『〜C〜 第一章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:Ins S.F                

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〜C〜
第一章
悲しい旅立ち

ここにササン=ブレイバリーという少年がいる。
青い髪の気の優しそうな少年だ。歳は16歳ぐらいだろう
そう、夢を見た少年の一人だ。

夢を見てベッドから飛び起きてもう1年がたつころのことだった。
ササンのいる町マージは、他の町と連絡を取るのに5日はかかるほどの
田舎町だ。
しかし、とても澄んだ空気、多くの森林がここにはまだあった
おそらくここが一番の田舎町で森林の破壊が進んでない唯一の町だろう。
町の人口は約10人だが、この村にササン以外の若者の姿は見当たらない、みんな都会に行ってしまった。
そんな町で今ササンは畑仕事を手伝っていた。

「ササン」
少年を落ち着いた感じのシスターが呼んでいる
「はい、何でしょう」
ササンは畑仕事を中断してシスターの所へ急いだ。
「ちょっと頼みたいことがあるんですけどいいですか?」
「え、はい、いいですよ」
「よかった、他の人にはちょっと頼めないことなんですよ」
「で、その頼みたいことって何ですか?」
「外れに住んでるゴルドバさんにお薬を持っていって欲しいんですけど」
シスターは続けていった
「このごろ魔物が増えてきて私たちのうちの誰かでは無理なのですよ」
「そういうことならお任せください」
「本当に助かります」
シスターは深々と頭を下げた。
「ガハハ、そんなことならどんどん押し付けてやってくださいよ」
後ろから日焼けした豪快な感じの中年が話しかけてきた
ササンの親代わりのジークである。ササンの親はどこにいるのかわからない、ササンは捨て子なのだ





10数年前の大雨の日にササンは町の入り口に立っていた。
最初見たときのササンの顔をジークはよく覚えている。
まだやっと立てたくらいの子供なのに泣きもしない、無表情だった。
このときのササンはしゃべれなかったが、感情だけがひしひしと伝わってくるようだった。
そして首から下げられた紙にこう書いてあった

【どうか、この子をおねがいします。わけがあって私たちには育てる
ことができません】

その紙の裏に名前ササン=ブレイバリーと書いてあった。
「ひでぇことしやがるぜ」
このときのジークはひどく怒っていた。
ジークはひとまず教会のシスターの所にかけこんだ。
「あら、こんな時間にどうしたんですかジークさん。それにその子供」
「話は後ですシスター、着替えかなにかありませんか?このままじゃ
風邪ひいちまう」
シスターはひとまず服を脱がせて毛布で覆ってあげた。
「これでひとまず安心です。それで、どうしたんですか?」
ジークはこれまでのことを話した。
「そうですか、この子は捨て子なのですね」
「では、私の所で預かりましょうか?」
「ちょっとまってくれ、俺の所で預からせてもらえませんかね」
「俺はひとり身だから子供がいるってのもうれしいもんでねぇ」
「わかりました、ではジークさんにお任せします」
「わからないことがありましたらおっしゃってくださいね」
シスターは優しく了承してくれた。
それからのジークは大変だった。
最初のころは子供なんて育てたことがないから日々悪戦苦闘で
やっと手がいらない年頃になったとおもったら度々ササンとけんか
ばかりしていた。
だが、けんか中のササンの表情は最初あったときと比べ物にならない
くらい生き生きとしていた。
そしてジークがここまで育てたのだ。もちろん町のみんなの協力も
あってだが










「うわっ、と父さんなんでここに」
ササンは慌てていた。
「サボってるからぶん殴ってやろうと思ってでてきただけだ」
「というわけで、シスターこいつはいくらでも使っていいですよ」
ササンの髪の毛をくしゃくしゃとしながら言った。
「ありがとうございます、ジークさん」
「では、ササンこの薬をおねがいします」
といってシスターから袋に入っている薬を受け渡された
「気ぃつけていってこいよー。このところ物騒だからな」
「わかってるよ。父さんこそ無理してぶっ倒れるなよー」
「大きなお世話だ。はやくいってこい」
なんだかんだいって心配してくれる父さんがいる、親切にしてくれる
みんながいる
ササンにとってこの町マージはとても居心地がいいものだった。
この人はもちろんのこと、シスターもここの町全員がササンにとって
親みたいなものだった。だからササンはこの町を出ないで全員に
恩返しをすると決めていた。


ササンが町を出てすぐジークはシスターを呼び止めた
「シスター、ちょっといいですかい?」
「どうしました?」
「そろそろいい年頃だし、教えてもいいとはおもいませんかねぇ」
「おしえるってなにをですか?」
シスターはふしぎそうにジークをみた。
こんなに気弱なジークはひさしぶりだったのだ。
「あいつの両親は生きているって言ったほうがいいのかな」
「そのことですか、私も考えていた所です」
「あいつは自分が捨てられたってしったらどうおもうか」
「ササンは強い子ですよ」
「ササンは強くなんかねぇ!」
ジークは怒鳴るようにいう。
シスターは相当驚いたようだ。
「すまない。つい」
「いいんですよ。それだけササンが心配なんでしょう?」
シスターはまるで菩薩のように悟った
「確かに不安な点もあります」
「ササンは恐怖のほうが他のどの感情よりも強いようですからね」
「私たちの知らない幼少のころになにかあったんでしょう」
シスターは続けた
「でも、そのことを隠し続けていたらササンは成長しません」
「そろそろ教えてあげたほうがあなたにとってもササンにとっても大切なことだと思いますよ」
「あなたは親なのでしょう?」
「ああ、わかった。シスターありがとよ、こんなの俺らしくなかったな」
「あいつが帰ってきたら話し合ってみるよ」
シスターはうなずいて教会に戻っていった。


