『ナイトメアの終末』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:ティア                

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 ――――西暦2060年、アメリカ。
 そこに住む人々の顔に笑顔は無かった。
 10年前から悪化していったアメリカとロシアは、1年前、ついに全面戦争を始めた。
 アメリカはこの戦争に総力を結集し、戦いは両国間で今までに無いほど大規模なものとなった。
 そのため、人々は苦しんだ。戦争を望まない人々は生きる希望すら失うようになった。
 町中に歩く人々の中にあるのは苦痛と絶望の表情だけだった…。――――

 しかし、そんなアメリカのとある街に、ある日、不思議な出来事がおこってゆくのである…。

【――――ナイトメアの終末――――】

 私はアメリカのアルカ街に住む、[レベッカ・アーティア]という11才の女の子です。
 今日、8月31日、世間ではハロウィンという行事があって、私の部屋の窓から外を覗くと、他の子供達はみんな笑って楽しんでいます。
 私は…。外に出ることができません。
 昔から、体が弱く、特に足が弱くて、学校にも行けず友達がほとんどいません。
 だから、ハロウィンのお祭りの日も、ベットから起きあがって、外の景色を覗きこむくらいしかできないんです。
 のぞき込めば、私と同じくらいの年の子供達が笑っています。
 そうです。戦争が激しい笑顔が無くなった、こんな世の中でも、ハロウィンのこの日だけ、子供達の…。他人の笑顔を見ることができるのです。
「コンコン」
 不意に外の景色を今年も覗いていると、後ろからノックの音が聞こえました。
 私は、すぐに「はい、どうぞ」ととって返しました。
「やぁ、レベッカ。元気かい」
 ドアを開け、そう言ってくれたのは、家のお隣の、私の唯一の男友達である[エイベル・クラウス]でした。
 彼は私の病気の事をよく知っているので、毎日お見舞いに来てくれます。
 残念ながら、私の足は未だに治りませんが、彼がお見舞いにかかさず来てくれることに対し、いつか必ず足を治したいと思います。
 ダジャレやジョークの好きな彼ですが、毎年決まってこの日だけ、おかしな事を言うのです。
「レベッカ。今年もな、空からナイトメアがやってきたんだよ。そして子供達みんなにプレゼントをくれたんだよ、みんな大喜びさ」
「ナイトメアなんているわけないでしょ。それに空から来てプレゼントをくれるってサンタクロースの間違いでしょ」
 私は小さく笑って返しました。
 2年前から毎年、彼はこんなナイトメアの馬鹿馬鹿しい話をするのですが、私は真顔でいう彼が面白くてたまりません。
「ん〜…今年も信じてくれないのかぁ…。でも、君の足が治ったら、この日に外に出てきてごらんよ。ホントにいるんだからさ」
「はいはい」
 頭をかいて、そう言うエイベルに、私はクススッっと、また失礼にも笑って返しました。
 ナイトメア…確かお母さんからハロウィンの日に現れるカボチャをかぶった悪魔って聞いたことがあるんだけど…。
 あれは童話の世界で本当にいるなんて考えられないわ。それに悪魔なんだから、現れて子供達が大喜びするわけないもの。
「じゃ、今日は帰るね。よいハロウィンを」
 エイベルはそう告げて、私が手を小さく振るなか、部屋を去っていきました。
「ナイトメアかぁ〜」
 私はベットに横になり天井を見上げながら、そうぼやきました。
 ちょっとずつ、毎年の彼の態度からナイトメアの事が気になりだしたのかも知れません。
 考えているうちに時間が流れていきました。
 ベットの上で長く考え込んでいたので少しウトウトしてきました。
 寝ようかな…。とそう考えたその時、窓から大勢の子供の声が聞こえてきました。
 それは喜びに満ちあふれた元気のある声だったので、思わず眠い体を起こしあげ、窓から外を覗いてみると…。
