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『向日葵の唄 (Time Travel シリーズ)』 ... ジャンル:リアル・現代 ファンタジー
作者:木の葉のぶ
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あらすじ・作品紹介
短編ですが、前作の「時間屋と飴」とつながっている部分がありますので、もし良ければ読まれていない方は「時間屋と飴」を読んでからこちらを読んでいただけるとありがたいです。
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3、向日葵の唄
じっとりと、太陽がまとわりついてくるような感覚に、奈津は襲われた。
熱くなってくる縁側に座っていた彼女は、ふいに息を止める。
一、二、三。
二十五まで数えた時に、苦しくなってやめた。
はあはあと息を吐く。心臓はさっきまでよりずっと早くなっていた。
(どれだけ、息をしなかったら)
蝉の声がわんわんと頭の中まで入ってくる。
(人は、死ぬんだろうか)
そんなことばかりが、奈津の心の中に溜まって渦巻いていた。
***
奈津が、自分の父が何カ月かしか生きられないことを知ったのはついこの間だった。
癌が見つかるのがもう少し早ければ、病状の進行を遅らせることもできたらしい。しかし、父のものは痛みもなく、気付かないうちに父の体を蝕んでいた。
母が父を田舎の実家へ連れて行こうと言った。自分の仕事はネット環境があればなんとかなるものだし、淀んだ空気の都会暮らしを続けるよりは、自然の多いところで療養した方がいいと医師も言っていたからだと。それもあるが、残りわずかな時間を自分の故郷で安らかに父に過ごしてほしいという母の希望でもあった。
あっという間に決まった引っ越しに、奈津はどこかうわの空で付いて行った。
***
少し息を止めただけでは、心臓が苦しくなるばかりでちっとも死ねない。じゃあ、心臓がゆっくりになってやがて止まるときというのは一体どんなふうなのだろうか。そして、心臓が止まった時に意識もなくなって、死ぬのだろうか。
父は。
とりとめもなく考えては、奈津はため息をつく。日差しの熱で息までもが生温かい。この大きな家にはなけなしの扇風機くらいしかなくて、始めは暑い暑いと文句を言っていた奈津ももう慣れた。遠くの入道雲を眺めながら、彼女はまた考えにふける。
死なんて、中学生の自分には遥か彼方にあるぼんやりとしたものでしかなかった。それが、自分の父親という近い存在に振りかかってきても、同じようにはっきりしないもののままだった。医師から「もってあと何年」だのと聞かされたって良く分からない。ああそうですか、と答えるだけだ。
けれど、その時がきたら、父がいなくなってしまうのだということくらいは、それくらいは、奈津にも分かる。ある日突然存在が消えてしまうのだ。肉体はあっても、もう二度と父は笑ったり話したりはしない。いなくなってしまう。この世から、跡形もなく父の心は消えてしまう。
奈津は奥の寝室の方に目をやる。もしも部屋に行って、寝ていたと思っていた父が息をしていなかったらどうしよう。もう二度と目を開けなかったらどうしよう。今はまだ大丈夫、と言われていても血の気が引くほどの恐怖を感じる。
たまらなくなって、奈津は立ちあがった。広い静かな家のどこにいても気がつけば頭がそっちの方へ行ってしまうので、縁側まで来てしまったが、ここにいても変わらない。歩いていた方がまだ気がまぎれると思った彼女は、麦わら帽子をかぶり、散歩に行くことにした。
蒸されるような暑さの中、どこへ行くというわけでもなく歩く。舗装されていない土の道や咲いている小さな花は、都会暮らしの奈津にはめずらしいものだ。今日はいつもと違う場所に行こう。田んぼを抜け、家が並ぶ通りとは反対の木立の茂る小道へとそれる。
