげられてれば、
私はあの夜、モカを泣かせずにすんだのかもしれない。
モカは私よりももっと深い深い暗闇でもがいてたのに・・・。

日が暮れ始めるころ、遠くからバスの音が聞こえてきた。

                      To be continued…


第3話

バスに乗り込んだ私たちは、
モカの「遠足気分で!」というわけのわからない要望で、
一番後ろの席に座った。
乗客は私たちだけだったから、遠足気分も何もないんだけどね。

「さつきちゃん、いよいよだね。」
「うん。いよいよだ!」

ドキドキしていた。
私たちが月を壊せば、夜から解放される。
私たちはもう悩んだり、苦しんだりしなくていいんだ。

通り過ぎてく景色たちをぼんやり眺めていたら
昼間のおばあちゃんの言葉がフラッシュバックするみたいに、
頭に響いてきた。

「やめときなされ。あんたらの目は綺麗すぎる。」
目が綺麗だといけないの?

「あれは魔王だから、壊せたということじゃ。」
魔王にできて私たちにできないこと?

「そうだぁね、もし壊せるとしたら、こっちの娘じゃないかねぇ。」
モカにできて私にできないこと。

モカと魔王にどこか共通点でもあるのだろうか・・・?
私はチラッと、モカを見る。
「ん?」
どう考えても私には、ただのカワイイおてんば娘にしか見えない。
ありえない!ありえない!
私と魔王の共通点を探したほうがすぐ見つかりそうだもん。

考えるのはやめた。考えるより行動だ!
あのおばあちゃんの言った意味を、この目で確かめに行こう。

いつの間にか、空は闇をおとして、夜になろうとしていた。
「さつきちゃん、さつきちゃん、月が見えるよ。」
モカは、座席に膝をついて後ろの窓から空を眺め、指差した。
私もモカと同じようにして、窓から空をのぞく。
「ホントだ。」

あれを壊すんだ。

きっと、モカも同じ事を思っていたんだと思う。
私たちはしばらく黙ったまま、大きく輝く月を見つめていた。

「あ、あれ?さつきちゃん。バッグ・・・」
モカがビックリした様子で私のほうを見ている。
「なに?」
そういって肩からバッグを下ろしてみると、
バッグの口から光が漏れていた。いつか見た、あの光と一緒。
私たちは顔を見合わせて同時に叫んだ!

「『Moon☆Tail』だ!!」

私は急いでバッグの中から、『Moon☆Tail』を取り出す。
「なんで?!なんで、光ってるの?!」
「また月の光に反応したのかな?!」
周りを見ると、薄暗いバスのすべての窓から、月明かりが差し込んでる。
ぼんやりしたクリーム色に近い月明かりに包まれたバスの中は
とても幻想的で、
私は、月ヶ谷が近い!直感でそう思った。

取り出した本をひざの上に乗せる。
「開くよ?」
「うんっ。」
『Moon☆Tail』の最後のページを開く。

『太陽ノ使イヨ 今コソ 月ノ眠ル場所
 解キ放テ Moon☆Tail』
それは何かの呪文みたいに聞こえた。

私は、本を閉じてモカを見る
「準備はいいよね?」
「うんっ!さつきちゃんは?」
「うん」


空気の抜けるような音がしてバスは停まった。
「月ヶ谷です」
「おります!おります!」
私たちはそばにあった荷物をかき集めて一番後ろから、前のドアまで走る。
窓からこぼれる月明かりが私とモカを照らす。
そしてお金を払って、飛び出した。

ここが月ヶ谷・・・
「谷」というくらいだから崖があるとこを想像していたけど、
実際は高くも低くもない普通の山だった。

『ようこそ。月ヶ谷へ ハイキングコースはこちらから。』

たてかけてある看板には、
やっぱり『月が眠る場所』なんてことは一言も書かれていなかった。
あげくの果てにハイキングコースなんて・・・。結構、人、来るんだ?