 なんと、子供達が私の部屋の窓に群がっているのです。
 たまらず窓を開け、「どうしたの?」と子供達に尋ねました。
 すると、子供達は満面の笑みで、こう答えました。
「あのね、エイベルの兄ちゃんが、お姉ちゃんにナイトメアを連れてきてくれるから、ちょっと待っててね」
 うーん…子供達は一同、私に同じ事を語りかけてきました。
 信じられなかったけど、窓を開けて待つことにしました。
 すると、3分たたないうちに、向こうの街路地からエイベルが走って手を振りながらやってきました。
 しかし、それを確認した直後、私の視界に何かが飛び込んできました。
「わっ!」
 たまらず声をあげました。が、子供達は歓声といえるような声をあげたので私の小さな声は打ち消されたように思います。
 目の前には、目と口がキレイに開いている、カボチャをかぶった、小さな人がいました。
 窓の台に乗っていても、私の目線と変わらないくらいだから…。このカボチャの人は身長120cmくらいしかありません。
 驚いた私は一瞬ではわかりませんでしたが、すぐに、この人が噂のナイトメアだと思いました。
「だ、誰?」
 私はナイトメアにそう問いかけました、が、不気味なカボチャの下から、「キヒヒヒッ」と不気味な笑い声が聞こえてきました。
 それが笑い声が聞こえると、次にエイベルの声が窓の外から聞こえてきました。
「おーい、レベッカ! そいつがナイトメアだぜ」
 やっぱり、そうでした。…窓から顔を覗かせている、エイベルは事の他、はしゃいでるように私に言いました。
 依然としてナイトメアは笑顔のカボチャの仮面の下から「キヒヒヒッ」と笑い声をあげています。
「な、何の用なの?」
 私は怖くて、一歩後ずさりして、そう言いました。
 すると、ナイトメアは手を私に差し出しました。そして、聞き取りにくい声でしたが、ナイトメアは話しかけてきました。
「オ イデ 」
 確かに、「おいで」と、そう聞こえました。
 頭に?を浮かべている私に窓の外からフォローするようにエイベルが言葉を投げかけてきました。
「レベッカ。ナイトメアの手をとればお前の病気を今日だけ治してくれるぞ!」
 楽しそうに彼からそう言われました。
 でも、私はよく意味がわかりませんでした。私の足はそう簡単に治るものじゃないから…。
 しかし、私は無意識のうちに…彼の手をとろうと手を伸ばしていました。
 そして私がナイトメアの手に触れたと思った瞬間。
 視界の外の世界が回転しました。私は、ナイトメアの手に触れた瞬間、彼の凄い力で私の体は半回転しながら、空を舞ったのです。
 ドスンと体が地に着いたら、私はなぜか夢中で目をむつぶって、何かにしがみついたようです。
 しがみついた途端、急に突風が吹きました。顔に風が大きく当たりました。
 私は何が何だかわかりませんでしたが、風に当たるのに慣れてきて、目を開け辺りを見回しました。
 しかし、辺りを見回すと、さっきまでの私の部屋ではなく、青々とした壁と白のうにゃうにゃの模様が視界に広がっていました。
 まさかと思い下をのぞき込むと、小さな小さな、私が昔見た記憶のある、自分の街がありました。
 それを見て、ようやくわかりました。私は空を飛んでいる、と。
 驚きながらも興奮を覚えていると、手元から声が聞こえてきました。
「キヒヒヒッ」
 そう、ナイトメアの笑い声です。
 私はようやく全て理解しました。
 私の体は今、ナイトメアの背中の上にあり、その彼は空を飛んでいる、と。
 夢のようでした。それに気づきもう一度、真下を覗くと、一度見たときより更に小さい街が見えました。
 さっきは見えた、手を振る子供達も、もう見えないほどです。
 怖かったけど…私は大はしゃぎしました。
 足が病気になった7年前から、今日この日まで、一度も外に出たことは無かった。
 なのに、今、私は外を歩くどころか、飛んでいるのです。
 私はナイトメアと共に大笑いしました。久しぶりに心の底から笑いました。
 ナイトメアも不気味な笑いをずっとずっと続けていました。