この小さな集落に来て一週間、だいだいの地理は覚えたものの一人で出歩くことはなかった奈津は、半ば探検気分で草をかき分ける。宿題も終わって一日中することなんてない毎日にあきあきしていたところだ。別れ際、私に再び話しかけてくれた親友はいまどうしているだろうか。また東京に行った時には絶対会おうと彼女は決心していた。そうすればまたいつもの笑顔で迎えてくれるだろう。
時々耳のそばを羽虫が通って吃驚して首をすくめる。虫よけ持ってくれば良かったな。途切れそうな一本道は細々と、けれど林の奥まで続いていて、奈津はさらに奥へと足を進めた。むっとするような熱気に、眼鏡のレンズが曇ってしまいそうなくらいだった。
どれくらい歩いただろうか。ふいに木々の並びが途切れ、一気に青空が広がる。道はそこで終っていて、奈津は足を止めた。
何もない。手入れされていない芝生のような草が生えているだけで、なにもない場所がただただそこにあった。大きな家が一軒立ちそうなくらいの広さの土地の淵は崖になっていて、見下ろせば眼下には森が広がり、真正面には山がごうごうと連なっていた。そして、
(男の子……)
その草が生えただけの何もない地面の上に、人間がたった一人で座っていた。その後姿を奈津はじっと見つめた。
背の小さい小学生といったところか。格式高いヨーロッパの紳士のような服装で、真夏にそんな恰好をして暑くないのかと奈津は思った。自分の頭より大きいシルクハットをかぶっている。その端から伸びる髪は白く、透き通った色をしていた。肩には黒いカラスくらいの大きさの鳥がいる。一人と一羽は何をするわけでもなくそこに座って、目の前に広がる景色を眺めていた。
(サーカスの役者さん、とか)
そんな人がこんなへんぴな村にやってくるのだろうかと奈津は訝しむ。あの、と声を掛けようとしたとき、ふいに男の子がこちらを見もせずに言った。
「やあ。お客さんだね」
立ちあがって、驚いて立ちすくむ奈津の方に向き直った男の子の目は髪や肌の色よりもっと透き通っていて、ビー玉のような蒼色だった。フランス人形のような顔立ちだが、顔は幼く見え、着ているものと不釣り合いである。
「あれ……キミは」
奈津の顔を見た男の子は少し意外といった顔をして、そのあとすぐに笑った。
「あはは、僕はキミに会ったことがあるよ。正確には見たことがある、かな」
それが時間屋という不思議な少年と奈津の出会いだった。
***
「まあ、僕の話を信じるか信じないかはナツ次第だよ。もっとも、僕は嘘なんか付いてないけどね」
いつもの営業文句とばかりにぺらぺら喋りつくした時間屋と名乗る男の子は、にいと口元をあげた。
奈津はその話を驚きつつただただ聞いていた。時間を売る。対価を払った分だけ長い間、時空を超えた場所に連れて行ってもらえる。過去で過去の自分に触れれば、その時間の自分と入れ替わることができる。
「現実味が……」
ない。
まるで、空想のおとぎ話を聞かされているように奈津は感じた。ああ、この感覚、何かに似ている。それを懸命に手繰り寄せてみれば、
(ああ、そうか)
死について考えた時と同じだ。
現実味がなくて、どこか遠い話をしているようで。
「あなたの話がもし本当なら、あなたは魔術師なの?」
「そんな空想じみたもんじゃないよ。僕の能力は時空を超えてタイムスリップみたいなことができるってだけ。この懐中時計を使ってね」
時間屋が懐から取り出したのは金色に鈍く輝く懐中時計。真夏の太陽に反射してぴかぴか光っている。
「……じゃあ私からも質問。あなたはなぜここにいるの?」
「それは、あなたが旦那様の力を必要としているからです」
突然口を、いや嘴を開いた鳥に奈津はぎょっとした。
「うわ!? 鳥が喋った!」
「鳥が喋って何が悪いですか、お客様」
時間屋に聞けばこの鳥はハルという九官鳥で、彼の助手だそうだ。
「私が、あなたの力を……?」
「そうだよ。必要とされる人のところに時間屋は存在する。ナツの悩みは何だい? あるいは、希望とか」
「確かに悩みというか、考え事ならあるけど……あなたの能力って、タイムスリップするだけでしょう? 別に私は」
過去へ戻ろうが未来へ行こうが、父親が病で死んでしまうかもしれないという事実は変えられない。
「あなたは、もう治る見込みのない人の病気を治せたりする?」
