『1000回のさよなら』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:クレイドル                

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 効いているのか効いていないのか、分からない暖房の喫茶店。窓際の席、差し込む光が、やたら眩しい。
 そして、冬の寒さが体に凍みる。
 「俺もそんな年齢になったのか。」
 ふと呟く、成人であった。
 そう言えば、裕子と初めてデートをしたのも、ここだったような気がする。
 今度は過去を振り返る成人であった。
 「それにしても、あいつ遅いなー時間にルーズなところは、結婚しても変わらなかったな。まっ、これからも変わらないんだろーな。けど、ここでこんな話をすることになるとはな。」
 溜息をつき、考え込む成人がいた。
 喫茶店の白いドアが開き、呼び鈴の音が響く。裕子だった。
 「ごめん、私いつも遅刻だね。ところで、大事な話って何?」
 慌てる様子もなく、席に腰を降ろす裕子だった。
 「相変わらずだな。まっ、今始まったことじゃないけど。」
 「もー大事な話があるって聞いたから、これでも慌てて来たのにー、ねっ、大事な話って何よ、早く」
 「慌てるなよ、今見せるから」
 俺は、一枚の封筒を内ポケットからゆっくりと取り出し、中の三つ折の書類を裕子に見せた。
 「これに、署名と捺印をしてくれ。もう俺はしてある。」
 「えっ、何、これって離婚届じゃない。いきなりこんな物突きつけるなんてどういうつもりよ。」
 食ってかかる裕子だった。
 「思い当たらないって事はないだろう。自分の胸に手を当てて、良く考えるんだな。」
 「どう言う事、分からないわよ。はっきり言って欲しいわね。離婚の理由を。」
 慌てながらも、食ってかかり続ける裕子であった。
 おそらく、はっきりした理由を知るまで、納得はしないだろう。どうせ、はっきりさせなければならないことだ。俺は、カバンの中から、興信所で調べてもらった、浮気の現場を押さえた写真と報告書を裕子に見せ付けた。
 「嘘、こっれて、貴方、こっそりこんなことしてたなんて。最低よ」
 怒りを露にする裕子であった。
 「最低……笑わせるなよ、俺にこういう事をやらせるお前自体が最低だろー」
 クールに答えてはいるものの、内に秘めた怒りが、表情に表れていた。
 もう、裕子とは終わりだ。俺は、覚悟を決めた。もう後には引き下がれない。
 「そう、何かもご存知って訳ね。」
 溜息を吐きながら、裕子が静かになった。
 「そういうことだ、分かったなら、さっさと署名と捺印をしてくれ、お前と一緒にいること自体に、もう耐えられないんだ。」
 「そう、たった1回の過ちで、すべてが終わってしまうとはね。まいったは、貴方の純情には。けど、貴方の方にも原因があったことを、分かって欲しいはね。毎日、仕事・仕事で私を構う時間を作らなかった。私は貴方に構って欲しかった。」
 「あー確かに残業続きの毎日だったよ、土日も仕事だったよ。だからと言って、それが俺を裏切っていいという理由になるのか?結婚するということが、お前には、どういうことかわかっていたのか?俺からすれば、お前の取った行動そのものが疑問だ。少なくとも俺は、お前を裏切らなかった。」
 俺は切り替えした。純情だの愛情だの問題ではないはずだ。ここで問われるのは、人間としての倫理観だ。家族になるということに対する考え方だ。愛するという感情は、単なる好き・嫌いという程度の感情とは、別次元のもののはずだ。比べる自体、バガげている。心の中で叫び続けた。
 「叫ばないでよ。周りの人が見てるは。あんまり感情的にならないでよ。」
 冷静さを装う裕子だった。
 「感情的、ふざけるなよ。俺のどこが間違っている。たった1回、それもふざけるな。今回、たまたま証拠を掴んだだけだ。それ以外でもあったろう。俺が何にもしらなかったと思っているのか。。。笑わせるな。もうお前に対してこれ以上寛大にはなれない。」
 「そう、仕方ないはね、情熱家さん。諦めるしかないようね。」
 「そうだ、諦めてくれ。もう終わりだ。」
 「確かに、私がしたことは、簡単に許されることではないかもしれない。けど、考え直す時間はないの。やり直すチャンスはないの?」
 まるで、罪を素直に求め、許しを乞う罪人のように、裕子が妥協案を話し出した。
 「考える時間はいくらでもあったはずだ。お前は、専業主婦だったはずだ。少なくとも俺よりかは。。。今の俺に、お前とやり直す気持ちは一切無い。」
 俺は切り替えした。裕子は静かになった。ただ、下を向いたきりで、何も話す気がないようだ。それでいい。。。お前の妥協案を飲む事は出来ない。これは、お前の裏切りに対する報復という、単純な物じゃないはずだから。。。考え抜いた挙句、下した決断なのだから。。。
 裕子は、俺の切り替えしに反論できなかった。そして裕子は、静かに決断を下した。テーブルの上の離婚届に。。
 「たった一枚の紙切れで、すべてが終わってしまうの?何か虚しいはね。」
 裕子の表情は、悲しみに満ちていたかもしれない。仕方のないことだ。自分の撒いた種だ。
 そして、俺はその紙切れを手に取り、元の封筒に収め、静かに席を立った。
 「さよなら」
 の一言を残して。
 「ねー今何て言ったの。。聞こえなかった。。もう一度聞かせて。。。」
 裕子の涙声が耳に入った。
 俺はもう一度、囁いた。
 「さよなら」と。。。
 すべてに終止符を打つこの一言、気が済むまで言ってもいい。。たとえ千回でも。。。「さよなら」と。。。

 完

2003/12/07(Sun)23:12:49 公開 / クレイドル
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■作者からのメッセージ
投稿3作目です。
 恋愛物を始めて書いてみました。ってこれって恋愛物になるのかな?
 それでは、皆さんよろしくお願いします。
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