『登竜高校殿様生徒会!前編【学園物企画(仮)】』 ... ジャンル:リアル・現代 お笑い
作者:鋏屋                

     あらすじ・作品紹介
 あのころ自分が大人になるなんて、なんかどっか遠い世界の話みたいだった。当時は永遠に続くかと思っていた時間も、過ぎてみれば泣きたくなるほど駆け足で…… 嫌なこともあったし、大変なことも多かったけれど、あそこで彼らと過ごした、もう二度と戻らない大切な時間を僕はたぶん一生忘れない。ドアの向こうには仲間がいて、しょーもないイザコザを止めるのに必死になったり、非常識な無理難題に頭を抱えたり、あこがれの女の子の横顔に見とれていたり、何かに思いっきり熱くなったりする僕が居た。いろんな意味で規格外な僕らだったけど、僕らは思いっきり高校生で、何より学校が楽しくて、今よりも少しだけ太陽が眩しかった。

123456789101112131415161718192021222324252627282930313233343536373839404142

 帰りのホームルームが終わると同時に、僕は鞄を手に取り、教室の前のドアから出ていく担任に僅かに遅れ、教室の後ろのドアから廊下へ飛び出す。そのまま出来る限りのスピード、まるで競歩の様な歩き方でトイレの隣の階段まで行き、その階段を1段飛ばしで降りて2階の下級生のクラスが並ぶ廊下を大股で歩きながら西の突き当たりにある渡り廊下を渡って、文系の部室や特殊教室が集まる別棟に入った。
 ホームルームが終わるか終わらないかのこの時間、この棟に居る人間は少ない。僕は意を決して僅かながら小走りに廊下を通り過ぎ、校舎のはずれにある階段で最上階の3階を目指した。階段を上がりきり、今度は廊下を東に向かって進む。この頃にはもうほとんど駆け足状態だが、幸い他の生徒の姿は無い。目指すは廊下の突き当たりの部屋。
 3ヶ月ほど前までは不登校だった僕だが、この3ヶ月休まず、時には休日ですら歩いた通路。初めは扉の前でノックするのにたっぷり15分はかかったのだが、最近はノックと同時に部屋へと滑り込むようになった。人間、変われば変わるモノだ。そんな故事のような言葉の例に漏れず、僕も3ヶ月前とは別人のようにココを訪れる。
 昔はあれほど嫌だった学校だけど、何だろう、今は……
 そんなことを考えながら、今日もまた僕はこの部屋のドアをノックと同時に開ける。
 いつの間にか出来ていた僕の居場所。
 しょーもない人たちばかりが集まり、どーしょーもない事でいつもいざこざが起こったりするけれど、絶対笑いが絶えない空間。
 こんなくそったれな僕でさえ学校に来たくなるような、そんな素敵な場所。
 そうさ、此処がこの学校の……



『登竜高校殿様生徒会!』(前編)


 ドアを開けた瞬間、何とも理不尽な怒声が飛んできた。
「おせーぞサル! てめぇどんだけ待たせんだよコラ!! おめーは俺様より偉いんか? あ゛ぁ!?」
 長手に並べられた椅子と長机の上座に、何故か自分だけ肘掛け付きのフカフカキャスター椅子に座った金髪のいかにもそっち系のヤンキー学生が、夜のコンビニ前でしゃがみ込んで敵対するアレな方達を威嚇するような目で僕を睨んでいた。この3ヶ月でこの睨みにも相当慣れたが、やはり未だにちっと怖い。
 それと普通『あ』に濁点は付きませんからね……
「この重要な会議に遅刻とは、おめぇも出世したもんだよなぁ〜オイっ」
「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってよ。集合までにまだ5分あるでしょ? 普通に遅刻じゃないよね?」
「いいや、現にお前が一番最後じゃねぇか。重役出勤とかお前最近チョーシコイてんじゃね?」
 確かに彼の言う通り、この部屋に集まったいつものメンバーは僕以外全員着席している。
 つーか、僕のクラスは帰りのHRが早く終わる担任で有名な今川先生だ。現に今此処まで来る途中のクラスはどこもHR中だったハズだ。なのに何であんたら此処にいんだよ!?