「ははは、そんなことできるわけないじゃん!」
笑われて奈津は少し腹が立った。こっちは真剣なのに。
「じゃあ、過去や未来のどこかに不死の病を治す薬があるか知ってる?」
「だからー、そんなこと知らないって。何度も言うようだけど、僕は何でもできる魔術師じゃないんだからね」
「それなら私はあなたの力なんていらない。時間を売ってもらったって私には意味がないもの」
死がなんたるかなんて、自分が分からないだけで世界をどうこうしたってわかるものじゃないと奈津は考える。
太陽は少し傾き、風が吹き始めた。頬を伝う汗が冷えて行くのを奈津は感じた。
「そんなことないよ! ほら、時計がナツに反応してる」
見れば時間屋の小さな手のひらの中で、懐中時計が淡い蒼色の光をこぼしている。陽がこんなにも照っているのにそれははっきりと見えていた。
「ナツは僕らの力を必要としているんだ。それがどうしてか、どのようにしてかはナツ自身さえ分かっていない。それだけなんだよ」
奈津を見つめる時間屋の目は星をまぶしたようにきらきらと光っていた。
「この場合、料金を決めるのが難しいなあ。依頼人自身が行きたい時空やそこでの滞在時間を決めていない際は……かあ。なあハル、こういうときはどうしたらいいの?」
「それは旦那様がお決めになることです」
九官鳥はスマートに返した。
「あっそ。じゃあ適当でいいや」
そう言うと、時間屋は奈津にあることを提案し、奈津もそれを受け入れた。
「それじゃあ、何も考えずに時計に触って。僕も一緒にナツの望む時間へ飛んでいくから」
「……わかった」
魔法のように光をあふれさせる懐中時計の蓋の上に奈津が手を乗せると、途端にまばゆいほどの閃光が幾本も飛び出した。ぶるぶると震える時計にびっくりして手を離すと、かぱと蓋が開く。中では文字版の数字と針が踊り、回っていた。隣で時間屋が呪文のようなものを呟くと、数字や針が一本、一本とその動きを止め、決まった位置に定まっていく。そして、最後の一本の針が動きを止めた瞬間、
奈津の足元には何もなかった。一瞬にして視界が真っ暗になり、時間屋が微笑んでいたように見えたのが最後だった。
***
「……み! おい君!」
はっとして目を覚ました奈津の目には、先ほどと同じように広がる青空と、一人の男の心配そうな顔が映った。
「ああ、良かった。気がついた。まったく、こんな暑い日にこんなところで倒れてるから驚いたよ」
心底安心したという表情を浮かべる男のことを、奈津は仰向けに倒れている状態でまじまじと見つめた。
間違いない。この人は、この人は私の、
「、おと……」
言いかけて口を噤む。男は確かに奈津の良く知る人物だが、普段見ているよりずっと若い、モノクロの写真でしか奈津が見たことのないような二十歳くらいの青年だった。しかし、眼鏡の形や困ったように笑う顔は、奈津が幼いころから見てきたそれと全く変わらない。
奈津が起き上がってみれば、そこはついさっきまで異国の不思議な少年と会話していたのと同じ開けた草っぱらで、ふと気配を感じて背後の森を振り返れば一羽と一人が茂みに隠れてじっと奈津の様子をうかがっていた。
「あの、今年は西暦何年ですか?」
唐突に奈津が男に聞けば、
「不思議なことを聴くなあ」
と言って教えてくれた年号はまだ奈津自身が生まれてすらいない、なじみのない時代。奈津が生きている『現在』からみた二十三年前だった。
ああ、彼の言っていたことは本当だったんだ。
私、過去に飛ばされちゃった。
「君はどこの子だい? この変ではあまり見かけないが……」
「私は……私、親戚の家がこの近くにあるので遊びに来たんです」
妙な嘘をついてから、もし本当のことを言ったら男はどんな反応をするのだろうかと奈津は思った。私、あなたの……なんです。いや、色々な意味でやめておこう。
「そうか。ここの夏は暑いから気をつけなよ。あんなふうに寝ころんでいたら、いつ干からびてしまうかわからないからね」
男の言い回しにくすりと笑う。この狙っているのかいないのか良く分からないところまで、彼女の知っている彼とそっくりだった。
