『夢人 第八章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:棗                

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「時間」



「…俺が何か?」
「あの、あれだよ。ボクが見た夢」
大声で笑っているシェル。普段ならまあこのまま話題が流れるのだが、この時ばかりはフィルの視線が痛かったらしく、すぐに笑いを止めた。
「本当に。大真面目な話よ。私とカルルが同じ夢を見たの。」
淡々と、彼女は説明している。さすがに彼も言葉に詰まり、床に座り込んだ。
「どんな夢だよ。」
ここからは、ボクが淡々と語る羽目になった。

「…つまり、カルルが白、あれが剣士、んで俺は黒なんじゃないか、と。」
シェルは人間的に馬鹿かもしれないが、とりあえず脳みその方は馬鹿ではない。案外すぐに内容を理解してくれたのは、ありがたかった。
「…てことは、どういう事だ?」
前言撤回。やっぱ阿呆だ。
と、その時。

「やあ諸君!いかがお過ごしだい?」
金髪の髪の毛のあの人が乗り込んできた。
ご想像の通り、あのティル・アーティムだ…。
「…何でここに…?」
ボクは言った。無意識に殺気が篭る。貴公子は少しひるんで、しかしまた開き直って言った。
「なんだいなんだい、つれないね。あたかもボクがここに来てはいけないかのようではないか」
(いけねぇんだよ…ッ!)
この場に居た全員がきっとそう思ったが、彼は能天気にこう言った。
「ところで、君たちは何でここにいるんだい?」
「それはこっちの台詞だよ―――ッッ!!!!」
見事に三人ハモった。


どうやら、シェルの親戚が、彼を数日前にここに泊めると言っていたらしい。それでやってきたのだという事だ。
「そうだ、あのさ。町に入る時、何で血を流してたんだよ」
シェルがさらりと聞いた。貴公子は右腕に残った傷跡をさすり、その後答えた。
「いや何、先日お泊め頂いたお宅に大きな犬が住んでいてね。そこの犬がえらく凶暴で、私が頭を撫でようとすると右腕にがぶりと噛み付いたという寸法でね。しかもその後に何故かその犬の鎖が外れ、町の門までずっと追いかけてきたのさ。それを私は逃げていた、そこへ君たちがやってきた」
(うわぁ、めちゃめちゃ格好悪い…)
口を挟もうとすると、貴公子は更に喋り続けた。
「そして君たちに出会い、手当てをしてもらい、その後逃げられ、近所の公園で野宿をしてね。そうしたらたまたま同じような境遇の安田さんという人がいてね、色々と語り合ったのさ。安田さんは妻と子供に逃げられて大変な思いをしたらしいよ、って、ん?」
部屋の中はもぬけの殻。哀れな貴公子、アーメン。


「ねえ、何で逃げる必要があるのよ!」
フィルが背後で息を切らしている。ボクに言われたって分からない。シェルが猛スピードで僕の腕を掴んで走っていくのだから。
だんだん目が回ってきた頃、やっとシェルが立ち止まった。
振り返る。
誰もいない。
「よし、逃げ切ったな」
爽やかに言い切った彼に、フィルが怒りを込めて、思いっきり蹴りを入れた。
「うわ、痛そう…」
思わず言ってしまう。シェルは道路に膝を付いていた。腹に入ったか…。
膝を付いた彼の手にはしっかりと薬局のビニール袋が握られている。その中から数個、目薬が転がっていた。
闇夜の中、シェルはボクを見た。

赤い瞳が、暗闇で光っていた。

「…いつまでもこうしてる訳には行かない。俺たちには時間がないんだ。」
シェルは、道路に堂々と座り込むと、フィルに視線を向ける。彼女は少しためらって話し始めた。
「…でね、その黒い人は、白い人に、こう呼ばれたのよ。そして、多分あたしもそう思った」
ほんの少しの間を置いて、フィルはキッと視線をシェルの真ん前に向け、良く通る声で言った。

「死神は、つまり―――あなただと、思う」

赤い目は見開かれていた。そして、瞳の奥に瞬く光には、何かが渦巻いていた。

闇が光と交差する
暗闇の中に、更に深い漆黒の闇が交差する
その中で輝いている星は、わずかな雲に覆われて
霞んでいった


2003/11/21(Fri)21:57:06 公開 /
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