『夢を見ませんか?』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:翠                

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昔々の物語。さあ、今、その幕を開けよう。その先にあるのは……。


 「共に歩め、お前にふさわしい罰だろう?」
 鉄格子を通して、突き刺さる冷ややかな目。
 
 初めて、本当のことを知ったときだった。
 神なんていない。祈っても何にもならない。誰も信じてくれない。
 目の前には、今まで拝んでいた、信じていた偶像。
 ……仕事を増やしてやるよ。お前たちが困るくらいに、あの女とね。
 それが、俺がお前たちに下す、罰なんだから。

 分かったでしょう? あなたには、もう道がないということが。
 私と共に歩む道が、あなたが生きるための最後の道。
 さあ、行きましょう? 私たちの店へ。
 休む間もないくらいに、客が来るわよ。だってそこは……。
 
 
 『「鳥になりたい」と、思ったことはありませんか?
  悲しいとき、辛いとき、疲れているとき、ふと空を見上げて
  大空を自由に飛んでいる「鳥」に、憧れたことはありませんか?

  ここは、そんなあなたの願いをかなえる場所です。
  さあ、お話ください。あなたが、「鳥」になりたいわけを……。』

風に巻かれて、飛んできた一枚のチラシ。
全てが無色の世界で、それだけが鮮やかに見える。
まるで、少女にここへ行きなさい、とでも言っているかのように。
 
「……行ってみようか……。」

不思議なくらい素直に、そんな気持ちが芽生えた。
ふと顔を上げると、目の前には一本の道。その先に、一軒の店。
店の前まで歩いてくると、勝手にドアが開き、呼び鈴が静かに店内に響く。
入ってきた少女の目に留まったのは、美しく、可憐な女。

「あの、ここは一体、どこなんですか……?」

目が覚めたとき、いたのは無色の世界。何もなく、何も聞こえない。

女は、答えない。美しく形の整った唇から、微かに動く。
果てしなく長い時間を生き、妖艶なオーラを身にまとっているような女性。

「そうですね。あなたの心が作った場所―とでも言っておきましょうか。」

曖昧な返事を返して、静かに歩いてくる女。
木の床を歩く音が、静かな店内に恐ろしく不気味なほど響いていく。

「あの、私、さっきまで自分の部屋にいて……。」

そう、ついさっきまでは。でも、今は違う。
まるで、中世の世界にでも迷い込んだような店。

「ここはあなたの心の中。あなたの空想の中。」

少女の質問に答えているようにも、受け流しているようにも取れる。
あまりに的を外れた答えが、受け止められない少女。
手に握り締めていたチラシを、強くつかむ。女がそれに目を留める。

「……書いてありますように、あなたの願いが叶えられます。」

『鳥になりたい』

少女は、前からそう思っていた。鳥になれたら、と。
自由に空を飛び、つまらない世界を抜け出したいと。

「あなたほどの年頃の子が、よく訪れますわ。」

女の瞳が、妖しいまでに輝いている。少女の目を見つめながら。

「さあ、お話ください。あなたの願いのわけを。」

女の一言と共に、無色の世界が色にあふれる。
女の心を映し出したように、鮮やかに変貌するこの世界。

「その理由の重さを糧にして、あなたの夢が叶います。」

店内から響く、少女でもなく、女のものでもない足音。
黒一色の服をまとった、男が一人。背に、黒い翼を持つもの。
少女の目が、止まる。その片翼しかない男の翼に……。

「代金はそう難しいものではありませんよ、お嬢さん。」

男が、少女の前に歩み出る。片翼を、大きく広げて少女を包む。
少女が、その店を訪れるものが、自分を失うその瞬間。
酔いしれそうな口付けと共に、心を吸い取られる。

「代金は……そう、あなたの心を頂きます……。」

女は、天界から追放された、堕天使。
男は、地獄から追放された、夢魔。
二人が目指すもの、それは、果てしなく遠い彼方にある。
それを叶えるために、この二人は、手段を選ばない。


 そんな二人の物語、さあ、続きを聞きますか?
 ただし、どうなっても、私は責任は取りませんが……ね。

2003/12/14(Sun)22:15:53 公開 /
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■作者からのメッセージ
改訂しました。
大幅にいじりましたので、かなり違います。
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