「はい、気をつけます」
それにしても。
時間屋と彼の懐中時計はどうして自分をここへ連れて来たのだろうか。奈津は眉根を寄せた。別に望んでいたわけではないのに。
ふいに男が鞄から見慣れない道具を取りだしたので、奈津は考えるのをやめて尋ねた。
「それ、何ですか?」
「これ? これはキャンバスを立てるイーゼルだよ。これから油絵を描くんだ。暑いからそこの木陰でね。ここより涼しいから、君もこっちへ」
少し大きな木の陰になる場所に奈津が行くと、木陰からひょっこり時間屋が顔を出した。
「結構いけめんじゃあない?」
「静かにしててよ」
男もやってきた。折りたたみ椅子を開いて腰掛ける。
「ん? 何かいるのか?」
「いえ、気のせいです」
ちょっと変なガキがそこに、なんて言えたものではない。
くすくすと笑うと、彼らは茂みの奥に退散していった。
男はキャンバスをイーゼルに立てると、目を景色と白い布地に行き来させながら太い鉛筆でデッサンを始めた。
「ここは見晴らしが良いですね。初めて来ました」
「そうだなあ、晴れた日はいつもこんな感じだ」
「良くここに来るんですか?」
「ああ、家がそこの木立を抜けてすぐのところにある。君の御親戚の家もこのへん?」
「ええ、まあ」
とりとめもない会話や絵についての話がぽつぽつと交わされる。中学の美術部に入っている奈津はふと気がついた。男の絵の描き方と自分の描き方がそっくりなのだ。始めに鉛筆で粗く下書きするところ。原色を乗せて下地を作るところ。あまり筆のタッチが細かくないところ。
現実の『彼』が絵を描いているところは奈津は見たことがなかった。仕事が忙しくて描く暇がなくなったのだろうか。
山を覆う影が少し暗くなってきた。雲も少し出てきたが、まだまだ空は青い。何年時が過ぎようが山や空は変わらずそこにあるのだということを奈津は体感した。
「僕はここに生まれた時から住んでるけれど、ここ数年は東京にマンションを借りて住んでるんだ。だからここに来るのもお盆だけになってしまってね。秋は紅葉、冬は雪化粧が綺麗なのだけれど、君にも見せてやれればなあ」
その情景を目に浮かべるようにして男は奈津に語った。それを聞いた奈津の心の中で、何かがちくりと痛む。
父は奈津が生まれてから、お盆の季節にしかここへ帰ってきていない。この山がまた赤や黄色に染まるのを、雪で真白になる様を、床についている彼は見ることができるのだろうか。それとも秋や冬が来る前に……
「あの、幸彦さんは」
考えを振り払うように奈津は男の名前を呼んだ。この時点で彼の名前を見ず知らずの少女が知っているはずがないのだが、そんなところまで彼女の気は回らなかった。
「自分の大切な人が死んで、見送ったことはありますか」
訊いてから後悔する。初対面の人間にそんなことを聞く人なんていないのに。
「君は、その経験があるのかい?」
絵から目を離さずに男は奈津に聞き返した。
「ありません。でも、もしかしたら近い将来、そうなってしまうかもしれないんです」
私の大切な家族が。あなたが。
「怖いんです。死を目前にしてる人なんてどう接したらいいかわからない。なんて声を掛けたらいいかわからない」
顔を陰らせた奈津の方を向いて、男はまた尋ねた。
「君はその人に対して、向き合うのが怖いのか」
「……はい」
「そうか」
それからしばらく沈黙が続いた。たまに吹く風で木々がざわめく音だけがする。時間屋たちはどこかへ行ってしまったようだ。
「僕も、友人を一人、見送ったことがある。その時に同じようなことを考えた」
どれほどたったかわからないくらいの間のあと、ぽつりと男が呟いた。
「けれど、明確な答えなど何一つわからなかったし、死が何なのかもわからいままだったよ。君と同じように」
「……」
この人に分からないことが、自分に分かるはずがない。奈津が落胆して俯こうとしたとき、ごうと風が吹いた。立てかけてあったキャンバスがかたかたと揺れ、三つ編みの彼女の髪も揺れた。
風の中で、男が続けて言った。
「でもね、一つだけ分かったんだよ」
「え……」