「さつきちゃん、こ、こわくない?」
山の入り口から、中へと道が伸びていた。
その先は真っ暗で何も見えない。
「こわい・・・かなり。」
私たちはこの闇に引きずり込まれてしまうんじゃないか?
引き返すなら今だ。
ずっと固まっていた決意みたいなのが揺らいだ。

「さつきちゃん、今日も月が私たちのこと笑ってるよ」
私は「夜」を見上げた。
終わらせなきゃ。私たちがもう迷わないように。夜におびえないように。
なにかがふっきれた感じがした。
「ホントだ、笑ってる」

そのとき、また『Moon☆Tail』が激しく輝きだした。
例によって最後のページを開く。

『解キ放テ Moon☆Tail 希望ノ光ヲ 空二掲ゲヨ』

そっか!
私は、強く強く輝くそのページを月に向かって突き上げた。
すると月から降ってきた光が私とモカを包み込む。
「なっ、なにこれ?!」
「さつきちゃん?!」

その瞬間

ビュッて音を立てて、私たちは飛ばされていった。

気づいたら私とモカは、どこかの山の頂上に来ていた。
周りは木々で囲まれているのに、ぽっかり天井だけひらけている。
満点の星空とまんまるの月が見えた。
さっき私たちを包んだ光はもうない。
そしてMoon☆Tailも輝きを失っていた。

「ここ、どこ?」
月ヶ谷じゃない。だって・・・森が青いんだ。
私は、まだ倒れているモカを揺すった。
「モカ!起きて!ねぇ、起きて!」
「う・・・んん」モカはゆっくり目を開ける。
そしてさっき起こったことを把握したかのように突然、
「さ、さつきちゃん?!だいじょぶだったっ?!」
と心配そうに言った。
「うん。あんたは?」
「よかったー。私もだいじょぶ!」

「モカ・・・、私たち、どこかに飛ばされてきたみたい。」
そしてモカは周りを見渡す。
「月ヶ谷ではなさそうだね・・・」

「ようこそ、月のしっぽへ。ここは月の眠る場所」
後ろで声が聞こえて、振り返る。
そこには神社の巫女さんみたいに、
白い服に赤いはかまをはいたロングヘアーの、若い女の人が立っていた。
「あなた、だれですか?!」
その人は笑ってこう言った。

「魔王様のしもべ、月の番人です。」 

                To be continued…


第4話

「あなたがたが本に導かれて、月を壊しに来た二人ですね」
私とモカは、「うんっうんっ」って言うみたいに首を何回も縦に振った。

「それじゃぁ質問します。月を壊してどうするつもりですか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
どうしても聞いておかなきゃいけないこと。

「ここはどこですか?」私たちは今、どこにいるのか?
聞いておかないと不安になる。
あんなことが起こったあとだ、
死んでるか生きているかも、正直わからなかった。

「ここは魔王様が月を壊した場所。月のしっぽ。」
「月のしっぽ?」そんな地名、聞いたことない。
「すぐにわかりますよ。その意味がね。」
「あの。月ヶ谷じゃないんですか・・・やっぱり。」
「月ヶ谷は、ここへ来るための滑走路のようなもの。あそこから飛んでくるのが、一番の近道ですから。」
「私たちって・・生きてますよね・・・?」
モカは心配そうに聞いた。
「ご心配なく。」
よかった。とりあえず生きているみたいだ。

「では次は私の質問に答えてもらう番です・・・」
「月を壊してどうするつもりか・・・ですよね?」
答えれば月を壊せるのなら、なんでも答えてやる。
「夜がキライです・・・。いっつも悩んで苦しんで、夜の闇が私たちを不安にさせるんです。ずっと昼間なら、きっと笑ってられる。だから永遠の昼間を手に入れたいんです」

「ずいぶんと自分勝手な理由だ。あなたは自分が苦しいから、
他の者達からも夜を奪うのですね?」
「違います・・・そうゆうわけじゃない!」
私は続ける。
「私の周りにも夜がキライな人、いっぱいいます!
恋して眠れないとか、寂しいとか、することないとか!」
「その程度か・・・」月の番人が、そうつぶやいたのが聞こえた。
「まぁ、いいでしょう。
そのくらい自分勝手でないと夜は壊せませんからね。」

そのとき、いつかのおばあちゃんのことを思い出した。

『そうだぁね、壊せるとしたらこっちの娘じゃないかね』

「あのっ!私にも壊せますよねっ?!」
月の番人は妖しく笑う。

「あなたは、月を壊してどうするつもりですか?」
私への返答をしないで、モカに言う。
モカは黙ったまま、ジッと月の番人を見ているるだけだった。
「いい目だ。あなたがたの本には、まだ続きがあるのがご存知で?」

MoonTailの続き・・・?
あの話は最後、魔王が月を壊して、永遠の昼を手に入れて終わりだ。

「続きってなんですか?!」
「月は再び生まれてしまったのです。」
「生まれた?」
「創られたと言ったほうが正しいのかもしれませんね。」

創られた?

