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『おわり』 ... ジャンル:ショート*2 リアル・現代
作者:若葉竜城
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あらすじ・作品紹介
私とその子の二年半。
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二年前の春、私は可愛い女の子と友達になりました。出席番号順の講義で席が隣だった女の子に、私が声をかけたのです。元来人見知りの質である私にとってかなり勇気の要った行動だったのですが、その子はおそらく遠慮がなかっただろう私の言葉にも優しくほほ笑んで応じてくれました。その笑顔といったら可愛くて、可愛くて。私はその瞬間から、学部一可愛い女の子は目の前のこの子だ、と思いました。
「え、あの子彼氏おったん?」
「あれ、その話一緒に聞かんかったっけ?」
出会ってから数カ月たった頃、共通の友人の口から不意に知らされた事実。私は動揺していました。どうしてあの子は私には言ってくれなかったのでしょう。大した友達とは思われていなかったのかしら。きっと大学であの子と一番仲が良いのは私だ、と思っていたのは勘違いだったのかしら。でも、きっとあの子は私がその事実を知らないと思っているのでしょうから、あの子の前では口に出せません。そして、夏が来ました。
「この間、別れたらしいで」
「え」
「なんか電話きたわ。……やっぱ遠距離って続かんのかなぁ。大学入って遠距離になったとこ、みんな別れてってるやん」
共通の友人(といっても先ほどの子とは違うのですが、面倒なので、先ほどの子はA、今度の子はBとします)が私に教えてくれたのは、蝉が一番鳴いている頃でした。知らされなかった恋は、知らされないまま終わっていたようです。私はまた動揺しました。大事に思われていないのなら、こちらも何とも思わなければいい。その子と二人で夏を過ごすことはとうとうありませんでした。
秋になっても、ずっとその子と私は一緒に講義を受けていました。その他AやBを含む八人で私達は行動していました。私はそれが息苦しくてなりませんでした。私は、人間として欠けているところがあるのです。異性とある一定以上に親しくなれないのです。だから、春から始まり夏を越え秋になっていたあの頃、私はどうしようもなく周囲を拒絶していました。好き嫌いをして嫌いな物から目を背ける子供と一緒。そして、大学という自由な場ではそれが許されたのです。大人にならないまま自由になった子供は社会に入っていくことはできません。一人でも平気なふりをするので精一杯で、周囲に自分から溶け込んでいこうということはしませんでした。つまり、私は八人でいながらも、その中で一人ぼっちの気分だったわけです。とはいえ、その子はそんな私にも優しくしてくれて、八人という小さな集団の中で周りを見なかった私と一緒にいてくれました。
「あの人よりいい人なんていない気がするんだ」
「……あの人って?」
あの子は、たくさんの男から告白されていました。なにしろ私の中では学部で一番可愛い女の子なのですから当然です。私に彼氏の存在を言っていなかったこと、その彼氏と別れたことを言っていなかったことにあの子は気が付いていませんでした。私は安堵するよりも、自分の存在が忘れられるような対象だったことに傷つきました。ですが、それでもその子が自分に気兼ねなく喋ってくれることが嬉しくて、私はなんでもないふりをしました。
そのまま冬が過ぎて、春が来ました。
「ほんまに好きやから」
「へぇ……で?なんなん」
「……協力してや」
便宜上Cとします。Cはあの子のことが好きでした。聞けば一年越しの片思いです。私にはCがあの子につり合うとは到底思えませんでしたが、頼まれたものは仕方がありません。私の手助けもあって、二ヶ月後、Cは玉砕しました。なにが手助けか、と思われるかもしれませんが、あまりにも奥手なCは思いを告げるまでがひと苦労だったのです。なんにせよ、あの子はまだ昔の人を忘れられていなかったようです。私は、少し安心しました。
夏、秋、冬のほとんどを私はその子と過ごしました。AもBも恋人ができて、相手がいない私とその子は自然と一緒にいる時間も増えたのです。ずっとこの時間が続くような錯覚がありました。
三回目の春が来て、私はようやく現実に気がつき始めたのです。私の周りはみんなその子のことを好きになる。CもDも。初夏に移るまで、私は死刑宣告を待つ罪人のようでした。
「実はね……彼とね……」
分かっています。あの子は可愛いのです。Dは私から見ると普通なのですが、あの子から見れば格好いいのです。あの子は、Dの恋人になってしまいました。
「おめでとう。よかったやんかぁ」
友達として上出来な返事だったと思います。うまく笑うことができたかどうかが心配でした。DはBの友人で、春から私達と一緒に講義を受けていました。頭がとてもよくて、運動神経もよく、背丈も高い。私は、ついに一人になりました。
「最後に一人やん。頑張らなあかんで」
Bはそう言って私の肩をたたきました。あの子もその横で可愛らしく私を応援してくれました。
一体どうして自分がこんなに落ち込んでいるのか、私にはしばらく分かりませんでした。夏が来ても、ずっと。
「一ヶ月もたってへんやん……早すぎやない?」
「まぁ、お互いがそれでええんやったら、それでええんやけどさ」
靄が晴れたことに気がついたのは、AやBと話をしてから一週間後でした。私の中にこの三年間で訪れたもののうちの一つが終わりを迎えたのは、更に一週間経った日でした。それから私は学部で一番可愛い女の子の名前を書き換えました。
その子は私に傷をつけていきました。その子の目は私のものとなって、私を見てくれました。その情報は視神経を伝い、私の頭を良くしてくれました。
私は劣等感の固まりなのです。それが全て悪かったのです。
笑うことにしました。滑稽な話を笑わないのは失礼というものです。笑って、笑って、笑って。大丈夫。女の子は上書きをするものなのです。笑って、笑って、笑って。
「あれやなぁ、もう一緒に映画とか見に行けへんのだけが残念やなぁ」
「そんなことないから、そんなこと言わずに今まで通り誘えって」
「えー、そんなん言っても彼氏優先されたら悲しいから誘われへんわ」
「気にしすぎだよ。本当に寂しがりだよね」
「あーあ、ほんま寂しいわぁ」
あの子の目を通して、私は私を知ったのです。だから、笑えて仕方がない。愚かな私を、笑って、笑って、笑って。そうすればきっと早く次が始まるから。笑って。
残りの一年を、私はあの子と過ごします。
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2011/10/02(Sun)00:23:20 公開 / 若葉竜城
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■作者からのメッセージ
こんにちは。
見ての通りの暗い話です。完全に一人の登場人物の視点になったものは初めて書いたのですが、書き終わった後、自分のことのような気分になるものですね。
ぜひご感想を頂ければ、と思います。
では。
作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
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