「俺なんか屋上から直でここに来たからな、30分前から此処に居るんだぜ?」
 普通にHRさぼってるだけだろそれ…… そもそも何で屋上なんだよマジで。
「まあもう良いだろう織田、羽柴も揃ったことだし早速会議を始めよう」
 と金髪の隣に静かに座った女子がそう言った。長い黒髪を後ろに束ね、シルバーフレームの薄い眼鏡を掛けた凛とした姿のこの女子は、名を森野蘭【もりの らん】という。この学園でも1,2を争う美少女だ。
「そぉーだよノブにゃん、羽柴っちがかわいそーだよぉ〜」
 とそこに小学生のような幼い声で割ってはいった人物に目を向ける。その声もさることながら、体型も『勢い中学生』のような萌え属性のこれまた美少女が、右手を猫のようにクイクイと動かしていた。毎回だがあの手の動きにいったい何の意味があるのか謎だ。彼女の名前は徳川朋里【とくがわ ともり】。どう見ても下級生、下手したら中学生にしか見えないが、僕と同じ高校2年生だ。どーでもいいけど、その猫耳カチューシャは校則違反じゃないのだろうか……
「よぅし、サルも揃ったことだし会議を始めるぞ。おいサル、座る前にこの紙をみんなに配ってくれ」
 そう言ってコピー用紙を渡す、中央に座った金髪ヤンキー男は、その名を織田信喜【おだ のぶき】と言う。そしてその彼が差し出したコピー用紙を受け取った僕は羽柴統治郎【はしば とうじろう】という。で、サルというのは不本意ながら僕のことを指す。織田君は僕のことを出会って2秒でそう呼んでる。ちょっと思い出しても織田君が僕を本名で呼んだ事を思いつかない。
 僕が会計で朋里が書記、蘭さんが副会長。そしてこの部屋のボスで、我らが登竜高校の現生徒会長がこの正面にふんぞり返って座っている金髪ヤンキーの織田君。そして僕を含めたこの4人が現在の第21期登竜高校生徒会、通称『殿様生徒会』のメンバーだ。
 僕は織田君から渡されたコピー用紙を皆に配り終え席に着く。そもそも4人しかいなのに僕が配る理由が分からないが、そう言う事は考えるだけ無駄と言うことを僕はこの3ヶ月で学んだ。そう、この人達と一緒にいて、『常識』と言う言葉が酷く薄いモノだと思えるようになった。
「では会議を始めるぞ。皆の衆、今サルの配った用紙に目を通してくれ」
 そんな会長の言葉を聞きながらとりあえず席に着き、僕も皆と同じように手元のコピー用紙に目を通す。

―――――が…… なんだよこれ

 その紙には何種類ものお菓子の銘柄が、かろうじて解読できるレベルの字で書き連ねてあった。にしても字、汚ったなぁ……
「あの会長…… なんすかこれ……?」
「おう、一応しょっぱい系7、甘い系3で割り振ってみた。銘柄は俺の独断と偏見だ」
 いやだからそうじゃなくって……
「……何のお菓子の振り分けなんですか?」
 これだけ見せられても何のことだかさっぱりわからない。すると我らが会長様は深いため息をお吐きになりました。
「サルよぉ、おまえ何年俺の右腕やってんだよ…… いい加減わかってくれよな、俺のマイハートをよぉ」
 何年も何も、知り合ったのは3ヶ月前だし。つーかあんたの右腕になったつもりもないし、普通の人の斜め上行くあんたの思考を、何も言わずに読めるほど僕の頭はショートしてないってばっ!
「んなもん、文化祭の後の打ち上げの時のお菓子に決まってんだろ?」
 なん…… だと……?
「ちょ…… ま……っ」
「ちょっと待ってよぉノブにゃん!」
 僕が会長の言葉に異を唱えようとした瞬間、朋理が立ち上がって文句を言う。どうやらこの生徒会もすんでの所でわずかな常識が残っていたらしい。そうだ、言ったれ、言ったれや朋ちゃん!
「ノブにゃんだけで勝手に決めるのは良くないことだと思いま〜す!」
 思わず長机に顔面を打ち付ける。ソコじゃねぇって……
 やはりこの娘も漏れなく殿様生徒会のメンバーだった。
「お〜ぼ〜だよ。朋理だって食べたいお菓子あるんだもん。ほら、羽柴っちだって文句ありそうだよ? ね〜、羽柴っちも食べたいお菓子あるよね〜」
 と相変わらず猫招き手をクイクイさせつつ僕に同意を促す。違う、違うよ朋理! 論点そこじゃないから!
「いや、そうじゃなくて……」
 朋理の意見はとりあえず横に置き、僕は指摘のポイントを修正しようと必死に言いかけるが、突然バンっ! と机を叩く音が響き、またしても遮られる。見ると副会長の森野さんが肩を震わせながら机に両手を付いて立ち上がっている。
 さすがは生徒会にその人ありと言われる副会長だ。殺気をも帯びたような鋭い視線を会長席でふんぞり返る織田君に向けていた。
 おおぉ…… 凛々しい、カコイイ、美しい! 惚れてもいいですかーっ!? てかもう惚れてますけどー!!
 やはり森野さんはわかっているみたいだ。どうぞ、言っちゃってください、ガツンと言っちゃってくださいよ!!