ササンはゴルドバに薬を届けに森の中を歩いている。
「いつきても不気味な森だなぁ。早く済ませて帰ろう」
魔物がいつ来てもいいようにササンは剣を構えている。
ササンの剣の腕前はというと、出て行った若い人の誰よりも強かった。
だから、その辺にいるくらいの魔物ならササンの相手にもならないのだ。
順調に進んでいたらササンの目にとんでもないものが映りこんできた。
ササンはとっさに茂みに身を隠す。
「何だあの魔物は」
全長5mくらいあるだろうか、とてつもなく大きなまがまがしい魔物が
そこにいた。
だが、最初に目をやるのは角。
角が全長の大半を占めている。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
魔物が叫んだ。
いっせいに森中の生物は逃げたようで、いままでうるさかった森の中が
嘘のように静まり返る。
ササンもその生物たちと同じように逃げたかった。
だが、いま逃げると見つかる可能性が高い。
それ以前にササンは恐怖で足がすくみあがり動くことさえままなら
なかった。
その魔物がササンの隣を静かに歩いていく。
「(早くどこかに行ってくれ。おねがいだ早くどこかに)」
ササンは怖くて怖くてたまらなかった。
ササンに魔物のまがまがしい声がはっきりと聞こえてくる。
ガサッ
「(しまった)」
しかし魔物は見向きもしなかった。
どうやら耳は発達していないようだ。
助かったと思うのもつかの間、まだ魔物はササンの周辺をうろうろと
している。
「(なんでだよ、何で僕の居場所がわかるんだ)」
恐怖を抑えて必死にササンは考えている。
「(そうだ、この薬だ!これさえなければ)」
ササンは恐怖という感情のせいでこんな簡単なことさえわからなかった
のだ。
そして、今いる反対の方向へ薬を投げ飛ばす。
魔物は薬のにおいをかいで、そのまま何もせずにどこかに消えてしまった。
「ふぅーー」
しばらくしてササンはやっと動けるようになり、薬の落ちている所に
むかった。
幸い薬には傷一つない。
ササンはこんな森早く出たいと思い、ゴルドバの家まで走った。
やがて森を抜けると一軒の小さな家が見えてきた。
ゴルドバの家だ。
ゴルドバの家は決してきれいだとはいいがたい外見である。
トントン
ササンはゴルドバのドアをノックした
「ゴルドバさんーお薬届けに参りましたよー開けてくださーい」
呼んでもいっこうに返事がない。
仕方ないのでササンはドアを開けて中をみた。
するとドアの向こうでゴルドバが倒れている。
ササンは駆け寄って
「ゴルドバさん、どうしたんですかゴルドバさん」
何度呼んでも返事はなかった。
体を見てみると腹部に大きな穴が開いていた。
ふとササンの頭にさっきの魔物が浮かび上がる。
「まさか!」
「少し待っててくださいゴルドバさん。村の様子を見てきますから」
屍とかしたゴルドバに何を言っても返事は返ってこない。
ササンは今までにないくらい急いで森を抜けていく。
「ハァッ、ハァッ、まさか、まさか、まさか」
ササンの予感は的中した。
村は全壊で、腹部に穴の開いた屍が転がっていた。



「父さん!シスターさん!みんな!」
ササンは叫んだ、しかし聞こえるのは自分の声ばかり。
ササンはジークを探した。
町の中心で剣をもってたおれている父さんの姿があった。
「父さん!父さん!しっかりしてよ」
いくら叫ぼうがジークは目を開けない。もう氷のように冷たくなっている。
「父さん」
ササンはもう言葉にならないようだ。
ジークの手から紙が落ちてきた。
その紙には走り書きでこう書いてあった

【ササン、今魔物が来た、家の中に隠れているが見つかるのも時間の
問題だろう。だからお前にどうしても伝えたかったことをこうして
書き残しておく。お前にはこう教えていたな両親は死んだって、ありゃ
うそだ。ほんとうは数年前、お前はこの村に捨てられていて、俺がずっと
そだててきた。お前が傷つくと思ってずっといえなかったんだ許してくれ。一応言っとくがみんな死んじまっててもいっしょに死のうとは思うなよ。
生きてればいいことはあるし、お前の両親にもあえる。せめて俺の歳以上
は生きてくれよ。じゃないと呪ってやるからな。俺は今から剣を持って
町のみんなを守るために戦う。だからおまえも恐怖なんか乗り越えちまえ。おまえが恐怖を乗り越えたときを見れないのは心残りだが、おまえならできるだろう。なんたって俺の息子なんだからな!どうやらこれが俺がお前に教えられる最後のことになりそうだ。お前との生活楽しかったぜ。じゃあな】

「うっ、父さんっ」
「僕のせいだ。僕が怖がりで、あの時あの何も考えずに魔物を村のほう
にやったから、みんなみんな僕のせいだ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
その日、ササンはみんなの墓を立ててマージを出た。
悲しい悲しい旅立ちだった・・・・・

2003/12/04(Thu)18:07:46 公開 / Ins S.F
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■作者からのメッセージ
一応第一章となっております
続きは結構あとになりそうです
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