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『付いてくる』 ... ジャンル:ショート*2 未分類
作者:あー……うん
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「死にたいって言うから」
何かが勢いよく衝突する音と共に私は気付いた。目の前には、フロントガラスが割れている自動車と
血を流し倒れている男性。え? 何これ。ていうか、私はなんで此処に? 記憶がない。
私は怖くなって、事故現場から離れようと踵を返した。
「きゃっ!」
背後を振り向いた瞬間、私は驚きのあまり悲鳴を上げてしまった。
何故なら私の背後に、何十人という人々が立っていたから。事故現場の野次馬だろうか。
「あ、すいません。通ります」
私は多くの人々の間を縫うようにして、その場から立ち去る。
しかし、複数の足音がずっと私に付いてくる。
「はぁ……もう死にたい」
会社からの帰路を歩きながら、自然と漏れた言葉。
今日、俺は会社をクビになった。二十歳から十五年間勤めてきた会社。
だが、会社を恨んではいない。俺がクビになったのは当然の事なのだ。俺には、仕事の才能がない。
会社に貢献する事もなく、給与泥棒をしていたようなモノだった。
だからこそ先が見えない。暫くは失業手当で生活出来るが、そのあとは……。
「ん? あの……何か?」
不意に背後に気配を感じ、振り向くと一人の女性が背後に立っていた。その距離五十センチ。
顔が近い。……でも、ちょっと可愛い。年は二十代後半といったところだろうか。
「えーと……、何か用ですか?」
女性は悲しそうな表情をして、こちらの瞳をただひたすら見つめて来る。
いくら話掛けても返答はない。一体なんなんだ? 少し気味が悪くなり、俺は無視して歩き始める。
今の時刻は、午後7時を過ぎた頃。二月半ばの寒い暗闇の中に足音は二人分。俺は歩みを止める。
すると足音は消える。
「……なんなんですか? 何故付いてくるんですか?」
一定の距離を保ちながら付いてくる女性に振り返り声を掛ける。が、彼女はやはり答えない。
俺はいよいよ不気味に思えて、歩を早めた。それでも彼女はしっかりと付いてくる。
ははは! ストーカーか!? 俺みたいな冴えない男にもストーカーが付くものかね。
冗談じゃない! 俺は思い切り地面を蹴り出して、彼女との距離を開こうと全速力で走った。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
ほんの少し走っただけで限界に到達。年は取りたくないものだ。だが、これで彼女を巻け――。
後ろを振り向くと、そこには、俺の背後にしっかりと彼女と――二人の男性が付いてきていた。
なんで増えてるんだよっ!!
その後、俺は男性二人にも話を掛けてみたが、どちらも彼女と同じく無反応だった。
まさか、俺を拉致しようと考えているのだろうか。いや、それなら黙ってただ付いてくる意味がない。
はっ!? 俺の家を突き止めようというのか! 家なら金目のものあるだろうと……。待て。
こんな回りくどいやり方はおかしい。そもそも、隠れもせずに堂々と付いてくる意味がわからない。
くぅーっ、本当になんなのこいつら!
「あ」
視界に入ってきた建物を見て、思わず声を出した。そうだ、なんで簡単な事に気づかなかったんだろう。
俺は交番へと駆け寄った。彼女達はそれでも俺にしっかりと付いてくる。
「おまわりさん助けて下さいっ! 変な奴らに追われているんですっ!」
交番の中には、机で作業をしている警察官が一人。俺の言葉に気づくと、ゆっくりと立ち上がり
俺の後ろの不審な奴らの元へ。これでようやく助かる。警察官は、彼女達と共に俺の背後に立ち
俺の方を見つめている。……は?
「おまわりさん、何してるんですか? は、早くそいつらをなんとかして下さいよっ」
そんな訴えも虚しく、警察官はただ無言で俺を悲しそうな目で見つめるだけだった。
ありえない。こんな事、現実的じゃない。何かがおかしい。狂っている。
その場から走り出した。とにかく逃げるしかない。奴らは俺を追いかけてくる。
走っても駄目だ。追いつかれる。すぐ目先にタクシー乗り場があった。
幸い周囲には誰もおらず、タクシーは一台だけあった。あれに乗って逃げよう。
「運転手さん、すぐに車を出して下さい! 変な奴らに追われているんです!」
もしかしたら、という考えは心のどこかにあった。でも、それを打ち消していた。
そんな筈はない。ありえないと。けれど……、運転手は付いてくる集団の中に入った。
「うわぁっ!」
逃げる! 逃げる! 逃げるっ!
息が苦しい。吐きそうだ。何故俺はこんな目に合っている? 俺が何をした?
特に良いことはしてないけど、悪い事だってしていない。ただ地味に生きてきただけだ。
それなのに、なんでこんな理不尽な目に合わなければならないんだ!
俺の何処が悪――。
逃げるのに必死で、信号なんて見ていなかった。気づいた時には、目の前まで車が迫っていたんだ。
最後に最初に付いて来た彼女の最初で最後の言葉が耳に残った。
「死にたいって言うから」
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2012/02/19(Sun)12:55:19 公開 / あー……うん
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■作者からのメッセージ
今回は前回のアドバイスを受け
わかりやすいストーリーと、彼女がヤバいと同様に
二度目読むと見方が変わってくる作りにしてみました。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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