 ある程度、風をあびたところで、急に私は身震いしました。
「ちょっと…寒いな…」
 そうボソッっと私が言った瞬間。
「わぁ!」
 ボフンという音と共に、私の体をいきなり何かが包みました。
 毛皮の子供用の服でした。
「キヒヒッ」
 驚いているなかにナイトメアの声が聞こえ、気付きました。
「ねぇ、まさか…魔法なの?」
 私はそう思い当たり、ナイトメアに聞きました。
 空を飛べるなら魔法を使えてもおかしくない。不思議とそう思いました。
 しかし、ナイトメアは返事を返してくれない…。かわりに「キヒ、キヒヒッ」と、ちょっと変わったリズムで相変わらずの笑い声を返してきました。
 自然に私は笑みが浮かびました。

「!」
 急にナイトメアが急降下を始めました。たまらず私はナイトメアにしがみつきました。
 ストッっと音がして、ナイトメアの足が地面に着きました。
 が、私は足が弱いので、ナイトメアにしがみついたまま離れません。
 しかし、ナイトメアは歩き始めました。いわばおんぶの状態で、私は彼にしがみついていました。
 すると、彼の足が止まり、彼の肩から降ろす私の手に何かを握らせました。
 すぐに私は片手を、視界の届かない彼の肩下から自分の視界に持ってきて、握った手をゆっくり開いてみると…。
 そこには小さなイチゴがありました。
 そっか…。辺りを見回すとここは、イチゴ畑のようでした。
 ナイトメアは自由のきかない私のため、イチゴをとってくれたんだ。と思いました。
「食べて良いの?」
 私はそう尋ねました。しかし、やはり相変わらず「キヒヒ」という笑い声しか聞こえてきません。
 小さなイチゴを私は口の中にいれると、その甘酸っぱさで心が満たされたような感覚がはしりました。
 私がそのおいしさに喜びの声をあげると、彼は笑い声で、また返してきました。
 いつの間にか、最初は不気味だった彼の笑い声が、今では小気味よく聞こえるようになりました。
 すると…。
「コラ! お前! そこで何をやっておる!」
 どうやらこのイチゴ畑は、今叫び現れたオジサンのもののようです。
 その声を聞いた瞬間、ナイトメアは急上昇しました。私の顔に突風が吹きます。
 私はもう、面白くて面白くてキャーキャーはしゃいでいました。
「怒られちゃったね」
 私が笑いながら彼にそう言うと、やっぱりあの笑い声が響き渡りました。


 気がつくと、私は夜のベットのなかにいました。
 いつの間にか眠っていたようです…。あたりにナイトメアの姿はありません。
 もしかして…夢だったのかな? と、そう考えました。
 が、手の中に何かがある事に気付き、ゆっくりと手の中を見てみると、そこには2個の、あの時食べたイチゴと同じものがありました。
 これは、ナイトメアのプレゼントだ! と思い嬉しくて嬉しくて、もう一度寝る気が起きないくらいでした。

 翌日、いつもどおりエイベルが私にお見舞いしに来ました。
 彼の第一声は「空の散歩はどうだった?」でした。
 私は昨日あった事をあるがままにエイベルに伝え、ナイトメアの話をずっとしていました。
 彼も私も笑い、目の色を輝かせていたと思います。

 そして、心の中で強くこう思っていました。
 来年のハロウィンが待ち遠しいなぁ、と。
 ナイトメアに会えるのは、ハロウィンの日だけ…。だから来年の8月31日まで待たないとなりません。

 あっという間に…一年の時が流れました。
 西暦2061年 8月31日、私は1才歳をとっていました。
 しかし、中身は全然変わってないように思います。
 今日は、ハロウィン。ナイトメアに1年ぶりに会える日、そう思うと、朝から興奮が収まりませんでした。
 エイベルが今年もプレゼントをもって、私の部屋を訪れた直後、ナイトメアが来ました。
 嬉しくて嬉しくて、涙が出そうになりました。
 そしてまた今年も空の旅を楽しみました。
 相変わらず彼は小高くあの笑い声をはなっていました。

 それから…

 また1年…さらに1年…と、時がどんどん過ぎていきました。
 毎年訪れるハロウィンは私にとって…いいえ、アメリカの子供達にとって、唯一笑顔があふれかえる日だったのです。
 しかし、時は残酷なものでした。
 時が進む間に、ロシアと私達のアメリカとの戦争は激化していき、大勢の人の命を犠牲にしました。
 ハロウィン以外の日は、滅多に他人の笑顔が見られない…そんな時代なのです…。
 しかも、ハロウィンで笑うのは子供だけ…、大人は1年を通して、ずっと戦争に疲れた暗い顔もちでした…。


 西暦2069年…初めてナイトメアに会った日から実に7回のハロウィンを迎え、笑いをもらい、今日にいたります。
 私は19才になっていました。しかし、相変わらず足は弱いままです。
 今日は8月31日、19回目のハロウィン…ナイトメアと出会ってから、8回目のハロウィンを迎えます。
 しかし、私の心は、ナイトメアが会いに来てくれる日だというのに、憂鬱でした。
 なぜなら、私はこのハロウィンを終えると20歳になり、大人となってしまうのです。
 ナイトメアは子供にしか見えない、と、エイベルから昔、教えられました。
 だから、ナイトメアに会えるのは、今年で最後かもしれない。
 その想いが私を苦しめていました。