「放課後早々に集合かけて呼び出しておいて、どういうつもりだノブ……っ!?」
 そういいながら森野さんは椅子の右側に立てかけてあった木刀を握ると、スゥっとその切っ先を会長に向ける。
「副会長が会長様に刃を向けるたぁ…… いい度胸だな、欄よぉ?」
 織田君は全く微動だにせず、木刀を握り睨み付ける森野さんをにらみ返す。ちなみにこの2人、実は幼なじみなのだが、中学時代はお隣の県まで噂が飛ぶ最強、いや最凶コンビだったらしい。風神『織田』と雷神『森野』って呼ばれていたとか……
 織田君は未だにこんなだけど、森野さんは高校進学と同時にイメージチェンジしたらしく、眼鏡をかけ、長い髪を後ろで束ねた『優等生スタイル』になった。でも何故か男口調が直らずこんなしゃべり方なんだけど、それが案外受けていて、そのおかげで学園内では男子ばかりか女子の隠れファンもいる。
 見た目すごく綺麗で清楚な感じの彼女なんだけど――――
「なんで至高のお菓子である『コアラのマーチ』と『チョコパイ』がリストに入ってないのだっ!? 貴様血迷ったか―――っ!!」
 この『殿様生徒会色』がものすごく似合う女の子なんだよね。悲しいことにさぁ……
 で、僕はこの論点ずれまくりの生徒会役員会議を大至急軌道修正しなくちゃならない。なぜなら……
「じゃあお菓子決定権かけて勝負しようぜ!!」
「望むところだ!」
「手は抜かないにゃん!」
 と、こうなるわけだ。毎度のことながらつきあってられないよマジで。
「ちょっとみんな、そこで勝負とか……」
「大丈夫にゃよ羽柴っち。いつも羽柴っちには暴れた後の片づけで迷惑掛けてるからね。今回はこれで勝負にゃ!」
 そういって朋理は手元の鞄から数枚の紙を取り出し、机にバーンと並べた。ほんとに「バーン」ってセルフ効果音付きでだ。自信満々で並べたそれは、先日行われた中間考査の答案だった。そういや今日返ってきたんだっけ。
 にしても――― ひどい点数だな。あんだけ自信満々に出したから結構良い点なのかと思ったんだけど……
 国語……4点
数学……2点
 英語……7点
 生物……3点
 社会……1点
「あ、あのさ朋理? これって勝負に……」
「にゃんにゃん。羽柴っち、よく見るにゃん」
 そう言われ、僕と織田君、それに森野さんの3人はその答案をのぞき込んだ。う〜ん、確実に赤点なことぐらいしかわからん。なんだ?
「ふっふっふっ、この数字がミソにゃ。4,2,7,3,1。ニ、シ、ナ、サ、イ…… 『死になさい!』そう、これはメッセージなのにゃ!!」
「「おおぉ〜!!」」
 と、思わず僕まで声を漏らしてしまったが…… そんな僕らをどや顔で眺める朋理。いやあんた、マジでアホや…… つか、誰に当てたメッセージなんだよ。
「ふっ、笑止な。そこで勝ち誇られては困る。教えてやろう徳川よ、上には上がいると言うことを!!」
 と今度は森野さんが不敵な笑いを浮かべながら自分の答案をズバーンと机に並べた。やっぱり自前の「ズバーン!」という効果音を入れてくるあたり、いかにも我が生徒会の人間だ。
 社会……13点
英語……12点
 国語……11点
 生物……10点
 数学……9点
 こちらも負けず劣らず驚異的な点数だ。森野さん、ルックス最高なんだけど頭が…… 試験直後に「今回は答え全部埋めた。自信ありなのだぞ!」と言ってたけど、全部埋めてこれなんだ……
「ストレートフラッシュだ!」
「「おおぉ〜!!」」 
 今度はつき合いというか、やっぱりほら、森野さんだしね。
「どうだ、この手札には勝てまい。やはり私は勝利の女神に祝福されてるようだな」
 そう言って眼鏡のブリッジを人差し指でツィと上げる森野さん。手札って何だよ……
 しかしこのポーズだけ見たら模範的優等生美少女だ。惜しい、実に惜しい!!
「クククっ、何かと思えば低脳どもがっ! そんな点数では俺様の足下にも及ばないぞ!」
 今度はそう言いながら織田君が自分の答案をみんなの前にドカーンと並べた。こちらも「ドカーン!」というセルフ効果音付きなのは言うまでもない。
 国語……7点
数学……7点
 英語……7点
 生物……7点
 社会……7点
 見た瞬間ピンときた、うん。つーかこれもどうやったら取れるのか教えてほしい点数だ。
「7フィーバーだぜ? どうよ、なかなかお目にかかれないぜ?」
「「おおぉ〜!!」」
 もはや、なんと声をかけて良いのやら…… 確かに滅多にお目にかかれない。ま、ある意味凄いと言えば凄いけどね。
「ちなみに7がそろうと1万点らしいぜ?」
「ほ、本当か!?」
 と、森野さん。そんな森野さんに「ああ、何せフィーバーだからな!」と自信たっぷりに答えて親指をクイっと上げる織田君。それを見て「くそっ、知らなかった……」やら「そんな裏テクがあったにゃんて……」と肩を落とす森野さんと朋理。
 いやいやいや、都市伝説です。そもそも5教科全部満点取っても普通に500点だから……
 結局この『中間考査テスト点数勝負』は織田君の勝利…… ぽい。いや、『ぽい』というのは勝負所が違う上に、判定基準が全くわからんからだ。つーか普通に点数勝負じゃないところが実に我が生徒会らしい。
「おいサル、お前はどうなんだよ? もっとも、この俺様の手札に勝てるとも思えんがな」 と今度は僕に振ってくる。だから手札じゃねーって言ってんだろっ!
