『いつか笑顔で。−2−』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:柳沢 風                

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― 2・疑問 ―


今までの自分。
それは、簡単に言うと『孤独』だった。
いつもひとりで本を読みふけり、
クラスの輪の中に入っていけず、ふたつに結んだ髪を弄くっていた。
自分でも、
それが当たり前になっていた。
それが・・どうしてだろう。
あの『古谷 優』という少女は何か・・・、
今までのクラスメイトとは違うような気がした。


一時間目は妙にゆっくりと終わった。
松葉は、気が抜けたようにため息をつく。
チャイムと共に皆がうるさく話し出す。
転校生という身柄であるため、
あの優という子のところにも小さな人だかりが出来ていた。
『まあ、私にはどうでもことだけど』
松葉は「フン」と鼻を鳴らすと、皆から視線を逸らした。
トンっ。
「へ?」
突然肩に触られたような違和感を感じ、
松葉が振り返ると・・・。
「あ・・、古谷さん」
そこに立っていたのは、
さっきまで人だかりの中でいた古谷優だった。
彼女は少し笑う。
「ねえ、なんで皆のところに行かないの?」
「え・・、人だかりって苦手で・・」
「ふ〜ん」
こういう人からの質問って久しぶりで、松葉は少し戸惑ってしまった。
「古谷さんこそ、どうして抜けてきたの?」
「んー、疲れるからかな」
その答えに松葉は驚いた。
「皆の中にいるのって、疲れるの?」
そう言うと、優のほうも驚いた。
「普通疲れるから行かないんでしょ」
そう言われてまた驚いた。
じゃあなんで皆は話の中に入るんだ。
その驚き加減に、優は少し悟ったらしい。
「もしかして・・、そういう免疫ないの?」
「『そういう免疫』?」
「あー、友達とかと何か言い合うっていうか・・、そんな感じの」
そのとたん、松葉は顔を暗くした。
「・・ない」
優は「ふーん」というと、突然明るい顔になった。
「なんて名前!?」
「へ」
「あんたの名前!」
「私は、東野松葉」
そう聞いて、優はニイっと笑って松葉の名前を繰り返して言う。
するとひらめいた様に松葉を振り返った。
「そうだ。松葉って読んでいい?私のことも優でいいから」
「!?」
松葉は突然の言葉に呆然とした。
普通、まだ10分も話していない同士が、
こうやって呼び捨てで名前を言い合用になるのだろうか。
「じゃあ松葉」
「へ、何」
「お互い分かり合うために放課後にショッピングでも行こう」
『ショッピング』という言葉に、松葉の顔は赤くなった。
なんせ買い物なんて、ひとりか家族でしか行ったことがないんだ。
クラスメイトとなんて、行った事がない。
「な、何買うの」
「服とか、小物とか」
「え、Tシャツとか・・?」
「違う違う。キャミソールとか」
「キャミソール!」
松葉は顔が赤くなった。
キャミソールなんて・・、買ったことがない。
その時だった。
「ねえ、何話てるのー」
その声の主は、
美人だけどわがままで有名な『久野沢 亜紀』と、その友達の『藤堂 美香』と『木野山 泉』だった。
優は笑う。
「放課後、ショッピングに行こうって話」
「あ、私たちも行っていい?」
松葉は「やっぱり」と思った。
この人たちは、『ショッピング』と聞くと何処でもついて行く。
「うん、いいよ」
優は気前良く答えると、また松葉に視線を戻した。
すると久野沢の額に皺がついた。
「だれと行くの?」
優は「へ」と首を傾げると松葉を指差した。
「松葉と行く」
すると3人は「え」という顔になった。
「東野さんとはちょっと・・」
「ちょっと、何」
優は少し怒ったように3人を見た。
松葉には3人が何を思っているかがすぐにわかった。
優は3人を見て、はったした顔になった。
「もしかして、松葉と一緒が嫌なの?」
3人は少し松葉を見ると、こくりと頷いた。
松葉はどうせそうだろうと思っていたので別に平気だったが、
優はきっと3人を睨んだ。
「人を仲間はずれにするような人なんてお断り!」
それだけ言うと、優は手を動かして『しっしっ』とした。
3人は松葉を恨めしそうに睨むと、また違うところに行ってしまった。
松葉はぽかんとその光景を見ていたが、
優がさっと振り向いて笑った。
「じゃあ、放課後ね!」
そう言って手を振ってひとり自分の席に帰っていった優を見て、
また呆然とした。
『放課後・・・、私どうなるんだろう』


キーンコーン・カーンコーン
チャイムの音が響く。
皆いそいそと自分の席に戻っていく。
そんな光景を何度も見てきたが、
今は不思議と輝いて見れた。


『どうしてあのこは私に優しくしてくれるんだろう』
そんな疑問を抱きながら、
松葉は教科書を机に出した。



松葉はさっきの休み時間に始めて本を読まなかったことに、
気付いていなかった。



2003/12/20(Sat)13:21:46 公開 / 柳沢 風
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■作者からのメッセージ
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今回初めて読んでくださった方々、
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