「コトコトッ」
 ベットで寝っ転がっていると不意に窓から音が聞こえました。
 私はすぐに起きあがって窓を開けると、ナイトメアのカボチャの仮面が眼下に現れました。
 やはり私はおおはしゃぎで喜びました、が、反面、心の中では『最後』という言葉がうごめいていました…。
 3年前から私の体は大きくなったため、ナイトメアの体がたえられないらしく、空の旅は打ち切られていました。
 かわりに、こうやってナイトメアに話をしたり、ナイトメアからはびっくり箱やおもちゃで私を笑わせてくれます。
 世間は戦争中なのに、私は本気でこの日だけは笑います。
 しかし、今日は何かが違いました。
 いつもなら、ナイトメアは人気者のため、窓の外には子供達であふれかえっています。
 けど、今年は人っ子一人、窓の外に姿をみせる子供はいませんでした。

 少しして、ナイトメアが手招きしました。外を出歩くお誘いです。
 空を飛ばなくなった年からは、毎年、おんぶで私を乗せ街を歩いてくれるのです。
 すぐに彼の肩に手を伸ばし、例年と同じく街を散歩しました。
 結構街を歩き見た所で、ナイトメアは私を街角のイスに降ろしました。
 一休みみたいです。
 しかし、今年は何かが変です…。街角を笑顔で歩く子供達の姿がありません。
 そう考えていると、不意に目に飛び込んできたのは、目の前に横たわっている猫でした。
 死んでいるのかな? そう思って、私は指を指してナイトメアに運んできてもらうようお願いしました。
 ナイトメアはスタスタと倒れていた猫を抱き上げ、こちらに持ってきました。
「死んでる…」
 私は猫に手をあて、すぐにそう言いました。体が冷たく、猫は動きません。
 しかし、ナイトメアは「キヒヒ」という笑い声をあげたため、私は少しムッっとして返しました。
「ダメだよ。笑ったりなんかしたら。この猫、死んでるんだよ?」
 私はそう言ったが、ナイトメアはクビをかしげ、一言言った。
「シ  ン デ ル ?」
 久しぶりにナイトメアの笑い声以外の声を聞いたことで少し驚いた。
 だけど、笑っているガボチャの下では不思議がっているようだった。
 恐らく『死』という事が知らないんだろう、と思った。
「あのね…。生き物はいつか死ぬの。死んじゃったら、もう二度と動かないし…こうやって話すこともできなくなるの…。だから、悲しい事なのよ」
 ナイトメアは私の真剣な言葉を聞くと、いつものように笑い声をあげずだんまりした。
「… キ ミモ シヌノ?」
 確かにナイトメアが私の目の前でそう言った。
「うん、いつか…ね。まだまだ先だと思うけど…」
 ちょっと小さな声で言った。
 しかし、次にまたナイトメアは質問を重ねた。
「ジャア ボクハ?」
「あなたは…わからない。あなたは私達と違うから、もしかしたら、これからずっと生きているかもしれない」
 するとナイトメアは私の体にしがみついてきた。
 そして泣き叫ぶように、その小高い声で叫んだようだった。
「ヤダ サミシイ サミシイ サミシイ」
 彼は確かに『寂しい』と連発していた。
 どうやら私がいなくなる事は…彼にとっても寂しい事らしい。
 私は少し嬉しかった。今まで、もしかしたら私は一方的にナイトメアに無理言って、迷惑かけてるんじゃ…と考えていたから…。
 だから、彼の行動は嬉しかった。彼は迷惑なんて思ってない事が直に伝わってきた。
「大丈夫、すぐにはいなくならない…から」
 笑顔で私は彼に言おうとしたが、途中で言葉が詰まった。
 思いだした。今年が『最後』だということ。
 今年限りで私はこのカボチャのナイトメアに、会えなくなってしまうということ。
 それに気付いたとき、私の表情はどんどん暗くなっていった…。

