『夢とキャンバス』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ティア                

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 描いても描いても、何も報われない。
 描いても描いても、何も見えてこない。

 僕は、有名な絵描きになるために家を出て、都会にやってきた。
 小さな筆とスケッチブック。夢と希望とプライドとを持って夕日を背にしながら故郷が離れていったあの日。
 家族と友達、故郷、そして自分に別れを告げた、あの日から…。
 僕は何か変わったんだろうか…。
 見えもしない夢を見すぎて、目が悪くなった。
 筆に託しすぎてしまった希望は、すり減っていった。
 失敗からずっと逃げてきて、明日と向かい合えなくなった。
 筆もスケッチブックもまだ残っているのに、僕がここに持ってきた気持ちは無くなってしまった。

 それでも貧しくて死にかけた部屋の中で、僕はひたすら景色を描き続けている。
 涙色で描いた景色には必ず苦くしょっぱい雨が降る。
 景色が滲んだらすぐに、その景色はクシャクシャにされ捨てられてしまう。

 なぁ、僕は何をしているんだい?
 そっちは良い景色だね。僕が大好きな景色だよ。僕も一度行ってみたいよ。
 そうやって、いつも僕は、自分の夢を描き、夢に問いかけ、夢に泣かされるんだ…。
 
 夢がなんなのかすら…解らなくなった。
 なぁ、僕の夢って何なんだい?

 泣きじゃくって過ごす毎日、そこへ贈り物が届いた。
 生まれて初めて、母さんからの贈り物だった。
 小包を開けると、そこには真っ白なキャンバスがあった。
 母さんは僕が絵描きになる事を最後まで反対していた…。わかったよ。
 僕に絵を描けって言うんだね。夢を追いかけろって言うんだね。
 決めたよ、夢を夢で終わらせない夢を見る事にするよ。

 スケッチブックではなく、汚い部屋の中で唯一光り輝く真っ白なキャンバスに向かって僕は、筆を握った。
 
 …なあ、見てくれよ。ホラ!
 僕は空を飛んでるんだ。透き通った青い空を小鳥といっしょに空を飛んでいるんだ。
 自由なんだ。どこへでも飛んでいけるんだ!
 でも、どうしてだろう? …違うんだ。僕の夢はもっと…もっと大きな夢…。

 …青い景色をクシャクシャにして、目の前に現れたのは、再び真っ白なキャンパス。
 筆をくるっと一回転させた。
 
 今度は僕はふかふかのイスに座っていた。
 金ぴかな世界が目の前に広がっている。僕は何もかも手にしている。
 地位も、金も、名声も。夢が叶ったんだ。
 でも、なぜだろう。何かが足りないんだ。
 ずっと求めていた夢は、これだったハズなのに…。

 金色の景色をクシャクシャにした。僕は相変わらず古びたイスに座っている。
 筆を握る汗がいつもより多い気がするよ。
 僕は新しい夢を描いているのだろうか…?
 また筆を一回転させた。

 緑色だけしか目に入らない。そんな景色が広がっていた。
 見渡す限りの大草原を、獅子という獣になった僕はひたすら走っていた。
 なぜ走っているのだろうか? 何かを追いかけているのだろうか?
 それすらわからないのに、不思議だ。
 走っていると、自分が好きになれるんだ。
 幸せすら感じるんだ。
 この幸せが一生続けばいいのに…。


 時が流れた…。
 今まで色々な景色を描いた。描く度に色々な景色を見た。
 でも、あと一回だけ。キャンバスの紙はあと一枚だけ…。
 そして、僕が筆を握ることができるのも今日が最後になるだろう。
 苦しいんだ…。もう、疲れたんだ…。眠たくて仕方ないんだ。
 でも、眠る前に…。夢が終わる前に描いておきたい絵があるんだ。

 なぁ、最後だから僕の夢、僕が見失った夢を描かせてくれよ。
 最後に、僕が望んだ最高の景色を描かせてくれよ。
 いいだろう?
 
 筆を一回転させると、そこにはいつもと変わらない景色が広がっていた。
 古びたイス、ボロボロな筆、汚い紙くずの山。そして、空腹と戦い、涙を流しながら筆を握りキャンバスを塗りつぶす僕が居た。
 キャンバスの中の僕は夢を描いていた。見えない未来を、栄光の色で塗りたくっていた。
 でも、どうしてだろう…。泣きながら苦しそうに絵を描くキャンバスの中の僕を、僕は羨ましがっている。
 
 そうか…わかった。
 僕は気付かなかっただけなんだ。
 毎日毎日、実は自分が望んでいた夢と過ごしていたんだね。
 実は、見えない夢は叶っていたんだね。
 あまりにも近すぎて、見落としていたよ。
 僕の夢は、自由になる事でも、お金持ちになる事でも、上手な絵を描くことでもなかったんだ。
 
 描き続ける事が僕の夢だったんだね。

 キャンバスの中の僕は、僕に「自分の夢は何?」と、昔、僕もした事のある、同じ問いかけをしてきたけど、何一つ僕は答えてあげない。
 だって、キャンバスの向こうの僕はもう、気付いていないだけで夢を手にしているんだから。
 向こうの僕にとって、答えは知らないほうが、答えを捜すため、自分の夢である、夢を描き続けると思うんだ。
 だから、答えてあげないよ。

 もっと、この景色を見ていたいな。
 でも、どんどん色が暗くなってきたよ。
 そろそろ僕自身の夢の終わりなんだね。 
 
 
 そろそろ目を、閉じるね。

 
 夢の続きは、向こうで…また…。
 きっと…。



 Fin

2003/12/20(Sat)18:00:31 公開 / ティア
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ゴチャゴチャしてて解りにくいと思いますが読んで頂けたら嬉しいです。
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