「ぼ、僕は良いよ…… たいした点じゃないし、みんなみたいに突飛な点でもないから……」
「がっはははっ! あっさり負けを認めるあたりサルらしいわ。うむうむ、まあそうだろう。ファーハハハっ!」
 だってさぁ、このメンバーの中じゃ僕の学年2位の点もあんまり価値なさそうなんだもん。でもさ、どーでも良いけどみんな追試&補講だよね…… わかってるのか微妙だけど。
「ってそーじゃなくて、何でこの時点で文化祭の『打ち上げのお菓子』を決める必要があるんですかっ!? 文化祭は再来月も先ですよ? そんなもん決める前に僕らは決めなきゃならない物が腐るほどあるでしょうがっ!! 文化祭間に合いませんよっ!?」
 つっこみどころはほかにいくらでもあるが、とりあえずここはつっこんでおかないとダメだ。このままじゃ確実に僕一人で文化祭事前準備を動かなきゃならなくなるから。
「まったく、みんなにメール送って『緊急招集』かけるから、てっきり僕は文化祭運営のための会議かと思ってたのに……」
 僕はため息をついて周りを見回す。しかしみんな「やっぱ俺天才だな」とか「私のストレートフラッシュは狙ったんだぞ?」やら「朋ちゃん今度は『ヨ・ロ・シ・ク・ネ♪』にするつもりにゃん」と、人の話を全く聞いてる気配がない。
「ちょっとみなさん! 話を聞いてくださいよ! ねえちょっと…… つーか聞けぇぇぇぇっ!!」
 思わず机をバンバン叩き椅子に立ち上がって叫んだ。あ、叫んじゃったよ……
「は、羽柴っち……?」
「羽柴……?」
「さ、サルがキレた……」
 うぅ、視線が…… みんなの視線が痛い。とその時、僕の後ろでコンコンとドアをノックする音がした。するとみんなの視線が僕の後ろのドアに移る。それにつられて僕も椅子の上に立ったままゆっくりと振り向いた。
 するともう一度コンコンとドアがノックされた。暴虐無人にして問題児集団で名高い第21期生徒会の部屋のドアを、役員以外で開けようとする人なんて先生ぐらいだ。僕は間の抜けた声で「はい?」と答えていた。するとドアがゆっくりと開いて、一人の女の子が顔を覗かせた。
 あれ? この子確かうちのクラスの女子だよな?
「あ、羽柴くん…… 良かった、いたんだね」
 その子は椅子に立ちあがって両手をバンザイしながら固まっている僕を見て、安堵したように微笑んだ。
「知ってる人がいると…… ちょっと…… 安心…… だから」
 肩に掛かる程度の自然な栗毛をシュシュで束ね、ブラウンカラーの下縁眼鏡の奥の瞳が不安と安堵をごっちゃにしたような色で揺れていた。全体的に地味な印象の女の子だ。
 え〜っと、名前は確か…… あ、そうだ。
「上杉……?」
 僕がそう言うと上杉はまた微笑み「うん」と頷いた。えっと、上杉…… なんだっけ?
「どしたの? 生徒会になんか用でも?」
 いい加減椅子から降りれば良いのだが、なんかタイミングを「ド外し」した感があるのでそのまま聞く。他のメンバーもその場で固まりながら上杉を見ている。
「じ、実はね…… その…… 生徒会にお願いがあって……」
 上杉はドアの前でもじもじ、おずおずとそう切り出した。
「お願い? この生徒会に?」
 そりゃまた無謀な…… とか思ってしまう。ある意味この生徒会に頼むのは本当に最後の手段だと、役員の僕でさえ思ってしまうのだ。いや、役員だからこそっていえるかもしれないけど……
 するともじもじしていた上杉が、意を決したように顔を上げ、つかつかと部屋の中央まで歩いてきて、会長の織田君と副会長の森野さんを交互に見つめる見つめる。
「な、何だよ……」
 織田君と森野さんもちょっと面食らった感じで若干体を引いた。
「お願いしますっ!!」
 上杉はそう言って2人に深々と頭を下げた。いきなりの事にたじろぐ我が会長と副会長。いや実際僕も上杉がこんな大きな声を出しているのを見るのは初めてだ。上杉はそのまま顔を上げ、たじろぐ織田君を見ながらこう言った。
「生徒会の力で、私たちの部活を廃部から救ってください!!」
 ―――――はいっ!?