「どうゆうことですか?」
「永遠の昼を手に入れた魔王様は、
夜におびえることなく世界を征服し始めた。
そこで、人間達は力をあわせて月を人工に作り上げ、
そしてそこに魔王を閉じ込め、再び夜を作った。」

え、じゃぁ。私たちが見ていた月って?つくりものってこと?

「そしてどうゆうわけか、その人口の月の中では、
魔王様の力が急激に弱まってしまい、中から壊すことはできません。
そこで・・・」
「そこで?」
「外から魔王様に力を分け与えてあげるのです。」
「あなたじゃダメなんですか?」
「私はもう充分、力をあげました。
でも私のぶんだけでは少し足りなかった。
あと少しだけ、力がいるんですよ。」

「最後にテストです。」

今までこのテストを乗り切った人間はいません。
これはあなたがたの月を壊したいと思う強さを確かめるテストです。
このくらい軽く乗り越えてくれなきゃ困るんですけどね。
やわな力をもらってもしょうがないですから。

そう言って指をパチンと鳴らすと、月の番人の手のひらに
二つの万華鏡が落ちた。そしてそれを私たちに手渡す。

「これはあなたがたの世界を映す万華鏡。のぞいてみてください」

中をのぞくと色々な人たちが映った。

星を見るのが大好きな男の子。
クリスマスの夜にサンタさんがくるのを楽しみにしてる女の子。
夜の時計の台の下で待ち合わせをしているカップル達。

みんな夜を楽しみにしていた。
その笑顔はどれも幸せそうに見えた。
なんだよ・・・みんな夜、楽しんでるじゃん。なんだよ・・・。
みんな夜を待っていた。

「月を壊して、この人たちから夜を奪えそうですか?」
月の番人は言う。

夜なんて大嫌いだった。なくなっちゃえばいいと思ってた。

間違いだった。

自分勝手なのは充分わかってたけど、
幸せそうな人を見ていたら、急に幸せを奪うのが怖くなった。
誰にだって、誰かの幸せを奪う権利なんてないんだ。
私は万華鏡を目からはなした。

「・・・すいません。奪えそうにないです」

「そうですか。それではお帰りいただきましょう。こちらにどうぞ。」
情けないなぁ。私。
昼間のおばあちゃんが言ってたことの意味がやっとわかった。
私の目は綺麗すぎた。
もっと汚れた目で見ることができていれば、月を壊せたのかもしれない。
私の目には世界が綺麗に映ってしまった。
それはきっとモカも・・・。

「なにしてるのモカぁ。行くよ。」
モカは万華鏡を見たまま動かない。
「モカ?」
モカが私のほうを見る。

「さつきちゃん、あたし、月壊せそう。」

月の番人がニヤッと笑った。

                To be continued...

最終話

「なに言ってんの、あんた!」
モカが月を壊せそうと言った。

あんなに優しいモカが、
あんなに幸せそうな人たちを見て月を壊せるわけない。
「冗談言ってないで早くっ!笑えないよ!!」

月の番人がモカに近づく。
「モカに近づくなっ!!」
「あなたの目はとても綺麗だ。」
モカの耳元で月の番人がささやいた。
「モカ、はやくこっちおいでっ!」
「いやだ!行かない!!」
「綺麗だけど、その奥は汚れてる。人間なんて大嫌いっていう目だ。」
月の番人はモカの目を覗き込む。
「魔王様!やっと見つけましたッ!
今までに来た、どの人間よりも邪悪な心を持った娘です!!」