「分からないことだらけの僕たちにも、できることがある。その人がこの世から消えてしまうまで、たとえ消えてしまっても、」
風がやんだ。
「彼らの前ではいつも笑顔でいることだ」
たったそれだけのことだった。
たったそれだけのことだったんだ。
たったそれだけのことが、どんなに大切かを、私は忘れていた。
「ありがとう。教えてくれて」
奈津の肩の力が、ふっと抜けた。
いつの間にか、空は陽が傾き始め、赤みを帯びていた。
なんだか体が軽くなる気がして自分の手を見た奈津は、それがだんだんと透けて行くのを見た。
「君の望みは果たされた。さあ、もう契約の時間は過ぎたよ」
いつのまに現れた時間屋は、奈津にそう告げた。肩にはいつものように九官鳥がいた。
「私、もう行かなきゃ」
「そうか。僕も描き終わったし、帰るとするかな」
「お話するの、とても楽しかったです」
「こちらこそ」
立ち上がった男は、道具をしまいながら奈津に小さな声で言った。
「不思議なほど、よく似ているな。……さんに」
「え?」
聞き慣れた名が呟かれたのを感じて振り向くと、
「あ、いやいやなんでもないよ! こっちの話」
と男は大げさに慌てた。
その意味を知って、奈津は微笑んだ。
よく、お母さん似だって言われるものなあ。
「それじゃ」
突然薄れて消えてしまっては吃驚されるだろうと思って木立に足を踏み入れようとすると、また男が慌てて呼びとめた。
「なあ、君! もしここに花を植えるなら、何がいいと思う? ほら、何もなくて殺風景だろう?」
私は返事をした。
それっきり、記憶が途切れた。
***
「綺麗だね」
「ええ、とても綺麗です」
「それでいて荘厳だね」
「そうですね」
話し声に目を覚ませば、一斉に蝉の鳴き声と三度目の青空が降りかかってきた。
それと、ちらちら光る金色の花びら。
「何が……、」
立ち上がった奈津は、言葉を失った。
自分の周りに、一面の向日葵畑が広がっていた。
太陽の力を借りて、上を向いてゆらゆら揺れる大輪の花があたりいちめんに咲き乱れる。無数の向日葵が、堂々と並んでいた。
奈津を取り囲んで見守るかのようにして立っている。
金色の絨毯の中に体をゆだねているかのようだった。
空の青と、向日葵の黄色だけで世界が作られているかのようだった。
言葉では言い表せなかった。
「……ああ」
彼は覚えていてくれたのだ。何十年も前に未来から自分の娘がやって来て、あの日、植えてほしいと言った花の名を。
奈津が振りかえると、木陰から少し嬉しそうに一人の人間が現れた。
「向日葵がいいと思います」
そう言ったのは、この時をまるで待っていたかのようにやって来た幸彦だった。
「ずっと前に、ここで不思議な女の子に会ってね。ここにどんな花を植えたらいいかと聞いたら、そう答えたんだ」
奈津の目から涙が溢れた。あとからあとからこぼれて、止まらなかった。
「奈津は、その子にそっくりだ」
笑わなきゃ。泣いていてはしかたがない。
遠い昔、父に教えて貰ったのだから。
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2012/01/15(Sun)10:50:04 公開 / 木の葉のぶ
■この作品の著作権は木の葉のぶさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
お久しぶりです。木の葉と申します。
自分が中学時代にとある授業で生み出した彼らをやっぱり書きたくなって、違う主人公と時系列のもので書いてみました。
三人称と一人称の書き分けができていないように思うのですが、気になる方はご指摘いただければ嬉しいです。
実は、某新人賞に前作+もう一本くらい書いて短編として出してみようかなどというとっても無謀なことを考えております。そのことについてももしよければご意見いただけるととっても嬉しいです。
ありがとうございました。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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