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

「よぉし、ヤリスギとやら、我が生徒会への用件を詳しく聞こうか」
 ウ、エ、ス、ギだってば。2秒で人の名前間違えるって失礼通り越して人としてどうかってレベルだろマジで。その上から目線の口調もどうかと思うし……
 取りあえず上杉には椅子に座ってもらい、僕らメンバーも自分の席に座って彼女の話を聞くことになった。
「えっと…… 上杉って確か文芸部だったっけ?」
 僕がそう聞くと上杉は「うん」と小さく頷いた。
「文芸部…… そんな部あったか?」
 織田君は7UPを飲みながら首を傾げる。アンタ本当に生徒会長なんですか? とりあえずこの学校にある部活動ぐらいは覚えておいてほしいです。それにかなり失礼だろそれ。
「まあ、私たち文芸部は活動も地味ですし…… 知らないのも無理ないのかもしれません」
 いやまあ普通の生徒ならそうかもしれんが、一応ほら、彼こんなんでも現役の生徒会長ですから。
「つーか、文芸部ってなにする部活なんよ?」
 織田君は残りの7upを一気に飲み干し、軽いゲップと同時にそう呟いた。そんな織田君に顔をしかめつつ僕も首を捻る。文芸部の存在自体は知ってるけど、活動内容はあまりよく知らなかったからだ。
「私たち文芸部はいろいろな本を読んだり、それについての感想などを交えて部の発行する小冊子で紹介したり…… 後は主に文章を書いたりしてます。エッセイや詩、あと小説なんかも書いて賞に出したりしてます」
 なるほど…… 文系の典型的な部活なわけだ。すると織田君がうめき声を上げた。
「うげっ、な、なんだそれ…… 罰ゲーム部カヨ……っ!?」
 織田君はそう呟いて青い顔して上杉を見ている。まあ彼からしてみれば罰ゲームに見えなくもないだろうさ。
「小説書くとかマジで信じらんねぇ…… 自慢じゃないが俺様など、最も嫌いな行為が文章を書くことだ。いや、そもそも字書くのが嫌すぎる。小学校時代から読書感想文など今まで一度も3行に達したことねぇぞ?」
 ツイッターかよ……
 すると僕の隣に座る朋里が「にゃんにゃん」と言いながら猫手を挙げて発言する。
「あ、でも朋にゃんは小学校の頃、読書感想文で花マル貰ったよ〜 文章書けなかったから絵描いたらぁ…… 先生花マルくれたにゃん♪」
 「くれたにゃん♪」じゃねぇよ。もうすでに感想文じゃないだろそれ……
「う〜む、そうかその手があったか……」
 と朋里の言葉を聞いて森野さんが腕を組みつつ神妙な顔で頷いていた。あの森野さん? 小学生の恐らく低学年の話ですからね? 高校生でそれやったらたぶん破り捨てられると思うよ?
「何でわざわざ部活でそんな罰ゲームする必要があるのか俺には理解できんな…… あっ! あんたもしかしてマゾなのか?」
 飲んでた午後ティーを思わず吹いてしまった。アンタの頭基準に物事考えるなよ!
 しかし、森野さんと朋里もまるで珍獣を見るような珍妙な視線で上杉を見ている。この人達ってどんだけアレなんだろ……
 そんな視線を浴びてる上杉はというと、こちらも頬を染めてモジモジしながら頭をかき「いや、そんなぁ〜」と照れまくっていた。
 オイ上杉、そこ照れるところじゃないからな!
「で、何でまたその文芸部が廃部になるの?」
 このまま行くとまず間違いなく話が先に進まないまま生徒の完全下校時間になってしまうので話を軌道修正する必要があった。僕は上杉に事のいきさつを話すよう促した。
「私たち文芸部は現在三年生2名の部員を合わせても5人しか居ないんです。今年の4月には他に2人二年の部員が居たのですが、進学の準備で予備校に通うため辞めてしまって……」
 上杉はそこまで喋ると下を向いてうつむいてしまった。
「1年坊引っ張り込めば良いんじゃね?」
 と織田君。「なぁにかまうこたぁねぇ、首を縄で括って……」と物騒な事を言っているが、まあ方法はどうあれ彼にしては珍しくまともな正論だ。うん、僕もそう思う。
「はい。私たちもそれを見込んでいたんですけど、4月から必死になって勧誘したんですが、さっぱりで…… 結局今年の1年生の入部希望者はゼロでした」
 なるほどね……
 僕も存在自体を知るぐらいの思いっきり地味な部活だし、よっぽどそう言った小説やら本やらが好きな人じゃないと気にもしないのかもね……
「しかしちょっと待てよ? 現在5人居るのだろう? 確かに存続人数ギリギリで、三年が卒業したら人数割るかもしれんが、確か三名以上の存続希望者が居る場合、1年の猶予期間があったはずだ。在籍中である2年の部員3人が希望すればすぐに廃部とはいかんだろう?」
 と森野さんが聞いた。僕は驚いて森野さんを見てしまった。森野さんが言ったことは確かに学園規則に載っている。僕はそれを森野さんがちゃんと把握していることに驚いたんだ。織田君と朋里も同じようにびっくりした顔で森野さんを見ていた。
「な、なんだその目は。私は仮にも副会長だぞ? そのぐらいのことはちゃんと把握している。それに羽柴、此処に初めて来たときに私が頼んだことを忘れたのか?」
 ほえ? 初めて生徒会室に来たとき? えっと…… なんだっけ?
「まったく…… 覚えておらんのか? 私の生徒手帳に書かれた校則、その中の漢字全部にふりがなを付けてくれたのは他ならぬ羽柴なのだぞ?」
 そうだった。やること無くて隅の方で小さくなってたら、森野さんが僕に頼んできたんだっけ…… 最初は何でそんなこと頼むのか不思議だったんだけど、この人、読めない漢字が多いんだよね。どうやって高校に入学できたか不思議なぐらいのレベルで……
 思いっきりどや顔してるけど森野さん? それ自慢できないから。
「あ、何だよサル、何で蘭にだけそんな事してやってんだよ。俺様のもやっておいてくれよな〜」
「そうだよ羽柴っち〜 朋にゃんのも〜 そういう事はみんなで『きょーゆー』するべきだと思うにゃ〜?」
 あんたらな……っ!
 つーか読めない方がどうかしてるだろ実際!