月の番人は月に向かって叫んだ。
すると、その声に反応するかのように月に顔が浮かんだ。
まるでハロウィンのかぼちゃみたいな顔。

「やばいよ・・・」私は震えが止まらなかった。

「さぁお嬢さん、呪文を唱えてください。」

「モカ、こっちおいで!ねっ。」

「さつきちゃんは、こんなあたしを、友達って呼んでくれる?」
なに言ってんの?モカ。
「あたし、これから月を壊すよ。」
「あんたっ、自分の言ってることわかってるの?!
たしかに、夜はなくなるかもしれない!
でも、魔王も復活しちゃうんだよっ?!
あの本みたいに、世界を征服されちゃうかもしれないんだよ?!」
「いいよ、それでもっ!こんな世界いらないよっ!!」

モカはあきらかにいつもと違った。
まるで何かにおびえてるように、震えていた。

「どうしたの、モカ!!言ってごらん。ね?言ってごらん」
モカは黙ったままだ。
「怒らないから!怒ったらビンタしていいからっ!ね?」
「さつきちゃん、あたしね・・・」
「うん?なに?」
なるべくいつもどおりの声をだした。
こんなときこそ、いつも通りの私でいるんだ。
ねぇ。モカ。私はいつも通りの私でいられてる?
私はさぁ、いつだってモカの味方なんだよ。

「ずっと黙ってたけど、私が夜嫌いの理由・・・」

心臓がトクンとなった。

モカはそっと上着をめくる。

「モカ・・・それっ・・・?!」

モカの体は、痛々しい傷やアザだらけだった。

「あたしね・・・」

トクン・・・。 

「さつきちゃん、あたしね・・・」
私はわかってしまった気がした。なにもかも。

「あたしね・・・」モカの目からは涙がこぼれている。

もういいよ。モカ。わかったから。

「お父さんから、虐待されてるの!!」

その言葉は悲しさでいっぱいで私の胸をさすように心に沈んでいった。
私の意識とは別に、なまあたたかい涙が頬を伝う。
止まってよ!
私はモカのまえではいつもの強気な
さつきちゃんでいなきゃいけないんだ。
涙なんて流しちゃいけないんだ!

でも「なんでよっ・・・なんで?!」声が震える。

「あたしさ、去年、おかあさん亡くなったでしょ?
その頃からお父さん変わってね、
それにお父さんね、今、仕事ヤバイんだって・・・
だから、きっとストレスとかでね、私にね・・・」

モカ、言わないで・・・。
「殴ったり・・・」

言わないで・・・

「蹴ったり・・・」

言わないでって言ってるじゃん

「ひどいときにはね・・・、」
「もういいよっ!!!!!!」

私は、モカの言葉をさえぎった。

月の番人は、モカの背中に優しく手をあて、目の前の湖にモカをうながす。
するとモカは水面に立った。

そしてその瞬間、ゆらゆらとモカの足元にぼんやりと月が輝く。

「さつきちゃん、あたしね。こんな辛い世界なら消えちゃえばいい。」
私は服の袖でゴシゴシ目を拭いた。

「バカッ!なんで今まで言わないのよっ!」
「言えないよ。」モカはいつものあの笑顔になる。
「さつきちゃんに迷惑かけて嫌われたくないもん。」
「いいんだよっ!友達なんだからっ!」
ホントにバカだ。モカのバカ。嫌うわけないじゃん。
私たちの関係はそんなに簡単に切れないんだから。
「私はね、あんたの苦しみくらい一緒に持ってあげられるよっ!」

「ありがとう、さつきちゃん」
でもモカの決意は揺らがなかった。モカが夜を壊そうとしている。

「さぁっ叫べ!MoonTailと!!」月の番人は言う。

「さよなら。」

やめて、モカ。

「Moon・・・」

「やめてっ、モカ!!!」


「Tail」

その言葉を告げるとしっぽみたいな光が月へとのびていく。
その光は魔王の月へのびて、やがて月とヒトツになった。
あたり一面が月明かりであふれる。
まぶしくて何も見えない。





ガタンゴトン ガタンゴトン
今、私は電車に乗っている。
隣では、親友のモカがスー、スーと寝息を立てながら寝ている。
あのとき、モカは確かに呪文を唱えた「MoonTail!」って。


