『夢人 第七章』 ... ジャンル:未分類 未分類
作者:棗                

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「運命」


ボクは、ふっと目を開けた。
「うぁ〜…良く寝たな…」
目を擦って時間を見る。朝の5時半だった。
床から起き上がり、周りを確認する。特に変わった様子はなかった。
横を見ると、フィルも爆睡している。近くに、仮にも異性がいるという感覚はないんだろうか?そう考えていると、ふとボクは思い出した。

何だか妙にリアルな夢の事を。

ボクは、落ち着いてあの夢を分析してみる事にした。
最初に、母さんが出てきた。で、何かを言って、その後に鬼みたいな顔になった。
次に見ると、母さんは黒い服を着て、大きい鎌を持っていた。アレは多分母さんじゃない。
そうしたらボクはそいつを「死神」と呼んだ。死神、うん、ぴったりだ。
その後に意識がなくなって、気が付くとボクはそいつを吹っ飛ばして…。

もう思い出せない。
はぁ、と軽い溜息が出た。たかが夢じゃないか。この前見た夢だって、多少暗示的ではあったけど、ただの悪夢に過ぎない。
それでも怯えてしまう自分が情けない。
軽く自嘲すると、ある人物の姿が見当たらない事に気付いた。

「…シェル?」
寝起きで、まだ頭がぐらぐらするが、台所の様子を見る事にした。
案の定、シェルは片手にフライパンを握って床にあぐらをかき、そのまま眠っている。
(修行僧みたいだな…)
ちょっとこのまま様子を見て、からかってやろうかとも思った。けど、今すぐ夢の事を相談したかったので、彼を揺すった。すると、眠たげに瞼が動く。

そして、彼の瞳の色が映った。
と、ボクは叫んだ。
「シェル!お前目の色!目の色が変!」
「ぬ!?」
彼は洗面所に駆け込んで行った。そして、鏡を覗き込む。
「うわ!なんだよコレ…」
シェルの目の色は、真っ赤になっていた。
そして、ボクが駆け寄る。
一瞬、彼は思い当たる節を見つけたような素振りを見せたが、すぐ頭を振って言った。
「酷い充血かもしれない。目薬でも買ってくる」
玄関のドアは、乱暴に閉まった。


「どうしたのかしらね?」
いつの間にか状況を見ていたフィルが、急に話しかける。
「さあ?」
そう答えるしか、選択肢は無かった。
彼女は長い髪の毛の毛先をくるくると弄びながら、突然言葉を発する。
「あのね、私、剣のストラップを枕の下に敷いてたから見た夢なのかもしれないんだけどね。私が剣士になって大活躍する夢を見たのよ」
まさか同じ夢を見ていたんじゃないか、という考えが、一瞬頭をよぎった。でも、そんな事は有り得ない。
「へえ、そうなんだ」
ボクは出来る限り動揺を隠して答える。フィルは続ける。
「あのね、白い服を着た人と、黒い服を着た人がいるの。で、黒い人が悪い奴なのよ。で、私はそいつを背中から刺しちゃうの」
彼女はひい、とわざとらしい声を上げる。ボクは、冗談だとしてもやめてくれ、と心の底から願った。
「その続きは?」
聞いてみる。どうか違っていてくれ、という願いを込めて。
「あのね、白い人が黒い人をぶっ飛ばすのよ。で、黒い人の服がはがれるのよね。素っ裸にはならないんだけど。」
ボクは目を見開いた。
白い人とはきっとボクのことだ。そして、黒い人とは―――
「なあフィル、黒い人って両手に鎌を持ってなかったか?」
フィルはびっくりしたようで、動きを止め、こっくりと頷いた。
「そうよ―――でね、その鎌を持った人は、白い人にこう呼ばれたの―――」

「死神」

二人で同時に呟いた。


窓の外は生暖かい風が吹いていた
空に描かれた、美しいコントラストは崩れていた
若々しく茂った街路樹も
今は黒く、日光を求めて影を伸ばしていた


「…ったく!暑いんだよこの時期は!」
俺は、さっきからこの言葉を連発していた。
まだ朝だというのに、こんなにも暑い。暑い港町の夏だ。暑くない訳が無い。暑くなかったら怪奇現象だ。
いや、俺の目のほうが怪奇現象か。
そう思い、瞼に手を当てる。さっき薬局で、十本目薬を買ってきたうちの六本を全てさしたのに(かなり痛かったが)、一向に目の赤みは治らない。
しかも余計酷くなった。涙が次から次へと溢れるので、更に酷く充血をしたかもしれない。
かと言って目を開ければあちこちでじろじろ見られてかなわないので、今は眼帯をしていた。
しかし、眼帯をしても片目は隠せない。両目を二本の眼帯で隠そうとしていたら、これもじろじろ見られてしまう。
(いいや、帰ってからフィルにでも差し方を教えてもらえばいい)
俺は、さっきからこればっかりを考えていた。


「目薬四本買ってきた!」
陽気な声がいきなり部屋に入り込んだ。
彼の手には【猫また薬局】と書かれたビニール袋がしっかり握られている。目からはかなりの涙の跡。
どうせ目薬の差しすぎだろうと思ったので、特に気にはせずに迎え入れた。
「おかえり」
僕らがえらいローテンションだったので、シェルはがくんと拍子抜けしたようだった。
「なんだその間抜けな声は!それが君らの友人に対する態度かね?」
「違うの」
フィルは、冷静に、きっぱりと言った。ボクは続ける。
「あのさ、シェル。もしかすると、君も関わっているかもしれない事なんだよ」


涼しい風が窓の外で囁いている。
暗い緑色の木の葉が、窓ガラスにぶつかって、軽く音を立てた。
まるで、嵐のような凄まじさで
心地よい温度の風が、音を立てて囁き始めていた。


2003/11/20(Thu)23:31:51 公開 /
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