「ま、それはおいおいサルにやって貰うとして今は話を進めようぜ。で、そんなルールがあるのに何で廃部になるって騒いでんだよノミスギ?」
「おいノブ、名前ぐらいちゃんと覚えたらどうだ。すまんなクイスギ」
「え? さっきノブにゃんジミスギって言ったにゃん?」
 ウエスギだっ!! もう嫌だこの人達…… つーか上杉もモジモジしてないでそこは否定しろよ! 自分の名前なんだから!!
「そうなんですけど、実は部室が無くなりそうで……」
「はぁ? 部室が無くなる? なんだそれ?」
 僕を含めてメンバー全員が思わず声をそろえてそう聞いた。僕ら4人の視線に上杉は「あ、あの、えっと……」と相変わらずモジモジしながらおずおずと話し始めた。ゴメン、なんかちょっとイラっとする。
「実は、私たちの部室はこの棟の2階にあるんですけど、お隣がパソコン研究部なんです」
 元々この別棟は特別教室が多く、そのせいもあってか文化系部活動の部室は全てこの校舎に入っている。ちなみに建物は築30年の校舎だが、去年の夏休みに大規模な耐震補強工事が入り、その際にインターネット設備などの整備も進んでリニューアルされたばかりで内装外装ともにそこそこ綺麗だ。
「パソ研は私たち文芸部と違って部員さんが凄く多いんです。今年も去年の…… 『キングダム』でしたっけ? アレに自作ゲーム出品して高成績を納めたみたいで、今年の新入部員も結構入ったんです」
 『キングダム』とはアマチュアの自作ゲームコンテストのことだった…… と思う。我が校のパソコン研究部は毎年そのコンテストで上位に入賞しているそうだ。そのせいで文系部活動の中では毎年結構な新入部員を獲得している。そう言えば各部活の次年度活動予算計画検討会でパソ研の部長さん予算アップを声高に主張してたもんなぁ…… 「部員数を考慮した予算分配をして欲しい」って再三言っていたっけ。
「でも何でパソ研が文芸部の廃部と関係あるにゃん? 朋にゃんはわかりませ〜ん」
 いつの間にか手には肉球手袋(どこで売ってるんだ?)をはめ、その両手で頭を抱える朋里。確かに美形で可愛いのかもしれないけど、なんかすげー馬鹿っぽい。
「実は今年の4月から私たちの部室の半分がパソ研に占領されてしまったんです」
 なんだそれ? 全然状況が理解できないんだけど。
「初めはソフトとかCDROMなんかが入った段ボールとかを『ちょっとだけ置かせてほしい』って言われて置かせてあげたんですが、そのうちドンドンエスカレートしてきちゃって…… いつの間にかサーバーが2台も設置されてるし、勝手にアコーディオンカーテンが吊らされて、新入部員が使うデスクまで…… 今じゃ私たちが部室に入るのにもノックしたり気を使ったりする始末なんです」
 上杉はがっくりと肩を落としてそう言った。目が涙目になってる。
「そんなもん普通に追い出しちまえばいいんじゃね? つーか顧問に文句垂れるとかよ?」
 うんたしかに織田君の言う通りだ。そんな横暴、顧問の先生に言ってパソ研の顧問に抗議すればいい。
「ねえ上杉、文芸部の顧問って誰だっけ?」
「あ、えっと…… 足利先生…… です」
「あっちゃー、『お地蔵さん』かぁ……」
 織田君が右手を目に当てて上をむきながら、深いため息と同時に呟いた。まあ織田君のリアクションも無理もない。僕も織田君に同意。朋里も森野さんも同じようにがっくりと肩を落とした。
 足利先生は現在2年の現国を教えている教師で、来年定年のおじいちゃん先生だ。まず生徒を注意することが無く、声もほとんど聞こえない。黒板に字を書く以外教壇から一歩も動かず淡々と教科書を朗読する、極めつけに退屈な授業をする先生だった。ウチのクラスで足利先生の授業をまじめに聞いている生徒など恐らく五人も居まい。お昼休みは決まって西棟の中庭にある屋根の付いたベンチでサンドイッチを食べているが、食べ終わってもお昼休み中はベンチに座ったままピクリともせず、前に新入生が『死んでいるんじゃないか?』と思い慌てて職員室に駆け込んだなんて言うエピソードもある。そんなこんなで付いたあだ名が『お地蔵さん』だったのだ。不良達の間では「ほぼ仏の足利」などという失礼なあだ名まである。
「お地蔵さんの授業超良く眠れるんだよなぁ…… ぜってーラリホー唱えてるぜマジで?」
 んなわけあるか……
「でも一応足利先生に言って、パソ研顧問の石田先生に抗議して貰ったんですが、結局逆にやり込められちゃったみたいで……」
 パソ研顧問の石田先生は3年の数学の先生だ。有名な早稲田山大学出身で秀才って話しで、学園教師の中でも『切れ者』で通ってる。足利先生を軽くあしらうなど赤子の手を捻るようなモノだろう。まあもっとも、足利先生なら僕でもあしらえそうな気がするけど。
「でもあんまり酷いので私とウチの尼子部長がパソ研の宇喜多部長に直接抗議したんです。そしたら……」
 上杉はグッと唇を噛みしめて悔しそうに続けた。
「『どうせお宅は部員も居ないじゃん。来年にはウチの部室になるんだし、下準備みたいなもんだよ。遅かれ早かれって問題じゃないの?』って言われました」
「うむ…… それは酷いな! よし、私がこの『千代丸』で腐った根性を叩き切ってやるか!」
 と森野さんは傍らの木刀(千代丸って言うんだ……)を握りしめ立ち上がる。いやいや森野さん、あなたの場合切るのは根性だけじゃなくなるからマジで!