「なぜだ!なぜ壊れないっ!!」
月の番人は光の消えた空に向かって叫んだ。
そこには今までと何も変わらない月が浮かんでいた。

「貴様っ!!」月の番人はモカをにらむ。

「あのぉー、すいません。あたしも月、壊せませんでした。」

「モカ・・・」
モカはゆっくり水面を歩いて私のところへ来て手をそっと握る。
「最後の最後で、『この人の幸せを奪いたくない。守りたい。』
そんな人がいることに気づいてしまいました。」

たぶんモカが最後の最後でそう思ったおかげで
魔王を復活させる力を与えられなかったんだ。
月の番人はその場にペタンと座り込む。
「こんなに近くにいたのにね」そう言ってモカは私に笑いかけた。
さっきまで浮かんでいたハロウィンみたいな月の顔も
いつのまにか消えていた。

「さつきちゃん、さっき泣いてたでしょ?」
私はまた袖で涙を拭いた。「泣くわけないでしょ!なんで私が泣くのよ!」
ならいいんだけどっ・・・とか言ってモカは、イヒヒと笑う。

私のバレバレのウソは少しかっこわるかったけど、私も笑った。

「あのー・・・帰りかたとか教えてくれませんよね?」
モカは月の番人に聞いたけど、返事はない。
そりゃそうだよね。
はじめて月を壊せるかも?って人が出てきたのに、
その人もダメだったんだから。
「どうやって帰るんだろ?」

「こっちじゃよ」
聞いたことのある声がした。そして二人同時に言う。
「おばあさんっ!!」
そしておばあさんは私とモカを光で包んで、
あの駅前で降ろしてくれた。

「やーっぱり、あんたらには無理じゃったね。」
おばあさんは最初からこうなることがわかってたかのように言う。
「あのー?おばあさん誰なんですか?」
「私も、Moon☆Tailを読んだんだぁよ。」

えっ?!

話によるとおばあさんも若い頃、月を壊しに行ったらしい。
でも私たちと一緒。結局は壊せないで戻ってきたんだって。
家に帰ったら自分の持っている「Moon☆Tail」が反応したんで、
月のしっぽまで来てみたら私たちがいたってわけ。

「きっと、モカが呪文唱えたときだ!
あんとき、すっごいまぶしくなったもん!」
「こっちまで光が届いちゃったのかもね」モカは苦笑いしてる。
「こら、笑い事じゃないぞ」私はモカの頭にチョップした。

「悪いことヒトツあったら、良いことフタツ忘れちゃうやぁね」
私たちは首をかしげて顔を見合わせる。
「世の中、悪いことばかりじゃないってことじゃよ」
「そうですね」今ならハッキリ言える。

私たちはおばあさんにお礼を言って、終電の1本前の電車に乗った。

ガタンゴトン ガタンゴトン
今、私は電車に乗っている。
隣では、親友のモカがスー、スーと寝息を立てながら寝ている。
幸せそうな寝顔しちゃって。私は少し笑顔がこぼれた。

ねぇモカ。私たちはまた苦しみや悩みってゆう夜におびえるのかな?
一人の夜にまた涙をこらえるのかな?
昼間には太陽があって、青空があって・・・。
でも夜にも星や月が出るように、
夜にしか見えない景色もあるのかなぁ。
それでも、モカが怖いって言っておびえる夜があるなら
親友の私が、モカを照らす太陽になろうか?

「う・・・ん」モカが目を覚まして窓をのぞく。
「わ!」
「なに?!」
「星が綺麗。・・・月も。」
「捨てたもんじゃないよね、夜も」
私たちは笑いあう。

これから色々な辛いこと、苦しいことが待ってるかもしれない。
でも乗り越えなくちゃね。
だってさ、モカ。
夜を越えれば、必ず朝はくるんだから。

東の空はかすかに明るくなり始めていた。

                        おしまい











2003/12/24(Wed)19:57:11 公開 /
■この作品の著作権は律さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
読んでくれたかた、
ありがとうございました♪
これでこの話は終わりになります☆
楽しいかったと思ってくれれば
書いてよかったー^^

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。