 長く沈黙が続いた。
 私は、しがみつくナイトメアのカボチャの頭を子供を相手にするようになでていた。
 しかし、そんなゆるやかな時間は突如として打ち破られた。
 町中から叫び声が聞こえ、それがどんどん何人もの叫びに広っていった。
「ど…どうしたのかな?」
 私はナイトメアにそう言った。
 ナイトメアも町中から聞こえる叫びで跳ね上がって、辺りをキョロキョロしていた。
 徐々に私はあちこちから聞こえる叫びに不安がよぎった。
 すると遠くから声と、こちらへ向かってくる人影が映ってとれた。
「おーい! レベッカ! ここにいたのか!」
 エイベルだ。彼は遠くから、私のすぐそばまで全速力で走ってきた。
 彼は息を切らしながら、言いました。
「た、大変だ! ロシアのミサイルがアメリカへ向けて放たれたって…。そしてその爆弾が落ちる場所がっ…この街なんだ!」
 何の冗談? 最初はそう思った。
 しかし、彼の顔は青ざめていて、とても冗談とはとれなかった。
「み、みんな避難を始めた! 俺はお前のおばさんからお前が居ないって事を聞いて捜したんだ! さぁ俺たちも早…」
 彼が言い終わらないうちに、恐ろしい轟音が空から聞こえてきた。
 空を見上げると、いつもの青い空のなかに、巨大な黒い物体が落下しているようだった…。
 ミサイル…。すぐ見て、そうわかった…。まだ、そんなに地上から近くないはずなのに…。
 それでも肉眼で空にある事がわかる…それほどの巨大なミサイルが、ここへ落ちてくるというのだ…。
 私は意味不明な事を言い放っていた。心の底から混乱していたのだと思う。
 エイベルも上空を見上げ、観念したような…がっかりしたように顔をさげていた。
 私は動揺しながら…そして泣きながら、口走る。
「私達…もう死ぬのよ…」
 あとはもう何も言う気力になれなかった。
 いつのまにか地面に手をつき、泣き出していた。
 エイベルも泣いていた。彼の泣くところは初めてみたかもしれない…。
 そんななかで、ナイトメアが私に歩み寄ってきた。
 私は顔をあげ、ナイトメアと目を合わせると、彼はこう言った。
「シ ナセナ イ」
 悲しむ私の心に、その声は異常なくらい染み渡った。
 ナイトメアは私にそれだけを告げると、少しずつ、背を向け歩み始めた。
 私はただ呆然としていた。
 ミサイルの轟音がより大きくなっていた…。
 ナイトメアは、少し前方に移動し背を私に向けていた。
 そして…最後に、私に振り返りこう言った。
「アリガトウ…」

 その瞬間、彼は跳ね上がり上空へと舞い上がった。
 私が目を追うのが難しいくらい一瞬で彼は上空へと飛び出した。

 まさか…。

 そんな…。


 一瞬の静寂のあと、この街に大烈風が吹いた。空は轟音と共に燃え上がったように爆発し、雲は裂けた。
 周囲のビルの外装ははがれ飛び、窓ガラスは全て割れた。
 私とエイベルは、ホコリのように吹き飛ばされ、街の壁に激突し…。
 意識を失っていた…。

 ナイトメア…。


 目が覚めたのは、その日の夜。違う街の病院のベットの上だった。
 目を開けたら、包帯をおでこに巻いたエイベルと心配そうにのぞき込む、母さんと父さんの姿がありました。
 それから…。
 エイベルから全ての事情を聞かされた。
 あの時、ナイトメアは上空でミサイルと衝突し、ミサイルの勢いを止め…そして、彼自身…爆発に巻き込まれたらしい事が、告げられた。
 彼の行方は…つかめないままらしい。
 でも、私は彼が死んだなんて思わない…いや、思いたくない。
 きっと、彼は持ち前の不思議な能力で生き残っている。そう信じないと…また、弱い私がやってくる。
 また、涙がでてきてしまう。 私はもう泣かない。

 でも、出てしまった。
 涙が落ちたのはエイベルの手の上だった。彼はそっと手を差し伸べてくれていた…。
 彼は「生きてるさ」と、優しくそう言ってくれた…。
 そして、爆発したあとに私達のいた場所のすぐ落ちていたという物を、私のすぐ横に置いた。
 カボチャだった。
 中身のない。目と口が表現されている。カボチャ。
 私は、相変わらず笑顔である、その中身のないカボチャを笑みで返し、ずっと…ずっと…。

 ――――ずっと、見つめていた――――

2003/11/30(Sun)18:33:18 公開 / ティア
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■作者からのメッセージ
また長くてダラダラした文章です…。そのうち短くまとめ上げますね。
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