「大丈夫だ羽柴、安ずるな。なに、月夜の晩ばかりではない。あやつに悟られずに葬るなど造作もないことだ。そこまで心配なら太刀筋も変える。その辺りの事はわきまえているぞ」
 だから葬ってどうするんだよ…… 全く冗談に聞こえないから恐ろしい。つーかよく考えたら今まで森野さんが冗談を言ったことなど記憶にないな、うん。
 一応僕ら生徒会だし暴力はマズイって実際。僕は「まあまあ」と森野さんをなだめて再び座らせ、上杉の話の続きを聞く。
「私も尼子部長も悔しくて…… だから思わず『そんなことにはならない!』って言い返したら、今度は『じゃあ証明して見せてよ』って言われて……」
「証明? 部員を増やせるかどうかって事?」
 僕がそう聞くと上杉は少し考えて続けた。
「えっと…… 最終的にはそう言うことになるんでしょうけど、直接的には『文化祭で証明する』って事になりました」
 文化祭で証明? ますます意味がわからん。
「宇喜多部長は『文化祭のアンケート投票で勝負しよう』と言ってきました」
 アンケート投票…… ウチの高校の文化祭はステージでの公演物や模擬店など、クラスや部活が企画したものに訪れたお客がアンケートで評価をするといったもので、その評価はポイントとして発表される仕組みだ。つまりそのポイントで競おうというわけか。
「そして宇喜多部長は『文芸部が1ポイントでも我がパソ研を上回っていたら君たちの部室から早急に撤退し、今後一切手は出さないことを約束しよう。なんなら最新のパソコンも1台置いていってあげよう。だが、もし我がパソ研のポイントが上だったら、あの部室を明け渡して貰おう』という条件を出してきました……」
「……んで、受けたのか? その勝負」
 織田君がそう聞くと上杉は小さくコクンと頷いた。あ、そ…… 受けちゃったんだ……
「売り言葉に買い言葉で、あんまり悔しかったんで、私も尼子先輩も『望むところよ!』って啖呵切っちゃって…… でも冷静になって考えてみたら、私たち文芸部がパソ研に勝てる要素なんて何もないんですぅ……」
 上杉はそう言うと下を向いて「う……っ、ひっく……」としゃくり上げながら泣き出してしまった。下向いて泣いてるから眼鏡のレンズに涙が溜まって凄いことになってる。眼鏡外せばいいのに……
 まあぶっちゃけ上杉たちが無謀であることはその通りなのだが、パソ研のやり方にも少々憤りを感じる。が、しかし、生徒会に持ち込むような話じゃないと思うんだ。先生にきちんと相談して対処してもらった方がいい。
 それに今、僕ら生徒会だって暇じゃない。文化祭を控えたこの時期、やることは山ほどあるのだ。各部からあがってくる模擬店や出し物などの企画書を審査したり、各所の地取りの分配やステージスケジュールの割り振り、対外的な広報活動や予算の算出等々……
 そんな中でさっきの『打ち上げお菓子会議』がどれだけ馬鹿げたことかわかるでしょ? あのまま行ったら確実にそのほとんどを僕が一人でやらなくちゃいけなくなることは目に見えている。死んじゃうよ僕!
 悪いな上杉、確かに文芸部には同情するが、僕らは力になれないよ。この上部活間のイザコザまで持ち込まれたらパンクしちゃいますマジで。
 しゃくり上げながら肩を震わせて泣く上杉を見ると何とも可愛そうになってくるが、ここは心を鬼にして言わないとダメだ。僕は意を決して上杉に告げる。
「なあ上杉、わざわざこんなトコまできてくれてアレなんだが、この時期僕らはめちゃくちゃ忙しいんだ。力になりたいのは山々だけど、悪いが僕らは……」
「なあオイ、お前に一つ聞いて良いか?」
 とその時、僕の言葉を遮り織田君が泣いてる上杉にそう声を掛けた。涙が溜まった下縁眼鏡がすっと持ち上がる。当然涙はじゃじゃ漏れ状態だ。そんな上杉を織田君はまっすぐ見つめてこう聞いた。
「あんた、この学校好きか?」
 はぁ? 織田君、何聞いてるの?
 そんな織田君の言葉に、上杉もきょとんとした顔で織田君を見た。
「あ、えっと…… その…… 好きか嫌いかって聞かれると…… 嫌いじゃ…… 無いと言うか……」
 相変わらずのモジ娘で上杉はおずおずとそう答える。
「この学校面白いか?」
 そんな上杉に再び織田君は質問する。いったい何が聞きたいの?
 上杉はその質問の意味を計りかねていると言った様子で「あ、あの、その……」と言いよどんでいた。
「あーったくっ! じゃあ聞き方変えてやんよ。文芸部が無くなったらお前は学校『つまんない』のかよ?」
 織田君は上杉のモジモジにイライラした様子で声を荒げそう聞き直した。上杉はびくっとして体を震わせ、上目遣いで織田君を見た。織田君は確かにちょっと怒ったような顔をしていたけど、真剣な目で上杉を見つめていた。
 なんかヤバイ。なんかものすごくヤバイ感じがする。止めなきゃいけないのはわかってる。でも僕は一言もしゃべれない。誰が文化祭の準備やるの? 僕? 僕だけ? そんなの無理だよ? ダメだ、ダメだよ会長ぉっ!! 
 そんな僕の心の中の叫びとは裏腹に、上杉は織田君から発せられる妙な圧力を感じ取ったように、相変わらずのモジ娘だけど、真剣に、きっぱりと、言った。
「文芸部が…… 無くなったら…… 私は、学校がつまらなくなる…… と思う」
 涙いっぱいの目で上杉は織田君にそう言った。すると織田君はゆっくりと立ち上がり腕を組み、目をつぶったまま僕に言った。
「サルよぉ…… 俺の名を言ってみろ……」
 は…… はぁ? なんだそれ……!?
「な、名前? えっと…… 織田…… 信喜?」
 織田君は僕の言葉を聞いた後、ゆっくりと目を開いて上杉を見た。どこからか「ゴゴゴゴ……っ!」と効果音が聞こえてくる。朋理のセルフ効果音が発動中だった。
 やめろってこの馬鹿猫娘――――っ!!
「俺様の会長就任の公約は『学校を面白くする!』だった。俺様が在任中に誰か一人でも『学校がつまらない』と言う奴がいることは許されん! つーかぜってぇ言わせねぇ!! なぜなら学校を面白くする事こそが、我ら『織田軍団』の使命のはずだ。そうだろう?」
 『そうだろう?』じゃねぇし! そんな使命初めて聞いたしっ! つーかそもそも僕達『織田軍団』じゃねーしっ!! 
 森野さん! 何であんたも立ち上がって不敵にニヤついてんの!? オイ朋理! 決めポーズなんかとってんじゃねぇよ!? つーかいい加減その「ゴゴゴ……っ」ってやめろってばっ!!
 ああもう何が何やら…… えっとなんだ? 何からつっこめば良いんだ!? つーかとりあえず会長! 僕に名前を言わせた理由を説明しろぉぉぉぉっ!!!
「いや、ちょ……っ ま……!!」
 と言いかける僕の声は、我が生徒会長の宣言に完全にかき消された。
「ナキスギよ、貴様の願い、我が『殿様生徒会』がかなえてやろうではないか!!」
 だからウ、エ、ス、ギだってば……
 僕は長机に突っ伏したまま泣きたくなった。いや、マジでちょっとだけ泣いた。

 文化祭まであと2ヶ月を切ったこのくそ忙しい時期(つーか焦ってるのは僕だけだが)に舞い込んだ上杉のお願い。このときはマジで勘弁してくれと思ったんだよ実際。
 でも、これがきっかけで今年の文化祭が上杉達文芸部やその他大勢の生徒たち、そして僕ら殿様生徒会メンバーにとっても忘れられないものになることを、このとき僕らは想像すらできなかったんだ。 

2011/09/25(Sun)19:09:11 公開 / 鋏屋
■この作品の著作権は鋏屋さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての人は初めまして。毎度読んでくださる方は毎度どうも! 鋏屋でございます。
いやもう全然書けない日々が続いておりますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
おいおいまた鋏屋の野郎、新しいの書いてるぜ? そんな暇あったら続き書けよな!!
うんごもっともです(オイ!)
まあその通りなんですが、どうもいまいち気が乗らないんです。書けないんですよマジで。
で、これは以前私がやろうとしていた学園物企画用に書いていた話です。読み切りにしようかと思っていたのですが、毎度のことでやたら長くなってしまったので分割しました。前、中、後編の3分割になる……と思う。
『40枚程度が良いんじゃない?』なんて自分で言っておきながらこのていたらく……
相変わらずダメ人間街道をひた走っておりますが、まあほら、縛りきつくない方が書きやすいでしょ? ね、ね??
つーわけで『登竜高校』がタイトルに入ってりゃ良いんじゃね? って事でw あ、いやごめんてか石投げないで、痛っ! 痛たたっ!!
ホントしょーもない鋏屋節な話になってますが、軽く笑ってくれたらうれしいです。コーヒー殿とかネタ練ってるみたいだし、誰でも良いからばっちこーいw
鋏屋でした。

作品の感想については、登竜門:通常版(横書き)をご利用ください。
等幅フォント『ヒラギノ明朝体4等幅』かMS Office系『HGS明朝E』、Winデフォ『MS 明朝』で42文字折り返しの『文庫本的読書モード』。
CSS3により、MSIEとWebKit/Blink(Google Chrome系)ブラウザに対応(2013/11/25)。
MSIEではフォントサイズによってアンチエイリアス掛かるので、「拡大」して見ると読みやすいかも。
2020/03/28:Androidスマホにも対応。Noto Serif JPで表示します。